<終>


ほんの少し前まで恋人が横たえていたベッドに寝かされ、十四郎は天井を観察していた。壁と同じ
オフホワイトのクロス張り。微かに伸びる継ぎ目を何の気無しに目で追った。

「天井の染みでも数えてんの?」
「いつの時代だよ」

視界を遮る銀髪の台詞にふっと力が抜けたことで、己が強張っていたと判る。
先の交わりではある程度の勢いがあった。だが、両思いになりたての高揚感と興奮は銀時を抱いた
時に大方吐き出してしまい、残るは未知への不安と羞恥心。

「っ――!」

濡れた指先が触れた瞬間、十四郎は反射的に肛門を窄めていた。

「痛くしないから安心して」
「分かってる」

態とぶっきらぼうな物言いで顔を背ける十四郎。その入口の筋目にローションを丹念に染み込ませ
ながら、銀時は愛しさを募らせていく。

「やっぱ、こうでなくちゃね」
「何が?」
「初めての反応。怖いけど好きだから頑張る!みたいな」
「ンなこと思ってねーし」

再びぷいと横を向いた十四郎の頬に口付ける間も、銀時の指は窄まりを丁寧にマッサージしていた。


「入れるよ……」
「おぅ」
「一本だけだから痛くないよ」
「いっいいから早くヤれ」
「はいはい」

明らかに強がっている十四郎に目を細めつつ、このような初々しさがあれば自分も幾らか可愛く
見えたのではないかと反省。薬も過ぎれば毒となる――ヤり過ぎるくらいなら自主トレなど
しなければ良かったと改めて後悔した。

けれど切り替えの早さが銀時の長所。初々しく可愛い十四郎に手解き出来る期待に胸を膨らませ、
中指をゆっくりと挿入した。

「どう?痛くない?」
「ああ、平気だ」
「ちょっと動かすよ」

内壁の感触を確かめるように入れた指先で小さく円を描く。異物感に顰められた眉へキスをして、
銀時は時間を掛けて指を抜いていった。

「っ!」
「あ、ごめん」

引き抜いた指をまた進めたところ、十四郎の身体が僅かに硬直する。銀時も爪の引っ掛かる感じが
して手を止めた。

「痛かったよな?」
「いや。少し擦れたというか……」
「とりあえず抜くね」

そこまでせずともと十四郎が言う前に指は抜けていく。
一度きりの初めて。嫌な思いはさせたくない。中指の先で自身の親指の腹をなぞってみれば
カリカリと爪が当たった。

「痛いって程じゃねぇぞ」
「うん。でもより慎重を期したいというか……あ、そうだ!」

あれなら痛くないと銀時はベッドから下り、部屋の隅にあるローチェストの引き出しを開ける。
いつ十四郎を迎えてもいいように隠しておいたもの。道具に負けたわけじゃない。十四郎を傷付け
ないためのいわば緊急措置。十四郎のナカが緩んでくれば、自分のように指で色々ヤれるはず。

「お待たせ十四郎」
「はぁ!?」

ぷらんと眼前で揺れる小さな玉の連なりに、十四郎は頓狂な声を上げた。

「これなら丸いから簡単に入るよ」
「てめっ……絶対ェ初めてじゃねーだろ!」
「違うよー。これはお客から貰ったの」

自分では恥ずかしくて買えないなどと、十四郎には到底信じられないことを言いつつ一番下の
玉を摘んで足の間へ。

「まっ待て!本気か!?」
「大丈夫大丈夫、痛くないから」
「いいい痛くてもお前の手がいい」
「可愛いこと言ってくれちゃってぇ。これで軟らかくしたらいっぱい入れてあげるね」
「なっ……!」

座った体勢の十四郎とシーツの隙間に手を滑り込ませ、つぷりと一つナカヘ納めた。
小指の先程の大きさのそれは、難無く体内へ飲まれていく。

「う……」
「ほら横に……いや四つん這いにしようか?その方が楽らしいよ」
「やめっ……!」

内部へ繋がる紐を揺すられ、入口にむず痒い感覚が走った。長引けば恥ずかしさが増すだけ――
銀時の求める通り、十四郎は四つん這いになる。

「尻尾みたいでエロ可愛いね」
「もっ、いいから……」
「ではいきまーす」

つぷんと二個目が押し込まれた。三個、四個と入ってきても確かに痛みはない。それどころか、
入口を開かれる感覚と腹の中の物が次第に奥へと進む感覚に身体が震え始める。

「ハァ、ハァ……」
「もうちょっとだよー」

もう幾つ入ったのか分からない。けれどまだ続きがあることを身体は喜んでいた。重力に従い
垂れ下がっていた十四郎のモノが硬く反り返っていく。

「おぉ、全部入った」
「あ……ハァ……んっ、んんっ!」

銀時が取っ手を小刻みに震わせれば、十四郎はそれに合わせて声を漏らした。

「気持ちいいでしょ?」
「違っ……」

張り詰めたモノで一目瞭然なのだが認めたくはない。ぎゅっと目を閉じた十四郎の尻に銀時の
手が這う。内壁が独りでに蠕動し、埋め込まれた珠を動かしていた。

「あ、ぅ……」
「恥ずかしがることねーよ。俺も自分の指じゃ足りなくてコレ使ってるから。でもね……」

背中に重みを感じ、耳元で囁かれた台詞に十四郎は驚愕する。

「コレ、抜く時が一番イイんだよ」
「え……やっ、あ!」

後ろを振り返った十四郎は無意識に抜かれまいと孔を狭めていて、ぬぷっと引き出される触感を
まざまざと味わってしまった。そしてその感覚が治まらぬ間に、一つ、また一つと続く。

「あ、あ、あ、あ、あ……」

パールと共に快感も引き摺り出され、十四郎は尻を上げたまま枕に顔を埋めた。


「ハァ、ハァ、ハァッ……」
「じゃあもう一回いくよー」
「もうやめ……あ!あ、あ、ぁ……」

二度目の埋め込みではもう愉悦しか感じなかった。
半分も入ればあの抜かれる時の感触を思い出し、後孔がひくひくと開閉する。一つ一つ納める様が
酷くゆっくりに感じた。

「ぎん、とき……」
「抜くよ」
「んっ……あっ、んんんんーっ!!」

ぽぽぽぽ、と性具が取り出されるのと同時、十四郎は全身を痙攣させて倒れ込む。
もしや……銀時は十四郎の身体を表に返した。そこで目に飛び込んできたのはすっかり萎れた一物。

「玩具でイッちゃった?十四郎こそ、初めてとは思えない感度」
「るせっ」

さっさと入れろと自棄になる十四郎を宥めすかし、銀時は解れた孔に指を二本突っ込んだ。

「俺の指いっぱい入れるって約束だったよね?」
「もう充分だ」
「でも前立腺がまだだから」
「遠慮しとく」
「それに、もう少し広げねぇと俺のが入らねーし」
「うっ、あぁっ!」

二本の指が十四郎の性感帯を押し上げる。

「ひあぁっ!」

十四郎の身体がビクンと跳ねてベッドを揺らす。こっちも感度良好――独り言ちつつ舌舐めずりを
して、銀時は無遠慮に指を動かしていった。

「うあっ!待っ……ああぁっ!!……ひっ!や、やめろっ……」

力一杯腕を掴まれ指を止めた銀時。飛ばし過ぎたと反省し、前立腺には触れぬよう指を開いて
ナカを広げる。

「ハァ、んっ!てめっ……」
「悪ぃ悪ぃ。十四郎の反応が可愛くてつい」
「ついでイカされる身にも……ん?」

前戯で体力を消耗させる気かと文句を述べる十四郎であったが、違和感を覚え頭を起こした。
こちらを向いて屹立したモノはくぷくぷと先走りを垂らし続けている。

「ナカでイッちゃった?」
「は?」
「慣れると出さなくてもイケるらしいよ」
「なっ慣れてねーよ!」

指が入ったままでは起き上がることも敵わず、枕を投げ付けて抗議を示した。銀時とて十四郎に
経験がないことは充分理解しているが、自身も未だ到達できない領域に初回で辿り着いたことに
驚き、感心しているのだ。

「初日に師匠を超えるってどういうこと?」
「知るか……あっ!」

快楽点を軽く撫でられただけで身悶える十四郎。イッたのにイッていない。イク程いいのに出ない
――十四郎は我慢ができなくなり、自分のモノに手を伸ばす。それを銀時が阻んだ。

「十四郎ならナカだけで出せるって」
「もう、ムリだっ……ひああっ!!」
「……またイッた?チ〇コよりナカの方がイキやすい体質?」
「や……ああっ!んんっ!はぁっ!」
「ハァッ……」

埋めた指を動かしながら熱い息を吐き、銀時は左手で自身をゆるゆると扱いていく。実はとうに
限界が訪れていた。かなりの素質があるらしい十四郎を、早く一物で乱したい。しかしながら
いくら感度が良いといっても初体験。準備を怠れば痛みを与えてしまう。
それはそれは気持ち良く抱いてくれたお礼も込めて、最高に気持ち良くしてあげたかった。

だがもうそろそろ頃合いだろうか。いや、頃合いであってほしい――指を抜いて銀時は己自身に
ローションをたっぷり纏わせた。

「十四郎、入れるよ」
「ああ」

虚ろな瞳が辛うじて銀時を捉えている。彼は枕を十四郎の腰の下に敷いて浮かせ、先端を後孔に
押し当てた。

「あ、あ、あ、あ……」
「ふぅっ……十四郎のナカ、最高」
「ハッ……て、めーのも……良か、たぞ……」
「ありがと」
「んぅっ!」

キスを理由に最奥まで繋がれば、苦しそうなくぐもった喘ぎが聞こえる。頬に、首筋に、鎖骨に……
次々と口付けをしてナカが馴染むのを待った。


「銀時」
「動いても平気そう?」
「ああ」
「では……」
「う、あぁっ!」

ギリギリまで戻って浅い所を行ったり来たり。入口と前立腺を擦っていく。

「ふあっ……ああああぁぁぁ……んんーっ!!」
「あ……くぅっ!!」

元より放出寸前だった十四郎のモノは漸く弾けることができた。その際、内部がぎゅるとうねり、
その心地好さから銀時もその場で白濁液を放つのだった。


ピピピピピピピ……

「!?」
「おぅ!」

突如響いた電子音に入口が収縮し、銀時が声を上げる。目覚ましだからと十四郎を落ち着かせ、
銀時は結合を解いてベッドを下りた。
脱ぎ散らかした服のポケットからスマートフォンを取り出して、アラーム音を止める。

「驚かせて悪かったな」
「いや……」

まだ心臓はドキドキしているが、それはアラームが鳴る前からのこと。カーテンの隙間から覗く
空はまだ暗い。こんな時間にわざわざ鳴らすということは……

「新聞配達か?」
「うん。七時半には帰るから寝てていいよ」
「その前に風呂……」
「鍛えてる人は違うねぇ」

あんなに悶えたら足腰立たないと思ったなどと言う銀時を小突き、二人で浴室に向かうのだった。


*  *  *  *  *


「ただいま……」

自分にもほんの僅か聞こえる程度に声を掛け、アルバイトを終えて帰宅した銀時は恋人の眠る
ベッドへそっと近付く。静かに掛け布団を捲れば、銀時のTシャツを着て寝息を立てる十四郎。
感動のあまり抱き着いてしまった。

「んっ……お帰り」
「起こしてごめん。朝メシ食う?」
「まだ眠ィ。お前も寝ろよ」
「どうも」

十四郎はベッドの端に寄り、枕を明け渡す。それにはバスタオルが巻かれていた。よく見ると
カバーが掛かっていない。それに頭を乗せつつ銀時が尋ねる。

「枕カバーは?」
「……汚れたから、外した」
「あー……」

腰枕にしたために色々と濡れてしまったのであろう。

「十四郎の愛液がついちゃったか」
「テメーがナカで出すから漏れたんじゃねーか」
「あーはいはい、そうでした」
「ったく……」
「十四郎」
「あ?」
「おやすみなさい」
「お、おう……」

妙にしんみりとした表情の銀時に面食らう。目を閉じて、十四郎の腕に自分のそれを絡ませて、
もう一度おやすみなさいと言った。

「聞こえてる」
「何つーか、久々だからさ」
「ん?」
「おやすみなさいって言うの。あと、お帰りって言われたのも」
「そうか」

長年施設で育った銀時にとって、周りに誰かがいるのは当たり前のことだった。だから新米ホスト
時代のルームシェアも全く苦にはならなかった。
稼ぎが増えて初めて得た一人の時間。二つのバイトと学習教室で何とか孤独を紛らわせていた。
でもこれからは、

「引っ越しはいつがいい?」

恋人と二人暮らし。おはようからおやすみまで、言えば返ってくる暮らし――になると思いきや、

「少し考えさせてくれ」
「えっ!」

非情な言葉が投げられた。しかし台詞とは裏腹に、その頬は朱に染まっている。

「何でだよ」
「毎日欲情しちまいそうだ」
「ハハッ」
「それと……」
「うん?」
「早起きする理由がなくなる」

いつでも会えるから、と言ってそっぽを向いた十四郎を銀時は満面の笑みで抱き締めた。
誰にも会えない一人の時間は、誰かに会うための幸せな待ち時間。まだ暫くは楽しい一人暮らしを
続けることにした恋人達であった。

(14.06.01)


これからも二人はラブラブ通い婚を続けると思います*^^*
最後までお付き合い下さりありがとうございました。



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