別に、大したことじゃねェ…。ちょっとした偶然が重なった、ただそれだけのことだ。偶々俺がアイツん家に
いた時に少し強めの地震が来て…家具が倒れる程じゃなかったが、箪笥の上に置いてあった目覚まし時計…
ジャスタウェイっつったか、あれ?…その時計が落ちてきて、偶々箪笥の傍にいた俺の頭に当たりそうになって
…別に時計が当たったところで俺がどうにかなると思ったわけじゃねぇと思うが…偶々銀時が俺より早く
落ちそうになってる時計に気付いて、俺に当たる前にキャッチした。
更に偶々、地震が来たのは夕メシ時で、その日は偶々ガキ共も一緒にメシ食ったから、メガネとチャイナも
万事屋にいた。時計をキャッチした銀時にメガネとチャイナは拍手喝采。「すごい」とか「カッコイイ」とか…
まあ、それはいい。アイツがガキ共に尊敬されんのはいいことだ。だが、引っかかるのはチャイナが
言った一言…
「銀ちゃん、ヒロインを助けるヒーローみたいネ!」
ふざけるなよ?どっちかっつーとヒロインはアイツの方だろーが。…いや、夜の役割がそっちだからって
アイツを女扱いするつもりはねェよ。だがアイツのピンチを(主に経済的な面で)助けてるのは俺の方だ。
ガキ相手に金の話をするつもりはねェが…だからって俺がヒロイン扱いされんのは納得がいかねェ。
…そもそも、俺はアイツに助けられたのか?片手で持てる程度の時計が落ちてきただけだぞ?むしろアイツは
時計が壊れるのを阻止したかっただけじゃないのか?…その可能性はありそうだ。アイツは俺を助けるなんて
ガラじゃねーよ。普段から俺を平気で足蹴にするようなヤツだぜ?まあ、表面的な見方しかできねェガキには
助けたように見えたかもしれねェが、世の中そう単純なもんじゃない。メガネとチャイナもそのうち気付くだろ。
そんなわけで、この出来事は全く持って大したことじゃねェんだ。
あれから十日間、俺からアイツに連絡してねェのは仕事が忙しいからで、時計のことを気にしてるからではない。
チャイナがダチらしきガキ達に「銀ちゃんカッコ良かったアル」と自慢してたのを巡回中に見たからでもない。
そう…あんな大したことない出来事で俺が動揺するなんざあり得ねェ…。
むよむよむ〜ヒーローはどっち?〜
「なんだ…元気そうじゃん。」
相変わらずやる気の欠片もないような態度でアイツは屯所へやって来た。
「全然連絡来ねェから怪我でもしたのかと思ったけど…安心した。」
「仕事が、忙しくて…すまねェな。」
心配して来てくれたのかと嬉しさがこみ上げる反面、騙しているような申し訳なさを感じるのは何故だ?
俺は本当に仕事が忙しくて連絡できなかっただけだ!
そんな俺の葛藤などお構いなしにアイツは俺の左側面に背中を預けて座る。…右側にくっ付かなかったのは
効き手側だと仕事に支障が出ると思ったからだろうな。
そんな、アイツの何気ない気遣いに胸がチクリと痛んだ。…だから何だってんだよ!
俺は悪くない。仕事が忙しくて連絡できないなんていつものことだ!
「なあ、土方…仕事、いつ頃終わりそう?」
「そ、それは、その…」
「ハハッ…その様子だと当分かかりそうだな。」
俺が言い淀んだのを勝手に解釈し、銀時は俺から離れて立ち上がった。
「邪魔して悪かったな。…じゃあ、また…」
「………」
部屋を出て行こうとするアイツの背中はどことなく淋しそうで、俺は無意識に銀時の腕を掴んでいた。
俺はバカだ…。下らねぇプライドで銀時を避けるなんて…
「…なに?」
「仕事、終わった。」
「いや…無理しなくていいって。」
「いいから、行くぞ!」
「ちょっ…」
その場に筆を置き、銀時の腕を掴んだまま玄関へ走る。そのまま外へ飛び出したかったが、
ブーツなんつー面倒なもんを履いてるアイツのせいでそれは叶わなかった。だが、履物を履けたら後は目的地まで
突っ走るだけだ。…あ?目的地がどこかって?ンなもん、決まってるじゃねーか。
俺は銀時の腕を引いて一軒の連れ込み宿に入った。
部屋に入ると銀時を布団の上に座らせ、俺もその対面に座る。銀時が短く息を吐いた。
「お前ね、強引すぎるだろ…。これ、一歩間違えれば犯罪だぞ?分かってんですか、お巡りさーん。」
「あ?テメーが嫌なら何もしねぇよ。」
「別に嫌じゃねェよ?でもお前、仕事は…」
「終わったって言っただろ。」
「それは嘘だろ?」
「嘘じゃねェ。絶対に今すぐやんなきゃなんねェもんは終わってる。」
「…もしかして、そんなに忙しくなかった?」
「っ!?」
バレた!?な、何でだ…。銀時の目が冷やかに細められる。マズイ…フォローしなければ!
「あ、あの…」
「へ〜…マジで忙しくなかったんだァ。ふ〜ん…それなのに、電話一つ寄越さなかったんだ…。へぇ〜…」
「す、すまん…」
「銀さんを放置プレイして楽しんでたワケ?」
「そ、そんなつもりは…」
「じゃあ何なんだよ。」
銀時は静かに、しかし明確な怒気の籠った声で言う。
「すまない銀時!本当に、すまなかった…」
「謝んなくていいから理由を言えよ。」
「っ…」
こうなったら言うしかねェ!
「この前、会った時…」
「この前っつーと、俺ん家に来た時だよな?」
「あ、ああ…」
「…何かあったっけ?」
「地震が、その…」
「地震?……あー、そういやぁあったな。銀さんが華麗にジャスタウェイをキャッチしたアレね。」
「お、おう。…そん時、チャイナが、その……」
くそっ…腹を決めたはずなのに言葉が出てこねェ!ここまで来て往生際が悪いぞ十四郎!もう言うしかないと
覚悟を決めただろ、十四郎ォォォ!!
「ひ…ヒロインを、助けた…ヒーローみたいだと…」
「あー…確かにそんなこと言ってたな。…でも、それがなに?」
「………俺は、女じゃねぇ。」
「はぁ?まさかお前、神楽にヒロインって言われたのに拗ねて?ププッ…」
「拗ねてねェ!ただちょっと…引っかかっただけだ。」
「プププッ…マジでか。マジでンなことずっと考えてたワケ?」
「ずっとってわけじゃ…」
どうやら銀時の怒りを鎮めることには成功したみたいだが、今度は笑いが止まらなくなっていやがる。
チッ…だから言いたくなかったんだ。
「お前さァ…ガキの言うことなんてまともに取るなよ。ププッ…ヒロインなんてものの例えで、別にお前が
女に見えたってわけじゃねーだろ…」
「それは、分かってるが…」
「ん?まだ何か引っかかってんのか?」
「いや、別に…」
「この際だから、思ってること全部吐き出しちまえよ。」
「………」
どちらかと言えばお前がヒロインで俺がヒーローだと思ってたのに…なんて、さすがに言えねェ。
すると銀時は勝手に俺の気持ちを推測し始める。
「もしかして、アレかなぁ…」
「あ?」
「神楽が言ってたんだけどよー…銀さんの華麗なるスペシャルキャッチを見たお前は、ポーッと頬を染めて
恋するオトメみたいになってたって…」
「はぁ?」
「そうかそうか…。それで、カッコイイ銀さんに抱かれてみたくなったとか?よしっ、そういうことなら
銀さんに任せなさい。優しく抱いてやるぜ!」
「はぁ〜!?っざけんな!誰がんなこと考えるかよ!」
「えっ、違うの?…まあ、いいや。たまには上ヤらせてよ。」
銀時は俺の肩を掴んで押し倒そうとする。
ヤられてたまるか!
俺は逆に銀時を押し倒してやった。…力の差とかは関係ねェ。こういうのは慣れだ、慣れ。
「何だよケチぃ〜。ヤらせてくれたっていいだろー、恋するオトメの土方く〜ん。」
「誰がオトメだ!黙って聞いてりゃ調子に乗りやがって…どっちかっつーとヒロインはテメーだろーがァ!」
「…えっ?」
「あっ…」
ヤベェ!つい言っちまったァァァ!!
「なるほどね…。オメーは銀さんをヒロインだと思ってたわけね…」
「あ、いや、その…」
失言で俺の力が緩んだ隙に銀時が起き上がる。俺達は再び布団の上で向かい合って座る体勢になった。
「それなのに神楽からヒロイン呼ばわりされて凹んでたってことか…」
「凹んでたわけじゃ…。あっ、別にお前が女の代わりとかそんなわけでも…」
「なに慌ててんの?俺はお前にヒロインと思われてよーが別に構わないけど?」
「そ、そうなのか…?」
「ヒトがどう思おうが俺は俺だし…。お前が俺のコト大事にしてくれてんのも分かってるし、まあ、ある意味
俺のヒーロー的存在だと言えなくもないと思うしな…」
そう言って銀時は照れ臭そうに笑った。
コイツを見てると、ガキの一言でぐだぐだ悩んでいた俺はなんて器が小せェんだと情けなくなってくる。
本当にコイツは…
「おーい、何とか言えよ土方…。反応ねェと恥ずかしいだろ…」
「あ、ああ、すまん…」
「急にボーッとするなよ…。…あっ、これが恋するオトメってやつか?銀さん素敵!とか思ってた?」
「お、思ってねーよ!」
コイツのことを少しカッコイイと思ったのは内緒だ。
銀時は拗ねたように唇を尖らせる。くるくるとよく表情が変わる野郎だ。コイツのこういうところは…
「…可愛いと思うけどな。」
「はっ?おい、今の銀さんのどこに可愛いところがあった?お前、おかしいんじゃねーの?」
「そうだな…」
「認めんのかよ!…違うだろ?ここは銀さんのどこが可愛いかを発表するところだろ。」
「ハハハ…」
「楽しそうだな、おい…」
「楽しいぜ。…久しぶりにテメーに会えたからな。」
「な、なに言ってんだよ。…そもそも、テメーの都合で連絡寄越さなかったくせに…」
斜め下を向いて顔を赤くした銀時を抱き寄せる。
「悪かった。…来てくれてありがとな。」
「おう…」
銀時の手が遠慮がちに俺の背中に回る。
普段は大胆で恥知らずなくせに、こういうふとした時に見せるしおらしさを可愛いと思ってしまう。
そしていつの間にか気分が晴れやかになっている。これも、コイツのおかげなんだろうな…。
ああ…やっぱりコイツは俺が敵う相手じゃねェや。チャイナが言ったことも間違いじゃないのかもしれねェな。
そんなことを思いながら、俺は先刻よりもそっと銀時を布団に押し倒した。
(11.01.03)
64646HITのキリリク「すごい男前な銀さん」でした。すごい、かどうかは自信ないです^^; 「地震とかで上から大きい物とかが土方さんの上に落ちてきて、それをちょーカッコ良く助ける銀さん」という
リクだったのですが、目覚まし時計って…すみません^^; 土方さんが凹んで、その後銀さんが慰めると嬉しいとのことでしたが、土方さんは凹んでいるのを認めようとしないし、銀さんはそんなに
ちゃんと慰めてないし…すみません^^; 相変わらずリク作品の後書きでは謝ってばかりですね。ですが、男前受けな銀さんとヘタレ攻めな土方さんはとても好きな組み合わせです^^
こんなのでよろしければリクエスト下さったみゅう様のみお持ち帰り可ですのでどうぞ。もし、サイトをお持ちで載せてやってもいいよって時にはお知らせください。飛んでいきます。
ここまでお読みくださり、ありがとうございました。
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