プルルルルル…土方の携帯電話が鳴った。―近藤からだ。
ほらな…土方が携帯電話を耳に宛てて「どうした、近藤さん?」とか言ってる。
近藤だけ別の着信音に設定しているから、鳴っただけですぐ判るんだ…。
多分、電話を切ったら土方は「すまん」の一言で近藤の元へ駆け付ける。

ここは俺ん家で、今は土方と二人きりで、俺達は付き合ってて…まあ、そんなんコイツの「仕事」には
関係ねェんだ…。いつだって土方は仕事優先で…いや、仕事っつーか、近藤優先だな…。
土方と付き合って結構な時間が経つが、ピリリリリ―近藤以外から―の時は話をするだけで終わってる。
だがプルルルルが鳴ると、土方は必ず「仕事」に戻るんだ…。


「銀時、すまない…」
「仕事?いってらっしゃ〜い。」
「悪ィな…。埋め合わせは必ず…」
「そんなことより早く行けよ。近藤が待ってるんだろ?」
「ああ…。本当にすまない!」
「はいはい…じゃ〜ね〜。」

玄関に向かう土方を、俺はソファに座ったまま見送る。

あーあ…今日は鍋にしようと思ってたのに…。一人で鍋っつーのもアレだし、明日、新八達と食おう。
…でも、材料二人分しかねェから買い足さなきゃいけねーな…。まあ、買い物は明日でいいか…。
なんか今日はメシ食う気も失せたし、風呂入って寝よう…。

俺は風呂場へ向かった。



むつやせん〜特別な人〜



あー…くそっ、眠れねェ。まだ六時だもんなァ…。昔は何時だって横になりゃ眠れたのに…歳か?
いやいや、銀さんまだまだ若いからね!…って、この台詞自体が年寄りの言いそうなことじゃねーか。

眠れねェならテレビでも見ようかと思ったが、今は冬。温まった布団からはあまり出たくない。
そうして暗い部屋で一人静かにしていると、次から次へと色々なことが勝手に浮かんでくる。

俺…土方と付き合ってんだよな?誕生日プレゼントだってもらったし(一週間前だったけど)、
クリスマスパーチーだってした(二日後だったけど)。イベント当日に会えないのは仕事柄仕方ねェ。
そう…仕事。
俺の誕生日もクリスマスも、ついでに言うと大晦日も元日も土方の誕生日も仕事だった。

……あ〜…なんかイライラしてきた!何で俺が寂しい思いさせられなきゃなんねェんだよ…。
いや、別にアイツと会えなくたって寂しいとか思わないけど…。でもほら、俺達、恋人同士だし?
今日はお家デート的な感じだし?それを途中で帰られたら、一般的には寂しいと思うような?
しかも途中で帰ったのは一度や二度じゃねェし?しかも毎回決まった男からの電話で帰ってるし?

男からの電話って何だよ…。キモっ!俺、キモっ!!
そんな言い方したら近藤が愛人みたいに聞こえんだろ…。違ェよ。むしろ優遇されてるアッチが本命で
俺の方が……って、だから違ェよ!近藤は上司だから!仕事仲間だから!
土方は近藤が好きとかじゃなくて、むしろそういうのを超越してる感じで…あれっ?結局俺、負けてねェ?
いやいや、だから違うって!勝ち負けじゃねェの!俺と近藤のどっちが…とか、そういう次元の低いことは…

何だよコレ…。こんなん言ったら俺がいじけてるみてェだろ…。俺ァ別に、そんな…
そもそも俺と土方は恋人つっても、ベタベタとかラブラブとか有り得ねェし…結構頻繁に電話はくれるけど
何ヶ月も会わないことだってあるし、だから、仕事でデートが中断されたからってヤキモチなんか…

…ん?ヤキモチ?えっ、これってヤキモチ?
いやいやいや、違ェよ。仕事にヤキモチとかおかしいだろ…。
だいたい、俺と土方はもっとドライな関係であってだな…お互い、会える時に会えればいいんじゃね?的な…

俺だって、例えば土方と新八が同時にピンチに陥ったら、迷わず新八を助けるし。
あとは…神楽だろ?定春だろ?ババァだろ?…ほらな、土方より優先させるヤツが沢山いるんだよ。
土方だって近藤だけじゃなく沖田くんも多分そうだし、山崎は…どうだろ?でもきっと、それ以外にも
大事なヤツは沢山いるはずだ。俺はその後。…お互い様じゃねーか。だから…


結局、その日は外が明るくなるまで眠れなかった。



*  *  *  *  *



別の日。今日は土方が奢ってくれるっつーから、新しく出来た甘味処へ行くことにした。
二人で店に向かって歩いている途中、またあの音が鳴った。

プルルルル…

あー…何だよ。せめて店に着いてからにしてくれよな…。パフェ食うの楽しみだったのに。
土方は携帯電話を開いて耳に持っていく。歩みは止めなかったので、俺も一応土方の隣で甘味処に
向かって歩いて行く。土方は通話を始めた。

「もしもし?今、外に出てて……は?今からって…まさかまた、娘の彼氏の話じゃねェよな?」

ん?娘?近藤じゃねェのか?でもあの着信音は確かに…
土方は通話を続けていく。

「…あ?そっちか…。それなら近藤さんに言ってくれ。あの人なら喜んで…」

やっぱり近藤じゃねェんだ…。じゃあ誰だろ?

「勝手な約束しないでくれ…。とにかく、俺ァ昼間っからキャバクラなんかにゃ行かねェから。
…あ?夜?…今夜は夜勤だ。そういうわけだから、じゃあな。」

土方は携帯電話を畳んで懐にしまうと、そのまま歩き続ける。

「あ、あのさ…電話って、誰から?」
「松平のとっつぁん。…『すまいる』のホステスに俺を連れていくと約束したから今すぐ来いとか…
ったく、付き合ってらんねェぜ…」
「ハハハッ…あのオヤジ、本当にキャバクラ好きだよなァ…」
「そういえば、お前も何度か会ってるんだったな…」
「まあね…。アイツ、俺のバイト先に現れては、将軍一人残してキャバクラ行くんだぜ?
おかげでこっちは持て成すのが大変でよー…」
「それは災難だったな。…あまり民間人に気を遣わせないよう、言っとく。」
「よろしく〜。」

どうやら今回は「プルルルル」に勝利したらしい。…いや、勝利って何だよ…。
ていうか、プルルルルは近藤専用じゃなかったんだな…。上司がプルルルルで部下がピリリリリとか?
あー…気になる。聞いてみるか?

「あのさァ…」
「何だ?」
「着信音、上司と部下とかで分けてんの?」
「…よく分かったな。」
「何となくだけど…さっきの音が鳴った後は、仕事に戻ることが多い気がして…」
「そうだな…。とっつぁんは…まあ、さっきみてェなこともあるが、一応警察のトップだからな…。」
「こ、近藤も…一緒の音、だよな?」
「ああ。近藤さんには予めお前と会うことを言ってあるから、一緒に居て連絡が来る時は相当ヤバイ時だな。」
「そうなの!?」
「…驚くことか?近藤さんは俺達の関係を知ってるんだから…」
「そ、そうだね…。それくらいの気遣いはしてくれるヤツだよねー…ハハッ…」

何だよ…。ちょっとだけだけど、プルルル恐怖症になりかけてた俺がバカみたいじゃん…。
別に、土方が俺より近藤を優先しようが構わねェけど、甘味食う前にいなくなられると困るからなっ。
…本当にそれだけだよ!

「でもさ…もし近藤に何かあって、部下から連絡が来たらどうすんの?」
「…詳しくは言えねェが、緊急召集用の回線があんだよ。」
「もしかして、それは近藤達と同じ音だったりする?」
「まあな。」
「…俺といる時に、そこから連絡が来た時もある?」
「…まあな。」
「そっか…」

プルルルル…は、重要な電話のサインだったのか…。なるほどね…。

その日、土方に奢ってもらったパフェは、今までで一番美味かった。
…プルルの誤解が解けたからじゃねェ。店員の腕がよかったからだ!


この日から、土方のプルルルを聞くと世界平和を祈るようになった。
一緒にいたいとかじゃなくて、プルルルが鳴る時は物騒な事件が起こった時だと判ったからだよ?



*  *  *  *  *



また別の日。宿で土方がシャワー中に携帯電話が鳴った。

ジリリリリ…

初めて聞く着信音だった。俺ん家の電話の音のような、目覚まし時計の音のような…
滅多に聞かない音ってことはそれだけ重大な連絡かもしれないと思い、俺は電話を持って風呂場へ行った。


「土方〜、電話…」
「…ん?」

俺が風呂場のドアを開けて声を掛けると土方はシャワーの蛇口を閉め、こっちに顔を向ける。

「ああ、お前ん家からだ…。メガネかチャイナだろ…出ていいぞ。」
「あ、うん…」

土方は携帯電話も見ずに、またシャワーの蛇口を捻った。
携帯電話を開くと、確かに画面には「万事屋」の文字。俺は通話ボタンを押しながら風呂場の戸を閉めた。

「もしもし?」
『あっ、土方さんですか?新八です。すいません、銀さんってそこにいますか?』
「はいはーい、銀さんだよ〜。…なに?」
『あっ、銀さん?デート中にすいません…』
「別にいいよ。まだヤり始める前だったし…」
『あ、あの…そういう具体的なことはいいです。』
「…で?何かあったのか?」
『えっと…大したことじゃないんですけど、明日、大江戸マートが食料品全品二割引きらしくて…』
「マジでか!?じゃあ明日、開店十分前に店の前に集合な。」
『分かりました。』
「財布は連れて行くから、持って来なくていいぞ。」
『財布って…そういうわけにはいきませんよ。』
「いーの、いーの。じゃあ明日なー。」
「おい…」

新八との通話を終えると、風呂から出てきていた土方に呼ばれた。
声に若干怒気が籠ってるから、俺の話を聞いてたんだろうな…。
俺は携帯電話を閉じて土方に渡す。

「新八からだった。サンキューな。…明日、大江戸マートでセールがあるんだって…一緒に行かねェ?」
「…財布を連れて行くとか聞こえたが?」
「あっ…そこ、聞こえちゃった?ハハハッ…頼りにしてるよ、土方くん。」
「チッ…仕方ねェな…」
「ありがと〜。」

土方はソファにいた俺の隣にドカリと腰を下ろして煙草を咥えた。
よしっ、これで暫く食うモンには困らねェな。あとは…

「なァ…電話だけど、何で俺ん家からだって分かったの?」
「あ?ンなの着信音に決まってんだろ…」
「…ウチだけ違う音にしてんの?」
「…悪ィかよ。」

土方はプイっと横を向く。
コイツのこういうガキみてェなトコ、結構好……いや、面白ェよな。

「悪くねェよ。…ただ、ちょっと意外だなァと思って。」
「何がだよ…。恋人を特別扱いすんのは当然じゃねーか…」
「特別って…お前、恋愛に夢見ちゃうタイプ?」
「夢って何だ!一人しかいねェ恋人を他と区別しちゃいけねェのかよ。」
「だから悪くねェって。…そういうことなら、好きなだけ区別しなさい!」
「おっおい、危ねェよ…」

俺が抱き付いてやったら、土方は慌てて煙草を灰皿に入れた。
そうか…土方は俺を特別扱いしてたのか…。俺から電話することなんて滅多にねェのに、バカだな…。
仕方ねェから明日食費が浮く分、少しは電話代に回してやるか…。
…こんなことで気分が上向いちまう俺も、かなりバカなんじゃないかと思う。


お互い優先順位は一位じゃないけど、それでも恋人はどっちにとっても特別なんだな。


(11.01.27)


68000HITキリリク「やきもちを焼く銀さん(土銀)」でした。リクエストを見た瞬間、お餅を焼く話を書こうとして「さすがにそれは…」と思い留まりました(笑)

失う悲しみを知っているから距離を置く銀さんと、失う悲しみを知っているから一緒の時はくっ付いていたい土方さん、そんな二人を書きたかったのですが、

銀さん視点で書いたので、土方さんの気持ちがイマイチ分かりにくいですね^^; 銀さんだって本当はいちゃいちゃしたかったんですよ。ただ「どうせ俺は

アイツの一番じゃねーし」とか思っていたので、敢えてドライなふりをしていました。二人にとって相手以上に大事な存在は確かにあって、けれどやっぱり

相手も大切で…ナンバーワンじゃないけどオンリーワンってことですかね。こんなのでよろしければ、リクエスト下さった利勇様のみお持ち帰りOKです。

逆CPもリバもある当サイトを気に入って下さり嬉しいです。もしサイトをお持ちで「載せてやってもいいよ」って時は拍手からでもお知らせ下さい。飛んでいきます!

それでは、ここまでお読みくださりありがとうございました。

 

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