※一応、第四百一訓のネタが入っていますのでご注意ください。
※「ネタ」と言っても一部の台詞が使われているだけで内容のネタばれはありません。
大丈夫な方はどうぞ↓
「今日は遅くなるから、寝る前にちゃんと戸締まりしとけよ」
「はいよ〜」
日が落ちて、飲みに出掛けるという銀さんを僕と神楽ちゃんでお見送り。
「今日も土方さんですか?」
「ああ」
最近、銀さんは土方さんと仲がいい。出会った頃から考えると信じられないことだけれど、
それなりに年月を重ねて互いに丸くなったってところかな?
「奢りだからって飲み過ぎちゃダメですよ」
「わーってるよ」
このところ全く依頼がなかったから、銀さんは禁酒・禁パチンコ生活を送っていた。
にもかかわらず飲みに行くということは奢ってもらうということだ。超節約生活中の銀さんを
見兼ねて土方さんが誘ってくれたのだろうか?
万事屋の仕事は嫌いじゃないけど、こんな時は安定した収入には憧れちゃうな。
「あっそうだ、今度アイツ連れて来ていいか?」
「土方さんをここに、ですか?」
「やっと紹介する気になったアルか」
「は?」
友達を連れて来るのにわざわざ僕らに了解を得るなんて珍しいなと思っていたら、
神楽ちゃんが溜め息混じりにおかしなことを言った。紹介?それじゃあまるで……
「紹介?何言ってんだ?俺ァたまにはメシでも作ってやるかと思っただけだぞ?
……何度も奢ってもらってるからな」
「そういうことでしたか。じゃあ僕らも一緒にお持て成ししますよ……ねっ、神楽ちゃん?」
「銀ちゃんのカレシだからな」
「えっ!」
彼氏!?今、彼氏って言った!?嘘っ……銀さんと土方さんてそういう関係だったの!?
「おいおい、神楽……お前、何か勘違いしてねーか?土方は単なる飲み友達だぞ」
あ、違うのか……
「でも銀ちゃんがわざわざ約束して会うの、トッシーだけヨ」
「それはアイツの仕事が忙しいから……空いてるかどうか確認してるだけだって」
「二人が腕組んで歩いてるの見たって姐御も言ってたネ」
「ん〜?そんなことしたか……?酔ったのを支えてたんじゃねーの?」
「……本当にカレシじゃないアルか?」
「ああ」
神楽ちゃんは疑いの眼差しを向けるけれど、銀さんの表情は変わらない。
やっぱり神楽ちゃん(と姉上)の勘違いみたいだ。そうだよな……そもそも、銀さんも土方さんも
ソッチ系だなんて聞いたことないし。
「なぁーんだ、つまんないアル。銀ちゃんのカレシなら私にもご飯奢ってもらえると思ったのに」
「残念でしたァ」
「ハハッ……じゃあ銀さん、土方さんが来る日にち決まったら教えて下さい」
「おう。じゃあ、行ってくる」
「行ってらっしゃい」
「友達でも家に来るならお土産は必要だって言っておくネ」
「はいはい……」
銀さんは神楽ちゃんの頭を軽く撫でてから出掛けていった。
友情と愛情の間
半月ほど経って、今夜は土方さんが万事屋に来る日。
あれからそれなりに依頼も入って重くなった財布を手に、三人で買い出しに。
銀さんはマヨネーズを買うかどうかで暫く迷っていたみたいだけど、結局一本買った。
家に戻ってからは銀さんが料理、僕と神楽ちゃんで居間と和室の掃除をして、
約束の時間ぴったりに土方さんはやって来た。
「いらっしゃい」
「いつも銀さんがお世話になってます」
「いいもん持って来たアルな」
土方さんの持ってる和菓子屋の紙袋を目敏く見付けた神楽ちゃん。
「失礼だよ神楽ちゃん」
「いいって……ほらよ」
神楽ちゃんに紙袋を渡し、土方さんは草履を脱ぐ。
「銀ちゃんこれ、並ばないと買えないお店でしょ?」
「違ぇよ。ここは一見さんお断りの店。さっすが幕臣。ありがとね〜」
「いや……」
「ご飯もうできてるヨ」
現金な神楽ちゃんは笑顔で土方さんを居間まで案内した。
「「「いっただっきまーす!」」」
「いただきます……」
今夜のメニューは天ぷらとざる蕎麦と冷奴、それに土方さんが持って来てくれた白玉あんみつ。
長イスの一方に銀さんと土方さん、もう一方に僕と神楽ちゃんが座って夕食開始。
テンションの高い「いただきます」に、やや居心地悪そうにしていた土方さんだけど、
銀さんがマヨネーズを差し出したらそんなの気にならなくなったみたいでホッとした。
「カロリーハーフか!いいとこついてるな」
「だろ?今日は昨日に比べて蒸すからハーフの気分かなって……クォーターと迷ったんだけどな」
「いや、今夜はハーフがベストだ。お前もかけるか?」
「いらねーよ」
「ハハハ……」
マヨネーズ談議に花を咲かせる二人に僕は開いた口が塞がらなかった。
買い出しの時に銀さんが迷っていたのはどのマヨネーズにするかだったのか……
ていうか、気候によって合うマヨネーズが違うの?しかも銀さんはその違いが分かるの?
仲がいいのは知っていたけど、こんな感じだったとは……横目で神楽ちゃんの様子を伺うと、
珍しく箸を止めて二人を見ていた。やはり意外なのだろう。
「明日って、仕事?」
「いや」
「じゃあ泊まってけよ。寝巻き貸してやるから」
「いいのか?」
「銀さん、あの……予備の布団、この前定春が粗相しちゃって処分したばかりですけど……」
「あー、そうだった。まっ、一組ありゃ何とか寝られんだろ。枕は無事だしな」
「そうだな」
えっ……二人で一つの布団に寝るの?普通の一人用布団に?いくら仲良くても流石にそれは
どうなんだろう。もしかして、神楽ちゃんの勘違いが勘違いじゃなかったんじゃ……
神楽ちゃんも同じことを思ったようで、蕎麦をすすりつつボソッと言った。
「いちゃつくならホテルに行けヨ」
「は?オメーまだそのネタ引き摺ってんのか?」
「おい、どういうことだ?」
「何でか分かんねェんだけどよ……神楽は俺とお前が付き合ってると思ってんだよ」
「あー……総悟からも同じこと言われたな」
「マジでか!」
「ああ。何でそう見えるのかさっぱり分かんねェんだがな……」
「若いヤツの感覚に付いていけないって……もう年かね、俺ら」
今の二人を見たらそう思われるのも仕方ないと思うんだけどな……
「なあ、どの辺がそう見えるんだ?」
「一緒の布団で寝るとか言ってるからネ」
「それは布団がないから仕方なくだろ」
「でっでも、普通は一人がソファで寝るとかするんじゃないですか?」
二人がどういう友達付き合いをしようと二人の勝手ではあるけれど、一般的な距離感を
分かってもらわないと目のやり場に困る。
「……じゃあ土方、一人で布団使う?」
「お前の布団なんだから俺がソファで寝るって」
「土方は『お客さん』なんだから布団使えよ」
「お前の家なんだからお前が使えよ」
「いやいやお前が……」
「いやいやお前が……」
「あー、もう分かったアル!一緒に寝ればいいネ」
譲り合いを続ける二人にとうとう神楽ちゃんが折れた。
「何だよ急にキレて……」
「二人があまりにも仲良しだから戸惑ってるんですよ。ねっ、神楽ちゃん?」
「そうネ。昔はいつもケンカしてたアル」
「あー、そうだったな……」
「何でケンカしたんだっけ?」
「大した理由じゃねーよ。お前の頭がくるくるだから、とか……」
「そうそう……お前の前髪がV字だから、とかね」
「って、そんなケンカしてねーよ」
「ハハハハ……」
「ハハハハ……」
談笑する二人を前に、僕と神楽ちゃんの笑顔は引き攣っていた。
仲良しなのはいいことのはずだけど、この二人に関してはそれがとても不自然に見えてしまう。
その後も会話の弾む二人とは反対に、僕と神楽ちゃんは口数少なく食事を続けた。
* * * * *
「う゛〜……」
しばらくして、酔いの回った銀さんは唸りながら土方さんの肩へ凭れ掛かった。
土方さんは銀さんの膝に片手を置いて、とても心配そうだ。
「大丈夫か?」
「らめ〜……」
「吐くか?」
「はかない〜ねむい〜くるし〜……」
「……とりあえず、水持って来るから待ってろ」
土方さんは銀さんを背凭れに預けて台所へ向かおうとしている。でも、水くらいなら僕が
持って来よう!友達というには親密過ぎる二人から置いてきぼりにされていた僕達だけれど、
銀さんが辛そうにしていればやっぱり心配になる。
だから……
「土方さん、あの……」
「らめ……」
僕が行きますと言う前に、銀さんが土方さんの着物の裾を掴んで止めた。
「万事屋?」
「らめ。ひいからくんは、ここ」
ぽんぽんとイスを叩き、自分の隣に座れと訴える銀さん。仕方ないなとでも言うように
土方さんがそこへ腰を下ろせば、銀さんは待ってましたとばかりにその肩へ自分の頭を預けた。
「あー……いいとこに肩つけてんね〜……」
「おい、具合は大丈夫なのか?」
何だろう……この、心配して損したみたいな気持ち。
「ホントさぁ……おめーによっかかってっと、らくだよなー」
「……体格が似てるからだろ」
「あ〜……う〜……」
「寝るなら布団に行けよ」
「あるけな〜い。つれてって〜」
「分かった分かった」
銀さんは土方さんに覆いかぶさるというか抱き着くというか……とにかく更にくっつきだして、
だけど土方さんも嫌そうじゃなくて、むしろ母親のように優しく……いや、父親のように
頼もしい感じかな?まあ、そんな風に銀さんの世話を焼いている。
「すまんが隣に布団敷いてくれるか?」
「……あっ、はい」
土方さんから声が掛かったことにビックリして返事が遅れてしまった。二人の世界に入っていて
僕らのことなんか見えてないと思ったから……その辺はカップルと違うってことかな?
言われた通り隣の和室に布団を敷くと、土方さんが銀さんをそこまで運んで寝かせた。
それが所謂お姫様抱っこときたもんだから、僕と神楽ちゃんは目配せして二人きりにして
あげることを決めた。というか、そうでもしないと見てはいけないものを目撃しそうで……
仲良きことは美しきとは言うけれど、ものには限度があると悟ったある夏の夜の出来事。
(12.07.14)
「友情と愛情の間」ですから、友達以上恋人未満の二人を書いてみました。この二人は本当に友達同士です。が、最後に残ったお題「今更友達にはもどれない」に
続きます!そちらは18禁です(多分)。今月中にアップします(予定)。
それから、この話で漸く銀さんの「らめ〜」が書けました(笑)。土方さんは前に銀土で書いたので。……土方さんというか、銀さんの妄想上の土方さんですけど^^;
ここまでお読みくださり、ありがとうございました。
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