「おめでとうトシ〜……賞品はハワイ一週間の旅ペアチケットだ」
「はあ……」

親睦を深めるためという名目で行われた警察関係者ゴルフ大会。真選組からはほぼ強制的に近藤・
土方・沖田が参加。そしてプレーが終了した今、松平から差し出された目録を土方は困惑顔で受け
取った。
優勝とか準優勝とか……好成績を讃える賞品ならまだしも、土方が手にしたのはブービー賞。
この結果に「貢献」していた沖田も、思わぬところで土方に福が舞い込むこととなり面白くない。
手放しで祝っているのは近藤のみという何とも微妙な状況。

「良かったな、トシ!」
「一週間も休めるわけねェだろ……」
「いーや、この賞品は一週間分の有休とセットだ。何としても休め」

松平の銃口が土方の眉間に照準を定める。

「誰かがいなきゃ成り立たない組織なんざ何れ崩壊する。この賞は組織力も試されてんだよ」

こう言われるとこの場で行かないとは言えなくなる。しかも早速、見廻組の局長が「代わりに
行って差し上げてもいいですよ」などと言っているから余計に。こんなヤツらに負けてたまるか!

「ありがたく頂戴しようじゃねーか。近藤さん、留守は頼んだぞ」
「任せとけ!」
「あれまぁ、近藤さんは留守番ですかィ?」

ニタニタと嫌らしい笑みを湛える沖田。その理由に土方はまだ気付けていない。
何が言いたいのだと睨みつければ「旅行は二人行けるんでしょう?」と返され漸く気付いた。

「土方さん友達いないんで、てっきり近藤さんと行くんだとばかり……」
「友達いないは余計だ」
「俺のことは気にせず、お前ら二人で行ってこい!」

近藤の提案にも土方はそれとなく難色を示す。異国の地に沖田と二人など、無事に帰れる保障が
ないではないか。

「幹部が二人も抜けては真選組さんが大変でしょう。ここは私が行きましょう」
「誰がテメーなんかと……」

会話に割って入る見廻組局長をかわし土方は考える。近藤や沖田以外で行動を共にできる人物……
上京してそれなりの年月が経ち、江戸に知り合いも増えたが旅行をするような友人となると……
一人、友人ではないが宛てはある。というかそれしか宛てはない。それを予測しての沖田のあの
笑みだろう。
だがソイツを一週間も連れ回すのも気が引ける。簡単なのはこのチケットを他に譲ることだが、
それで真選組の組織力が疑われては堪らない。
となると考えられる方法は一つ……松平の閉会宣言を聞いて土方はかぶき町へ向かった。


行き先よりも面子


「ハワイ旅行!?すげーな土方くん」
「ブービー賞だけどな……」

ここは万事屋銀ちゃん居間兼事務所。土方の「宛て」とはもちろん恋人である銀時のことだった。

「ブービーでもパーヤンでもすげーよ!」
「それでな、あと二人分の旅費はこっちで持つから皆で行かねェかと……」
「何言ってるネ」
「本当はお前ら三人で行けたらいいんだけどよ……俺が行かないと色々面倒なんだ」

現地に着いたら別行動でも構わないとまで言う土方に神楽は飽きれ顔。

「銀ちゃんと二人で行けばいいでしょ」
「そうですよ。ペアチケットなんですから」

神楽の案に新八も賛成。というより、そのつもりで土方はここへ来たとばかり思っていた。

「けどよ、コイツが一週間もいなかったら……」
「全然問題ないネ」
「大丈夫ですよ」
「そうそう。新婚旅行ってことで」

肩を抱く銀時の手を、誰が新婚だと抓りつつ、土方の心配は拭えない。子ども達に気を遣わせて
いるのではないか。自分なんかと行くくらいなら留守番の方がマシだと思われているのではないか。
そもそも銀時との交際自体認められていないのではないか……次から次へと不安が押し寄せてくる 。

「悪ィ……この件は忘れてくれ」
「はあ?待って待って!何で?二人で行こうよ!」
「お前らを引き裂いてまで行きたくはねェ」
「引き裂くってンな大袈裟な……」

また何かネガティブループに陥っているに違いない――土方に身を引く癖がついていることなど、
長い付き合いの銀時にはお見通し。そんなところもいじらしいと思うのだけれど、恋人の自分に
くらい甘えてくれてもいいのにとも思う。

「コイツらだってたまには銀さん離れしたいさ」
「そうアル」
「僕は以前、姉上と行ったことがありますし」
「私は夜兎だから、日差しが強いところには行きたくないネ」
「だからな?二人で行こう」
「…………」

新八と神楽の表情を伺って、ついでに銀時の方も見て、本当にいいのかと土方は問う。

「いいに決まってるじゃないですか」
「銀ちゃんをよろしく頼むアル」

二人の笑顔に後押しされて、土方と銀時のハワイ旅行が決定となった。

季節は夏。暑い時にもっと暑いところへ行くなどと……けれど、銀時と行く初めての本格的な
旅行に、留守番の子ども達の手前控えめにではあるけれど、心躍らせる土方がいた。


*  *  *  *  *


出発の日。新八と神楽、近藤と沖田がターミナルまで見送りに。ここから二人は船に乗り、
ワイハー星へひとっ飛び。
……え?ハワイ旅行じゃなかったのかって?そうですよ。だって、ワイハーってハワイのことじゃ
ないですか。つまり、ワイハー星のことを「業界」用語でハワイって言うんですよ。もちろんこの
地球にもハワイ島はありますけどね、今回二人が行くのはワイハー星です。実在の国や地域とは
一切関係のない架空の星です。ハワイ島と異なるところがあっても気にしない気にしない。

さて、話を元に戻して、ワイハー星行きの船に乗り込んだ銀時と土方はというと……

人気のリゾート地であるワイハー星。そこへ向かう船は家族連れやカップルで賑わっており、
銀時と土方の気分も自然と高揚していった。
隣り合う二つの座席。土方に窓側を譲り、銀時はそっと手を重ねる。

「おいっ……」
「大丈夫。皆、浮かれてて他人のことなんか気にしてねェって」

そう言う銀時の口調も弾んでいて、土方も肩の力が抜けていく。この一週間だけは、真選組の
ことも幕府のことも世間体も……何も考えず、ただ旅を楽しめばいいか。
窓の外を眺めながら銀時の手を握り返し、遠ざかる母星に暫しの別れを告げた。



宇宙船に乗ること十時間。二人は遂に常夏の星・ワイハー星に到着した。

「ん〜……意外と暑くねぇんだな」
「そうだな」

気温は江戸の夏と同じくらいのようだが湿度が低い。しかも海からの風が心地好く、快適な暑さと
いったところ。

「なあ、今何時?」
「午後三時……だと思う」

携帯電話の時刻表示を見ながら時差を計算し、土方が答える。

「……夕飯まで寝ない?」
「寝る」

江戸は現在午前零時頃。船の中で一睡もしていない二人は、いくら「今」が昼間でもとりあえず
眠りたかった。ホテルまでは徒歩十五分ほどの距離だから、非日常の景色を楽しみつつ行こうと
歩き始めた二人。けれど睡魔に後押しされて徐々に速度が上がっていく。早くホテルで寝たい。
空 はこんなに青いのに、風はこんなにあたたかいのに、太陽はとても明るいのに、どうして
こんなに眠いのだろう。


*  *  *  *  *


銀時が目を覚ますと、先ず初めに波の音。次いで、煙草の匂いが海風とともに漂ってきた。
土方はバルコニーへ出て喫煙中のよう。寝起きで膨らむ天然パーマを軽く撫で付け、開け放たれた
窓から銀時もバルコニーに出た。

「おはよー」
「おう」

目の前には砂浜が広がり、遠くのようにも手の届く距離にも見える水平線のすぐ上に太陽――
便宜上、太陽と表記しておくが、正確に言うと我々の知る太陽ではない。ここは太陽系を遥か
離れたワイハー星なのだから。

銀時の腕が後ろから巻き付けば、土方は煙草を銜えたまま後ろに体重を預ける。
もしもここが江戸であったら、誰かに見られかねないと拒否されているところであろう。

「かなり寝ちまったな……」

沈む夕日を眺めて話す土方の声は聞いたこともないほど穏やかだった。どうやら、常夏の星では
鬼の角もふやけてしまうらしい。そんな場面に立ち会えたことが、立会人と認められたことが、
嬉しくて仕方ない――銀時は自分の顎を土方の肩に乗せ同じ景色を眺める。

「もうすぐメシの時間?」
「ああ。……朝メシのな」
「……へ?」

視線だけでこちらを向いた土方は笑っていて、幾分幼く見えた。それが可愛いなどと見惚れていた
銀時は、言葉の意味をすぐには理解できなかった。

「今……あさ……?」
「ああ。十五時間くらい寝たな」
「マジでか……」

先程の「沈む夕日」は銀時の勘違い。実際には「昇る朝日」であったようだ。

「折角の新婚初夜が……」
「誰が新婚だ」

ぺしりと額にツッコミを入れる力も弱い。遠い星までやって来てただゴロゴロしただけだけれど、
日常が忙しない土方には、充分楽しい旅行になっているようだ。二人きりの旅行。何処へ行こうか
何を見ようかと、本屋に通ってガイドブックを立ち読みしていた銀時。だがこれは土方の景品。
土方のしたいように過ごせばいいかと考えを改める。

「朝食の時間まで、何をしようかハニー?」

今日の土方はすこぶる機嫌が良い。
いい加減にしろ、ふざけるなと、普段なら怒鳴られて、下手をすれば斬りかかられるような台詞。
けれど今日は激昂しないどころか、

「風呂に入るかダーリン?」

新婚ごっこに乗ってきたものだから、「ダーリン」は口を半開きにしたまま動かなくなった。
アホ面――くつくつと喉の奥で笑って土方は銀時の腕を抜ける。向かう先はもちろんバスルーム。
慢性的な寝不足が解消されて身も心も軽い。活動を始めた胃袋がぐうと音を立てた。
充分な睡眠をとって疲れが癒えると自然に食欲も湧いてくる。そんな当たり前のことをもう何年も
忘れていた。命の洗濯とはこういうことかと実感する土方であった。

(13.07.08)


15万打記念リク第一弾は「銀土でイチャイチャ旅行話」です。行き先はハワイをご希望でしたのでワイハー星で^^; ハワイ……二十数年前に行ったきりだなぁ。
後編は18禁の予定です。 
追記:前中後編になりました。続きはこちら(注意書きに飛びます)