万事屋・坂田銀時は悩んでいた。
「なあ…これからどうすればいいと思う?」
「そんなこと僕らに聞かれても…」
「オッサンの気持ちなんて分からないネ」
「だよなァ…。あ゛〜〜〜」
新八も神楽も力になりたいのは山々なのだが、人生経験の少ない彼らが銀時の悩みに応えるのは難しかった。
それでも、何とか銀時を元気付けられないかと二人も頭を悩ませる。
そして神楽が立ち上がった。
「神楽ちゃん?」
「新八、付いてくるアル」
「えっ…どこに行くの?」
「いいから。…銀ちゃんはここで待ってるネ」
「お、おい…」
銀時も新八もよく分からないまま神楽の言う通りにした。
「神楽ちゃん…どこに行くの?」
神楽と共に万事屋を出て、十分ほど歩いたところで新八が再び尋ねる。
すると神楽はニッと笑って言った。
「ヅラのところアル」
「桂さん?…そうか!こういうことは同世代の友達に聞くのが一番だよね!」
「時に、家族より友達の方が頼りになることもあるネ」
「桂さんは、銀さんを小さい頃から知ってるみたいだし、きっと力になってくれるね」
二人は意気揚々と桂の潜伏場所―という名のバイト先―へ向かって行った。
「なに?銀時に悩みだと?」
「そうアル」
「何とかしてあげたいんですけど、僕らじゃよく分からなくて…」
「子ども達に心配を掛けるとは…余程悩んでいるのだな。して、どのような悩みなのだ?」
「実は銀さん・・・」
新八は簡単に銀時の悩みの種の説明をする。
「なるほどな…。そういうことなら任せてくれ」
「…本当に大丈夫アルか?」
「神楽ちゃん、頼みに来ておいて失礼だよ」
「そうだけど…やっぱりヅラ一人じゃ頼りない気がするネ」
「じゃあ長谷川さんとかにも声を掛けてみる?色んな人と話せば解決策が見つかるかもしれないし…」
「それも俺に任せてくれ。何人か友人を誘ってみよう」
「本当ですか?ありがとうございます」
「銀ちゃんは家で待ってるから頼むアル」
「承知した」
さんなせん〜旧友たちのアドバイス〜
万事屋に残された銀時はソファに寝そべりジャンプを広げていた。
だが、意味深に出て行った神楽達が気になり漫画の内容は頭に入っていない。
神楽達が出てから数刻が経過した頃、万事屋の呼び鈴が鳴った。
「はいはーい…新聞なら間に合ってま……えっ?」
気だるげに玄関を開けた銀時は、そこに立っていた人物を見て固まった。
「よう」
「クク…」
「アッハッハッハー」
「………はぁ〜!?お前らっ、何してんの!?」
そこにいたのは桂、高杉、坂本だった。
* * * * *
「おらよ…かぶき町天然水だ。ありがたく飲みやがれ」
仕方なく三人を万事屋に招き入れた銀時は、コップに水を汲んで出す。
「銀時…これはただの水道水ではないのか?以前エリザベスが来た時には緑茶やコーヒー、いちご牛乳まで
出してもてなしてくれたと聞いたのだが…」
「るせェよ…水でも出してもらえるだけありがたいと思え。…ていうか何、このメンツ?」
「リーダーと新八君が俺の所に来て、お前の相談に乗ってほしいと言われてな…」
「アイツら…よりにもよってヅラの所に行ってたのかよ…」
「ヅラじゃない桂だ」
「…で、後の二人は何なんだよ」
「子ども達に友人を連れて行くと約束したのでな…」
「友人って…えっ?辰馬はともかく…何で高杉?」
「ひでェ言い草だな…。ガキの頃からの付き合いじゃねーか」
「いやいや、そうだけどね?そうだけど…オメー、こういう時に出てくるキャラじゃねェだろ?」
「ナニ言ってやがる。こんな面白い誘いを断るわけねェだろ」
「面白いって…他人事だと思ってよー…。ていうか、何で高杉と連絡取れんだよ」
「俺の情報網を甘く見てもらっては困るな。はっはっはー」
桂は得意気に笑う。
「意味分かんね…」
「細かいことは気にするな。とにかく俺らはお前の悩みを聞いてやろうと集まったのだ」
「それはどうも。…で、新八達にはどこまで聞いてんだ?」
「お前が片想いで悩んでいるとだけ聞いたぞ」
「クク…お前が片想いとはな」
「アッハッハッ…ヅラから聞いた時にゃ冗談かと思ったぜよ」
「るせェ!俺は本気で悩んでんのに…」
「アッハッハッ…すまん、すまん」
「それで?テメーなりに手ごたえみたいなもんはねェのか?」
面白半分のようだが一応相談には乗るつもりらしいので、銀時は渋々話し出す。
「嫌われてはいないと思うけど…そういう意味で好きかって言われると厳しいような…」
「銀時…それは一番可能性がないパターンだぞ」
「確かに…いい人で終わるパターンだな。クク…残念だったな」
「勝手に終わらせんじゃねーよ!まだ始まってもいねェのに終わってたまるか!」
「じゃあ…プレゼントでも贈ってみてはどうじゃ?」
「プレゼントねェ…俺、金ねェからなァ…。あっ、辰馬も高杉もボンボンだったよな?」
「貸すわけねェだろ」
「誰も貸せなんて言ってねェよ。返す当てがねェから…くれ」
「アッハッハッハッ…相変わらずじゃの〜。じゃが、人に頼ってプレゼントしても意味ないぜよ」
「んだよ…」
「金をかければいいというわけではないだろ?よし、俺がイカしたラップの作り方を特別に伝授してやろう!」
「間に合ってます」
結局、自分一人で何とかするしかないのだと銀時は早くも思い始めていた。
(プレゼントってのは悪くねェと思うけど…アイツの好きなモンってタバコとマヨネーズだろ?
そんなん、アイツくらいの高給取りならいくらでも買えるし…なんかねェかな…。…ん?そういえばコイツら…)
「そうだ!その手があった!いやー、オメーらが来てくれたおかげで希望が出てきたぜ」
銀時は目を煌めかせて和室に行き、ゴソゴソと何かを探し始めた。
「何だか分からんが、よかったの〜」
「持つべきものは友達だな」
「ただの勘違いじゃなきゃいいけどな…」
「よしっ!じゃあ、ヅラと高杉はこっちに座れ」
「ヅラじゃない桂だ」
「あっ、背中あわせにな。そんで、辰馬はこっち持ってて」
「何じゃ〜、ロープなんぞ持ち出して…」
長いロープを持ってきた銀時は桂と高杉を一つのソファに座らせ、坂本にロープの端を持たせて
桂と高杉の体にぐるぐると巻き付けた。
「おいおい…」
「銀時、貴様何を…」
「…足も縛っとくか。辰馬、高杉の方を頼む」
「了解じゃ」
銀時の狙いは分からなかったが、何となく面白そうなので坂本は言われたとおり高杉の足首をロープで固定する。
「お、おい待て、銀時」
「辰馬テメー…」
「よしっ、完璧!」
「何のつもりだ銀時!」
「あ?だからプレゼントだよ。大物攘夷志士を二人纏めて捕まえたと知ったら、アイツ絶対ェ喜んでくれるって」
「なんじゃ?おんしの相手は攘夷志士に恨みば持っちょるがか?」
「あれ?俺の相手のこと聞いたんじゃねェの?」
「新八君もリーダーも、相手のことはお前に聞けとしか言わなかった」
「なるほどね…ヅラと高杉が何で、って思ってたけど…何も知らないで来たのか」
「どういうことだ、銀時!」
「説明しやがれ!」
声を荒げる桂と高杉に向かって、銀時はニヤリと笑う。
「俺が惚れてんのは…真選組の副長、土方十四郎だ!」
「「なっ!」」
「分かったら大人しくプレゼントになりやがれ」
「おんし、男好きだったがか?」
「今はそんなこと言ってる場合じゃねェだろ!」
「銀時!貴様、友を売る気か!?」
「愛情と友情を秤にかけた場合、愛情が勝つってのが相場だろ?
ていうか、そもそもオメーらとは友達じゃなかった気がする」
「アッハッハッ…ヅラも高杉も一本取られたの〜」
「よーし、早速屯所に電話して土方に来てもらおうっと。そんで、コイツらを渡してほしくば俺と付き合えと…」
「告白っちゅーより、脅迫のようじゃの〜」
「きっかけは何だっていいんだよ。付き合っちまえばこっちのモンだから」
「ま、待て」
「早まるな」
真選組に連絡しようと電話に手を伸ばす銀時を桂と高杉は慌てて止める。
二人にとって真選組は然程脅威ではないものの、銀時があちら側に付くとなれば話は別である。
「んだよ…金のかからない最高のプレゼントだろ?…あっ、せっかくだからリボンとか巻いた方がいいかな?」
「それもそうじゃの〜」
「辰馬っ!ふざけてねェで、早くロープを解け!」
「まあまあ…ヅラも高杉も金時の恋のため、ちぃと捕まってみんか」
「そうそう。…どうせすぐに仲間が脱獄させてくれんだろ?それから辰馬、俺は銀時だから」
「脱獄は難しくないが、そういう問題ではない!」
「だいたいよー…これじゃあ真選組全体に恩を売ることになるんじゃねェか?」
「そ、そうだ!プレゼントなら、土方個人に贈るのが筋であろう」
「んー…そうかもしんねェけど…アイツは真選組大好きだから大丈夫だろ」
「プレゼントなんてまどろっこしいマネしねェで、一服盛ってヤっちまえばいいだろ?」
「おー、それならいい薬があるぜよ」
どこからともなく坂本は小瓶を取り出す。
「何、これ?」
「催淫剤じゃ」
「なるほど…これを土方に飲ませて気分が盛り上がったところでヤって、責任とって付き合ってやると…
ん?俺がヤられて、責任とって付き合えって言う方がいいのか?」
「好きにしろ。その前に早くこれを解け」
「あー、はいはい」
真選組の仕事に協力するより確実に土方自身をモノにできると踏んだ銀時は、桂と高杉のロープを解く。
「じゃあ俺、土方がよく行く飲み屋で張ることにするから、オメーら帰っていいぞ」
「まあ待て銀時。今の状況で万が一にゃんにゃんできたとしても、一夜の過ちで終わってしまうぞ」
「何だよ…ヅラのくせに偉そうだな…」
「ヅラじゃない桂だ。とにかく、にゃんにゃんの前にもっと親密になっておいた方がいいだろう」
「親密って?」
「まずは文通だ!」
「はぁ?そんなんメンドくせーよ…」
「便箋と封筒ならここにあるぜよ」
またしても坂本がどこからともなく手紙の用意をする。
「オメーなんでンなもん持ってんだよ…」
「アッハッハッ…企業秘密じゃ」
「ではここに、今の自分の想いを綴ってみるがいい」
「ったく、かったりィな…。えーっと、土方十四郎くんへ…」
仕方なく銀時は筆をとり、土方に宛てた手紙を書き始める。
「前略………………土方くんはいつになったら股を開いてくれるんでしょうか」
「何を書いとるかァァァ!!」
「えっ、ダメ?率直な今の俺の想いを書いてみたんだけど…」
「なかなかいい線いってるじゃねェか」
「だろ?」
「銀時…本気で土方と付き合う気があるのか?」
「当たり前だろー」
「だったらせめて季節のあいさつから書き始めんか」
「そういう堅苦しいのはいらねェだろ?『前略』って書いたし…」
「相手は幕臣なのだから、多少は形式を気にした方がいいと思うぞ。お元気ですか?くらいは書いても…」
「あー、いいのいいの。そういう諸々もひっくるめて『前略』だから。
えっと続きはー……今度、一緒に飲みに行きましょう。坂田銀時より……できた!」
「随分と短い手紙じゃの〜」
「長けりゃいいってもんじゃねェだろ?これで俺の気持ちは伝わるはずだし…じゃあ、渡してこようっと」
銀時は書いた手紙を封筒に入れ、いそいそと出かける支度を始める。
「ほら、お前らもさっさと帰れよ…。特にヅラと高杉はもたもたしてっと一緒に連れてくぞ」
「ヅラじゃない桂だ」
「とっとと玉砕してこい」
「金時ィ、頑張るぜよ〜」
「銀時だっつーの!」
三人見送られ、銀時は真選組の屯所に向かって行った。
「あの手紙渡してどうなるか…賭けねェか?」
「高杉貴様、友を賭けの対象にするとは何事だ!…俺は断わられるに賭ける!」
「結局賭けてんじゃねェか。…俺も上手くいかねェ方に賭ける」
「なんじゃ二人とも…それじゃあ銀時が可哀想じゃ」
「じゃあ辰馬は上手くいく方でいいな?」
「そうは言うとらん…」
「では、負けた者は勝った者の言うことを一日何でも聞くということで…負けぬぞ、坂本!」
「待たんか…わしゃ、上手くいく方に賭けるとは一言も…」
「ククク…結果が楽しみだなァ、ヅラ?」
「ヅラじゃない桂だ」
上手くいく方に無理矢理賭けさせられた坂本であったが、大方の予想を裏切り、賭けに勝利することとなる。
「土方…これ、今の俺の気持ち。受け取って!」
「気持ちって……この手紙、まさかお前…」
「俺、土方のこと好きなんだ。だから、とりあえず飲み友達くらいから…」
「分かった。今日、仕事が終わったら飲みに行こうぜ。ただし、友達としてでなく恋人としてな」
「土方、それって…」
「俺も…お前のことが好きだ」
「本当!?」
土方も前々から銀時に想いを寄せていて、手紙の文面など関係なく、もちろん例の薬も使うことなく
銀時と土方は交際を始めたのだった。
翌日、桂と高杉は快援隊の雑用を丸一日させられることとなった。
(10.06.19)
37000HITキリリクより「リバで銀さんの恋を応援する幼馴染2人と坂本」でした。…あまり応援していないような?いや、これはこれで友情なんだと思います。
「一服盛ってやっちまえと唆す高杉とまずは文通からと言うヅラ、怪しげな薬やレターセットをどこからともなく取り出す坂本」という素敵リクをそのまま書かせていただきました。
高杉をどう絡めようか迷った挙句、ギャグ風味にして普通に登場させました。まあ、これに限らず私の書く話は大概ギャグ風味なんですけどね^^;
それから、坂本の口調が全然分からなかったです^^;この話を書くにあたって、何度も原作の坂本登場回を読み返しましたが、結局よく分からなかったです。
今回書いてみて思ったのですが、銀さんは旧友を前にすると若干幼くなる気がします。土方さんとは違う意味で気が休まるのでしょうね。
新たな発見ができました。攘夷派の人達はあまり書く機会がないので難しいリクエストでしたが、書いてみるととても楽しかったです^^
それと、土方さんとのいちゃいちゃを期待していた方は申し訳ありません。こんなのでよろしければ、リクエスト下さった舞夜様のみお持ち帰り可ですのでどうぞ。
いつもより後書きが長くてすみません。日記に書けば良かったかな? それでは、ここまでお読み下さりありがとうございました。
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