同じカマの飯を一杯食わされる


「テコ入れェ?」

天高く馬肥ゆる秋。いつにも増して食欲旺盛な少女と超大型犬のせいで、万事屋の懐は早くも
冬支度を始めている。そんな時に依頼人がやって来たのだから快く迎えるべきなのだが……相手が
かまっ娘倶楽部のアゴ美……いや、アズミであったから、銀時は嫌な予感しかしなかった。
それでも食うために仕方なく事務所へ入れてやり話を聞けば、開口一番「彼女」はテコ入れが
したいと言ったのだ。

「オメーの顎はテコ入れたくらいじゃ治んねーぞ」
「顎の話じゃねーよ!店だよ店!」
「店ェ?」

小指で耳の穴を穿る銀時はいかにも興味ないといった態度。代わりに新八が先を促した。

「ママはかぶき町四天王も引退したし、店も私達若い世代に任せてくれようとしてるの」
「若い世代?何処にいるんだ?」
「ちょっと銀さん!」
「下剋上の相談アルか?」
「神楽ちゃんまで!」

知り合いとはいえ依頼人なのだからという尤もなツッコミは軽く流されてしまう。そんな態度も
慣れたものとアズミは話を続ける。

「でも売り上げが徐々に落ちていてね……このままじゃママに心配かけるだけだから」
「一思いに殺っちまいたいってことだな?」
「違いますよ!西郷さんが安心できるように、お店をテコ入れってことですよね?」
「そうなの。四天王にキャバ嬢が入ったこともあってお客がそっちに流れてるのよねー」
「どっちも性格ゴリラなら、見た目がヒトの方に行くよな……」

耳の穴から出した小指にふっと息を吹き掛けて銀時は、反対側の小指を反対側の耳へ。

「誰が見た目もゴリラだコラ!」
「ゴリラというよりモンスターアル」
「そうだな。間違えたすまん」
「いい加減にしろォォォォォ!!」

テーブルを叩いて新八が立ち上がった。このままでは一向に進まないではないか。
依頼人の話も真面目に聞けない二人を黙らせて、新八はアズミに向き合う。

「それで、具体的に僕らは何を?」
「舞台の手伝いをお願いしたいの。小娘達には真似できない、ちょっと過激なパフォーマンスを
しようと思って」
「か、過激って……」

顔を赤らめた新八を横目に銀時は頬杖をついて言った。

「おいおいウチには童貞と未成年がいるんだからよー、言葉にゃ気をつけてもらわねぇと」
「僕も『未成年』でいいじゃないですか!」
「つーかパフォーマンスって何やんだ?」
「今考えてるのはストリップショーよ。美しい顔と逞しい体のギャップ萌えを狙ってるの」
「何のギャップもねーよ。そもそも脱ぐとか無理だから」
「パー子以外は裏方を手伝ってもらう予定よ」

皿洗いとか掃除とか――アズミとて未成年に「過激なパフォーマンス」をさせる気など初めから
なかった。けれど銀時はそれでも了承しない。

「俺だって脱がねーよ」
「脱ぐといっても下着姿までだから大丈夫よ」
「下着も水着も無理ですー。あと、ミニスカートとか露出の高いのもNGだから」
「何かあったの?」

やけに身持ちが堅くなったとアズミは首を傾げた。

「銀ちゃん彼氏がもがっ!」
「バカッ!秘密だって言っただろ!」

慌てて神楽の口を塞いだがその程度で聞き逃してもらえるはずもなく、

「何よパー子、彼氏がいるの?いつから?どんな人?どこまで進んでるの?ねえ、ねえ!」

質問責めに遭う銀時。ひた隠しにするつもりはなかったものの、こうして面白半分にからかって
くるような輩には知られたくないから万事屋三人だけの秘密ということにしておいたのに……
もうダメだ。きっと明日には町中に知れ渡ってしまう……銀時は息を吐いて頭を抱えた。

「ねえパー子ったら教えなさいよー」
「三ヶ月くらい前からネ」
「おいぃぃぃぃぃっ!」

本人に代わって答える神楽は何故か得意気。何とか止めようとする銀時であったが「きちんと
説明して過激なパフォーマンスを断らないと」と新八にまで窘められる始末。ただ拒否をしても
有無を言わせず店へ連れて行くくらいのことができる連中ではあるが……

「マヨラーでニコ中だけど高給取りだから飲み代もホテル代も出してくれるアル」
「あらまっ……じゃあもう最後まで?」
「もうバンバンヨ」
「おいぃぃぃぃぃっ!」

だからといってそこまで赤裸々に話す必要はないんじゃないか?銀さんだってたまにはデート代
出してるよ。それにバンバンヤってるのにも理由があるんだからな。酔った勢いでアレしちゃった
けど、俺もアイツも仲良く肩を並べて歩くって柄でもねェし、これといって話すこともねェし、
なのにやたらとソワソワするし、そもそもデートって何するんだっけ?ってなわけで、ホテルに
行っとけばいいんじゃね?って感じでヤってるだけで……などという思いを先程の「おい」に
込めてツッコミを入れる銀時であった。

「とにかく、脱ぎたきゃオメーらだけでやれや」
「そうよねぇ……三ヶ月じゃまだまだラブラブよねー」
「ラブラブじゃねーけど、まあ……」
「それなら仕方ないわね。パー子には普通の接客をお願いするわ」
「店には行くのかよ……」

面倒だが贅沢を言える懐事情でもない。新八と神楽も働く気になっているようだし、この依頼を
受けるしかないかと渋々了承した銀時。しかし間もなくそれを後悔する。

「彼氏も呼んでいいわよ」
「は?」
「パー子の彼氏なら私達にとっても彼氏みたいなもんじゃない。サービスするわ」
「絶対ェ呼ばねーからな!」
「冗談よぅ。人のものに手出しはしないから安心して呼んで」
「ンな心配してねーよ」

彼女らに迫られて靡くような男と付き合っているつもりはないが、女装しているところを見られ
たくはない。恋人の前では格好良くありたいと「この時の」銀時は思っていた。

「売り上げ増えたら給料がっぽりアルか?」
「そうね。パー子の売り上げ次第では依頼料の上乗せも考えるわ」
「なに!?」

仕事の出来が収入に直結するとなれば話は別。売り上げ増に繋がる客を連れていかなくてはと
「この時の」銀時は思った。

「仕方ねーなー……そんなに会いたいなら会わせてやるよ」
「何のこと?」
「銀さんのカ・レ・シ。けどお前らは見るだけだぞ。ヤツの注文は全て俺の売り上げだ!」
「……そんなにお金持ちなの?」

自信に満ちた銀時を見てアズミは尋ねる。これには新八が答えた。

「幕臣なのでそれなりには……」
「まあっ!玉の輿ね?やるじゃないパー子」
「フッ……私の魅力にかかればイチコロよん」

金のためなら多少の恥など何のその。素顔のままで気分はもうすっかりパー子になっていた。


*  *  *  *  *


「……何やってんだ、お前」

あくる日の夕刻。仕事を終えて待ち合わせ場所へ到着した土方は、恋人の異様な出で立ちに眉を
顰めた。秋の七草と詠われる桔梗と撫子の模様をあしらった杏色の着物を着て、鬘か付け毛か、
ツインテールに髪を結っている。

「パー子ですぅ」
「……は?」
「かまっ娘倶楽部のパー子でぇす」
「……は?」

笑顔で腕を組み、事情は有耶無耶のまま歩き出そうとしたけれど、事態を全く飲み込めない土方は
動こうとしなかった。

「おい行くぞ」

いつもの調子で言ってやれば「何処に?」と返ってくるも相変わらず現状理解はできないから、
疑うような目付きを向けられる。だがその目付き、何をされるのかと怯えているようにも見えて、
ちょっと可愛いなどと思ってしまった自分に頭の中でツッコミを入れた銀時であった。

「今日はかまっ娘倶楽部で働いてんの。売り上げに協力してよ」
「何で俺が……」
「えっ、俺が他の野郎に愛想振り撒いて酌してもいいわけ?」
「しゃく!?……あ、いや、そんくらいは別に……」
「今、明らかに違う『しゃく』だと思ったよね?」
「思ってねぇ」
「土方くんのエッチ」
「思ってねぇ!」
「はいはい……じゃあどっちの『しゃく』か確かめに来いよ」

腕を引けば今度は土方も歩を進めた。「思ってないからな」と弁明しながら。

「土方くんだったらソッチの『しゃく』もサービスしちゃおっかなー」
「……マジでそういう店なのか?」
「ンなわけねーだろ。ウチには童貞と未成年もいるんだぞ」
「それもそうか……」

例え今より裕福な暮らしができるとしても、そのような仕事を銀時がすると言えば子ども達が
止めるに違いない。納得した様子の土方をちらりと伺って、それに、と銀時は続けた。

「お前だって、嫌だろ」
「えっ……」
「なに驚いてんだコラ」
「わっ悪ィ。お前はその辺あまり拘らないのかと……」
「めちゃくちゃ拘るっつーの!今日の服だって、露出高いの断ったんだからな」
「そ、そうか……」

思った以上に愛されていたと頬を染める土方に対し、銀時は頬を膨らませる。

「土方くんさァ、俺のこと信用してないよね」
「ちっ違う!俺はちゃんとお前のことを……」
「…………」

土方が銀時の両肩を掴み向き合ったところで二人とも我に返る。
往来で何と恥ずかしい会話をしてるんだ俺達は……どちらからともなく距離をとり、
そこから店までは一言も話さず終いであった。

(13.09.07)


15万打記念リク作品です。カップリングは土銀第一希望で「リバでも大丈夫」とのことで、土銀土にしました。
その他のリクエスト内容は後編で。続きアップまで少々お待ち下さいませ。

追記:後編はこちら