後編
翌朝、銀時が万事屋に帰ると、怒り心頭の子どもたちが待っていた。
「銀さん!そんな体で朝まで飲むなんていいと思ってんですか!?」
「そうアル!もう銀ちゃんは布団に縛りつけて一歩も外に出さないアル!」
「ちょっと待てよ。心配かけたのは悪かった…でも聞いてくれ。俺は飲んできたわけじゃねェよ」
「酒じゃなけりゃ女か?ちょっと火遊びしてきたアルか?」
「違ェよ!俺はアイツと真剣に付き合って…」
「「えっ!!」」
「銀さん…お付き合いしてる人がいたんですか?」
「銀ちゃんがデートしてるとこなんか見たことないネ!夢でも見たんじゃないアルか?
…まさか頭の中までパーになったんじゃないだろうナ?」
「ちゃんといるって!今まで色々あって秘密にしてきたけど…昨日アイツと話して関係を公表しようってことになったんだよ」
新八と神楽は未だに信じられないという貌をしている。
「それで…銀さんがお付き合いしてる人って、どこのどなたなんですか?」
「真選組の副長さんだよ」
「………はい?」
「だから真選組の副長、土方十四郎くんだって」
「………」
「………」
「「えーっ!!」」
子どもたちが銀時の言葉を理解するのに暫く時間を要した。
そして、漸く理解できた途端、今度は驚愕して叫んだ。
「ひひひ土方さんんんん?」
「マヨラーか?銀ちゃん、マヨラーとデキてたアルか?」
「そうだよ〜」
「ていうか銀さん、そっちの人だったんですか?」
「そっちって何だよ…。惚れたヤツと付き合うのにそっちもこっちもねーだろ?」
「銀ちゃん玉の輿アルな!でも放っておくとヤツはマヨネーズと煙草に費やすから気を付けるネ!」
「神楽ちゃん…玉の輿ってのは違うと思うよ?」
「そうそう。銀さん、土方に奢ってもらったことなんかねェから…たまにしか」
「おいィィィィ!たまにはって、結局奢ってもらってんじゃねーか!」
「仕方ねェだろ?アイツの方が金持ちなんだからよー。…つーか、今までは秘密の関係だったから
宿で会うしかなくて金がかかってたんだって!」
「いや…宿とか生々しい話はやめて下さい」
銀時が幸せなら男同士でもいいかと思えてきた新八であったが、流石に夜の話までは聞きたくなかった。
「生々しいって…外で会えないから仕方なくだって!でもこれからは堂々と会えるから…」
「堂々と外でヤって捕まっても知らないアル」
「神楽ちゃん、もっとオブラートに包んで!…とにかく、土方さんの名誉を傷つけるようなことは控えて下さいよ」
「…お前ら俺を何だと思ってんの?違うからね!そういう意味じゃねェから!」
「どうだか…。土方さんは真選組にとって大事な人なんですから、迷惑かけちゃダメですよ?」
「銀ちゃんが指名手配されても匿ってやらないからナ」
「二人とも酷いっ!『銀さんおめでとう』『幸せになってね』とかって言葉はねェのかよ」
「ないですね」
「ないアルヨ」
「神楽ちゃん…今度土方さんに会ったら謝っておこうか?」
「そうアルな。誠意を見せれば少しは罪が軽くなるかもしれないネ」
「罪ってなんだよ!俺と土方はすっげぇラブラブなんだから!」
「いい年こいてラブラブとかキモイアル」
「あんまりキモイと土方さんにフラれますよ?」
「お前ら酷すぎるぞ…」
土方の心配ばかりする子どもたちに苦笑しながら、銀時は今度土方を万事屋に招待しようと考えていた。
(新八と神楽にちゃんと紹介したら、土方だって余計な不安を抱かなくなるだろ…
でもその前に、俺がアイツの仲間たちに挨拶に行かねーとな)
銀時はこれから始まる明るい未来に思いを馳せてフッと微笑んだ。
* * * * *
数日後。
「ととととトシぃぃぃ!!」
見回りと称してお妙に会いに行っていた近藤が、血相を変えて副長室に駆け込んできた。
「近藤さん!?どうしたんだ!?」
「トシ、本当なのか!?」
「…何のことだ?」
「お前が万事屋と付き合ってるって…」
「あっ…アイツに、会ったのか?」
二人の関係を公表すると決めた翌日、銀時から早速万事屋メンバーに伝えたと報告があった。
だが土方からは特に行動を起こさずに、それまで通りの生活を続けていた。
「いや、さっき新八くんから聞いたんだが…」
「そうか…」
「や、やっぱり…本当なのか?」
「ああ…」
「そうだったのか…水臭いじゃないか、トシ!」
「すまない、近藤さん…」
「そりゃあ確かに色々あるかもしれんが、俺はお前が幸せになるなら応援するぞ」
「あ、ありがとう…」
近藤からの祝福に、土方は何だかいたたまれないような気持ちになった。
「よしっ、じゃあ今夜は宴会だな!」
「はぁ!?」
「あっその前に万事屋の予定を聞かないとな。…それから新八くんとチャイナさんも」
「ちょっ、予定って…」
「あー、でも出来ればちゃんと準備したいから今日じゃない方がいいか?なあトシ、どう思う?」
「どう思うも何も…宴会って何だよ」
「何言ってんだ…お前らを祝う会に決まってるだろ」
「いっ祝う会って…まさかココでやるつもりか?」
「もちろんだ!少し味気ない気もするが、屯所なら仕事中のヤツらも参加できるだろ?」
「べ、別にそんなことをしてもらわなくても…」
「遠慮するなトシ!皆で盛大に祝ってやるからなっ」
「待ってくれ近藤さん。俺は、そんな大勢に万事屋との関係を公表する気は…」
「心配しなくてもいいぞ。きっと皆だって分かってくれるさ」
「そういうことじゃなくて…」
真選組全員参加の宴会を何とか阻止しようと土方は必死に考えを巡らせる。
「そ、そうだ!もしこの関係が敵に知られたらアイツに危険が及ぶかもしれねェ。
だから、知ってるヤツは少ない方がいいと思うんだ」
「万事屋ほどの男なら大丈夫だろ」
「アイツは平気でも一緒にいるガキ共が狙われるかもしれないだろ?」
「確かにな…。だが、真選組の仲間だけなら敵に情報が漏れることもないしいいだろ?」
「だっだが、盛大な宴会なんかやったら敵に何かあると勘付かれるかもしれねェ。そうしたら…」
「…トシは随分とヤツを大切に思ってるんだな」
「お、おう…」
「分かった。そういうことならこのことは俺の心の中にしまっておこう」
「そうしてくれるとありがたい」
上手く説得できたと、土方は安堵の溜息を吐いた。
だが後日、銀時から話を聞いた沖田によって真選組全体に二人の関係は知れ渡ることになる。
人選を間違えたと後悔しても後の祭り。隠す必要もなくなったと宴会の準備を始めた近藤を止めることはできず
万事屋一行を呼んでの大宴会は開催されることになった。
屯所を訪れた銀時は真っ先に土方の元へ駆けていき抱きつく。
「土方ァ、こんなに俺のこと想っててくれたなんて嬉しいよ」
「違っ!これは近藤さんが勝手に…」
「照れなくていいって。幸せになろうなー」
「えー、ではここで誓いのキスを…」
「そそそ総悟テメー、何言ってやがる!」
「土方、ちゅー」
「誰がするかァァァ!ガキ共も見てんじゃねーか!」
「よしっ!じゃあとっとと披露宴終わらせて、早く二人っきりになっていっぱいシようねー」
「しねェよ!だいたい、披露宴ってなんだ!宴会だ、え・ん・か・い!」
「それではケーキ入刀です。カメラをお持ちの方はどうぞ前へ…」
「総悟もいい加減にしやがれ!何が入刀だ。ただのホールケーキだろーが!食堂で切ってこい、食堂で!」
真っ赤になりながら怒鳴り散らす土方と、終始ニヤケっぱなしの銀時。
幸せな二人を祝う会は明け方まで続いた。
(10.01.13)
10,000HIT記念アンケートより「もてもて銀さんに嫉妬!」でした。…あんまりもててないですね^^;「もてもて銀さん」だと土方さんが勘違いする話になってしましました。最後は甘々で、というリクエストだったのですが
あまり甘くならなかった…。いらないとは思いますが、リクエスト下さったpipo様のみお持ち帰り可です。もしサイトをお持ちで「仕方ないから載せてやるよ」って時は拍手からでもご一報くださいませ。
日記に後書きとpipo様へのメッセージを載せております。
ブラウザを閉じてお戻りください