土方は頭がいい。付き合ってみて「真選組の頭脳」ってのは伊達じゃないなと思ったもんだ。
がむしゃらに剣を振って生きてきたと言っていたが、組織のナンバー2を務めるには強さだけでは
難しいはずだ。武家の出でもなければ江戸出身でもねェ土方が上京して、警察組織を率いるには
相当の勉強が必要だったに違いない。
トップが、野生の勘だけで生きてるゴリラだから特に大変だったんじゃねェかな?

そんなわけで、土方は頭がいい。
頭はいいんだけど……バカだ。結構なバカだ。
沖田くんに色々やられてる時点でヌけてる所があるんだろうなって思ってたし、マヨネーズバカで
あることは誰もが知っていることだろう。けどな……思った以上にバカなんだよ、土方は。
今だって……


恋人達の朝


「銀時、お前もやるか?」
「やらね……」

ここは俺ん家。現在、時刻は五時……朝の五時だ。
土方は昨日の晩にウチに来て、そのまま泊まった。そこはまぁ、普通だよ。
そんで、恋人の家に泊まった土方が早朝から何をしてるかと言うと……乾布摩擦だ。

な?バカだろ?

冬至も近いこの時季、朝の五時なんてまだ暗い。しかも非常に寒い。そんな、人が活動するには
最も適していない時間帯に、窓を開け、着物の上半身を肌蹴て、乾布摩擦。

バカとしか言いようがねェだろ?

なにコイツ?元気とかいうレベルじゃねぇよ……。神楽がお泊り会とかでいねぇから、昨夜は
結構激しかったよ?俺なんかあと五時間は寝たいね!寝たいけど、部屋が寒過ぎて布団被っても
全然温まらねェんだよ!
そんな俺の思いに気付きもせず、昨日、俺がつけたキスマークだらけの身体を惜しげもなく晒して
―まあ、見てるの俺しかいないけど―白い息を吐き出しながら乾布摩擦をする土方。

「土方、寒ぃ。」
「一緒にやろうぜ。温まるぞ。」
「違ぇ。窓開けてるから寒いんだよ。」
「寒い時は乾布摩擦がいいぞ。」
「…………」

ほら、バカだろ?

持ち前の頭の良さで、日本語の日常会話は覚えたみたいだが、バカだから時と場に応じた
受け答えができねェんだ。
この場合、「寒い」つったら「窓閉めろ」ってことだろ?乾布摩擦は最初に断ったからね。
ていうか、毎回毎回断り続けてるからね!

そう、土方は毎回こんなバカなことをしてるんだ。
乾布摩擦に始まり、腕立て腹筋背筋……屯所ではこの後に素振りらしいが、ウチではできないので
また腕立て腹筋背筋……。毎朝の日課らしい。

そりゃあね、日々の鍛練が大切なのは分かるよ。でもさァ、ウチ来た時くらい休んでもよくね?
せめて帰ってからにするとかさァ……。なのにバカだから、毎日同じ時間に鍛練してんだよ。
恋人のウチに来たら夜更かしと朝寝坊がセットだろ?夜の疲れが残る気怠い体でゴロゴロまったり
ってのが正しい過ごし方だと思うよ、俺は。


最初に見た時はマジで驚いたね!初めてん時はウチじゃなくて宿だったんだけど……



*  *  *  *  *



(あれ……?)

土方と初めて宿に泊まった日。
寝返りをうつと隣にあるはずの温もりがないことに気付き、俺は目を覚ました。
つっても、前夜のイロイロでまだ疲れてるから、目は開けずに意識が浮上してる程度だけどな。

土方は……先に帰ったわけじゃねェな。なんかハァハァ聞こえるし……。何だ?ヤり足りなくて
一人でヌいてんのか?初めてのお泊まりだからって、お互い結構張り切っちゃったと思ってたん
だけどなァ。若いねぇ……

そんな盛ってる土方くんをこっそり見て後々辱めてやろうと、俺はできる限り音を立てないように
して体を起こした。

「……何やってんの?」
「ハッ……おは、よう……ハッ、ハッ……」
「お、おはよー……」

土方は絨毯敷きの床の上で膝を立てて仰向けに寝て、手を頭の後ろで組んで上体を起こすという、
どう見ても腹筋運動にしか見えないことをやっていた。

「なあ、何してんの?」
「筋トレ。」
「あ、そう……」

先程答えてもらえなかった質問をもう一度してみたら、見たまんまの答えが返ってきた。
その間も土方は上体を起こしたり倒したり起こしたり倒したり……腹筋運動を続けている。
あっ、終った……と思ったら今度は俯せて背筋を鍛えだした。

えっ……何で?何で筋トレ?ここって、大人のカップルがいちゃいちゃするための宿だよね?
ていうか俺達、昨夜はここでいちゃいちゃしましたよねェ?何で朝起きたら、相方が筋トレ
してるんですかねェェェ!?

「あ、あのさ……何で筋トレしてんの?」
「あ?……侍として、日々鍛練、すんのは、ハァ……当然、だろ……」
「そ、そーだね……」

全っっっ然、分かんねェ!そりゃそーなんだけどさ……トレーニングは必要だと思うけどさ……
今ここでやんなきゃダメなの!?しかもこんな朝っぱらから……って、今何時だよ……

「はあぁぁぁぁ!?」

部屋に設置してある時計は五時半を指していて、俺は思わず叫んじまった。だってそうだろ?
仕事でもねーのにこんな早く起きることなんてねぇよ。それなのに土方は、

「ど、した……万事屋?お前も、やるか?」

やる気になったから大声出したと勘違いしたのか、筋トレに誘ってきた。

「やらねーよ!つーか、今五時半だぞ、五時半!」
「フー……五時半がどうかしたか?」

土方は漸く筋トレを止め、額の汗を手の甲で拭って冷蔵庫から水を取り出し、ボトルに口をつけて
喉を潤す。見てくれがいいだけに、こんな何気ない動作も様になるんだよなとか若干見惚れて
しまった自分がムカつく……今はそれどころじゃないんだって!

「何でこんな朝早くから筋トレしてんだよ。」
「仕事前しか鍛練の時間は取れないからな。」
「……今日、仕事あんのか?」
「今日はオフだ。だから泊まったんじゃねーか。」
「じゃあ、何で筋トレしてんの?」
「仕事の日だけ鍛えても意味ねェだろ?こういうのは毎日の積み重ねだからな。」
「えっと……毎日やってるから今日もやってるってこと?」
「そうだ。」
「いつもこの時間にやってるから、今日も早起きしたと……」
「ああ。……そんなに早起きか?」
「早ェよ!!」

何コイツ?筋トレバカ?土方ってこんなキャラだっけ?もっとこう……スマートなイケメンキャラ
じゃなかったっけ?実は体育会系なのか?ムサイ野郎共といるからこうなったのか?

「真選組って、皆そんな感じなわけ?」
「いや……俺は指導しなきゃなんねェ立場だから、自分の鍛練の時間は自ずと決まってくる。」
「あー、そう……。で?もう終った?」
「普段はこの後素振りをしているんだがここでは無理だからなァ……」
「じゃあ、走り込みでも行っとけ……」

筋トレバカは放っておいて寝よう。そう思って走り込みを提案したのに土方のヤツ、

「デート中に別行動なんてできるか。……よしっ、筋トレをもう一セットやっておこう。」

一応デートしてる自覚はあるようで、ここを出る気はないらしい。バカだな……
仕方ない……俺も目が冴えちまったし、ちょっと付き合ってやろう。
既に腕立てを始めている土方を、ベッドの端で寝そべって眺めつつ適当に回数を数えてみた。

「いーち、にーい、さーん……」

二十くらいまでは数えてたんだけど、そっから先は記憶にねぇ。いつの間にか寝ちまったようで、
次に気付いたのは、宿を出る時間だと土方に起こされた時だった。



*  *  *  *  *



……ってなわけで今に至るんだ。やっぱ、最初にガツンと言えなかったのが失敗だったよな……。
あん時はさァ……驚いてツッコミきれなかったってのもあるけど、付き合って日も浅かったから、
ちょっとね、ちょっとだけなんだけど、クソ真面目に筋トレしてる土方が可愛く見えてね……
ちょっとだけだぞ!本当にちょっとだけだから!

まぁそんな感じで容認しちまったっつーか、数かぞえて、協力的っぽい態度とっちまったっつーか……
しっ仕方ないだろ!銀さんだって若いんだから、若気の至りみたいなのもあるんだよ!
恋は盲目なんだよ文句あんのかコノヤロー!!


「銀時、風呂借りるぜ。」
「どーぞ。」

俺が一頻り恥ずかしい暴露を終えた頃、土方は鍛練が終ったようで窓を閉めて風呂場に向かった。
このクソ寒い中でも土方は汗ばんでいて、漸く昇り始めた太陽に照らされて光っていた。
こん時の土方は、キラキラトーンを背負ってるように見える。ムカつくことに汗までイケメンだ。
真選組の連中は毎日これが見られんのか……。
でもアイツらは「夜の運動」してる土方は見られないだろ?朝の鍛練で汗ばむ土方は確かに
男前だけど、夜の運動で汗ばむ土方はそれにエロさが加わってるからね。
エロカッコイイってやつ?……まあ、そんな土方を見ていいのは俺だけだけどなっ。

……ああ、寝惚けてるせいで大分余計なことを言っちまったな。違うぞ。別に普段からこんな事を
考えてるわけじゃなくて、今はすげー眠いから上手く頭が働かなくてよ……冒頭で言ったように、
この話の目的は、土方が如何にバカか皆に分かってもらうことだから。

それにしても寒いな……。
窓は閉まったから新たな冷気は入ってこないものの、既に冷え切った空気は、俺からも布団からも
熱を奪い続けている。くそっ、やっと二度寝の環境が整ったってのに寒くて眠れる気がしねェ。
諦めて朝メシでも作ろうかと思ったが、時刻はまだ六時過ぎ。
休みの日にこんな早くから活動したくねェ。もっとダラダラしてェ。意地でも惰眠を貪ってやる!


こうして俺がゴロゴロすることに闘志を燃やしている最中、土方が肩に手拭引っ掛けて風呂場から
戻って来た。一人だけほこほこしやがって!
でもこの時季風呂場も寒ィからなぁ……コイツみたいに筋トレバカじゃねェと、シャワー浴びても
余計に冷えるだけだし……

「土方、寒い。」
「だからテメーも一緒にっていつも言ってんだろ……」

言いながら土方が布団に入って来る。おお、あったけェ……俺は土方に抱き付いて暖をとった。

「ンとに冷てェな……」
「足なんかすげぇよ。ほら……」
「おわっ!」

俺の冷たい足先を土方の足にくっ付けてやったら、土方は短く叫んで足だけ俺から遠ざけた。

「へっ……逃がすかよ。」
「うおっ!冷てェって……やめろっ。」
「いやだねー。えいっ!」

土方が足を離せば、俺がまたくっ付けて、また離してくっ付けて……
狭い布団の中、しかも上半身はしっかり抱き合ってるもんだから大して逃げ場なんてねェ。
でも次第に逃げたり追いかけたりが面倒になって終了。その頃には俺の体も大分温まっていた。
ああ、念願の二度寝までもうすぐだ……俺は襲ってきた睡魔に任せて瞼を閉じた。

「……銀時、また寝るのか?」
「うん。……お前も寝たら?」
「そうするか……」
「おやすみ〜。」
「おやすみ。」

空がすっかり明るくなった頃、こうして二人で再び眠るのもすっかり習慣になっちまった。
土方は頭がいいけどバカで、一緒にいると疲れることもあるけど、こういう関係は嫌いじゃねェ。
結局、俺もバカなんだよ。今が一番幸せ、とか寒いことを考えちまうくらいにバカなんだ。
いいんだよ、バカはバカのまんまで。


じゃ、おやすみなさーい。

(11.11.28)


10万打記念リクより「できればまったり仲良しな感じで、男前×男前の攻め同士っぽい話」でした。「エロはあってもなくても」とのことだったので、

あるような無いような感じにしました(笑)。まったり仲良しはともかく、「男前」なんですかね^^; いや、銀さんも土方さんもそこにいるだけで男前だ!

……そんなこと言ったらリクエストの意味がないですね。一応ですね……「攻め同士」というのがウチの小説に一番欠けているところだと思ったので

攻めでも受け受けしい土方さんの男前度を上げなければと思ったんですよ。そこで行き付いたのが「寒さに負けず筋トレ」でした^^;

こんな話になりましたがリクエスト下さった日野原緋乃様のみお持ち帰り可なので、よろしければどうぞ。そして、もしかしたら日野原様のサイトに

掲載していただけるかもしれないと思い、小説のタイトルを「お題そのまま」でなくしました。自分で考えていないタイトルのまま他のサイトマスター様に

差し上げるのはいかがなものかと思いまして。まあ、大したタイトルじゃありませんけど。

ここまでお読みくださりありがとうございました。

 

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