※他の幼児パロと同じ設定ですがこれだけでも読めます。
やすみあけハイテンション
朝夕の風は特に冷たく、背中を丸めて歩きたくなる季節。ここ、銀魂保育園バラ組の子ども達はそんな寒さも気にせず元気いっぱい……かと思いきや、そうでもない子もいるようです。 「しんぱちぃ」 クラスの先生を名前で呼んだのは、ふわふわ銀髪頭の銀時くん。先月五歳になりました。 「先生に何かご用かな?」 新八先生は色々な方法で根気強く「先生」であることを伝えています。けれども銀時くんは、言葉遣いを直すよりも先に聞きたいことがありました。 「とうしろうは?」 そう、大好きな十四郎くんがまだ来ていないのです。 「今日はお休みだよ」 「えー……」 残念ながら今日は十四郎くんと遊べないようです。 看護師をしている十四郎くんのお母さん。時々平日にお休みがあるので、そんな時は十四郎くんも保育園をお休みしてお出かけすることがあるのです。 きっと今日がその日なのだろうと、銀時くんは仕方なく他のお友達と過ごすことにしました。
しかし、次の日もその次の日も十四郎くんは登園してきませんでした。 そのまた次の日、銀時くんは朝一番に新八先生の元へ駆けていきます。お父さんが止めるのも聞かないで。 「とうしろうきた!?」 「今日もお休みなんだよ」 「なんで!」 「まずは『おはようございます』だろ」 挨拶をするようお父さんから注意を受けても、それどころではありません。このまま二度と十四郎くんに会えないのではないかと不安に押し潰されそうです。そんな銀時くんのキラキラ天然パーマの上に、お父さんの手がぽすんと乗りました。 「十四郎くんは病気なんだと」 「え?」 銀時くんのお父さんはお休みの理由を知っていたようです。十四郎くんのお母さんから教えてもらったのでしょう。 実は十四郎くん、インフルエンザに罹っていたのです。移ってしまう病気のためお見舞いにも行けないので、銀時くんには内緒にしていました。ですが先生に迷惑を掛けていると思い、伝えることにしたのです。 「もう治りかけてて、あとちょっとで保育園にも行けるらしいぞ」 「ほんと!?きょうくる!?」 「今日は無理だろうな。二回くらい寝たら大丈夫じゃないか?」 「じゃあ、はやくおむかえきて!」 「はいはい」 少しでも早く十四郎くんと遊びたい銀時くん。お父さんが早く保育園に迎えに来れば早く家に帰れて早く寝られて……十四郎くんと会える日が早く来ると考えました。 そんな銀時くんの気持ちが分かったお父さんは、なるべく早く迎えに来ると約束してくれます。 「ではよろしくお願いします」 「いってらっしゃい」 新八先生に見送られ、銀時くんのお父さんは仕事場へ向かいました。
その日から、周りの大人達が驚くほどに銀時くんは良い子でした。特にビックリしたのは新八先生です。 「しんぱちせんせー、すなばにいっていいですか?」 「ぎ、銀時くん?」 いつもだって決して悪い子ではありませんが、気分が乗らなければ話を聞かなかったり、困らせるのを面白がってイタズラをしたり、好きな玩具を独り占めしたりすることもあります。ここ数日は十四郎くんがいない寂しさからか、わざと先生に叱られることをしているようでもありました。 それが今や、先生に敬語を使って話しているのです。 「えっと……バラ組さんはお昼寝の後、外で遊べるから、それまで待てる?」 「まてる。じゃあクレヨンかしてください」 「は、はいどうぞ」 「ありがとーございます」 良い子にしていれば良いことが起きる――十四郎くんに会える目処が立ったことで銀時くんは大事なことを思い出しました。それに加え、元気になった十四郎くんへ「最近の銀時くんは悪い子だった」などと告げ口されては堪りません。だからきちんとしようと決めたのでした。
新八先生に出してもらったクレヨンを使い、白い紙に描いたのは十四郎くんの大好物のマヨネーズ。病気が治ったら渡そうと、心を込めて描いていきます。 これを見たら十四郎くんはとても喜んでくれるに違いない。銀時くんは自然と笑顔になります。 もしかしたら嬉しすぎてキスをしてくれるかも―― 「ふふっ」 笑い声まで漏れた銀時くんの口は唇を窄めてもう準備万端。普段は銀時くんからすることが殆どだけれど、十四郎くんからもしてほしいと常々思っていました。 だからといって、銀時くんが十四郎くんのタイミングを待つこともしていませんが。 「マヨネーズ?上手に描けたね」 「うん。とうしろうにあげるの」 もう一人の担任・山崎先生に褒められて、これはもう確実にキスをしてもらえるなと自信満々。余白にいっぱいピンクのハートを散りばめて、裏には覚えたての平仮名で「ぎんとき」と書いて完成です。丁寧に折り畳み、自分のロッカーへ仕舞いました。
* * * * *
待ちに待ったその日がやってきました。今日から十四郎くんが保育園に復帰します。お父さんからそのことを聞いた銀時くんは、そわそわ落ち着きません。朝ご飯もそこそこに、一人で表へ出ようとして何度もお父さんに止められました。 「おとーさん、はやく!」 「そんなに急がなくても十四郎くんには会えるから」 マンションの自転車置き場でお父さんを急かし、チャイルドシートに座っても足をばたつかせる始末。危ないから出発できないと言われて仕方なく大人しくするのでした。 自転車を漕ぐお父さんの背中に向かい、銀時くんは話し掛けます。 「きょう、えんちょうばん?」 「いいや」 お父さんが遅くまで仕事の時には延長保育を利用するのですが、今日はそうでもないようです。それが分かると銀時くんは不満そう。長い時間保育園にいられれば、十四郎くんと遊べる時間も長くなると思ったのです。 「えんちょうばんがいいー」 「今日は十四郎くんとお母さんと夜ご飯食べる約束をしたんだが……」 「えっ!」 「銀時は一人で延長番にするか?」 「やだ!とうしろうとごはんする!」 「はいはい」 保育園が終わった後も一緒にいられるなんて……今度は早く迎えに来てくれとねだる銀時くんでした。
「ぎんとき!」 銀時くんの乗った自転車が園庭の前を通り過ぎようとした時、大きな声で呼ばれました。 「とうしろういた!」 下ろしてくれと叫ぶ銀時くんを必死で宥めながらお父さんは駐輪場まで自転車を走らせます。そうして自転車をきちんと停めてから銀時くんを下ろしてあげました。 「あ、待て!」 地面に靴底が着いた瞬間に猛ダッシュ。園の入口へと駆けていきます。 フェンスの向こう、園庭側でも十四郎くんが同じ方へ走っていました。 「ぎんとき!」 「とうしろう!」 柵状の入口扉には子どもの手の届かない位置に鍵が付いています。十四郎くんは柵の隙間から両手を出し、その手を握ろうとした銀時くんをぎゅっと抱き締めました。 「んむっ!」 そのまま真ん中の隙間から唇を突き出して銀時くんにキス。銀時くんは息をするのを忘れるくらいにビックリしました。 十四郎くんとキスをしたことは何度もありますが、前にも言ったように、大抵は自分から。そしてそれは叱られたりからかわれたりしないよう、なるべく人目を避けて、軽くちゅっと唇を合わせるだけで満ち足りるものでした。 なのに今は、十四郎くんからしてくれたどころか先生も他の園児もいる所で、唇がくっついたままきつく抱いて離してくれません。銀時くんの心臓はドキドキと、まだ走り続けているような状態です。 「十四郎くん、銀時、開けるぞー」 「ぷはっ!」 追い付いたお父さんが扉を開けるまで、銀時くんはそこに縫い付けられていました。 「ぎんときっ!」 経験したことのない長いキスがようやく終わってホッとしたのも束の間、今度は柵越しではなく直接抱き締められてしまいます。先生やお友達も気付いて何か言っている声が聞こえます。たくさんの足音が近寄ってくるのを感じて銀時くんは、顔を横に向けて何とかキスから逃れました。でも十四郎くんの腕はがっちり背中に回ったまま。 お父さんは銀時くんの戸惑いに気付きつつも、久しぶりに会えて感極まる様子の十四郎くんを微笑ましく思い、先生と挨拶を交わしただけで行ってしまいました。
ここ何日か大好きな十四郎くんがいなくても、銀時くんはいつもと同じく保育園へ通い、遊ぶことができました。一方の十四郎くんは薬が効いて元気があるにもかかわらず外へ出ることすらできず、退屈な日々を過ごしていたのです。思い切り遊べることと大好きな銀時くんに触れられることに、気持ちが高ぶるのも仕方のないことなのです。
一塊になっている二人へ山崎先生がおずおずと声を掛けます。 「あの……銀時くんはお支度まだだから、その……」 「……わかってる」 保育園に着いたらまずお支度――連絡帳やタオル、カバンなどを所定の場所へ――子ども達にとって半ば習慣と化した決まり事を持ち出されて十四郎くんは渋々銀時くんを解放しました。 ドキドキのせいで真っ赤になった銀時くんの手を引いて、十四郎くんはお支度のお手伝い。そのうち銀時くんはマヨネーズの絵のことを思い出しました。 「あげる」 受け取った白い紙を開いた途端、十四郎くんの瞳はキラキラと輝きます。そして「ありがとう」のキスをくれるのでした。
病気によって、その関係がちょっとだけ変化した幼い恋人達のお話は、これにておしまい。
(15.11.23)
今回は十四郎くんの方が積極的になりました。それからほんのり(?)坂田父×土方母なところが個人的萌えポイントです。 子ども同士がチュッチュしてるのを見守りながら、お父さんとお母さんも静かに愛を育んでいってくれたらと。 ここまでお読み下さりありがとうございました。
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