おまけ


――次、いつ会えますか?
――火曜日。史料館の続き見ような。
――続きならトシさんの部屋でしたいです。
――了解。

学生にとって長期休暇は稼ぎ時。一人暮らしの土方は生活費のため、実家住まいの坂田もそんな恋人とのデート代のため、アルバイトに勤しんでいる。だから連絡は専らメールのやりとり。十日ぶりとなる次の逢瀬は前回の続きをご所望らしい。趣味よりも自分を求めてくれたことに喜びを覚える土方であった。

*  *  *  *  *

そして火曜日。恋人の家に着いてすぐシャワーを浴びて、腰にタオル一枚というやる気充分な出で立ちで坂田はベッドに腰掛けた。その隣にはTシャツに下着のみの土方。
「トシさん」
「銀時」
ちゅっちゅと唇を触れ合わせつつ恋人のシャツの裾を捲り上げれば、名残惜しげに離れていって自ら脱いでくれた。
最後の砦のみ纏う二人。折り重なるようにベッドへ倒れ込む。舌を絡ませ身動ぐと、坂田の砦は呆気なく崩れ落ちた。
土方のそれも剥ぐべく、仰向けにして左右の腰ゴムを下に引く。膨れ上がって裏返り、雫を垂らした一物が露わになった。普段はクールな恋人の興奮状態に喉を鳴らす坂田。自分も似たような事態ではあるけれど、前回の詫びも兼ねて先に気持ち良くなってもらおうと猛るモノを握る。
「んっ!」
「トシさんの、熱いです……」
「お、前も……」
「はい。この後お願いしますね」
彷徨うように伸ばされた右手を左手で取るも、そうではないとばかりに振り払われた。
「トシさん?」
「一緒に……」
「え?」
「もっとこっち」
「あ、はい」
何をどう一緒にするのか理解できぬまま、土方の指示に従い体の上を進み腰を落とす。二本を重ねて包まれて、漸く理解できた。
逆手に握った土方の右手がリズミカルに動き出す。
「んっ、んっ、んっ……」
「ふぁっ!待っ、待ってください。俺がやります」
今日は俺がリードする――経験の差は愛の力で乗り切ってやると息巻いて、坂田は右手と膝で自らを支え、左手で陰茎同士を握り込んだ。熱を孕むモノを合わせて擦れば忽ち込み上げてくる射精感。けれどまだまだ感じていたくて、二人とも耐えていた。
外では急速に発達した積乱雲が日差しを奪っていくものの、ただ只管に相手を思う二人には何の意味もなさない。間もなく鳴りだすぱたぱたと窓を叩く雨音も気にならなかった。

「「んんっ!!」」
我慢の限界を超えに超えて同時に発射。恋人の上に思わず倒れ、慌てて起きようとした坂田を下から抱き留めた。
「あの……重くないですか?」
「大丈夫だから、もう少しこのまま」
「はい。でも……」
膝は立てて腰を浮かせ、そろそろと土方の肩へ腕を寄せてはみたけれど、あまりくっついていては鎮まったモノが復活してしまう。ヤりたいだけかと軽蔑されぬよう、今日はこれで打ち止めたい――そんな坂田の思惑とは裏腹に、土方は更に先を見据えていた。
「なあ銀時……続き、したくねェか?」
「つっ続き!?」
誘惑のごとき問い掛けとともに背中の手がするりと腰へ下りていく。びくんと跳ねたその反応で、こちらの意図は通じた模様と土方の口角が上がった。
しかし坂田の動揺は増すばかり。愛しい人の手が肝心な所へ到達したらもう逃れられないと、反射的に体を起こしていた。
「あああのその……つつつ続き、ですか?」
「……嫌か?」
土方も起き上がり、全裸で向かい合うやや間の抜けた状況に。だが今の坂田に現状を客観的に判断するゆとりは皆無。
「いっ嫌などではなくてですね……ただ……えっと……」
恐らくとうに悟られているのだろうし、ここは正直に言ってしまおう。
「俺、お付き合い自体トシさんが初めてで……だから全然経験なくて……」
「俺だってねェよ」
「ほぇ?」
予想だにしない発言に頓狂な声が出た。これまでの付き合いの中で薄々感じていたこと。前回のデートで決定的になったこと――確信していた恋人の過去が揺らいでしまったから。
「付き合う前のことには拘りませんよ?」
「ねェもんはねェ。……ンなに遊んでそうに見えんのか?」
「いいえ。そうではなくてこの前のエロエロベロチュウとか、他にも色々手慣れてる感じが……」
「慣れてねェよ!」
「す、すいまっせーん!」
深々と頭を下げて許しを請う。と同時に、栄えある初めての男に選ばれた喜びを噛み締めた。
「……お前が『続き』をしにウチ来たいっつーから、てっきり最後までヤんのかと……」
「そうでしたか。えっと、じゃあ……ヤります?」
「嫌じゃねェなら」
「嫌なわけないでしょ!あ、でも……」
口ごもる坂田を気遣って、また今度、心の準備ができてからで良いと告げるも、致すつもりはあるのだと譲らない。
「その……ちょっとくらい痛くても、我慢します」
経験があるのならその辺りも心得ているだろうと任せる気でいた。だが自分と同じ条件ならば多少の犠牲を払わなくてはなるまい。先へ進むために必要なことと腹を括りつつある坂田へ、
「今日はお前が入れる方でいい」
朗報が舞い込んだ。俯き加減で頬を染めた土方は、枕元に畳んであったバスタオルの間からローションのボトルとコンドームの箱を手渡す。箱は未開封だがボトルは明らかに使用済。どう使用したのか容易く想像でき、坂田の下腹部は高ぶった。
「トシさんっ!」
ここまでされて怖じ気付いてなどいられない。右手にボトル、左手に箱を持ったまま初心で積極的な恋人を押し倒す。
「今すぐ一つになりましょう!」
「ゆっくりヤれよ!?」
「はいはーい」
軽い返事は不安材料にしかならない。入念に準備はしたものの「本物」を受け入れるのは初めてなのだ。優しくしてほしい。もし痛かったら次回は同じ目に遭わせてやろう――そう思うことで辛うじて覚悟することができた。
「え……」
しかし入ってきたのは指一本。拍子抜けして首を起こせば、締まりのない笑みと搗ち合った。
「どうしました?もっと太くて硬いのがイイって顔しちゃって」
「そっそんな顔してねェ!」
虚勢を張るが見抜かれているかもしれない。初めてには違いないけれど、自分を慰める際には毎回のようにソコを使っている。指二本までなら潤滑剤すら不要であった。
「前立腺って本当に感じるんですか?」
「知るかっ」
「教えてくださいよぅ。そしたら俺も予習してくるんで」
「…………」
羞恥に全身が赤くなったのではと思うほど。自分で考えろと口も目も閉ざした。
「教えてくれないならトシさんで実験するしかないかなァ……」
「あっ!」
内部で蠢く指が快楽点に触れる。恐る恐る目を開ければ、酷く愉悦に満ちた瞳に射竦められた。
「気持ちいいですか?」
「……あぁっ!」
涙を滲ませながら頷くと、また同じ箇所を押し上げられる。
「本当に気持ちいいんだ」
「あっ!」
確認するようにもう一回。
「銀時、もっと……」
「もっと……優しくですか?」
「はぁっ!」
違うのは分かっていて、ついつい意地悪をしたくなってしまった。先刻までより弱めに押せば、いよいよ土方は疼きが抑えられなくなる。
「もっと……太くて硬いのがイイ」
「――っ!」
からかい混じりに言った台詞を持ち出され、これには坂田が陥落。指を引き抜き乱暴にゴムの包みを開封していく。

この時季特有の局地的な激しい雨が、土方の嬌声を坂田に独占させるのだった。

(15.09.06)


後編をアップした時には書く予定がなかったのですが、妄想が膨らみ「おまけ」としてアップすることとなりました。
行き当たりばったりな展開ですみません^^;
ここまでお読み下さりありがとうございました。



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