こみこみこ〜何年経っても変わらない〜
パチンコ帰り、銀時は制服姿の土方と沖田に出会った。相変わらず咥え煙草で無表情の恋人と対照的に
沖田はニコニコと笑顔で銀時の元へ歩いてきた。
「どーも」
「ちょうどいいところで会いやした。旦那ァ…珍しい菓子もらったんで一つ差し上げます」
「マジで?…変なモンじゃねぇだろーな。沖田くんから物もらうの、ちょっと怖いんだよねー」
「ハハハ…酷ェや。俺一人じゃ食いきれないんで皆に配ってるんでさァ」
「そうなんだ…。土方ももらったの?」
「……い「この味覚音痴に食べ物やるなんて罰当たりなコトするわけないでしょう」
「それもそうか」
咥えた煙草を二本の指で挟み、土方が声を発しようとした瞬間に沖田が答えた。
銀時も特に気にすることなく沖田と話を続けている。菓子は沖田が出張先で買った物なのだとか
その地方にしかない果物を使用しているとか、相変わらず依頼はないのかとか今日はいい天気だとか…
土方は短くなった煙草を携帯灰皿へ捻じ込み、一足先に屯所へ戻ろうと歩を進めた。
「あっ、今日あの店でいいか?」
「…ああ」
離れていく土方を引き止めるわけでも追いかけるでもなく銀時が背中に向かって話しかけ
土方も背を向けたまま答えた。明日は土方が非番のため、今日の夜は飲みに行く約束をしていた。
場所の確認が取れると銀時は沖田との話を続ける。
「今夜はデートですかィ?」
「まあね〜」
「旦那と土方さんが付き合い始めたって聞いた時は驚きやしたが、もう随分長く続いてますねィ」
「しょっちゅう喧嘩はしてるけどな」
「五年目でしたっけ?」
「違ぇよ。こないだ五周年で、今は六年目に入ったの」
「そんなに長く付き合ってて別れの危機とかはないんで?」
「あー…そういうのはねェな。まぁ、お互いの領分は侵さないようにしてるしね」
「…大人ですねィ」
「そんなんじゃねェよ」
フッと銀時は顔を綻ばせて土方の歩いて行った方に目を向けた。
「こうも堂々と惚気られるとつまらねェや…」
「…惚気てるつもりはないんだけどなァ」
「長年連れ添ってるとそうなってくるんですかねィ」
「そこまで長くはねーだろ…」
「いやいや…始めの頃なんか、俺が旦那とちょっと話すだけであの野郎カッカしてやがったのに
今じゃ見向きもしねェ。からかい甲斐のない野郎に成長したもんでィ」
「沖田くんさァ、土方を妬かそうとして俺に話し掛けてんの?」
「いや…旦那と話すのが楽しいからですがね、ついでに土方さんに嫌がらせができたら一石二鳥かと」
「無理だって…」
「熟練夫婦の域ですかィ?」
「だからそこまで長くねェって。…でもまあ、今更アイツが他のヤツの所に行くとは思えねーし
アイツもそう思ってるんじゃねーの?」
「でしょうねィ。…ちなみに、今日のデートは何時の約束で?」
「それ聞いてどうすんの?」
沖田はにっこりと爽やかに笑ってみせた。
「デートに遅刻するくらい、土方さんの仕事を増やしてやろうと思いまして…」
「フッ…残念でしたァ。時間は決めてねェの…。アイツはなかなか定時で上がれねーからな」
「ちぇ…じゃあ、目標は決めずに仕事の邪魔するか…」
「どっちにしろ邪魔はすんのかよ」
「日課なんでねィ」
「ハハッ…お手柔らかに頼むよ〜」
「それはどうでしょうねィ」
最後にもう一度菓子の礼を言い、銀時は万事屋へ、沖田は屯所へ戻っていった。
* * * * *
その夜。土方は息を切らして銀時との待ち合わせの居酒屋へ駈け込んで来た。
店主に案内され、銀時のいる奥の座敷へ急ぐ。
「ぎん、き…すま、ねぇ…」
「気にすんなって。仕事だったんだろ?」
「あ、ああ…」
忙しない呼吸を繰り返す土方を自分の向かいに座らせ、銀時が水の入ったコップを差し出すと
土方はそれを一気に飲み干した。来た時よりは落ち着きを取り戻した土方に、銀時は諭すように言う。
「いつも言ってんだろ?仕事が忙しいのは分かってるから、約束の時間に遅れても大丈夫だって」
昼間、沖田には「時間を決めていない」と言ったが、几帳面な土方は毎回きちんと時間を指定する。
そして毎回ではないが、土方の仕事の都合で遅刻することも多かった。そのことを沖田に伝えれば
土方への嫌がらせを日課とする沖田にもっと邪魔されると思い、銀時は敢えて言わなかった。
銀時は言葉を続ける。
「俺が携帯持ってないのも悪いんだって。外に出ちまうと連絡取れねェだろ?だから気にすんな」
「銀時は悪くない!遅刻した俺が悪いんだ…」
「はいはい…でも俺は全く気にしてねェから、もう謝んなくていい。なっ?」
「…本当にすまない」
「だから謝るなって。もうこの話はおしまい!飲もうぜ?」
「あ、ああ…」
その後二人は取りとめもない会話をしながら酒を酌み交わし、程良く体が温まったところで
居酒屋を出て万事屋へ向かった。
* * * * *
「ただいま…うおっ!」
二人で万事屋の玄関を入り扉を閉めた瞬間、土方が銀時に抱き付いた。ぎゅうぎゅうと縋り付くように
抱き付く土方の背中に腕を回し、銀時は子どもをあやすようにポンポンと軽く叩いた。
「沖田くんからもらった菓子なら食ってねーよ」
銀時の言葉に土方はパッと顔を上げる。
「な、で…」
「沖田くん、たまにイタズラすっからさァ…前にタバスコ入りケーキ持ってきたことあったし…」
「あれは…大丈夫だぞ。近藤さんと一緒に出張先で買ってきたものだから…」
「そっか。じゃあ、神楽にやろうかな」
「…お前が食えばいいだろ」
「いやね…今月は特に切り詰めないとヤバそうなんだよ。だから珍しい菓子で神楽のご機嫌とって…」
「プッ…なんだよソレ。人からもらったモンで…」
「沖田くんには内緒ね」
「ああ」
昼間から抱えていたモヤモヤが薄れた気がして、土方は漸く銀時から離れた。
履物を脱いで玄関を上がり、事務所の長イスに土方を座らせて銀時はその上に跨る。
銀時は土方の首に抱き付き、土方も銀時の背を確りと抱き締める。
「沖田くんは別に、横恋慕してるわけじゃないと思うよ」
「…それは分かってる。だが…」
土方は銀時を抱き締める腕に力を込める。
「今更、どこにも行かないって」
「それも、分かってる…。分かってるんだが…お前が、他のヤツと親しげに話しているのを見ると
どうしたらいいのか、分からなくなる…」
「親しげにったって…ただのダチとか知り合いとかだよ?」
「そうなんだが…」
「銀さんって、そんなに信用ならない?」
「違っ!そんなつもりじゃ…」
「冗談だよ。…ありがとな。そんなに想ってくれて」
「…こんなに、心の狭い男ですまない…っ!?」
銀時は土方の頬に自身の唇をくっ付けた。土方の目が驚きに開かれる。
「な、にを…」
「俺、思ったんだけどさァ…他のヤツといんの見てモヤモヤした後は、思いっきりイチャイチャすれば
スッキリするんじゃね?…心も身体もさっ」
銀時はニッと笑って土方に軽く口付ける。チュッチュとわざと音を立てて口付ければ
土方の瞳が幸せそうに細められる。
沖田の言うように、意外に長く続いている関係だと銀時は思う。
これほど長く続いているのは、土方が変わらずに想い続けてくれているからだと思っていた。
土方自身も持て余すほどの熱い想いを向けられることに、最初は戸惑うこともあった。
しかし今では、それが心地よいとすら感じている。
二人の関係はこれからも続いていく。
(10.10.13)
53535HITキリリク「土→→←銀で、できれば、沖田・山崎あたりになつかれている銀さんにやきもきする土方さんの話」でした。CPはなんでも…ということでしたので土銀土で。
付き合って何年経っても自信が持てず、銀さんが心変わりするのではないかと不安がる土方さんを目指してみました。が、あまり上手く表現できていないような?
そして書き終わって気付いたのですが…これってデキてない設定の方が良かったんですかね^^; それから山崎を登場させられなくてすみません。
こんな小説でよろしければリクエスト下さったsayo様のみお持ち帰り可です。もしサイトをお持ちで載せてやってもいいよって時はお知らせください。飛んでいきます。
それでは、ここまでお読みくださった皆様ありがとうございました。
ブラウザを閉じてお戻りください