後編
それから五ヶ月経った二月のある日……なんて大人しく待っていられる坂田ではなかった。
だいたい、二人の間には何の障害もないはずなのだ。坂田が教え子であった頃ならいざ知らず、
小学校教師が大学生と交際することを咎められる謂われはないのだから。
だというのにあの堅物め……まあ、その真面目さが先生のいい所なんだけどさ。
などということを思いつつ、坂田は何かと理由を付けては土方の自宅へ出向いていった。
あわよくば「五ヶ月」の約束を有耶無耶にして既成事実を作ってしまおうと。
十月。
「誕生日プレゼントはイチゴのいっぱい乗ったケーキがいいな〜」
「……もらえるといいな」
「大丈夫大丈夫、受け取りに来るから。十日は平日だもんね〜」
「……ここに来ても無駄だからな」
「じゃあ一緒に買いに行く?校門で待ってるよ」
「……不審者通報されても知らねェぞ」
「先生が早く来てくれれば問題なし」
「……運動会の準備があるから早くは上がれねェ」
「俺も手伝うよ」
「手伝えるかアホ」
「はいはい……じゃあケーキは来年もらうとして、今年は先生をいただく感じでよろしく」
「……ケーキ、お前ん家に郵送してやるからその日は家にいろ」
「え〜……」
誕生日デートとまではいかなかったけれど、誕生日プレゼントの獲得には成功。滑り出しは上々。
後日、プレゼントのお礼と称して坂田は夕飯を作りに訪れるのだった。
十一月。
「せんせ「学芸会の準備で忙しいから無理だ」
「まだ何も言ってないだろ!」
「はいはい……何だ?」
「紅葉がきれいな季節だね。温泉でも行かない?」
「行かない」
「あ、温泉は嫌い?じゃあネズミーランドに「行かない」
「遊園地も嫌?じゃあ映画を「見ない」
「映画も見ない派か〜……」
「あのなァ坂田……」
「出掛けるの好きじゃない?それならDVD借りて見ようよ。先生の好きなのでいいから」
「分かった分かった……」
初めに大きなものを強請っておいて徐々に要求を小さくする作戦で、お家デートに成功。
二人でレンタルDVD屋へ行き、土方の好きなヤクザものと、流行りの映画のDVDを何枚か
借りた。最近の子どもの好みを知りたいとか何とか尤もらしいことを言えば、教師を目指す身
としての評価も上がるというもの。
当然ながら何本もの映画を一日で見終わるはずもなく、初めて「お泊り」を許可された。
……残念なことに、本当にただ泊ることしか許されなかったけれど。
十二月。
「終業式の日って先生も早く帰れるんだろ?」
「……ウチは二期制だから終業式はねェよ」
「あっそうなんだ。けど冬休み前日だからそんなに忙しくないよな?」
「いい加減にしろ坂田……」
「えっ、何が?」
「クリスマスの約束、取り付けようとしてんだろ」
「バレたか……プレゼントは先生でお願いしまーす」
「サンタは子どもの所にしか来ねェんだよ」
「プレゼント交換なら大人でもOK!先生には坂田くんをプレゼントするからさっ」
「……クリスマスケーキ買ってやるから、マヨネーズ持って来い」
「はーい」
無事、二人きりのクリスマスパーティーに成功したわけだが……やはりこの日もキスの一つも
させてもらえなかった。手を握ったり肩を抱いたりするのは拒まれないのだが、それ以上のことを
しようとすると、調子に乗るなと額をぺしり。そこに土方の「一線」があるらしい。
一月。
「あけましておめでとー!はい、年賀状」
「……年賀状はポストに出すもんだぞ」
「書くの遅れちゃって……元旦に届かなかったら悪いから直接配達」
「そうかよ……」
「今年もよろしくお願いしまーす」
「はいはい、よろしくな」
「本当によろしくね」
「早ェよ」
あけましておめでたいテンションに任せてキスを試みたが避けられた。
「あと一ヶ月くらい待ちやがれ」
「あと一ヶ月くらいだからもういいじゃねーか」
「ならあと三ヶ月に延ばすか?」
「ウソウソごめんごめん。来月まで待てばいいんでしょ、待てば」
決してブレないところも大好きなのだけれど、そろそろ絆されてくれてもいいではないか。
もうほとんど付き合ってると言ってもいい状態だと思う。会いに行くのは坂田からだけではある
ものの、最近は土方の方からもいつなら家に来てよいか教えてくれる。頻繁に泊りに来るからと
坂田用の布団も買ってくれた。それなのに「一線」が越えられない……
二月一日。
遂にこの日がやって来た。待ちに待った――いや、待たされてしまった二月。坂田は逸る気持ちを
抑えきれず、朝一番で土方の部屋の呼び鈴を押した。現在、午前五時より少し前。
寝巻姿の土方が出てきて、こんな時間に非常識だと苦言を呈する。外は未だ街灯の灯る薄暗さ。
土方は辛うじて眼鏡をかけているものの、目は殆ど開いておらず髪もボサボサ。
こんなに隙だらけの先生は押し倒されるのが似合いそうだ……
ひとまず、おはようございますと殊更丁寧に挨拶をして本題へ。
「二月になったよ先生!」
「…………再来週の木曜にまた来てくれ」
「ちょっ!」
無情にも閉じられようとするドアに足を入れて食い下がる。ここまで待ったのだからもう待つのは
嫌だ。本当はここまでだって待つつもりはなかったのに先生が……
「にーがーつ!」
「それは分かってる」
「じゃあ部屋に入れて。ついでにチ○コも入れ……」
「何のついでだエロガキ」
「いてっ」
ドアの隙間からぺしっと頭を叩き、中へ戻っていく。坂田の足の分だけドアは開いたまま……
部屋には入っていいということなのだと解釈して土方の後を追った。
六時になったら起こせ――言いながら眼鏡を外し、ベッドへ潜り込む土方。
その後も追って坂田もベッドの中へ。
「おい……」
「六時だよね?分かってる」
土方を後ろから抱き締めて坂田は目を閉じた。
* * * * *
「ハッ!」
次に坂田が目覚めた時、既に愛しい温もりは消えていた。携帯電話で確認した時刻はもう昼近く。
今日は金曜だから学校へ行ってしまったのだろう。折角の初夜(朝だが)なのにつれないな。
だが、そんなクールな所も先生の魅力だとベッドから下りて坂田はリビングへ。
「マジでか……」
リビングの座卓の上には付箋の付いた鍵が一つ。その付箋には「やる」の二文字。
正確にいうと、五ヶ月にはまだ日が足りない。けれど何となく、二月になったらという雰囲気に
なっていたから、今日は返事がもらえる日だと、正式なお付き合いが始まる日だと、確信しては
いたけれど、合鍵まで用意してくれているとは思わなかった。
予想以上に愛されていたと喜び震える手で鍵を取り、坂田は交際初日お祝いディナーの買い出しに
出掛けていった。
* * * * *
「おかえりなさぁい!お風呂にする?ご飯にする?それとも、オ・レ?」
「…………」
フリル付きのピンクのエプロンを身に付け、どこぞの新妻よろしく出迎えた坂田に若干引きつつも
ここまで待たせたのだから仕方がないとも思う。
メシで、と簡潔に伝えて玄関を上がる土方。坂田は鼻歌交じりにキッチンへ引き返した。
「何でだよ!」
食事を終え、別々にだが入浴も済ませ、さていよいよという時に土方がまたしても待ったを
掛けたのだ。そういうことをするのはもう少し先だと。これには当然坂田が猛抗議をする。
ベッドの横に敷かれた布団を無視し、土方のベッドに上がった。
「二月になったじゃねーか!」
「だっだが、一日に返事をするとは言ってないだろ」
「これが返事じゃねーのかよ!」
付箋の付いたままの鍵を土方に突き付ける坂田は今にも泣き出しそう。合鍵まで渡しておいて、
手料理も食べておいて、泊ってもいいと言っておいて、清い関係を続けるなんて有り得ない!
結局のところ、先生にとって自分はそういう存在にはなれないということか……
「ご、誤解するなよ?俺はもう、お前とそういう関係になる決心はついてる」
「じゃあ何で一緒に寝ちゃダメなんだよ!」
「そっそういうことをするのは……まだ早いというか……」
「俺、もう就職も決まったんだけど」
「それは、知ってる」
坂田は四月から、とある私立の中高一貫校の国語教師に内定している。
「もう俺、ただの学生じゃねーよ?言うなれば先生のタマゴよ?」
「分かってるって。……つーか、学生だからとかそういう意味じゃねーよ」
「じゃあどういう意味だ!」
一歩も引かない坂田にハァと息を吐く土方。まあ、その、あー……できれば言わずにいたかったと
前置いて、頬を掻きつつ視線を逸らせて「お前の夢を叶えてやりたい」と言った。
「俺の、夢……?」
「……作文に、書いただろ。俺が、バレンタインにプロポーズしたって……」
「あ……」
今朝、土方が言った「再来週の木曜日」とは二月十四日、バレンタインデーの日。
坂田一人の努力では叶えきれない夢に協力しようと、土方も耐えてきたのだった。
恥ずかしいのか斜め下を向いたままの土方の前に正座し、坂田は深々と頭を下げる。
「すいまっせーん!」
「さっさかた……」
「俺、俺……先生のこと疑ってました!本当にすいまっせーん!」
「いいって。何の説明もせず拒んだ俺も悪かったんだ」
頭を上げろと言われても坂田はシーツに額を付けたまま。
「先生は俺のこと好きじゃないのかなとか、見た目若いけどオッサンだから性欲ないのかなとか、
掘られるの怖いのかなとか、なら俺が掘られる方でいいのになとか、でも掘りたいなとか……」
「おい……」
次第に謝罪でなくなっていく坂田の言葉に、今度は別の意味で頭を上げろと言う。
上がった瞬間に殴ろうと拳を握っていることを察知したのか、坂田は土下座の体勢のままで
後退り、器用にベッドの下へ飛び降りた。そして自分の布団に潜り込む。
「十四日まで我慢します。おやすみなさーい!」
「てめっ……」
枕元の目覚まし時計を坂田の布団に投げ付けて、土方も自分のベッドで眠りに就いた。
* * * * *
二月十四日、午前零時十五分。坂田は笑顔で土方の家のチャイムを押した。
「こんばんはー!」
「お前な……」
何の連絡も無しにやってきた坂田。二週間前のことを思えば、約束などせずとも朝一にはここへ
来るだろうとは予想していたがこうきたか……すっかり寝る仕度を整えていた土方はそれでも
ちゃんと準備をしておいたから、ちょっと待ってろと告げてキッチンへ。冷蔵庫から赤い包装紙で
ラッピングされた十センチ四方ほどの箱を五つ持って戻って来た。
「デカイのなかったからいっぱい買っといた」
「ありがとう!」
バレンタインチョコを両手で受け取って、顔を綻ばせる坂田。
「……指輪は、サイズが分かんなかったから今度な」
「本当に、ありがとう……」
「あー……その、なんだ……」
「先生?」
土方の視線が、渡した箱と床とを行ったり来たり。ふうと息を吐いて大きく吸って、息を止め、
きっと睨むように坂田を見詰める。
「結婚しよう」
「先生……」
それは十年前、坂田少年が作文に書いたとおりの夢の台詞。もちろん返事は……
「はぶっ!?」
するまえに口を塞がれた。唇で、などというロマンチックなものではない。
手の平で、叩かんばかりに塞がれたのだ。プロポーズで頬を染めていたはずの土方が、悪戯っ子の
ごとくニッと笑う。
「返事はホワイトデーだろ?来月、マヨネーズ持って来いよ?」
「いやいやいやいやいや……」
用は済んだと踵を返す土方を慌てて追って坂田も寝室へ。
「泊ってくなら自分で布団敷けよ」
「いやいやいやいやいやいや……」
今夜こそ先生と一緒に寝る――色んな意味で寝てやる意気込みで来たというのにあんまりだ。
もらったチョコレートは一旦デスクの上に置かせてもらい、コートとマフラーを脱ぎ捨て
土方の潜り込んだベッドの中へ。背を向けて横になる土方を後ろから抱える。
「せーんせー」
「冷てェよ」
真冬の真夜中に外から来た坂田の手は寝巻の上からでも分かるくらい冷えていた。
「せんせ〜」
温めてよとでも言いたげに抱える腕に力を込める。
「風呂、入って来い」
「先生!」
今の「先生」は抗議の表れ。
「俺、先生と結婚できるなら、シチュエーションとかどうでもいいんですけど……」
「俺はお前の夢を叶えてやりてェ」
「それは嬉しいんだけどさァ……つーか、結婚するのって四月じゃなかった!?」
「ああ、そうだな。運命の日、だったか?」
「まさかそれまでオアズケってことはないよね?」
「教師の身で婚前交渉なんてふしだらな真似は……」
「いやいやいやいやいやいや……今時そんなの流行らないからね?結婚を前提にしなくったって
ヤることヤってるからね、みんな…………あれ?」
ここで坂田はあることに気付く。土方が拘っている、自分が子ども時代に書いた作文は結婚に
ついての夢。一方、今自分が土方としたいのは結婚せずともできることだ。
「先生、俺と付き合って下さい」
「夢を諦めるな」
「プロポーズの返事は来月するよ。でもフツー、その前にお付き合いしてるもんだろ」
「……そう、だな」
「つーことで、俺と付き合って下さい」
「……はい」
返事をした瞬間、土方の視界がぐるりと回った。仰向けに倒されたのだと気付いた時にはもう、
坂田が上に乗っていて顔が近付いてきていた。
ナツメ球ひとつに照らされた部屋で眼鏡もないと、人の顔などほぼ判別不可能。
こういう時は大抵、坂田が教え子だった頃の姿に「見えて」しまい罪悪感に苛まれていた。
けれど今夜は違った。
「んっ……」
唇が重なると土方は坂田の背に腕を回す。逞しくなった背中は小学生に錯覚しようがなく、
頬に添えられた幾分かさつく大きな手も同じく。
いつまでも合わせるだけのキスに焦れて土方は舌を伸ばした。驚いた坂田は反射的に顔を
上げようとして、背中の腕に阻まれる。こんな風に積極的に出られるとは思ってもみなかった。
これまで、手を握るのも肩を抱くのも坂田から。今だって大人しく押し倒されていた。あの作文が
なければプロポーズだってしてくれなかったに違いない。
元教え子だから遠慮しているのかそういう性格なのかは分からないが、とにかく土方はいつも
受け身だった。
その土方が、自分から舌を坂田の口内へ伸ばしている。しかも、
「んうっ……!」
非常に気持ちが良い。
土方の舌が触れたところから溶けるような、痺れるような、そんな感覚。坂田は無意識のうちに
枕に縋っていた。心臓がフル稼働で血液を送り出し、それは身体の中央へ集まっていく。
「はっ!」
このままではヤバイと強引に口付けから逃れる坂田。思いもよらぬキスで体力を削られ、
肩で息をしながら見下ろせば、唾液に濡れた唇に視線が釘付けになる。
「先、生……エロすぎ……」
「お前から仕掛けてきたんじゃねーか」
身体を起こすと土方は坂田のベルトに手を掛けた。
「ちょっ……自分で脱ぐから!先生も自分の脱いでて!」
「はいはい……」
少しペースを乱されただけで慌てふためく姿に思わずぷっと笑いが漏れる。坂田にも聞こえて
いたらしく、けれど言い返す材料もないから、舌打ちだけして終わった。
「お前、可愛いな」
「は、はっはあ!?ななな何言ってんだよ!年下ナメんな!」
褒めたのだと言ってやれば、ガキ扱いしやがってと頬を膨らませる。そういう所が可愛いのだ。
ついでに、自分で脱ぐと言いながらパンツだけは脱げない所も可愛いと思う。既に全裸の土方を
ちらちらと見つつ、下着のゴムに指を掛けたまま強がりを言うだけ。
躊躇う理由はソコにコンプレックスでも持っているのか、キスしただけで完勃ち状態なのが
恥ずかしいのか……何にしても可愛いことには違いない。
四つん這いで一歩――何をするのかと膝立ちの体勢で固まっている坂田のトランクスを引っ張り、
飛び出してきたモノをぱくりと咥えてやった。
「えええええええ!……う、あ……くっ……」
驚きの声を上げたのは最初だけ。先走りとともに啜られて、坂田は一気に込み上げる。
このままではヤバイ――キスの最中にも思ったが、今回は更にヤバイ。マジヤバイ。どのくらい
ヤバイかというとマジヤバイ。
そんな、懐かしのフレーズを唱えてみたところで何も好転しないくらいにヤバイ。
生意気言ってすいません先生には到底敵いませんもう夜中に来ません押し倒しません――頭の中を
瞬時に謝罪の言葉達が躍る。
「せんっ……!」
しかしそれが発せられることはなかった。
根元を指のリングで絞られて、放出寸前の性感が強制的に止められたのだ。
くちゅりと音を立てて口から一物を外し、ゆっくりと全体を舐め上げる……今しがたより緩い
刺激に坂田の呼吸が落ち着いてくれば、土方は徐々にリングを解いていく。
一旦座らせて、と坂田が胡座をかいてから再び一物は咥えられた。
「あ、んっ……っ!」
達しそうになれば根元をきゅっと握られて、その波が僅かに引けば新たな快感に晒される――
三度も繰り返されてはもう、気持ち良過ぎて辛いくらい。
「せん、せ……いか、せ……」
「んっ」
喉の奥まで咥えたまま短く返事をして、土方は唇を窄めて吸い上げた。
「っ……ああっ!!」
ビクビクと全身を痙攣させながら坂田が口内に精を放つと、土方はそれを手の平に吐き出して
やや後ろに下がり、膝を立てて大きく足を開く。
「ちょっとそこで見てろ」
「はへ?」
土方は精液塗れの指を自らの後孔へ。
見せ付けながら自らの秘所を解す様に目が離せない。正座して膝の上で拳を握り、食い入るように
見詰める坂田。服を脱いだ先生がこんなにエロかったなんて……。婚約者候補となって五ヶ月、
家での先生は学校にいる時よりも少し口が悪いだけでその他は同じ。クールと言えば聞こえはいい
けれど一見冷たそう。それでいて教育に――ひいては己の人生に――熱い志を持っていて、
妥協なんて絶対にしない。そんなストイックな先生がこんなに……
「ハッ……ん、っ……」
指を二本に増やし、淫靡な水音を意図的にたてつつちらりと坂田へ視線を送る。その視線に
射竦められて坂田は呼吸すらも止められた気がした。蛇に睨まれた蛙……いや、俎上の魚か――
見てろと言われるがまま、本当に見ていることしかできなくなっていた。
「坂田……」
「は、はいっ!」
甘さの乗る声で名前を呼ばれ、息を吹き返した坂田。これまで「止まって」いたのを取り戻すかの
ごとく脈も呼吸も早い。気付けば、土方の口内で果てたはずのモノは完全回復を遂げていた。
二本の指先を埋めたまま土方はその指を開く。
「こ、こに……」
「はいいいいいっ!」
土方に飛び付いて押し倒し、その最奥目指し一気に己の欲を突き立てた。
「うぁっ!」
「あっ!!」
直後、土方の脚を抱えたまま項垂れた坂田。
「ごめん、なさい……」
中の感触で事態を悟った土方は、抱えられた脚を坂田の腰へ巻き付けた。
「抜くなよ?」
「え、でも俺……」
「もう一回くらいヤれんだろ?若いんだから」
言い終わらぬうちに土方の内部が蠕動を始める。
「あ、うわ……」
「……ヤれるな?」
「うん……」
この状況で「できない」などと言えるヤツがいたらお目にかかりたいくらいだ。もっと欲しいと
ばかりに下から見詰めて――まあ実際、碌に与えられていないのだけれど――高揚した表情で
後孔を蠢かせる土方は、ギャップ萌えなんてレベルじゃない。もはや別人レベル。
坂田のモノは瞬く間に土方のナカいっぱいに膨れ上がった。
「は、あ……やればできるじゃねーか」
「……先生がいいからですかねー」
先生に褒められて微妙な気分になったのは初めてだ。行為を始めてからというもの、主導権を
握れたのは押し倒す時のみ……いやいやこれからだ。これからが本当の本番だ!
土方の脚を抱え直し、坂田は自らを奮起させつつ腰を入れる。
「んっ……」
まずは軽く揺するようにして様子見。
「はあっ……」
心地好さげに息を吐く土方に大丈夫そうだと判断し、坂田は次の行動に出る。
ずるずると一物を引き抜き、雁首が入口に差し掛かるところで一旦止め、また根元まで埋める。
「ん、ぁ……」
腹側の快楽点を出っ張りが通過すれば、土方からあえかな喘ぎが漏れた。
今度はその辺りを丁寧に行き来する。
「んっ……あ、あっ……」
土方の乱れる姿に煽られて、坂田は感じる所ばかりを突いた。
「あっ、あっ、あっ……」
己と交わり啼く愛しい人――視覚も聴覚も触覚も全て土方で埋めつくされる。
「さ、かた……」
それはもちろん土方も同じ。熱に浮かされた瞳で微笑みながら坂田を求めて腕を伸ばす。
坂田もそれに引き寄せられて上体を倒し、土方の鎖骨へ吸い付いた。
「んっ……」
肌に残る紅い痕。ひとつでは足りなくて、もうひとつ、またひとつと、腰を揺らしつつ土方の
身体に印を刻んでいく。
「あっ、んんっ……!」
「う……」
またしても内部が蠢きだし、坂田に得も言われぬ快感が与えられる。坂田を奮い勃たせたあの時と
異なり無意識に動いているようだ。感じている証なのかもしれないがこれはマズイ……危機感を
覚えた坂田はやや身体を起こし、土方のモノに触れた。
張り詰めて雫を零す一物は今にも達しそう。しかし、
「そこは……」
触れないでほしいと言う代わりにそっと坂田の手に自分の手を重ねる。
「もう少し、お前を感じていたいんだ……」
「っ……」
その言葉に危うく出そうになった。なんて爆弾を投下してくれるんだこの人は!服を脱ぐ時、
ちょっぴり照れただけの自分を可愛いと言っていたけれど、こんなふうにデレるだなんて、
アンタの方が何倍も可愛いじゃねェかコンチクショぉぉぉぉぉぉぉ!
むちゅっと唇に唇を押し付けて、坂田は律動を再開させる。
「あっ、あっ、あっ!」
もう我慢できないが我慢するしかない。
先生より早く出ませんように出ませんように出ませんように出ませんように……祈りながら土方を
抱き締めて坂田は腰を振った。
「あぁっ……!」
「んんっ!」
土方の中が一際大きくうねり、坂田のモノを締め付ける。
そして、
「っ……くっ!もうっ、ごめんなさいっっっ!!」
「ああぁっ!!」
坂田は土方の中へ再び精を放った。
その直後、自身の腹の下に粘液が放出されて、土方も達したのだと悟る。
「さかた……」
「はっはい」
「気持ち良かったぞ」
「先生ー!」
どうにか及第点はもらえたようで、坂田はぎゅうぎゅうと土方を抱き締めた。土方も坂田へと
確り腕を回し、そのふわふわな髪を撫でながら目を閉じた。
* * * * *
「先生。先生!」
「ん〜……?」
快い疲労感に微睡む土方は、坂田に呼ばれて浮上していく意識と戦っていた。
そっとしといてくれよ。眠いんだ俺は。久々にヤって疲れてんだ。若いお前と一緒にすんな……
何とか眠ってしまえないかと目を開けずに抵抗を試みるも、相手も諦める様子がない。
遂に根負けした土方は眉間に皺を寄せつつ薄らと目を開けた。
「ンだよ……」
「俺、もう一回くらいヤれるから」
「……間に合ってます」
起きるんじゃなかった……先程より固く目を閉じた土方を起こそうと坂田は肩を掴んで揺する。
「もう一回くらいヤれるんですけどー」
「間に合ってるんですけどー……」
目を閉じたまま返事をしてるというのに坂田は折れない。
「もう一回ィィ!」
無駄に元気だなァおい。早くてごめんなさいと悄気てた可愛いアイツはどこ行った……
「疲れた。眠い」
とても素直に気持ちを伝えたというのに、坂田は横になっていればいいからと布団を剥ぐ始末。
「おい……」
「では失礼しまーす……」
土方の脚の間に踞り、萎えた一物をぱくりと銜えた。
こうなれば仕方がない。今日まで我慢させてしまったのだから、あと一回なら付き合ってやろう。
ていうか、俺はいいからさっさと突っ込めよ……
半分寝ているような状態で土方のモノはなかなか育たない。もう大丈夫だから入れていいと
言うため首を傾けて足元を見た土方は、坂田が自分の後ろを解しているのに気付いた。
「んっ、んっ、んっ……」
正確には、土方の視力でその様子が見えたわけではない。
感じ入った声と行方不明の右手―左手は土方のモノを支えている感触がある―からそう思ったに
すぎないが、おそらくそれで合っているだろう。でなければあんなにヤりたがっていた坂田が
いつまでも勃ち上がりきらない土方自身に一所懸命舌を這わせたりはしないはず。
そうか、坂田も「こっち」がいいのか……土方は一度目を閉じてからパッと開いた。
少し、眠気が覚めたように思う。
そのためか坂田の努力の賜物か、土方のモノは直に真上を向いた。
「ハァ、ハァ……」
興奮した様子で土方のモノを見下ろしてから、坂田はその上に跨がり腰を下ろしていく。
「あ、ハァッ……気持ちいいっ……」
根元まで銜え込んですぐ、坂田は腰を揺らし始めた。土方の身体を挟むように両手をつき、
腰を浮かせては落としを繰り返す。
「あ、あ、あ、あ……」
ふと、自身が入れた際の蠕動を思い出した。あれをすれば先生もとても気持ちがいいに違いない。
さっきの仕返しだ……早くイカせてやる!
「ね、先生……ナカ動かすの、どうやんの?」
元教え子の特権を活かして可愛く教えを請うてみたのに、
「俺はもう、お前の先生じゃないんで」
企みがバレていたのかあっさり見捨てられてしまう坂田であった。
「俺、先生にもっと気持ち良くなってもらいたいんだ……」
「結構です」
教え子でなくとも、と寂しがりやで生意気な可愛い年下の男の子ぶってみたがそれも即座に却下。
やはりバレているらしい。
「ンだよチクショー……こうなったら自力で編み出してやる!」
「がんばれー……」
全く感情の篭らぬ応援に坂田は意地でもやってやると息巻く。
括約筋を締めたり緩めたりは簡単にできるけれどそれだけでは足りない。土方の内部はもっと
奥の方からうにうにと動いていた。
そういえば……
「んっ、んっ、んっ……」
坂田は自分のモノをゆっくり扱いてみる。土方が感じていた時も、進んで動かしている様子は
ないのに蠢いていたから。
「っ……」
その読みは当たったらしく、土方の眉が切なげに寄った。
坂田自身、己のナカ全部で土方のモノを包み込んでいる感覚に陥る。
「へ、へ……気持ちいい?」
悔しそうに舌打って、それでも土方は気持ちいいと言ってくれた。
自分が不本意な結果に終わった腹癒せのつもりで始めたものの、相手が感じてくれるのは素直に
喜ばしく、坂田は更に早く自らを擦り上げる。
「あっヤベ……これ、諸刃の剣……」
当然、自身も強い快感を得ることになるが、今更もう止められない止まらない。
「あんっ、あんんっ……!」
一物を扱きながら腰を振り、坂田は絶頂向かってまっしぐら。
「あん……イク、イクぅぅぅ!」
「ハッ……坂田……」
坂田の腿に手を添えて、土方はずんっと下から突き上げた。
「あああぁぁぁぁっ!!」
「くっ!!」
叫ぶように喘いで坂田は達し、土方もその中に精を吐き出した。
* * * * *
「……先生ごめん。明日も学校なのに……」
「いや……」
ティッシュで拭ける箇所だけ拭いて、一つのベッドに並んで仰向ける二人。謝る坂田に土方は
その必要はないと言う。何だかんだで自分もノッてしまった。「初夜」なのだから仕方ない。
けれど、全て出し切って冷静になれば本当にこれで良かったのかと不安になる。坂田はこれから
社会へ羽ばたく身。その大事な人生を自分などに捧げさせて良いのかと。
「本当に、俺でいいのか?」
「え?」
自分はもう、坂田なしに生きるなど考えられないというのにこんなことを聞いてしまうのは、
先に生まれた者としての責任感ゆえ。
「その返事は、来月にしよっかな……」
そう言って坂田は布団の中で土方の手を探り当て、指を絡めて握った。
来月にはホワイトデーがある。
坂田少年の作文によると、ホワイトデーは「いいよ」と言ってマヨネーズを渡す日だ。
こうして二人は末永く幸せに暮らしましたとさ。
終わり
(13.04.05)
参加したWEB企画のテーマが「夢・妄想・空想」というのを見た瞬間、
坂田くんの作文「将来の夢」が思い浮かびまして、この機にちゃんとくっ付けてみました。
←仮想プチオンリーという企画なのでサークルカットと表紙もあります。
白梅の写真は自分で撮りました^^ ※画像クリックで拡大
土方先生が脱いだらすごいのは、私の勝手な脳内設定です。
ここまでお読み下さりありがとうございました。
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