※タイトルの通り、劇場版第二弾ネタです。
※映画を観ていない方にはよく分からない箇所があると思います。
※映画の内容に関しては記憶を頼りに書いているので、誤りがあったらすみません。

以上をお読みになり、大丈夫と思われた方のみお進みください。









   ↓














お妙の入院する病院からの帰り。昔の関係を少しだけ取り戻した新八、神楽と別れ、一人夜道を
行く銀時の前に土方が現れた。宿がないならウチに来いと誘われて、近藤・桂奪還祝いの宴を
開いていた彼らのアジトへと戻る。
宴会場の下、六畳ほどの広さの和室には布団が一組既に敷かれていた。料亭を丸ごと貸し切って
――従業員が全員避難してしまったのかもしれないが――個室を寝室にしているらしい。


劇場版第二弾の話


「この部屋、自由に使ってくれ」
「ああどうも、ね……」

後ろから抱き締められて銀時は礼を述べたことを後悔する。
今日会ったばかりの男に対してこれは……銀さん死んだデビューにしたってあんまりだ。

「悪いんだけど俺、そっちの趣味はないんで」
「テメー、銀時だろ?」
「は!?」

まさかそんなはずは……ここで狼狽えればそうだと認めたことになる。ふぅと息を吐いて銀時は
振り返った。

「俺の名前は珍宝。銀さんの義兄弟だって言っただろ」
「嘘だな」
「本当だって。アンタのことも銀さんから聞いてるよー。マズイって俺に手ェ出しちゃ……
そっちも兄弟になっちまう」

信じたわけではなさそうだが土方は黙った。諦めてくれたのかと安堵した銀時であったが、

「テメーのその面、調べさせてもらう」
「はい?ちょっ……」

目の前の男が銀時だという確信が土方にはあった。特殊メイクか整形か……手始めに、銀時には
ない口髭を調べることに。しかし、確かにそこに触れているはずなのに髭の感触は一切ない。
ついでに触れた顎や首も見た目より大分細い感触。

「マジでやめてくんない?土方くんが浮気したって銀さんに言っちゃうよ?」
「言いたきゃ言え……おっ、黒子は触れるな」
「何?黒子フェチなの?いてててて……」

黒子に模した額の装置を引っ張られ、銀時は慌てて土方の手を振り払った。

「何すんだおい!黒子が取れちまうじゃねーか!」
「別に構わねェだろ。総悟なんか昔、便所ブラシで部下の黒子取ったことあるぞ」
「それ何のプレイ!?おたくらの変態プレイに巻き込まないでくれます!?」

両手を掴み合って膠着状態。先に力を抜いたのは土方であった。

「分かったよ……テメーは銀時じゃねぇ」
「お、おう……分かってくれたか」
「一つだけ教えてくれ」
「何だ?」

聞いておいて土方は無言で新しい煙草に火を点ける。そして、肺に溜めた紫煙を一息、ふぅと
目の前の男に向けて吐き出した。
先程、珍宝として初対面を果たした際にもされたこの煙を吹き掛ける行為。土方が閨へ誘う時に
やっていたことを銀時は当然知っていて、いくらこの土方にとっての銀時がいなくなってしまった
からといって、よく知りもしない自称・義兄弟を誘うなんて……

「俺にその気はねぇって言ってんだろ!」
「何で分かった?」
「何が?」
「これの意味、何で知ってんだ?」
「あ……」

肩口に顔を寄せ、もう一度紫煙を吹き掛ける土方。頭に血が上っていた銀時は咄嗟に言葉が
出て来なかった。
その隙をつき、土方の手が銀時の額に伸びる。

「痛っ!あ……」
「ぎん……」

銀時が黒子装置を外されたのだと気付くのとほぼ同時に土方の手から煙草が滑り落ちた。

「うおっ危ねェ!あーあ……シーツが焦げちまった……」

煙草はすぐに銀時が拾い上げ、幸い大事には至らなかった。
座れよ――「銀時に」促されて土方は布団の上で胡座をかく。銀時もその向かいに腰を下ろした。
拾った煙草を土方に返して口を開く。

「その黒子、まだ使うんだから無くすなよ」
「お前は、一体……」
「おいおい……さっきまで銀時銀時言ってたくせに、何なんだよ」
「本当に、銀時なのか?」
「うーん……」

本当に、と聞かれると肯定しきれない。どう言えば分かってもらえるのか……思案する銀時の
視界がぐらりと揺れた。
答えを貰うよりも早く土方は銀時押し倒して上衣をはだけさせたのだ。

「っ……」
「テメーはヤることしか考えてねぇのかァァァァァ……あれ?」

五年振りの再会かもしれないけれどこれはいただけない。木刀を握った銀時であったが、
土方は脱がせかけの状態で止まってしまった。
視線の先には幾つもの小さな内出血痕のついた銀時の身体。

「あああのこれはな……」
「まさかお前……本当に過去から来たのか?」
「え……」

今度は銀時が止まる番。何故コイツは知っているのだ……知らなければこの程度の情報量で
タイムスリップなどという仮説が立てられるはずもない。
なのに土方は謝りながら、自ら乱した服を着せ直す。銀時ではあるが求めていた銀時ではない……
影を宿した土方の瞳に、今ここにいる銀時はかける言葉が見当たらなかった。

土方は新しい煙草を咥えてまた火を点ける。吐き出された煙はもう、「銀時」には向かわない。

「近藤さんと……」

こちらを向いた土方の表情は慈愛に満ちていて、それが未来の自分に対するものだと分かって
いても胸がざわめいた。こんなに愛されてんのに「俺」は何やってんだ……

「一緒に捕まってた、機械(からくり)技師のジィさんがいただろ?」
「あ、ああ……」
「そのジィさんがタイムマシンを作ってるって情報が入ってな」
「そうなんだ……」

予想はしていたが、やはりあの時間泥棒は源外の作らしい。つーことは俺をここに呼んだのも
ジジィか――土方の話に耳を傾けつつ、自身に起きた状況も整理していく。

「眉唾もんだと思ったがな……今のお前を見りゃ、信じるしかねェだろ」
「……お前の銀さんが浮気したのかもよ?」
「それが有り得ねぇってことは、テメーが一番理解しているはずだが?」
「そーですね……」

こうも信じ切られては悪いことなどできないではないか――する気がないのもきっとお見通し。
アイツもそうなのだろうかとV字前髪の恋人を想起する。

「……この世界、テメーにゃどう見える?」

元いた時代を懐かしんでいるような銀時。早く帰りたいのではと気遣いながら土方は尋ねた。
銀時はうーんと暫く考え込んでから、良かったよ、と答える。

「良かった?」
「そりゃ色々ビックリしたこともあったけどよ……皆、元気そうで良かった」
「……メガネの姉貴もか?」
「ああ。他のヤツらと同じで見た目がちっと変わってたけどな……元気に笑ってたよ」

銀時の顔には笑みすら浮かんでいて、嘘や強がりを言っているようには思えない。銀時は続ける。

「本当に良かった……。死んだのが俺だけで」
「銀時っ――」

これが心からの言葉だと感じたからこそ、土方は銀時を抱き締めた。

「ちょっとマズイよ土方くん……いや、土方さん?」
「この時代のお前もくたばっちゃいねェ!」
「……そうだね。長ーいウンコの最中かもね」
「あのなあ……」

両肩に手を置いたまま体を離した土方。口調は呆れた風だが泣き出しそうな顔をしていた。

「大丈夫。人は、皆から忘れ去られた時、本当に死ぬんだとよ。だから、アンタが信じてくれてる
限り、この時代の俺は死なない」
「……俺だけじゃねーよ」
「うん……かなり長生きできそうだ」
「ああ。生まれつきでも詛いでもなく、テメーの髪が一本残らず白くなるまで生き延びるさ」
「どうも……」

土方の触れた肩から熱が生まれてくる。この感覚は危険だ。このままここに留まれば流されて……
否、流してしまいたくなる。どこぞで野垂れ死んだか分からないような俺を、この時代の俺を待ち
続けてくれている土方――慰めてやりたくなるではないか。

「おい、どうしっ……!」

銀時の手が土方の額をぺしり。

「何すんだよテメー……」
「いや〜ツッコミやすそうな髪型だなと思ってつい……」
「ついって……」

ぺしぺしと数回叩いた後、銀時は額に唇を押し当てた。
驚き後退る土方。

「てめっ……何なんだよ急に!」
「三十路の土方さんもカッコイイっスねー」
「あ?」

冗談の通じない男の眼光が銀時に向かう。違う違うと笑う銀時は土方にとってふざけているように
しか見えず、そんな場合ではないだろうと更に睨みつける。

「怒った顔も男前だねェ」
「テメーいい加減に……」
「こりゃあ年取る楽しみが出来たわ」

会話についていけない土方を置き去りに、銀時は膝に手を付いて立ち上がった。

「おいっ」
「まだ寝る気分じゃねーし、飲みに行ってくるな」
「は?上はもう……」

少し前まで賑やかな声が聞こえていた宴会場。今は静まり返っている。

「違ぇよ。行きつけの店。まだ営業してるとこ、一軒だけ知ってんだ」

そう言うと銀時は土方から黒子型装置を奪い返し、再び額に装着した。土方の視界から銀時の
容貌が消えていく。
どうやら銀時は元・万事屋銀ちゃん下、大家の経営するスナックに行く気らしい。だが土方は、
ころころと話題が変わる銀時が心配でならなかった。こんな時は大抵、自分の感情を悟られまいと
している時。
そんな状態の銀時を一人にさせては危険と判断した土方は、銀時の手首を捕らえた。

「送ってく」
「いいよ。か弱い女子じゃあるまいし」
「まだこの時代に慣れてねぇだろ。夜の治安の悪さは昼間の比じゃねぇんだ」
「元々そんなんだっただろ、かぶき町は」

どうあっても一人で行くつもりのようだが土方も食い下がる。

「なら本当のことを言え」
「何のこと?」
「ここに居たくない理由を言え」
「えっと……」

やんわりとこちらを見ながらも確りとは視線を合わせず人差し指で頬を掻く――「見た目」は
変わってもやはり銀時なのだと土方は感じていた。

「ここが嫌なわけじゃ……」
「嫌なのは俺か?」
「……五年の差ってやつ?」

観念したのか銀時はハァと息を吐き出す。

「俺の知ってる土方くんなら、ごまかされてくれるんだけどね」
「何年も行方知らずになった『前科』がなけりゃ、俺も黙って行かせてやるさ」
「あーそうですか……」

土方に言えないようなことがあれば、大抵こうして半分茶化しつつ煙に巻いた。土方も薄々
勘付いてはいるものの、追及せず自由にさせてくれた。
この時代の自分もそうしていつものようにやり過ごし、土方の前から消えたのか……

「そんな、大層な訳じゃないんだけどね……」
「それでもいい」
「こんな時に何考えてんだって我ながら思うんだけど……」
「いいから言ってみろ」
「うん。あのね……このまま居ると、土方さんのこと襲っちゃいそうでして……」
「はあ?」

これまでのある種、殺伐とした重苦しい空気が一転、柔らかな雰囲気に包まれた。
頬を染めて斜め下を向く銀時(土方から見れば珍宝)の表情はそれが本音であることを言外からも
伝えている。

「別に溜まってる訳じゃねぇし……今の状況も分かってるし……でも土方さん男前だし……」

ばつが悪くなると唇を尖らせてぼそぼそと話すのも銀時らしいと、土方は口元を綻ばせた。

「送ってくとか言っちゃって……まあ、ウチの土方くんだってそうだけど……ガチで戦(や)ったら
絶対ェ俺が勝つのにこういうとこじゃ勝てねェし……」
「銀時……」
「ああもう、そんな声で呼ぶな。お前はお前の銀さんに会えなくて寂しいかもしれないけどな、
俺だって俺の土方くんに会えねェんだよ」
「…………」

目を丸くした土方は思わずまた煙草を落としそうになる。

「なに驚いてんの?あーあ、カレシに信用されないって辛いな〜」
「悪かった」
「折角、お前の銀さんが言いたいこと代わりに言ってやろうと思ったのに……やーめた」
「悪かったって。何だ?」
「言っても信じてもらえそうもないしぃ……」
「信じる!本当に悪かった!」

こうしていると本当に銀時といるようで(外見はかなり異なるのだが)つい手を伸ばしてしまい
そうになる。確かにこのままでは危険だ。言いたいこととやらを聞いたら見送ろう――
一人で飲みに出ると言った銀時の気持ちを理解する土方であった。

「で、何なんだ?」
「ん〜?ただ……忘れないでいてくれてありがとうって、それだけ」

その瞬間、眉間に皺を寄せた土方。軽く言ったつもりであったが失敗したらしい。已むに已まれぬ
事情であろうが、何も言わず姿を晦ませた「自分」。そのせいで苦しむ大事な人の、気休めにでも
なればと言ったのだ。なのに、

「忘れねェよ。何があっても、絶対に忘れねェ」
「土方……」

自分が元気付けられてどうする――銀時は土方の咥え煙草を奪い取った。

「煙草とマヨネーズが主成分の妖怪ニコチンコにしてはいいこと言うじゃねーの」
「チッ……もういいから早く行け」
「はいはい……じゃあまたね、ニコチンコさん」

土方に煙草を咥えさせ、銀時は料亭を後にした。土方の「またな」という声を背中で受けて。

(13.07.27)


15万打記念リクより「映画設定の、でこ土方さんと銀さんで土銀」です。リクエストいただいたのは映画公開前でして……実際に映画を観て、あまりのシリアスパートっぷりに
シリアス書くのが苦手な管理人はリクエスト受けてしまってよかったのかと心配になりました^^; 映画の中にはもちろんギャグパートもありますけれど、
でこ方さんを出すとなると「五年後」ですから、どうしても重めになってしまう。でこ方×銀さんのイチャラブエロを期待されてたらすみません。
五年後の土方さんは五年後の銀さんとラブラブしててほしいんです!魘魅になってそれは叶わぬ夢ではあるのですが、離れていても魂同士で繋がっている二人の関係は
別次元から来た「自分」でさえ割って入ることのできない関係だと思っています。
……と、ここまで珍しく真面目に語ってしまいましたが、後編はもっとふざけた感じになる予定です!シリアスパートで留めておきたい方はここでおしまいです。
最後まで付き合ってやるぜ!という方はアップまで少々お待ち下さいませ。

追記:続きはこちら