※24242HITキリリク「土方さんを泣かせちゃって、慌てて謝る銀さん」です。

 

 

 

によによに〜ある晴れた春の日の話〜


昨日は雨で肌寒いくらいだったというのに、今日は朝から雲ひとつない青空が広がっている。
銀時は「うーん」と伸びをして布団から出て、部屋の窓を開け新鮮な空気を取り込んだ。
ふと今まで自分が寝ていた方を見ると、未だ起きる気配のない愛しい人の姿があり、思わず目尻が下がる。

昨夜―といっても日付が変わってから―漸く仕事を終えた土方は、恋人の待つ万事屋を訪れた。
そしていつものように激しく愛し合い、仕事の疲れも重なって、土方は気絶するように眠りに就いたのだった。

(全然起きねェな。…長時間労働の後に三回は流石にマズかったか)

一応反省はしてみるものの、頭のどこかでは「でも土方くんが美味しそうだからいけないんだ」などと
本人が聞いたら抜刀されかねないようなことも思っていた。
そんな、反省だか恋人の魅力再確認だかよく分からないようなことをしながら
銀時は前夜の交わりでドロドロになったシーツや着物を持って洗濯場へ向かう。


(この天気ならすぐ乾くだろ…)

昨夜は着衣のままコトに及んでしまったため、土方の着流しもあちこちに白濁液が飛んでいる。
銀時は自分の服と一緒に土方の着物も洗濯機に放り込んだ。
ちなみに現在土方は着流しと同じ濃い色の寝間着を着て寝ている。
いつ泊まりに来てもいいようにと銀時が屯所からくすね…いや、持って来たものだ。

*  *  *  *  *

「あれっ?」

洗濯物を干す段階になって、洗ったはずの着物にところどころ何かが付着しているのに気付く。

(俺、ポケットにティッシュでも入れてたっけ?いや、だったらもっと酷くなってるよな…。
レシートとか?…なんか灰色っぽいよーな…まさか千円札!?いやいやいやいやソレはナイ!)

ぶんぶんと頭を振りながら洗濯物に付いた「何か」を払っていると、後ろから声がかかった。

「おい」
「あっ、土方おはよー」

春の朝日を浴びて爽やかに微笑む銀時とは対照的に、土方の眉間には深い皺が刻まれている。
疲れた体に朝の光は強すぎるのか、それとも単に寝起きで機嫌が悪いのか…
土方は銀時の手に握られている自身の着物に視線を向ける。

「お前、それ…」
「あっ、昨日ドロドロにしちゃったから洗濯しといた。…この温かさなら帰る頃には乾くと思うぜ」
「袖のところ…」
「あっ、袖にも付いてる?悪ィ。俺、ポケットにレシートか何か入れっぱなしにしてたみたいでよー…」
「そうじゃなくて…俺の着物の袖に入ってただろ?」
「えっ?何か…入れてた、の?」
「テメー…」

土方は目を細め、眉間の皺をますます深くする。

「ごめんっ!気付かずに洗っちまった!」
「くそっ…」

グスッ…俯いた土方は目を擦り、鼻を啜った。激昂するわけでも殴るわけでもなく
ただグスグスという音しか立てない土方の様子に、何かとても大切なものだったのだと悟る。

「本当にゴメン!悪かった!あの…何が、入ってたの?」
「…帰る
「えっ!?」

ボソッと一言つぶやくように言って、土方は踵を返す。
咄嗟のことに銀時は反応することができず、土方は一目散に万事屋から去っていってしまった。



湿っている土方の着物を握りしめ、銀時はその場から動けないでいる。

(そんなに大事なモンだったのか…。何が入ってたんだ?袖に入れてたってことはデカイもんじゃねェよな。
洗濯機で砕けるんだから、やっぱり紙か?)

銀時は今まで払い落した欠片や、まだ着物に付着している欠片をよくよく観察してみた。

(白い紙じゃねェみたいだな…さっきは灰色が見えたし、こっちは青っぽいな……絵か?
でも土方と絵って結びつかねェよな。じゃあ…絵ハガキとか?だとしたら余程大切な人からもらったのか?
泣くってのは相当だよな…。そういやあ、アイツが泣くとこ見たのってあの時以来…)

あの時、土方は病院の屋上で激辛せんべいを食べながら涙を流していた。
そこまで考えた時、銀時の脳裏に若くしてこの世を去った女性の姿が思い浮かんだ。

(いや、いくらなんでもそれは違うだろ…。あのコからもらった、とかじゃない…と思う。
…別に持ってるのは構わねェよ?銀さんその辺は理解あるから。ただ…俺と会う時にも持ってるってのは…
まあ、部屋に置いてて沖田くんに見付かったら気まずいだろうし、持っててもいいけど…でも…
…いかんいかん。そうと決まったワケじゃねェんだ。他の可能性を探そう!)

沈む気持ちを叱咤して、銀時はもう一度考えてみた。

(絵じゃないとしたら……写真はどうだ?……ダメだ)

銀時が見出した新たな可能性…だが、それでもやはり浮かぶのはショートカットの彼女。

(だから、あのコ関係とは限らないだろ?写真だとしたら…そう!銀さんの写真とか!
そんなの持ち歩いてるなんて恥ずかしくて言えなくて、とか!……だとしたら泣かねェよ。
こういう時はわざとらしいくらい「別に無くてもいいけど」みたいな態度取るんだよ、ツンデレだから。
あー…やっぱりそうなのかなァ。ハガキであれ写真であれ、もう二度と手に入らないモンだもんなァ…)

予想が外れてほしいと思いながらも、彼女以外に土方が涙する理由は思い付かなかった。

(…とにかく謝りに行こう。あのコと関係があってもなくても、土方の物を俺の不注意で台無しに
しちまったことは確かなんだし…もしも、頑張って手に入る物なら何としてでも手に入れてみせる!
高い物なら頑張って働くし、遠くの物なら…やっぱり頑張って働いて旅費を稼ごう!よしっ!)

銀時は自分自身に気合を入れて土方の着物を干し、屯所に向かった。


*  *  *  *  *


屯所の前でもう一度気合いを入れ直し、銀時は門をくぐった。
そして近くにいた沖田を捕まえる。

「あっ、沖田くん…土方いる?」
「これはこれは、寝間着姿で街中を走る恋人をお持ちの旦那…どういったご用件で?」
「…だから、寝間着姿で帰すハメになっちまったことを詫びに来たんだよ」
「詫びにねィ。残念ですが土方さんはここにはいやせん」
「…帰ってねェのか?」
「いや…寝間着で帰って来て、着替えてすぐに出ました」
「何処に行った?」
「病院でさァ」
「病院んんん!?アイツ、どっか具合悪いのか!?」

銀時の反応に沖田は一瞬、驚いたように目を丸くした。だがすぐにドSの煌めきを放つ。

「俺が勝手に言うワケに行かないんで、本人に聞いて下せェ」
「…分かった。何処の病院だ?」
「迎えに行かなくても、じきに帰ってくると思いますぜ」
「そうか…。じゃあ、外で待ってる」
「中で待ってても構いませんぜ」
「いや…早く謝りたいし、病気のことも心配だから…」
「そうですかィ」

沖田がニヤリと笑っているのを、この時の銀時に気付く余裕はなかった。

*  *  *  *  *

程なくして土方が戻ってきた。
銀時は黒い人影が見えた瞬間に走って行った。

「土方っ!」
「お前、何で…」

銀時の登場に驚いて立ち止まった土方はマスクをしている。銀時は何とか涙を堪えて土方の手を取る。
その手には白い薬局の袋が握られていた。

「洗濯のこと、謝りに来たんだ。そしたら沖田くんに病院行ったって聞いて…」
「そうか…。とりあえず中に入れ」
「うん」

銀時は土方の腰を抱こうとして往来だからと思い留まる。
だが昨夜無理をさせてしまったし、具合が悪いのなら支えた方がいいようにも思う。
結局、不自然に腕を空中に漂わせたまま屯所に着いてしまった。



「あの…よく確認もせずに洗濯して、すいませんでした!」

土方の部屋に入るなり、銀時は畳に額を擦りつけて謝った。

「もういい…」
「本当にゴメン!もし、弁償できるんだったら弁償するから!」
「…そうか?じゃあ…」
「えっ?」

土方は薬局のレシートを取り出して銀時の前に置いた。だが、銀時は何のことだか理解できない。

「えっ?何コレ?」
「だから…弁償してくれんだろ?」
「えっ?コレ…薬代だろ?」
「ああ…それと、あの着物も洗い直しな」
「えっ、あの…はい?」

銀時はサッパリ状況が飲み込めなかった。
部屋に入ると同時にマスクを外した土方は、目と鼻の頭が赤くなっていて泣きはらしたような顔をしている。
けれど銀時に対する態度は普段と変わりないように思えた。

「…ンだよ。テメーで弁償するとか言っといてやっぱり無理なのか?ったく…そんな高ェ薬じゃねェだろ」
「あ、あの…もしかして……俺が洗ったのって、その薬?」
「ああ。だから新しいのを処方してもらって来たんじゃねェか」
「そう、なんだ…」

大事なものには違いないが、銀時が思っているようなものではなくて少し安心した。
だが今度は、薬が無くなると泣く程の土方の病気が心配になる。

「あのさ…その薬っていつから飲んでるの?」
「先月からだな」
「…かなり、悪いの?」
「そうだな…。これから毎年この時季はこうなるのかと思うとキツイな」
「毎年?」
「まあ、薬飲めば大分治まるんだけどな」

キツイと言いながら、土方の表情に暗いところはない。それに「毎年この時季」というのが引っかかる。
銀時は思い切って聞いてみた。

「あの…土方の病気って何なの?」
「病気って…総悟から聞いたんだろ?」
「いや、沖田くんからは病院に行ったってことしか…」
「あの野郎…俺を病人に仕立てて遊んでやがるな」
「それで、あの…」
「花粉症だ」
「…………はい?」

かふんしょーだカフンショウダかふんしょうダ……銀時は土方の言葉を何度も脳内で繰り返した。

「花粉症ォォォォ!?」
「ンだよ…急にデケー声、出すんじゃねェよ」
「花粉症ってお前、あの花粉症!?」
「…他にどの花粉症があんだよ」
「はぁぁぁ!?マジでか!?おまっ、そんくらいで泣くかフツー?」
「俺がどんだけ辛ェかテメーに分かるか!雨の翌日は花粉の量が多いんだよ!涙も鼻水も止まんねェんだよ!」
「ちょっと待て!涙の理由ってそれェェェ!?ふざけんなよ!俺のシリアスパートを返せ!!」
「ワケ分かんねェよ!だいたいテメーは頭のてっぺんから足の先まで、存在自体がギャグパートだ!」
「違ェェェェ!!」

銀時はありったけの声で叫び、ハァハァと肩で息をする。
そして力一杯叫んだことで全てを吐き出すことができ、漸く落ち着きを取り戻した。

「…つまり、オメーは花粉症の薬が切れたから涙が出たと…」
「ああ」
「だからって走って帰んなくてもよくね?言ってくれれば薬くらい…」
「テメー、窓開けただろ」
「窓?」
「テメーが開けたせいで、部屋中に花粉が充満してたんだよ。一刻も早く出たかったんだよ」
「うっ…じゃあ、何で着物は洗い直しなワケ?」
「…あの着物、今どうしてる?」
「どうって…干してるけど?」
「外にだろ?」
「ああ」
「花粉塗れになってるだろーが。もう一度洗って、部屋干ししろ」
「はいはい…」

すっかり力の抜けた銀時に土方は青筋をピキリと浮かべる。

「テメー…俺の薬を洗濯機で粉砕した挙句、着物を花粉塗れにしてその態度は…」
「そりゃあ悪かったけどさ…別に逃げるように帰らなくてもいいじゃん。
今日は夕方まで一緒にいられると思ってたのによー…」
「この時季、お前ん家に行ってやっただけでもありがたいと思え」
「えー何それ?薬飲んでマスクしてりゃあ、外歩けんだろ?」
「お前ん家の周辺は特に酷いんだよ。隣、森みたいな花屋だろ?」
「あっ…」

銀時は屁怒絽の森を思い浮かべ頭を抱えた。
対照的に土方はフフンと勝ち誇ったように笑う。

「分かったか?…つーわけで、俺に感謝しろ」
「…来てくれてありがとうございました!」
「分かりゃいいんだよ」
「くっそー…」
「フン…じゃあ行くか?」

土方は再びマスクを着けると立ち上がって玄関へ向かう。銀時も慌てて後を追った。

「あの…どこ行くの?」
「…お前ん家」
「えっ?何で?」
「薬代の取り立てと…あと、ちゃんと洗濯し直すか確認に」
「土方…」


ほら行くぞと言って前を歩く土方の後姿を、銀時は嬉しそうに見つめていた。


(10.04.06)


というわけで「土方さんを泣かせちゃって、慌てて謝る銀さん」でした。意味不明なタイトルは24242HITだからです(笑)。そしてタイトル以上に内容がおかしいです^^;

す、すみません。多分…というか絶対、土方さんが泣くってこういう事じゃないですよね?もっとこう、全体的にシリアスで最後は甘々みたいな…そんなのですよね?

それなのに、銀さん一人シリアスで全体的にギャグというワケの分からない話になってしまいました。あの…こんなのでよろしければリクエスト下さったいっち様のみお持ち帰り可です。

…いらないとは思いますが。    ここまでお読み下さり、ありがとうございました。

 

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