※今更ですがちょっとだけ第二百五、六訓(文通篇)ネタです。




万事屋憎むべし。しかし新八君にだけは優しくすべし。

局長の私的理由で局中法度に加えられた条文は、副長の私的理由で拡大解釈され、取り締まりの対象となっていた。


よやよやよ〜素直になれない土方さん〜


真選組屯所。その一室では仕事を終えた隊士たちが五、六人集まって酒盛りをしていた。
話題は本日起きた自殺騒ぎの顛末について。

「いや〜、相変わらず万事屋の旦那はすげぇよ」
「え、なになに?」
「あー、お前現場にいなかったもんなァ…。アレを見られなかったなんて残念だったなァ」
「もったいぶらずに教えろよ」
「ビルから飛び降りた女の子を、壁伝いに走ってって受け止めたんだぜ!」
「マジかよ!?すっげぇ〜。こりゃ、助けられた女の子は旦那に惚れちまったんじゃね?」
「それがその娘、新八君のお相手らしいんだ」
「なるほどね〜。弟分の彼女のピンチを救ったってわけか…やるねぇ〜」
「ああ、カッコイイよな〜」
「本当に。それにさ、旦那って何つーか色気?みたいなのが漂ってるよな」
「ナニお前…まさかソッチ系?」
「違ェよ!」
「あ、俺分かる!俺も別にソッチの趣味ねぇけど、旦那が近くに来るとドキドキするっつーか…」
「そうそう」
「お前ら、いい加減にしとけよ。こんな会話、副長に聞かれたら面倒なことになるぜ」
「何が面倒なんだ?」
「「「ふっ副長!!」」」

噂をすれば何とやら―土方の登場で隊士達はほどよく回っていた酔いも醒め、皆姿勢を正した。

「テメーら俺に聞かれちゃマズイ話でもしてたのか?」
「い、いえ、滅相もございません」
「…銀時の話、してただろ」
「しししっしてません!」
「廊下まで聞こえてたぞ。カッコイイとか色気があるとか…」
「そそそそれは違います」
「何が違ェんだよ!」
「「「ヒィッ!!」」」

土方に怒鳴りつけられ、隊士たちは震え上がる。

「局中法度第四十六条を忘れたか!?」
「わっ忘れてません!『万事屋憎むべし。しかし新八君にだけは優しくすべし』であります!」
「そうだ。銀時は憎むべき相手だ。だから軽々しく銀時の話をすんじゃねェ!」
「そういうアンタは旦那と付き合ってるじゃねぇですかィ」
「総悟!」

何やら面白そうな空気を感じ取り、どこからか沖田が現れて横槍を入れる。

「どうなんですかィ?憎むべき旦那と付き合ってる土方さーん」
「…俺と銀時の付き合いは近藤さんも認めてくれてる。それに、付き合ってるからといって、俺は銀時の話なんかしね ェ」
「それはアンタがものすご〜く独占欲強くて、旦那のことを独り占めしたいからでしょうが」
「そんなんじゃねェ!」
「じゃあ嫉妬ですかィ?他のヤツらに旦那が優しくするのは許せないんで?」
「それも違う!俺はただ…真選組副長として、近藤さんが追加した局中法度を厳格に守っているだけだ!」
「はいはい、そーですかィ…」
「総悟テメー…」

土方の言葉を全く信用していない沖田を土方は睨み付ける。しかし実は的を射た指摘であるため、やや迫力に欠けている。
酒盛りをしていた隊士達は、土方の意識が沖田に向かったことで胸を撫で下ろしていた。



*  *  *  *  *



「邪魔するぜ」
「土方さん、いらっしゃい」

非番の日。土方は朝のうちにその日の仕事の指示を出し、昼頃万事屋を訪れた。
今日は銀時が昼食を振舞ってくれるというのでワクワクしながらここまでやって来た。
しかし、その銀時の姿が見当たらない。台所も静まり返っていて料理をしているわけでもなさそうである。

「アイツ、いねェのか?」
「銀さんは今、買い出しに行ってて…なので、お昼遅くなっちゃいますけど…」

新八は申し訳なさそうに土方に茶を出した。土方は事務所の長イスに座ってそれを啜った。

「メシの時間が遅れるくらい構わねぇよ。午前中に依頼でもあったのか?」
「いえ…」
「銀ちゃん、寝坊しただけヨ。昨日も依頼なくて昼間からゴロゴロしてて、それで夜眠れなくなって
お酒飲んだら昼まで爆睡アル」
「き、きっと土方さんと会えるのが楽しみでなかなか眠れなかったんだと思います」
「そっそうか?」

新八のフォローに土方は満更でもない様子である。しかし神楽だけはその場の雰囲気に流されなかった。

「トッシー、騙されちゃダメアル。銀ちゃんはマダオだから寝坊したネ!」
「そんな言い方しなくてもいいだろ。銀時なりに一所懸命やってると思うし…」
「昼間から働きもしないでゴロゴロしてただけアル」
「…神楽ちゃんもゴロゴロしてたよね?僕が掃除とか洗濯とかしても全然手伝ってくれなかったよね?」
「寝る子は育つアル。…でも銀ちゃんはオッサンでこれ以上育たないから働かなきゃダメヨ」
「銀時はオッサンじゃねぇよ」
「トッシーはちゃんとしてるから、銀ちゃんと同世代でもオッサンじゃないヨ」
「俺がどうとかじゃなくて、銀時は悪くないだろ。寝坊くらい誰だってすることだ」
「土方さん…」
「…トッシーは優しいアルな。銀ちゃんは幸せ者ネ」

そんな話をしているうちに銀時が買い物から戻ってきた。


「ただいまー!土方ァ、待たせてゴメンね〜」
「いいから早くメシ作れよ」

買い物袋を持ったまま抱き付いてくる銀時を土方は引き剥がしながら言った。

「うん。腕によりをかけて作るから待っててね〜」
「じゃあ銀さん、僕ら行きますね」
「えっ!」

土方が見ると、新八と神楽は外へ出る準備をしていた。

「お前ら、どこ行くんだ?」
「僕の家です。銀さんが買い物から戻るまで土方さんを引きとめておいてほしいって頼まれてたんです」
「でも昼メシは…」
「それなら土方さんが来る前に有り合せのもので済ませましたから」
「そういうことだから後は二人で仲良くするアル」
「あっ、大事なことを言ってなかった。土方さん、きららさん達の件ではお世話になりました」
「俺は何も…」
「あの後きららさんから手紙が来て…友達もできて楽しく過ごしてるみたいです」
「そうか…」
「それじゃあ、ごゆっくり」
「お、おう…」

子ども達に申し訳ないと思いながら、土方は二人を見送った。



「お前…あんまガキに迷惑かけんなよ」
「え〜?」

事務所の長イスに並んで腰かけ遅めの昼食(銀時作)をとりつつ、土方は銀時に言った。

「迷惑って…お前の相手頼んだこと?大丈夫だってそのくらい。ただ喋ってただけだろ?」
「茶も出してくれた」
「大した労働じゃないじゃん」
「だが今日は、オメーが寝坊したせいでこうなったんだろ?」
「うっ…アイツらが言ったの?」
「ああ。ったく…テメーの尻拭いをガキにさせんなよな…」
「すいませ〜ん。…ところでさ、メシはどう?美味しい?」
「まあ、それなりに…」

急にトーンダウンした土方に銀時はクスリと笑う。

「相変わらずつれないなァ。銀さん、頑張って作ったんだよ?美味しいなら美味しいって言ってほしいなァ」
「そっそれなりだって言ってんだろ!」
「…それなりに『美味しい』ってことだよね?」
「まぁ…」
「ありがとー!」
「食いにくいだろっ」

嬉しそうに抱きついてくる銀時から逃れようと土方はもがく。だが土方の頬が若干赤く染まっていることに
気付いた銀時は、土方を抱きしめる腕に力を込めた。

「土方、だーいすき♪」
「るせっ…離せよ!」
「やだー。土方が銀さんのこと好きって言うまで離さなーい」
「誰が言うか!離せって!」
「離してほしかったら好きって言ってよー。『銀時大好きv』さん、はいっ」
「くたばれ、万事屋ァァァァ!!」
「ぐふっ!」

土方渾身の右ストレートが銀時の顔面に炸裂した。

「いってぇぇぇ…。ちょっ、『くたばれ』の上に殴るなんて…ヒドイ!」
「…テメーが下らねェことを言うからだ」
「下らなくなんてない!恋人同士なんだから『好き』くらい言ってくれてもいいでしょ!」
「るせェっ…。恋人同士なんだから…いちいち言わなくたって分かるだろ」

後半はボソボソと独り言のように呟いていたが、銀時の耳は聞き洩らさなかった。
再び土方の隣に座り直し、土方の肩を抱き寄せる。

「ねぇ…それって銀さんのこと、言葉にできないくらい好きってこと?」
「…そんなんじゃねェ」
「だって、好きだから銀さんの恋人でいてくれてるんでしょ?ねぇ…俺のこと好き?大好き?大大大好き?」
「…お、お前なんか、大嫌いだ!」
「ふーん…」
「―っ」

銀時の声のトーンが急に落ちたと思ったら、肩に回っていた腕が下ろされた。銀時はイスから立ち上がる。

「確かに…俺が『お願いだから付き合って』って言って始まった関係だもんなァ。…そういうことなら別れよっか」
「えっ…」
「今まで付き合ってくれてありがとね。楽しかったよ」
「あの…」
「貴重な休みにわざわざウチ来させちまって悪かったな。帰ってゆっくりしてくれよ」
「………」

銀時が土方の腕を取って立ち上がらせようとするも、土方はそれを振り払い長イスに座り続けた。
その様子に銀時は口元がにやけそうになるのを必死で堪えていた。

「土方どうしたの?もう無理してここに居なくていいんだよ」
「…別に、無理なんか、してねェ…」
「でも銀さんのこと大嫌いなんでしょ?そんなヤツの家にいたってつまんないでしょ?」
「………」

土方は何と言っていいか分からず、じっと銀時の方を見詰める。その瞳にはうっすらと涙が滲んでいた。
そんな貌を見てしまったら、銀時はもう堪え切れるはずがなかった。
銀時は土方を優しく抱き締め、頭を撫でる。

「ごめん!ごめんね。別れるなんて嘘だよ。…土方がつれないから、ちょっとイジワルしちゃった」
「………グスッ」
「本当にごめんね。謝るから…泣かないで」
「グスッ…泣いてねぇ」
「うん…。本当にごめん」
「…万事屋の、バカ」
「うん。…土方、大好きだよ」
「………おれも

土方は辛うじて銀時だけに聞こえるようなか細い声でそう言って、銀時の背に腕を回した。
そして白い着流しをぎゅっと掴んだ。まるで「絶対に離れない」とでも言うように…。
銀時はそれが嬉しくて更にしっかりと土方を抱き締めた。

なかなか素直になれない土方が稀に見せるこうした態度が可愛くて、銀時もまた「絶対に離れない」と
心に決めているのだった。


(10.09.04)


48484HITキリリクより「泣き虫で超ツンデレな土方さんとそんな土方さんを甘やかしてデレさせる銀さん」でした。「神楽が悪口を言っていれば否定し、真選組隊士が銀さんかっこいいとか話してたら

銀さんの噂するのを禁止し、銀さん大好きオーラが出まくってるのに、銀さんに対しては大嫌いって言いまくる。なのにそれをスルーされたり肯定されたら泣きそうになる、そんな可愛い

ツンデレ土方さんと男でも惚れそうになるほどエロカッコいい銀さんの甘甘を」という、このまま載せるだけでも充分楽しいリクでしたが、勝手に文通篇にしてしまいました。

銀さん限定でツンを発動する土方さんっていいですね!皆の前では「銀時」と言えるのに、本人前にすると「万事屋」になる設定は、結構気に入ってます^^

反省点は銀さんの「エロカッコイイ」ところが全く表現できなかったことですね^^; 隊士達には銀さんのエロカッコよさが伝わっているみたいですが、小説の中の銀さんは

土方さん甘やかしてるか苛めてるかしかない…リクエスト下さった舞夜様、すみません。 ここまでお読みくださりありがとうございました。

 

ブラウザを閉じてお戻りください