<六>


「ハッ……!」

夜明け前に目を覚ました十四郎。直ぐさま掛け布団を剥げば、マヨネーズボトル柄のパジャマを
内側から押し上げている下半身に溜息が漏れた。

十四郎――

耳に残る甘い声は夢の続きか現実の記憶か……今日で三度目。一度目は寝ている間に下着を濡らし
自己嫌悪に陥った。二度目は今夜と同じく寸でのところで目が覚めて、ついでに悟ってしまった
己の感情。

坂田銀時が好きだ。

第一印象は馴れ馴れしくチャラい新聞配達員。流石都会だと妙に納得する一方で、強引に契約を
迫られるのではと警戒もした。
だがヤツは初日にさらっと営業しただけで後はごく普通に挨拶を交わすだけ。彼の印象はいつしか
馴れ馴れしくてチャラくて笑顔の眩しい新聞配達員へと変化していた。

多くの人がする必要もない苦労や苦悩を抱えて育ったにもかかわらず、屈託なく笑う銀時。
「十四郎」と呼ぶその顔が頭から離れない。広く誰にでも向けられる優しさを、独占したいと
思ってしまう己の心の狭さに腹が立つ。真面目に受験勉強している銀時に失礼だ。仮にも教育を
学ぶ身として恥ずかしい。

「んっ……」

ウエストゴムを伸ばして猛るモノを出して左手で握り、右手を自身の腿に当てる。ここは昨日、
銀時が触れた場所。ホストの癖だか元からなのかは知らないけれど、とにかく距離が近い。
ワンルームで、すぐ後ろはベッドで、惚れた相手に触れられて――理性を保てた自分を褒めて
やりたい。

「ハァッ……」

殆ど使用していない隣室との境の襖を視界に入れると、一物に送られる血量は更に増えた。
この家が二人暮らしに適しているなんて言うものだから、うっかりルームシェアを提案しそうに
なったではないか。

「っ!」

襖の向こうに銀時がいて困るのは自分だ。本人がそこにいては自己処理するのもままならず、
慢性的な欲求不満状態で友達の皮を被り続けることは不可能になるだろう。
銀時を傷付けてダメにするくらいなら自然消滅の方がマシ。受験が終われば自ずと関係は希薄に
なるはず。学部が同じでも学年と学科が違えばそうそう会うこともないのだから。

「ぁ……」

銀時のことを知れば知るほど惹かれていって日に日に思いを募らせる自分とは対照的に、銀時の
態度は出会ったばかりの頃と何ら変わらない。自分は銀時にとって「近所に住む大学生」のままに
違いない。そもそもホストなんて仕事を選ぶくらいだ、普通に女性が好きなのだろう。

「くそっ!」

望はないと分かっていても日ごと増していく思いを止められない。己の手を銀時の手に、この膝に
触れた銀時の手に見立て、擦り上げる。

「んんっ!!」

吐き出した欲望とともにこの感情もなくなってしまえば楽になれるのに――


*  *  *  *  *


「ハァッ……」

十四郎が腰掛けたイスを撫で、銀時は熱い息を吐いた。目を閉じて、想い人の姿を描きつつ後ろ
向きに座り、背もたれを抱きしめる。鼓動が速まり、血液が身体の中心に集まっていった。
背もたれを抱いたまま、下半身をイスへ擦り付けてみる。

「あっ、ん……」

気持ちいい。でももどかしい。銀時は寝巻きを脱ぎ捨てながらベッドへ転がった。
枕の下に手を入れて、隠しておいたローションボトルを握る。薄ピンクの潤滑剤を右手に塗し、
その手で後孔に触れた。

「十四郎……」

恋愛感情を持たれているかは分からないけれど、少なくとも「ただの友達」以上には意識して
くれているはず。合格祝いとでも理由を付けて頼んだら何とかなるかもしれないと思えるくらいの
自信はある。抱く側であれば更に抵抗も少ないだろう。
そんな考えのもと始めた抱かれる練習であったが、思いがけずどっぷりはまってしまった。

「あぁっ!」

中指と薬指で前立腺を押し上げて得られる快感は一物の比ではない。ムラムラすればナカが疼く
体質になっていた。

「ハァ、ハァ、ハァ……」

十四郎の手でここに触れられたら、もっと太いモノで奥まで貫かれたらどんな気分になるの
だろうか……想像しながら銀時はアナルパールにもローションを塗り、一つずつ納めていった。
初心者にはこれがオススメよ――銀時の性癖を知った常連客からのプレゼント。

「はぅ……はぁ……!」

体内のパールが増えるたび、愛する人を受け入れられる身体になっていく。空いた左手で乳首を
摘めば、内部が締まり、性具が奥へと進む感触。こうすれば十四郎は気持ち良くなれるだろうか。
十四郎のモノは何処まで届くのだろうか。その前に、毎晩こんなコトをしてると知れたら「勉強
しろ」と叱られるに違いない。

「あぁ……」

全てのパールを埋め込んで一呼吸。
取っ手のリングに指を掛け、一気に引き抜いた。

「ああっ!!」

後ろの刺激だけでイケること、暫くは内緒にしないとマズイよな。慣れてると思われたくないし。
気怠い身体を引きずって銀時はバスルームに向かった。

(14.05.16)


これだけ読むと土銀みたいですが、この話はリバです。あと一、二話で完結予定ですのでもう暫くお付き合いくださいませ。

追記:続きはこちら