後編


「……やばっ!」

目覚めて初めて自分が寝ていたことに気付いた。どのくらい寝てたのだろう……。
先輩は怒って帰ってしまったかと危惧したものの、何とか残っていてくれた。

「先輩……」
「ああ、起きたんだ?」
「すいません!」

先輩の態度が酷く冷たく感じられて、俺は即座に謝った。
けれど先輩はベッドを背に座り、俺の方を振り向きもせずにケータイでゲームをしている。

「あの、本当にすいません!先輩のお祝いだったのに……」
「土方くんさァ……」
「はい」

ケータイを見詰めたまま先輩が話し始める。こんな先輩初めてだ……余程怒っているんだろう。
そりゃそうだよな。一所懸命勉強して合格したのに、碌に祝ってあげられなかったから……

「浮気したでしょ」
「……は?」
「浮気」
「しっしてません!」

予想だにしなかった単語が飛び出し、先輩の言うことが瞬時には理解できなかったが、
「浮気」と繰り返されて急いで訂正した。けれど先輩は信じてくれない。

「じゃあ俺が浮気で、向こうが本気か?」
「向こうも何も、俺には先輩だけです!」
「嘘だ!セックスしたの初めてじゃねーだろ!」
「初めてです!」
「初めてであんなすんなり入るわけねーよ!」
「自分で慣らしたんですっ!」
「……自分で?」
「あ……」

先輩はケータイを置いて漸くこっちを振り返ってくれた。
喧嘩腰の応酬が一気に鎮まり、冷静さを取り戻して俺は自分の発言で顔が赤くなるのを感じた。

「自分でって、どういうこと?」
「つっつまり、その……ゆ、びで……」
「セックスする前に自分のお尻に指突っ込んで穴広げてたの?」
「そ、そうデス……」

ううっ、恥ずかしい……。けど他の誰かに触らせたなんて誤解されるよりは……

「えっと……そもそも何処でアナルセックスなんて知ったの?」
「それは総悟が……」
「沖田くん?まさか沖田くんと浮気……」
「だから浮気はしてません!総悟には、男同士でもそういうことができるって教わっただけです」
「それにしちゃ、随分慣れてる感じだったけど?」
「それは、練習したから……」
「練習?沖田くんと?」
「違いますって!」

全く……まだ信用してないのかよ……

「俺一人でしたんです」
「一人で?……えっ、じゃあ今日だけじゃなく、何度も自分で指突っ込んでみたわけ?」
「そう、です……」
「ふぅ〜ん……土方くんが、一人でねぇ……。どんな感じでしたの?」
「どんなって……」

先輩……なんか楽しんでないか?もう浮気の誤解は解けたのに、俺がこういうこと話すの
苦手だと分かった上で態と聞いてるんじゃ……

「これ、総悟に買わされたんです」

これ以上具体的に説明する必要はないように思えて、俺は毛布を巻いてベッドから下り、
机に置いてあった例の本を先輩に渡した。

「本?」
「はい。それに、色々書いてあります」
「へぇ〜……うわっ、図解まで……ほぉ〜……」

先輩が本に集中し始めたので、俺はベッドに戻って横になった。
浮気などという事実無根の疑惑を晴らすのに精一杯で忘れていたが、実はかなり体が怠い。
やはり、練習と本番じゃ全然違うんだな……



「……じかたくん、土方くん、起きて!」
「ん……」

また寝ていたようで先輩に揺り起こされた。

「すいません……もう、帰る時間ですか?」
「違う違う。土方くん寝てたの五分くらいだし」
「ああ、そうだったんですか」
「それでね土方くん、今からセックスしよう!」
「え?だって、さっきしたばかりで……」
「土方くんのこと疑いながらヤっちゃったから、あれはノーカウント」
「ノーカウントと言われても……」

体はまだ怠いし、「先輩」の感触も残っているし、俺としては確実にカウントされている。
先輩は攻め(入れる側をそう呼ぶんだと本に書いてあった)だから、簡単に言えるんだ。
俺の言葉も足りなかったかもしれないけど、先輩が勝手に誤解したのがいけないんじゃないか。
さっきのをノーカウントにするにしても今日はもう……と、思っていたんだけれど、

「お願いっ!初エッチのやり直し、させて下さいっ!」
「…………」

ベッドの下で土下座までされたら「疲れた」なんて言えないじゃないか。合格祝いだし……

「分かりました」
「ありがとう土方くん!」

先輩はゴムの箱とクリームのボトルを手にベッドへ上がった。


*  *  *  *  *


「なっ、何してるんですか!」

先輩に言われるがまま仰向けに寝て足を開いたら、先輩は自分の指にクリームを付けて
俺の足の間に……そこで俺は体を起こして止めた。

「それは先輩に塗って入れればいいんで……」
「きちんと解さないと土方くんが痛いでしょ」
「いや……さっきヤったばかりなんで大丈夫だと……」
「さっきのはノーカウント!」
「ていうか、さっきだって俺が自分で……」
「ああ、もう、いいから。俺にも前立腺ってヤツ、触らせなさい!」
「……本、読んだんですね」
「少しだけね。……はい、分かったら寝て」
「いや、無理ですって」
「何でだよ」
「そんな汚い所を触らせるわけには……」
「汚くないし、これから俺のチンコが入るんだから大丈夫大丈夫」
「全然、大丈夫じゃないんですけど」
「いいからいいから」
「いや、よくないですって」
「……今日は『俺の』合格祝いだよな?」
「うっ……」

それを言われると辛い……。先輩はわざとらしいほどニッコリ笑って「寝て」と言った。
俺にはその言葉に従う以外の道を見出すことができなかった。



「……この辺?」
「もう少し奥……あ、行き過ぎ……」

俺のナカに指を入れて前立腺を探す先輩……俺は今、人として大事な物を失った気がする。
先輩のことは好きだけど、というか、好きだからこそ、越えちゃいけない一線ってものが
あると思うし、この状況は明らかにそれを超えていると思う!


「あぁっ!!」
「やっと見付けた。ここか〜……」
「ああっ!ああっ!ああっ!」


遂に先輩は前立腺を見付けてしまって、そこをぐいぐいと押してくる。マズイ……自分でするより
気持ちいい……。気持ちいいというか、自分と違っていつ触られるか分からないから反応が大きく
なってしまう……。こんな刺激を受け続けたら俺、おかしくなるっ!


「せん、ぱい……やめ……」
「指、二本にしていい?」
「ああぁっ!」


いいなんて言ってないのに、先輩は勝手に指を二本に増やして前立腺を押す。


「すげぇな……触ってもねェのにチンコ勃ってる」
「あっ……あぁっ!ああっ!」


自分で触る時には委縮してしまうようなことでも先輩なら可能で、常に最高レベルの刺激を
与えられた俺は、あっという間に限界が訪れた。


「もっ、だめ!イキた、いっ!!」
「いいよー」
「っ……」


イキたいと訴えたのに先輩は相変わらず前立腺を触ったまま……今日はそっちしか触ってくれない
のかと仕方なくナニに伸ばした手はしかし、先輩に阻まれてしまった。


「慣れるとこっちだけでもイケるって本に書いてあったし、もうちょい頑張ってみようよ」


何でそんな所だけ読んでるんだァァァァ!!

……と、普段の俺ならツッコんでいるところだろう。だがその時の俺にはそんな余裕などなく、
ただ只管にイカせてほしいと懇願し続けた。


「せんぱ……イ、カせ……」
「あー……もう限界」


限界はこっちだと頭の中だけでツッコんでいると、嫌な水音を立てて先輩の指が抜けた。
強い刺激を受けながら達せない苦痛はなくなったけれど、今度はイク直前で放置されたも
同然で、結局、辛いことには変わりなかった。


「いくよー」
「…………」

先輩だけじゃなく、俺もイカせてくれ……
その「いく」じゃないとか何とか言われそうだが、とにかく俺は早く解放されたかった。
なのに先輩は足を触ったり腰を触ったり……そんな所はいいからナニを、早く触ってくれ!

けれど、俺の願いは叶えられぬまま「その時」は訪れた。


「ああああああっ……!!」


体が内側から爆発したような衝撃を感じ、それと同時に目の前が真っ白になった。


「土方くん、すげぇ!触ってないのにイッてる!」
「ハッ、あ、ぅ……」


辛うじて先輩のナニが入って来たのだということはぼんやりと理解できたが、それ以外は何が
起きているのかも、先輩が何を言っているのかも分からなかった。


「ああっ!!ああっ!!ああっ!!」
「ハァッ……土方くんのナカ、最高に気持ちいいっ!」
「ひああぁぁぁぁっ……」


*  *  *  *  *


いつ終わったのかも分からないまま気付けば夜になっていて、俺は親に起こされた。
先輩はいないけど、服は着てるし、部屋はいつも通りだし……きっと、俺が寝てしまったから
家族にバレないよう先輩が帰る前に色んな痕跡を消していってくれたんだ。
具合が悪いのかと心配する親には生徒会の仕事が忙しくて疲れただけだと嘘を吐き、
夕飯の仕度に向かってもらった。

いつの間にか枕元に置かれていたケータイはメール受信を知らせるランプを光らせていて、
俺は寝転がったままそれを手に取り開いた。


 件名:土方くんへ
 本文:初めてなのに無茶させちゃってごめんなさい。
    起きるまで一緒にいられなくてごめんなさい。
    浮気したなんて酷いこと言ってごめんなさい。
    あと、本を勝手に持って行ってごめんなさい。
    とにかくホントーにごめんなさいごめんなさい。

プッ……先輩、謝り過ぎ。そこまでしなくていいのに。ていうか、本、借りてったんだ……
部屋を見回してみたら、確かに例の本がなくなっていた。

あれ?まだ続きがあるな……

先輩からのメールはこれで終わりじゃなくて、暫く空白があってこう締めくくられていた。


 土方くんの合格祝いの時はもっと凄いことができるように頑張るからね☆-(*^▽゚)v


未だにベッドから起き上がれないのに「もっと凄いこと」なんてされたら……
少しの間ではあるがかなり本気で、合格せずに大学へ行く方法はないかと考えてしまった。

とにもかくにも、先輩の合格を無事に祝えてよかった。おめでとうございます、先輩。

(12.02.29)


というわけで、若い二人のラブラブ初エッチ話これにて完結です。ヤり方を知らない二人が本を見ながらヤってみるという話が書きたかったのですが、

終わってみたらそこまで本を活用してないかも?この二人はヌき合いだけならそこそこヤってるので、初エッチでも初々しさがあまりないですね。

久しぶりのパラレル設定、楽しく書けました。これからも原作設定中心で、そんなに数は増えないと思いますが、こうして忘れた頃に更新してたら

お付き合いいただけますと嬉しいです。……あ、これの土銀土(リバ)バージョンは近いうちにアップします。

それでは、ここまでお読みいただきありがとうございました。

 

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