※少しだけですが、原作第三百三十六訓〜第三百三十九訓のネタばれを含みます。
※登場人物は、銀さん、土方さん、近藤さん、沖田と、ほんの少しだけさっちゃんです。
※以上をお読みになり、大丈夫だと思われた方のみお進みください↓




































俺―土方十四郎―は、万事屋―坂田銀時―に惚れている。
こういう感情は、なくそうと思ってなくせるもんじゃねェ。ならばせめて、あまり考えないように
したいのだが、なかなかそうもいかねェ。
アイツが誰かと楽しそうにしているのを見ただけでイライラする。
アイツと顔を合わせないようにしたらしたで、気になって仕方がねェ。
妙なことに首突っ込んで怪我でもしてるんじゃねェかとか、ちゃんとメシは食えてんのかとか、
どこかの女と仲良くなってんじゃねェかとか…

結局俺は、自分が可愛いだけじゃねェか…。怪我とかメシとかアイツのことを心配するような言葉を
並べたところで、一番気がかりなのはそれだ。
俺なんかがアイツとどうこうなるなんざ有り得ねェのは百も承知だ。だが、その上でせめてアイツが
誰のものにもならないでほしいと願ってしまう自分がいる。
こんな自分に吐き気がする。自分が傷付きたくないばかりに、アイツの幸せも願えないなんて…。

こんな気持ち、早く消えてしまえばいいのに…



七万打記念リクエスト作品:上手く付き合うことでストレスは緩和できる



「土方さーん、そろそろ見回りの時間ですぜ?」
「俺ァパスだ。事務仕事が終わらねェから、永倉に代わってもらった。」
「そんなに急ぎの仕事はないでしょう?今日はかぶき町を見回るんですから、行きやしょうよ。」
「どこだろうと行かねェよ。」
「強がっちゃって…。行けば旦那に会えるかもしれやせんぜ?」
「るせェ!行かねェっつったら行かねェんだよ!」
「へいへい…。じゃあ俺が旦那と会っても、妬かねェで下さいよ。」
「誰が妬くか!とっとと行け!」
「はーい…」

どういうわけか総悟は俺の想いに気付いていて、こうしてちょくちょく嫌がらせをしてくる。
…俺自身は一切認めていないにも関わらず、総悟は確信を持ってやがるから始末に負えねェ。
帰ってきたらきっと、見回りの報告と称してアイツについてあることないこと話すに違いねェ…。

だが今日の嫌がらせはそんなもんじゃなかった。


*  *  *  *  *


「土方さん、チャイナから面白いもん手に入れたんで、ちょいと見て下せェ。」
「なっ!?」

見回りから戻った総悟は写真を俺の机の上―書類が置いてあるので正確に言うと書類の上―に並べた。
そこには万事屋と女が二人で写っていた。
写真は全部で四枚。同じような場所で撮られているが、一緒に写っている女は全て違っていた。
メガネの姉貴、柳生のガキ、くの一の始末屋、顔に傷のある吉原の女…

俺は書類を持ち上げ、その上に置かれた写真を畳の上に払い落とした。

「仕事と関係ねェもんを持ち込むな。」
「気になりやせんか?これが何処で撮られて、何で旦那が女共といるのか…」
「興味ねェよ。」

写真が合成か何かだとしても、総悟は尤もらしい嘘を吐くだけだし、本物だとしたらイラつくだけだ。
俺は総悟を無視し、写真も見なかったことにして書類に向かうことにした。

「実は旦那、年明けから暫くの間コイツらと同棲してたらしいですぜ。」
「仕事と関係ない話はすんじゃねェ!」
「でもねェ…不公平だと思いませんか?俺らが休みなしで働いてる間に、旦那は綺麗どころと
楽しくやってたなんて…」
「誰と何をしようとアイツの勝手だろ!」
「そうは言いますがメンバーの中にアネゴもいたんで、真相を確かめずにはいられやせんでした。」
「じゃあ近藤さんに教えてやれ!」

くそっ…無視するはずが全然仕事に集中できねェ!!

「これが事実だったら近藤さんに報告しなきゃと思いましたが…これ、ドッキリだったんでさァ。」
「あ?」

ドッキリ?つーことは嘘ってことか?なんだ…

「明らさまにホッとした顔しちゃって…」
「だっ誰が!俺ァもともと興味なんかねェんだよ!」
「はいはい…。そのドッキリってのは、酔って記憶のねェ旦那に、女共が『貞操を奪われた』と
嘘を吐くってもんで、旦那はその責任を取らされて一緒に暮らすことに…」
「は?」

…それじゃあ、一緒に生活したこと自体は嘘じゃねェのか…

「どうやらこの四人以外にもいたらしく、同じ長屋の其々の部屋に一人ずつ住まわせて行ったり来たり
してたらしいですぜ?写真はそん時にこっそり撮影されたものでさァ。」
「………」
「飲み過ぎを窘めるためのドッキリらしいですが、旦那は流石ですねィ。全く身に覚えがねェってのに
女共の言葉を信じて責任取ろうとするなんざ、俺には到底真似できませんよ。」
「…失せろ。」

総悟の言うことなんかどこまで本当か分からない。…全て嘘かもしれねェ。
そう思っていても自分を抑えることができねェ。イライラなんてレベルじゃなく、明らかな怒りを込めて
総悟を睨み付けた。

「はいはい…じゃあ、最後に一つだけ…」
「いいから失せろ!」
「今回はドッキリでしたけど、旦那に惚れてる女が吐いた嘘だったら、どうしたんでしょうねィ。」
「っ!」

それじゃあと言って部屋を出る総悟に、俺は怒鳴り散らすことすらできなかった。

アイツに本気で惚れてる女が、アイツと一緒になりたい一心で嘘を吐いたとしたら…例え嘘だと判っても
アイツはその女を邪険にすることはないだろう。…アイツはそういうヤツだ。

「くそっ…」

アイツに好きな女ができなくても、アイツを好きな女がいたら…「いたら」っつーか、確実にいる。
始末屋は分かりやすいが、それ以外にも多分、そうじゃねェかと思う女は何人かいる。
そいつらの誰か…もしくは、俺の知らないヤツでアイツに惚れてるヤツの誰かがアイツに…

「あ゛〜〜!!」

やめだ、やめ!ンなこと考えたって無駄だ!気持ちを入れ替えよう!!

俺は外の空気を吸おうと庭に出・・・

ガターン!!

「何事ですか!?…ふっ副長!?」

数日前、総悟に爆破されて縁側の一部がなくなっていることを失念していた俺は、
勢いよく足を踏み外し、庭に落ちた。
ラケット片手に山崎が駆け寄って来る。山崎の野郎…またサボってミントンしてやがったな…。
怒鳴りてェが全身痛くて動けねェ…

「くそったれ…」
「大丈夫ですか、副長!しっかりして下さい!今、救護班を呼びますから!!」


(11.03.26)


7万打記念に実施したアンケートのリクエスト作品第一弾です!少し長めですが最後までお付き合いいただけたらと思います。続きはこちら