<六>


トシの部屋で二人きり――この場で行われたことを内緒にすると決めた銀時には、もう一つ
教わりたいことがあった。トシの腕から抜け、もぞもぞと膝を擦り合わせながら口を開く。

「ところでトシさん」
「何だ?」
「あの……こっこれ、どうすればいいですか?」

躊躇いつつも己の股間を指差す銀時。そこはくっきり盛り上がっていた。
さして表情も変えずに「ああ」と理解したトシは至って冷静に答えを与える。

「トイレか一旦家に帰るか……」
「こっちも実地で教えてくれたりとかは……?」
「まだ早い」
「ですよねー」

トイレ借りますとはにかみ、前屈みで部屋を出て行く銀時。トイレのドアの開閉音を確認してから
トシは息を吐いて頭を抱えた。

こんなつもりではなかった。

不意打ちでされた一回はともかく自分から、しかもあれほど反応してしまうようなキスを仕掛ける
など言語道断。銀時が高校を卒業するまでは、清く正しい交際をするのだと固く決意していたし、
今でもその気持ちは変わらない。頭の中の「爛れた」前世達をせせら笑い、身体ではなく心を
通わせるのだと決めていた。

なのにどうだ。

キスと呼べるか疑問が湧くような衝突だけで満足した可愛い人を前にして、身体が独りでに動いて
いた。そこに論理的思考など存在しない。したくなったから、なんて何処の獣だ。

「くそっ」

麦茶を一気に飲み干して、本能に負けた己に猛省するトシであった。

*  *  *  *  *

所変わって土方家二階のトイレ。鍵を掛けた銀時はドアと便器の間にへたり込んでいた。未だに
ドキドキが治まらない。トシさんがあんな、俺に対してあんな、ギラギラというかメラメラと
いうかエロエロというか……要するに、欲望を向けてきた。ビックリしたけど凄く嬉しい。

見事恋人になれたものの、前世の記憶を除けばトシの態度はこれまでの弟扱いに毛が生えたような
もの。卒業までは仕方ないかと半分諦めながらも残りの半分で「あわよくば」と希望は捨てずに
きていた。それが先程叶えられたのだ。キスができただけでなく、下半身直撃のオトナなキスまで
返してもらえるなんて。

「トシさん……」

左を扉に、右を便器に挟まれた壁へ寄り掛かり、銀時は自身のベルトを解いて猛るモノを取り
出した。握り込んだ手を上下に動かしながら思う。そのうちココも触ってもらえるだろうか、と。

「ハァッ」

その前に自分もあのようなキスができるようにならなくては。
ちらりと見ただけだがトシの身体は無反応だった。今日の自分の何処にトシを燃えさせる要素が
あったのかは分からないし、まずはそこを反応させないと。

「んぅっ!」

トシの舌が通った場所を自分のそれで辿ってみれば手の中のモノが震え、体液が滲み出る。
口の中がこんなに感じるなんて知らなかった。やはりトシ先生は偉大だ。

「ハァ、ぁ……」

右手で一物を擦りながら左手は正面のトイレットペーパーへ伸びる。カラカラと紙の端を引いて
片手で千切って丸めて握った。
恋人の家でいたしているという事実がいつも以上に銀時を興奮させている。

「あ、んっ!!」

放出された精液で個室を汚さぬよう右手の中へ受け止めて、左手のペーパーを一物の先端へ。
やや冷静さを取り戻してみれば、己の痴態に顔がカッと熱くなった。
ここは恋人の家で幼馴染みの家でお隣りさん。そんな所で俺はこんなことを……

だが元はと言えばこの家の住人であるトシのせい。あんなムードを出してあんなキスをするから
いけない。
そうだトシさんのせいだと立ち直り、精液に塗れたペーパーを便器に放って拭いきれないモノの
ためもう一度紙を引く。軽く纏めたトイレットペーパーで陰茎を擦りながふと思う。恋人はこれで
毎日×××を拭いているのだ。

「う……」

まだ見ぬ目標地点が日々味わっているであろう感触。自宅のそれよりやや厚手で花柄のトイレット
ペーパーが、途端に淫らなものに思えてきた。
銀時はペーパーを一物に添って滑らせる。

「あ、ん……」

先程よりも更に興奮して勃ち上がったモノ。先走りで溶ける花は己によって暴かれる愛しい人。

「ハァ、ハァ、ハァ……」

ここに長居してはいけない。さっさと処理して戻らなくてはと思う反面、身体は益々高ぶって
止まらなくなる。

「あっ、ハッ……!」

ドロドロになったペーパーに新しいものを足し、それが濡れゆく様にまた興奮。舌はトシの動きを
再現していて、飲み込む唾液がトシのそれと錯覚するほど。

「んく、あ、んんっ!」

ただいま――階下で恋人の母の声がして、ドアの向こうで「おかえり」という恋人の声。銀時は
瞬く間に現実へ引き戻された。

「ふ……くぅっ!!」

二度目の吐精を遂げて素早く後始末をし、階段を駆け下りる。


「お、おかえりなさい」
「ただいま。勉強は進んだ?」
「はっはい!」

ここでは言えない「勉強」をしていたが違う意味で進んだのは事実。先生がいいからだと瞳を
輝かせている銀時に居た堪れず、トシはあからさまに話題を変える。

「十四郎、勝ったんだとよ」
「そうなんだ」
「しかもコールド勝ちよ」
「凄いですね」
「夕飯はカツ丼にしようと思うんだけどどう?」
「いいと思います。次も勝つように」
「手伝うよ」
「いいわよ。銀時くんもいるんだから」
「あの、俺も手伝います」

彼の母に家庭的なところをアピールするつもりであったのだが、

「いいのよ。できたら呼ぶから、トシと上で待ってて」
「あ、はい」

お客様扱いでトシの部屋へ戻されてしまう。あんなことがあった手前、今二人きりになるのは
どことなく気まずいというのに。


「…………」
「さっきは、悪かったな」

扉が閉まると同時、呟かれた謝罪の言葉に銀時は頭を振った。

「次からは気を付ける」
「……うん」

トシの台詞に頷きながら勉強道具を片付ける銀時。次はどんなことをしてくれるのだろうと期待に
胸を膨らませている。トシの真意が「今日のようなことが無いよう気を付ける」であるなどとは
思いもよらずに。


*  *  *  *  *


「いただきまーす」
「いただきます」
「いただきます」
「どうぞ召し上がれ」

土方家三人に銀時も加わったこの日の夕食。十四郎の好物のカツ丼土方スペシャル(銀時だけは
ただのカツ丼)で祝勝会。話題は当然本日の試合について。

「十四郎は投げたのか?」
「いや。総悟が投げきった」

兄の問いに弟が答えれば、母はホームランを打ったのだと付け加える。

「凄いじゃないか」
「たまたまだよ。試合前先生に、相手ピッチャーの癖も聞いてたし」
「銀八、敵の研究なんてやってんだ……」
「自分は野球を知らなくて練習の指示は出せないからって、対戦相手のことをよく調べてきて
くれるぞ」
「へぇ」

野球は素人で形ばかりの監督かと思いきや、結構真面目にやっているではないか。兄の意外な
一面を知り感心するとともに、そういう所に惚れたのかと十四郎に向かいニタリと笑う。
その笑顔の意味を正確に理解して、十四郎は視線を逸らしカツ丼土方スペシャルを掻き込んだ。

「そういえば銀八くんの監督も、なかなか板に付いてきたじゃない」
「ああ。練習に集英高のOB連れて来た時はビックリしたけど」
「あ、それ知ってる。同窓会で会った元教え子に頼んだって言ってた」
「でも母校の敵になるわけでしょ?よく来てくれたわね」
「恩師の頼みとなれば……」
「いや、ウチが多少強くなっても集英高の敵じゃないってことだろ」

銀八を贔屓目で見ている十四郎に対しトシの冷静な分析が入る。確かに集英高校はスポーツ推薦も
実施しており甲子園でも常連。毎年何人かはプロに進むほど。二回戦進出がやっとの銀魂高校とは
レベルが違っていた。

「次の試合は応援に行けないけど、悔いのないようにね」
「ああ。頑張るよ」

先生を甲子園に連れて行く――十四郎の三度目の挑戦が始まった。

(14.07.08)


銀八先生は南ちゃんポジション(笑)。次から3Zペアのターンになります。
続きのアップまで少々お待ち下さい。

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