後編
「あー……気持ちいいけど疲れた……」
「そうですか……」
満足そうにしている先輩には悪いが俺は全然気持ち良くなかった。先にイカれてしまったとか
そういう問題ではなく、先輩に裏切られたことが悲しくて仕方がないんだ。
キスするのも俺が初めてだと言っていたのは、俺に合わせていただけだったのか?
それとも、受験勉強を口実に俺と距離を置いて浮気したのか?
酷ェよ、先輩……
俺は先輩から抜けてゴムを外し、服を着ようと手を伸ばした。
「あ、待ってよ。もう一回シようよ」
「結構です」
「土方くんイッてないでしょ?今度は俺が土方くんを気持ち良くしてあげる」
「結構です」
「そんなこと言わずに……」
「結構です」
「……土方くん、なんか怒ってる?」
「…………」
聞いてしまおうか……だが、聞いたら俺達は終わってしまう。こんな仕打ちを受けてもまだ、
俺は先輩のことが好きだ。俺が気付かないフリをすれば今のまま恋人同士でいられる。
でももし、浮気相手との関係が続いているのなら、俺が捨てられるのは時間の問題かもしれない。
いつ別れを切り出されるかビクビクしながら過ごすくらいならいっそ今……
「先輩……」
「なに?」
「浮気、したんですか?」
「……は?」
「浮気」
「しっしてない!」
この慌てぶり……やっぱり浮気したんだ。
「正直に話して下さい」
「正直も何も、俺には土方くんだけだから!」
「嘘だ!セックスしたの初めてじゃないくせに!」
「初めてだよ!」
「初めてであんなすんなりできるわけないだろ!」
「自分で慣らしたんだ!」
「……自分で?」
「あ……」
先輩の顔がみるみる赤くなっていく。この反応は、いつもの純情な先輩だ!
もしかして、本当に初めてだったのかな……。けど、自分で慣らしたってどういうことだ?
「あの……自分でって、どういうことですか?」
「だから……自分で、ケツの穴に指突っ込んで解して……」
「な、なんでそんなことを……」
「そうしなきゃセックスできねーから。……俺、初めてだし、そもそも入れるとこじゃねーし……」
そんなことまでして俺と繋がろうとしてくれたなんて……。それを俺は浮気だなどと疑って……
いやでも、そもそも先輩は男同士でナニができるなんてことを知らなかったはずだ。
やっぱり、先輩にそういうことを教えたやつがいるんじゃないか?
「先輩……何処で男同士のヤり方を知ったんですか?」
「それは辰馬が……」
「坂本先輩?まさか坂本先輩と浮気……」
「だから浮気はしてないって!辰馬には、男同士でもそういうことができるって教わっただけ」
「それにしては、随分慣れてる感じでしたけど?」
「それは、練習したから……」
「練習?坂本先輩と?」
「違うって!全く……まだ信用してないのかよ……」
俺だって信用したいけど、先輩があまりに変わっていて何もなかったとはとても思えない。
「俺一人でしたんだよ」
「一人で?」
「そう。辰馬に男同士でもヤれるって聞いて、その後自分で色々調べて、土方くんとできたら
いいなと思って練習してたってわけ。……分かった?」
「は、はあ……」
「ウチに本があるから、今度土方くんに貸してあげる」
「本?……ていうか先輩、何の勉強してたんですか……」
浮気じゃないのはよかったけど、受験生なのに何て本を読んでたんだか……
「受験は終わってたよ。結果待ちだけなのに土方くんが会ってくれないから、一人寂しく
オナニーに明け暮れる毎日で……」
「ちょっ……そこまで言わなくていいです!」
「いーや。土方くんが俺のことを今後一切疑わないように、俺は全てを曝け出すと決めた!
俺がどうやって練習してたかというと……」
先輩は俺の前で足を開いて座り、自分の手にローションを出してその手を……
「わあああああ……そこまでしなくていいです!疑ってすみませんでしたっ!!」
「じゃあ今から土方くんにシていい?」
「え……」
「やっぱりまだ俺のこと疑ってるんだ。俺には触られたくないんだ……」
「ちち違います!そんなことありません!」
「じゃあシよ?」
「はい……」
何だか、上手く乗せられてしまった気がする。別に、先輩とするのが嫌なわけじゃないけど
―むしろ嬉しいけど―先輩だけが余裕綽々でムカつく。先輩だって本当にヤるのは初めての
くせに、練習したからって……
「合格祝いに土方くんのバージン、ちょうだい」
「…………」
何が「バージン」だ。俺は女じゃない。
けど、合格祝いのプレゼントも用意してないし、俺にできることなら何でも……
俺は分かりましたと言ってベッドに寝た。
* * * * *
「なっ、何してるんですか!」
先輩に言われるがまま仰向けに寝て足を開いたら、先輩はローションの付いた指を俺の足の間に
……そこで俺は体を起こして止めた。
「きちんと解さないと土方くんが痛いでしょ」
「あの……教えてくれれば自分でヤるので……」
「じゃあまずは俺がヤってみせるね」
「いやっ、口で説明してくれれば……」
「ああ、もう、いいから。俺に身も心も委ねなさい!」
「そんな汚い所を触らせるわけには……」
「汚くないし、これから俺のチンコが入るんだから大丈夫大丈夫」
「全然、大丈夫じゃないんですけど」
「いいからいいから」
「いや、よくないですって」
「……今日は『俺の』合格祝いだよな?」
「うっ……」
それを言われると辛い……。先輩はわざとらしいほどニッコリ笑って「寝て」と言った。
俺にはその言葉に従う以外の道を見出すことができなかった。
「この辺かなぁ……どう?」
「特に、何も……」
先輩は俺のナカに指を入れて感じる場所―前立腺と言うんだそうだ―を探している。
……俺は今、人として大事な物を失った気がする。先輩のことは好きだけど、というか、
好きだからこそ、越えちゃいけない一線ってものがあると思うし、この状況は明らかにそれを
超えていると思う!
「あぁっ!!」
「やっと見付けた。ここか〜……」
「ああっ!ああっ!ああっ!」
遂に先輩は前立腺を見付けてしまって、そこをぐいぐいと押してくる。何だこれ……今までに
味わったことのないような、快感と表現するのも憚られるような狂おしいまでの刺激。
こんな刺激を受け続けたら俺、おかしくなるっ!
「せん、ぱい……やめ……」
「指、二本にしていい?」
「ああぁっ!」
いいなんて言ってないのに、先輩は勝手に指を二本に増やして前立腺を押す。
「すげぇな……触ってもねェのにカウパーだだ漏れ」
「あっ……あぁっ!ああっ!」
浮気疑惑ですっかり委縮していたはずの俺のナニは完全に回復していて、それどころか
あっという間に限界が訪れた。
「もっ、だめ!イキた、いっ!!」
「いいよー」
「っ……」
イキたいと訴えたのに先輩は相変わらず前立腺を触ったまま……今日はそっちしか触ってくれない
のかと仕方なくナニに伸ばした手はしかし、先輩に阻まれてしまった。
「慣れるとこっちだけでもイケるって本に書いてあったし、もうちょい頑張ってみようよ」
先輩はそっちだけでイカなかったじゃないかァァァァ!!
……と、普段の俺ならツッコんでいるところだろう。だがその時の俺にはそんな余裕などなく、
ただ只管にイカせてほしいと懇願し続けた。
「せんぱ……イ、カせ……」
「あー……もう限界」
限界はこっちだと頭の中だけでツッコんでいると、嫌な水音を立てて先輩の指が抜けた。
強い刺激を受けながら達せない苦痛はなくなったけれど、今度はイク直前で放置されたも
同然で、結局、辛いことには変わりなかった。
「いくよー」
「…………」
先輩だけじゃなく、俺もイカせてくれ……
その「いく」じゃないとか何とか言われそうだが、とにかく俺は早く解放されたかった。
なのに先輩は足を触ったり腰を触ったり……そんな所はいいからナニを、早く触ってくれ!
けれど、俺の願いは叶えられぬまま「その時」は訪れた。
「ああああああっ……!!」
体が内側から爆発したような衝撃を感じ、それと同時に目の前が真っ白になった。
「土方くん、すげぇ!触ってないのにイッてる!」
辛うじて先輩のナニが入って来たのだということはぼんやりと理解できたが、それ以外は何が
起きているのかも、先輩が何を言っているのかも分からなかった。
「ああっ!!ああっ!!ああっ!!」
「ハァッ……土方くんのナカ、最高に気持ちいいっ!」
「ひああぁぁぁぁっ……」
* * * * *
いつ終わったのかも分からないまま気付けば夜になっていて、俺は親に起こされた。
先輩はいないけど、服は着てるし、部屋はいつも通りだし……きっと、俺が寝てしまったから
家族にバレないよう先輩が帰る前に色んな痕跡を消していってくれたんだ。
具合が悪いのかと心配する親には生徒会の仕事が忙しくて疲れただけだと嘘を吐き、
夕飯の仕度に向かってもらった。
いつの間にか枕元に置かれていたケータイはメール受信を知らせるランプを光らせていて、
俺は寝転がったままそれを手に取り開いた。
件名:土方くんへ
本文:初めてなのに無茶させちゃってごめんなさい。
起きるまで一緒にいられなくてごめんなさい。
浮気なんて不安にさせちゃってごめんなさい。
とにかくホントーにごめんなさいごめんなさい。
プッ……先輩、謝り過ぎ。そこまでしなくていいのに。
あれ?まだ続きがあるな……
先輩からのメールはこれで終わりじゃなくて、暫く空白があってこう締めくくられていた。
土方くんの合格祝いの時はもっと凄いことができるように頑張るからね☆-(*^-゚)v
未だにベッドから起き上がれないのに「もっと凄いこと」なんてされたら……
少しの間ではあるがかなり本気で、合格せずに大学へ行く方法はないかと考えてしまった。
とにもかくにも、先輩の合格を無事に祝えてよかった。おめでとうございます、先輩。
(12.03.08)
銀土バージョンを基にして書いたので、土方くんが初めてなのに感度良好になってしまった^^; 受けであっても坂田先輩の方が積極的なのは
年上だからではなく、私の中の銀さん像がこうだからです*^^* 坂田先輩は大学生になったら一人暮らしを始めて、土方くんを家に連れ込み
いちゃいちゃシまくると思います。でもその時に土方くんは受験生なので結局あまり頻繁には会えず、そこが二人の愛の巣となるのは一年後、
土方くんが無事に合格してからですね。その辺の話はきっと忘れた頃に書くんじゃないかと思います。
それでは、ここまでお読みいただきありがとうございました。
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