後編


土方が目を開けた時には銀時の寝顔が至近距離にあった。風のせいか半分ほど開いているカーテン
から見える空は薄暗い。時計を確認すれば現地時刻午前五時少し前。もう「翌朝」である。いつの
間にか眠っていたようだ。
寝て食ってヤって寝て……獣じゃあるまいしと自身にツッコミを入れてはみるも後悔はない。
各方面に申し訳ないとも思いつつ、確り幸せを感じている自分がいた。
かといって江戸での生活に不満があるわけではない。あの日常があるからこそ今を貴重な時間と
感じられるのだから。


「……おはよ」
「おう」

暫くして銀時も目を覚ます。前日と同様、土方に時刻を確認しそれから、

「昨日の夜は最高だったよハニー」
「多分、夜は寝てただけだぞダーリン」

二人、ハハハと笑いつつゴロゴロ。碌に転がるスペースのないシングルベッド。端から見るとただ
抱き合っているだけにも見える。

「……何時に寝た?」
「さあな」
「後始末はー……」
「してねェよ」
「ごめん」
「別に……」

身体の中も外もぐちゃぐちゃで、一人用のベッドに二人で寝たために寝返りも打てず、
快適な睡眠とは程遠い。けれどもその前が「快適」だったのだ。不満はなかった。

「風呂、入るか?」
「そうだな。立てる?」
「ああ」

凝り固まった身体を伸ばしつつ起き上がれば、抱っこしようかと銀時。その、意外と本気で
心配しているらしい口調にうっかり愛なんてものを感じてしまい、自分が恥ずかしくなった土方。
照れ隠しに敢えて何も羽織らず、精液塗れの肢体を海風に晒しながら浴室へ向かった。


洗い場のないユニットバス。浴槽の中に立った土方は上からシャワーの湯を浴びる。
栓を外したバスタブに、湯は溜まることなく排出されていった。

「手伝うよー」
「いい」

とは言うものの銀時が浴槽に入るのを拒みはしない。
最初から、二人で入るつもりでシャワーカーテンを開け放していたのだから。

「テメーも洗え」
「うぷっ」

銀時の顔に向かってシャワーを浴びせ、備え付けのボディーソープをボトルごと渡す。
受け取った銀時は掌にソープを出して自分の身体に撫で付けてから、その手で土方の尻をつるり。

「おいっ」
「手伝ってあげるよ〜」
「いいからっ」

泡塗れの手を払い、顔面にシャワー攻撃。

「顔にかけるなら別のモンがいいな〜」

シャワーを握る手に手を添えて抱き着いた銀時の下半身は、寝起きを理由にするのが厳しい程に
硬く張り詰めていた。

「……手伝う気ねーだろ」
「ある!ちゃーんと手伝って、そのお駄賃として一発……」
「却下」
「中には出さないから!」
「却下」
「ちょっと入れるだけだから。本当にちょっとだけ……」
「……ちょっとだけ、なんだな?」
「うん!」
「絶対に?」
「絶対に!」
「なら却下」
「ほえ?ぶふっ!」

シャワーの水量を増やして銀時の顔目掛け噴射。

「……だけ…………らねェ」
「なに?がぼぼ……聞こえな……」

分かっていてやっている土方はケラケラと笑いながら水を止めた。

「じゃあ、そういうことでよろしくな」
「いやいや、なんにも聞こえなかったんですけど」
「そうかそうか……」

妙に楽しそうな土方の様子と「ちょっとだけ」が却下されたこととシャワー音の隙間から聞こえた
僅かな言葉と、何よりも銀時に負けず劣らぬ下半身の高ぶり――銀時は土方を抱き締めた。

「合体しよう、十四郎」
「ちょっとだけだろ?」
「いいや!ずっぼりガッツリ合体しよう!」
「仕方ねェな……」

やはりこれが正解。
シャワーを戻して土方は銀時に背を向け、壁に手を付いた。

「このままで平気?」
「ああ」

念のため、人差し指と中指で入口の柔らかさを確かめてから銀時は己の先端をそこに押し当てた。

「んっ、ハァ……」

土方の手がやや下がり、腰を更に突き出して挿入しやすい体勢になる。自分から抱き寄せることも
口付けることもできないこの体位。しかし、何もできないからこそ銀時の侵入だけを存分に味わう
ことができる。視界に入るのは浴室の壁と蛇口と己の手。触れているのは腰を支える手と結合部、
そこだけ。

「あ……あ……」

全て納まったモノの感触も鮮明に捉え、ずるりと抜けるのに合わせて快感が引きずり出される。

「ナカ、くにゅくにゅ動いてる……気持ちいい……」

感じ入って腰を振る銀時と喘ぐ土方。二人の声が狭い浴室内に充満していた。


*  *  *  *  *


「んっ……」
「ん〜っ……」

何も身に付けずベッドで抱き合い口付ける二人。連日の交わりで勃たなくなったモノを互いの
身体の間で擦り合わせ、舌を絡ませていた。

ピピピピピピピピ……

携帯電話の音により、二人の間に空気が通る。温暖な気候の中にいるのに、相手の体温を感じない
だけでこんなにも寒いものなのか……携帯電話を手にした土方は、ふぅと息を吐いてそれを
風呂敷包みの上へ放った。

「仕事?」
「いや……そろそろ出ねェと」

先程の携帯電話はアラームである。今日はもう帰国の日。間もなく、身支度をしてチェックアウト
しなければ帰りの船に間に合わない時刻になる。

「あー、もうそんな時間か……帰りたくねェな……」
「そういうわけにはいかねェだろ」
「まあね……」

差し出された手を取って銀時は起き上がり、二人してバスルームへ。

「十四郎、最後に一回だけ……」
「ンな時間ねーよ」

一回じゃ終われねぇし――土方の呟きはシャワーの音に掻き消された。

この星に来て一週間。観光どころか、食事以外で部屋から出たのは一度だけ。
中日に部屋の清掃を頼み、その間、近くの店で食料や煙草を買い込んだ時のみである。
その他はずっと部屋に篭り抱き合ってきたから、今や、微かな刺激で容易に「スイッチ」が
入るようになってしまった。一旦始めたら体力の限界が来るまで終われない。だから断った。



「行くぞ銀時」
「ふぁ〜い……」

来た時と同じく眠い目を擦りながら、来た時よりも甘い空気を纏って空港へと歩く二人。
その手は確り繋がれていて、前に進みつつ時折見詰め合うのに忙しく、やはり周りの景色を楽しむ
余裕はなかった。


*  *  *  *  *


「あ〜……よく寝た!」
「おかげでメシ食いそびれたけどな……」

直前まで抱き合っていた二人は船に乗り込むと間もなく寝入ってしまった。
乗り込む前に買った大量のマカデミアンナッツチョコを手に、ターミナルへ降り立つ。
そこには行きと同じく近藤、沖田、新八、神楽の四人が待っていた。楽しい時の終焉を寂しく
感じるとともに、帰って来たという安堵感も覚える。

「よー、出迎えご苦労さん。土産、買ってきたぞ」
「銀ちゃ……」

チョコの包みをぷらぷら振りつつ帰ってきた銀時に駆け寄ろうとして神楽は止まる。彼女だけ
ではない。他の三人も目を丸くして動けなかった。銀時と土方が仲睦まじく手を繋いでいたから。

「お、お帰りなさい……銀さん」
「何だ何だ〜?一週間ぶりに帰って来たんだぞ。もっと元気よく!」
「……この一週間で、銀時はいなくても問題ないって気付いたんじゃねーか?」
「酷っ!ならそっちはどうなんだよ!十四郎不在で真選組は?」

出迎えた者達の戸惑いにも気付かず、二人で会話を進めていく。

「あ、ああ……トシがいないから、実はちょっと仕事が溜まっちゃって……」
「だと思った……近藤さん、明日から暫く休みはいらねェよ」
「すっすまんな。ハハハ……」

この二人にツッコめるのはお前しかいない――近藤は視線で沖田に合図を送った。
常夏の星で脳みそも干上がったようなバカップルと口を利くのも面倒で黙っていたが、
近藤の頼みとあらば仕方ない。

「ところでお二人さん、いつまで手ェ繋いでるんで?」
「「あ……」」

沖田の言葉で初めて自分達が手を繋いでいると認識した。
この一週間、くっついているのが当たり前だったから無意識に繋いでいたのだ。
慌てて手を離すもそのくらいで沖田の口撃は止まない。

「銀時、十四郎、なんて呼び合っちゃって……ラブラブですねィ」
「そっ総悟、これはな……」
「全く日焼けしてませんけど、まさかずーっと宿でいちゃついてたんですかィ?」
「そそそそんなわけねーだろ!」
「肌の色が変わると作画が大変だと思ってだな……主人公たるもの作家にも気遣いができねーと」
「ここ、テキストサイトですけど?」
「ああっそうだった!」

弁明に加わる銀時であったが全く役に立っていない。遂には見兼ねた新八が、

「こんなにお土産も買って来てくれたんだし、向こうではショッピング中心だったんですよね?」

助け舟を出してくれた。

「あっああ、そうなんだ」
「新八くんの言うとーり!」

一週間も宿で、というのは考え難い。この二人のことだから、現地のマヨネーズや甘味三昧だった
のだろうというのが新八の予測。楽しめたのなら何よりとその場を締めた。
因みに神楽は、もうどうでもいいと、土産のチョコレートを勝手に頬張っている。

一週間振りの江戸の町。冷や汗をたっぷりかいた二人には、常夏の星より暑く感じられた。


〜おまけ〜

「ところで銀さん、海の色って何色に見えました?」
「は?」
「ほら、ガイドブックにはよく『エメラルドグリーンの海』って書いてあるじゃないですか。
でも前に姉上と行った時はそんな風に見えなくて」
「あー……フツーに水の色だったよな?」
「えっ、金色じゃありませんでした?」
「そ、それはあれだよ……誰かがションベン……」
「そんなわけないでしょ。まさか銀さん本当にずっと宿で……」
「新婚旅行なんてそんなものアル。何処行ってもいちゃつくだけネ」
「あの……皆には内緒にしててね。マカデミアンナッツもう一箱あげるから」

(13.07.18)


ワイハー星旅行という設定を全く活かしきれなくてすみません。でもこれ予定通りです^^; タイトルにもあるように、「何処」へ行くかより「誰」と行くかに焦点を当てた
話にしたかったんです。リクエスト下さったミカサ様、いつもありがとうございます!このようなものでよろしければミカサ様のみお持ち帰り可ですのでどうぞ。
それでは、ここまでお読み下さった全ての皆様、ありがとうございました。




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