スナックすまいるのキレイなねーちゃん達に囲まれてる俺の恋人―土方の姿を見たのは偶然だった。
人手が足りないからと店長に頼まれ、時給もいいし、皿洗いくらいなら手伝ってやると言った。
アイツは俺がいるなんて気付いちゃいねェ。キャバ嬢達が騒いでるからどんな色男が来たのかと思って
ちょっと厨房を抜け出しただけで、俺はすぐ皿洗いに戻っちまったからな。
別にキャバクラに行くぐれェ構わねェよ…浮気してるワケじゃねェし。
それに、後でお妙に聞いたら近藤のことでお妙に話があって来たみたいだ…でも、何かムカつく。
モテる恋人って誇らしいけど大変
「なぁ…何でアイツばっかりモテんだと思う?」
「土方さんカッコイイですからね。それに、銀さんと違って真面目に働いてるし…」
「サラサラヘアーなところが一番の違いアル」
「…オメーらよー『銀さんだって負けてませんよ』とか
『私は銀ちゃんの方がカッコイイと思うアル』とか言えねェのかよ…」
「言えませんね」
「嘘はいけないアル」
新八と神楽なら味方をしてくれると思い、銀時はスナックすまいるで見た土方の話をした。
だが返ってきたのは銀時に厳しい意見のみ。
「チクショー。どこかに俺の味方はいねェのかよ…」
「私がいるじゃない、銀さん!」
そう言って天井裏から降ってきたのは、始末屋兼銀時のストーカー。
「お前…」
「私はいつだって銀さんの味方よ!たとえ銀さんが日がな一日グータラしているほぼ無職でも
寝起きと雨の日は二倍くらいに膨らむモジャモジャ天パでも、私は銀さんを愛してるわ!」
「…今俺のことバカにしなかった?ねぇ?」
「何言ってるのよ!私が銀さんをバカになんてするワケないじゃない!
むしろ私がバカにされたいわ!さあ銀さん、好きなだけ私を蔑んでちょうだいっ!!」
「ハァー…なんだって俺はこんなヤツに好かれんだよ。俺も土方みたいにキレイなおねーちゃんに……!」
「…ぎ、銀さんっ!?どうしたの、急にそんな熱い眼差しで見つめて…だめよ、子どもたちが見てるじゃない!
そんなの、そんなの……興奮するじゃないのォォォォ!!」
(コイツだって黙ってりゃ、キレイなねーちゃんに見えるよな?口開くとアレだけど……よしっ)
「お前さ…今夜空いてるか?」
「銀さん!?もちろんよ!銀さんのためなら未来永劫いつまでだって空いてるわ!!」
「じゃあ飲みに行くぞ」
「きゃあああ〜!!行くわ!どこまででも付いていくわ〜!!」
「その代わり…普通の着物を着て来い」
「着物?」
「そう。…持ってんだろ?」
「持ってるわ!どんな着物がいいかしら?」
「何でもいい。それと…あんまりしゃべんな」
「じゃあ猿ぐつ…」
「違うっ!ただ普通に黙ってろ!いいか?あくまでも普通の女っぽく振舞え。
今夜のお前は忍者でも始末屋でも、もちろんメス豚でもねェ。そこいらのねーちゃんだ!」
「なるほど…普段からコスチュームを着てる私だから、逆に普通の格好がコスプレになるってわけね。
…さすがだわ銀さん!私やるわ!頑張って普通の女になりきってみせる!」
「おう、頑張ってくれや」
「それじゃあ今から着物の準備と…あっ、美容院にも行かなきゃ!じゃあ銀さん、またねっ!!」
彼女は目にも止まらぬ速さで万事屋を後にした。
「銀さん、何考えてるんですか!?さっちゃんさんと飲みに行くなんて…」
「浮気アルか?モテモテマヨラに嫉妬して他の女に走るアルか!?」
「…そんなんじゃねェよ」
「じゃあどうしてこのタイミングでさっちゃんさんと…」
「浮気アルヨ。女に囲まれてるマヨラーを見て銀ちゃんも同じことをしようとしてるネ!」
「だからそんなんじゃねェって…」
「じゃあ何なんですか?」
「そっそれは…」
「それは?」
「お、オメーらまで土方の方がモテるっつーから…」
「それで、さっちゃんさんと浮気しようと思ったんですか?」
「だから浮気じゃねェよ!ただ…ちょっと……飲みたい気分で…」
銀時はまともに答えることができなかった。
子どもたちの言う通りなのだ。女性に囲まれている土方を見て、仕返しがしたくなっただけなのだ。
ただ、土方の方は銀時が見ていると知らずに、しかも女性が勝手に寄って来ただけである。
それは分かっているが、だからと言ってムカつきは治まらない。
このムカつきを鎮める方法は、同じことをやり返すしか思いつかなかった。
* * * * *
「おっ…」
「どうかしら?」
「さっちゃん、かわいいアル」
「まるで別人みたいですよ」
「あの、銀さん…」
「…おー、上出来、上出来」
夜になり再び万事屋を訪れた彼女は、髪を一つにまとめて簪で止め、花柄の着物に身を包み
トレードマークのメガネを外し、一瞥しただけでは誰だか分からないほどであった。
「銀さん…本当にいいんですか?後悔しても知りませんよ」
「何がだよ。飲みに行くぐれェで大袈裟な…んじゃ、行ってくるわ」
新八と神楽を万事屋に残し、銀時は彼女と出かけて行った。
二人が向かったのは、銀時と土方の行き付けの居酒屋。銀時が前を歩き、彼女が後に続いた。
「いらっしゃい!…おっ、銀さん珍しいじゃないか、キレイな女性を連れて…誰なんだいその子?」
「オヤジ、野暮なこと聞くんじゃねェよ」
「おやおや〜、怪しいねェ。土方さんは知ってんのかい?」
「何でいちいちアイツに許可もらわなきゃなんねーんだよ…」
「そうは言うけどねェ…」
「ったく、ただ飲みに来ただけだっつーの。ほら、テメーもここに座れや」
コクリと彼女は頷いて、カウンター席の銀時の隣に腰を下ろす。
「オメー、何飲む?」
「………」
彼女は黙ってメニューを指差した。
「…何で黙ってんの?」
「………」
辺りをキョロキョロ見回して、彼女は置いてあった伝票の端に「銀さんがしゃべるなって言ったから」と書いた。
「ハァー、そういう意味じゃねェ…返事くらいしたって構わねェよ。ただ、SとかMとかはナシだ」
「…分かったわ」
「じゃあ、ツマミは何にする?」
「えっと…これと、これ」
「よし。…オヤジぃ、注文!」
三十分後。
「………」
「銀さん、どうしたの?さっきからずっと黙って…」
「悪ィ……帰るわ」
「えっ!」
銀時はカウンターに二人分の金を置くと席を立った。
彼女も慌てて席を立って店を出た。
「どうしたの?気分でも悪いの?」
「いや…。今日は、その…付き合わせちまって、悪かったな」
「いいのよ銀さん。私、銀さんのためなら何だって…」
「本当に…悪ィ」
銀時は俯き加減に歩き出す。
「あっ、帰るなら私も…」
「ちょっと、行かなきゃなんねェ所があんだ。送ってやれなくて悪ィな」
「そんな、いいのよ。でも一人で大丈夫?」
「ああ大丈夫だ。じゃあな……あっ、そのカッコ似合ってるぜ」
「あ、ありがとう…」
その場に彼女を残し、銀時は目的地に向かって駆け出した。
* * * * *
「ひーじーかーたァァァァ!!」
「うおっ!なんだ銀時か…。テメー、今夜は用事があるから会えねェっつってたじゃねーか」
「るせェ…キャンセルだ、キャンセル!」
「…忍者とのデートはつまらなかったのか?」
「なっ何でソレを…。あっ、違ェ!デートなんかしてねェ!」
「…メガネとチャイナから電話があったぞ」
「で、電話?何て…?」
「ふっ…まあ、とりあえず中に入れや」
部屋の入口に立ったままの銀時を、土方は中に招き入れる。
いつもよりも遠慮がちに中に入ると、銀時は土方の向かいに座った。
「銀時…悪かったな」
「…何のことだよ」
「あん時、スナックすまいるにいたんだってな?」
「…新八達に聞いたのか?」
「ああ…。そんで、確かにオメーに何も言わずあんなトコに行った俺が悪かったと思ってな…」
「………」
「だがあれは近藤さんの…」
「知ってる。お妙に聞いたから…」
「そうか…」
「でも、お前は女達からキャーキャー言われてよ…」
「…んなコト気にすんな。俺ァ、オメー以外に興味はねェよ」
「新八達に言ったらお前はモテて当然みたいに言われてよ…俺は全然モテねェのに…
だから…俺だって、その気になればって思って…」
「…オメーが人気あんのは知ってるぜ」
浮気しようとした自分を責めるどころか気遣ってくれる土方に、銀時は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「ゴメン。俺…土方に悪いことした。それと、アイツにも…」
「…忍者のことか?」
「うん…」
「そう思うんなら次会った時に謝っとけ。…どうせすぐ会うだろ?」
「多分…」
「あの女なら大丈夫だ。オメーに俺がいるって分かっててストーカーしてんだからよ」
「うん…強ェよな、アイツ」
「銀時、オメーもちったァ自信持てって!」
土方に励まされ、徐々に銀時もいつもの調子を取り戻してくる。
「そりゃあ土方が女とどうこうなるとか思ってねェけど…でも悔しいじゃん!同じ男として…
やっぱ、モテたいじゃん!キレイなおねーさんに『銀さんステキ』とか言われたいじゃん!」
「そうかよ…」
「あっ、テメー今、別にモテなくてもいいって思っただろ?それ、モテてるヤツの考えだから!」
「…モテようがモテまいが関係ねェだろ?俺はオメーといられればそれでいいんだからよ」
「くっそ〜、そういうことサラッと言うからモテんだろーな…」
「あん?何だ、惚れ直したか?」
「はぁっ?バッカじゃねーの!誰がそんなコト…」
「俺がモテると思うってことは、オメーが俺に魅力を感じたってことだろ?」
「ちっ違ェよ!そんなんじゃねェし…」
「分かった分かった…」
「絶対ェ分かってねェ!ニヤニヤしてるし…。……なあ、まだ仕事中?」
「どうしたんだイキナリ…」
突然変わった話題に土方は訝しむ。
「何でもいいだろ?なあ、仕事なのか?」
「いや…急ぎの仕事はねェよ」
「そっか。だったらさ…」
「お、おい…」
銀時は土方に近づき、咥えていたタバコを奪った。
(10.01.21)
冒頭部分は柳生編の最初です。後編は18禁になります→★