おまけ
「パー子」としての生活が四週間を超えたある朝、銀時は酷い倦怠感と共に目覚めた。
(うー…何でこんなにダルいんだ?昨日は酒なんか飲んでねェぞ…。つーか苦しっ!死ぬって!)
銀時は寝巻き(体が縮んでいるため新八から借りている)の帯を解く。
そしてあることに気付き、着ているものを脱ぎ捨てた。
「うおぉぉぉっ!!(ついに戻った!)」
裸になって自分の体を確認した銀時は雄叫びを上げる。
それはまさに「雄」叫びと呼ぶに相応しい低音であった。
坂本から贈られた薬を飲み、女性になって約一ヶ月。銀時は遂に元の姿を取り戻したのだ。
「銀ちゃん、何騒いでるネ!」
「あっ…」
「あっ…」
早朝からうるさい銀時を咎めようと、同居人のチャイナ娘が襖を開けた。
少女が見たのは全裸の銀時。
二人はショックで硬直してしまう。
そこへ、新八がやって来た。
「おはようござい……って、何やってるんですか!…あっ、銀さん元に戻ったんですね?」
「お、おう…」
一瞬、銀時が変態行為を働いていると思った新八だったが、すぐに昨日までの銀時は女性だったと気付く。
新八の登場で我に返った銀時は布団に包まって体を隠した。
* * * * *
「いやー…元に戻って良かったですね」
「まあな」
およそ一ヶ月ぶりに、いつもの服に銀時は袖を通した。
「男でも女でも銀ちゃんはダメ人間だったネ。それなら汚れたバベルの塔がない銀ちゃんの方がマシだったヨ」
「何言ってんの!?銀さんのアレは超貴重な…」
「あー、はいはい。良かったですね」
「じゃあ今日は銀ちゃんのバベル復活記念でご馳走アルな!?きゃっほ〜!!」
銀時が戻ったことに託けて神楽は自らの食欲を満たすつもりらしい。
「あ、あのよー…喜んでるトコ悪ィんだけど、今日は、その…」
「どうしたんですか?もしかして…急に戻ったから体が辛いんですか?」
「いや、そうじゃなくて、その…」
「何ネ?言いたいことがあるならハッキリ言うアル!」
「ちょっと、その、用事があって…」
「用事?依頼ですか?」
「その…元に戻ったら、会う約束してるっつーか…」
銀時はイスに腰掛けたまま体を前後に揺すり、ソワソワと落ち着きがない。
その様子と「会う約束」という言葉で、新八も神楽も何となく分かった。
「土方さんですか?」
「あ、そのー…」
「マヨに戻ったとこ、見せたいアルな?」
「まあ…そんなところ、デス」
「仕方ないアルな…。じゃあ、ご馳走は今度にするネ」
「わ、悪ィな」
「じゃあ僕は帰りますね…来たばかりですけど」
「私も行くアル。…この時間ならアネゴ、帰って来てるでしょ?」
「うん。一緒に行こう」
「ホント、すんませんね…」
「いいですよ」
「今日は特別ネ」
新八と神楽は朝食もとらずに万事屋を出て志村家へ向かった。
二人を見送ってから、銀時は受話器を手に取り、一旦深呼吸する。
実は、最初に女性の姿で会って以来、土方とは一度も会っていない。
土方の携帯電話番号をダイヤルすると数回コール音が鳴り、電話が繋がった。
「も、もしもし?」
『ああ、どうした?』
「あのさ…今、忙しい?」
『そうでもねェが…お前、もしかして戻ったのか?』
「えっ!そうだけど…よく分かったね」
『声が、いつも通りだ』
「ああ、そうか…」
『…今から会えるか?』
「うん。あの…新八も神楽もウチにいねェから…」
『分かった。すぐそっちに向かう』
「うん」
通話を終えてからも、銀時は落ち着くことができず、意味もなく廊下を行ったり来たりしていた。
(おおおお落ち着け、俺…土方がここに来るなんて珍しくも何ともねェじゃねーか。
そりゃ一ヶ月近く会ってないけど…仕事が忙しくてそれ以上会わなかったことだって何度もあるし…
あああ…でも、やっぱり緊張する!だってさ…俺、土方とエッチするんだぜ?…いや、土方とのエッチは
もう何回かなんて分かんないくらいしてるけど…でも、今土方は女で…そんな土方とエッチしたことなんて
当然あるわけなく…でも、土方が元に戻るためには俺の精液が…)
銀時は事務所のテーブルの周りをぐるぐると回っている。
(ああああ!もうやめだっ!土方を元に戻す方法がアレしかない以上、それができるのは俺だけだ!
考えたって仕方ねェ!土方だってそのつもりで来るんだし…ヤるしかねェ!…………でも…)
ピンポーン
「!?」
銀時の決意が固まり切る前に万事屋の呼び鈴が鳴った。銀時は緊張の面持ちで玄関に向かう。
「いっいらっしゃい…」
「よう…本当に戻ったんだな」
「うん。…あっ、どうぞ」
扉を開ける直前、もしかしたら土方も薬の効果がなくなっているのではないかと微かな希望を抱いた銀時であったが
やはり土方は髪の長い女性の姿のままであった。
銀時は土方を中へ招き入れ、扉を閉め、そして鍵をかけた。土方は何も言わず、草履を脱いでいる。
「…なんか、縮んでねェ?」
並んでみると銀時の目線の高さには土方の頭頂部があった。
土方は視線を斜め上に向けて銀時と視線を合わせる。
「あ?この前と変わんねェよ」
「でもさァ…」
「…この前はテメーも縮んでたからだろ」
「あっ、そうかァ…」
「…風呂、借りるぞ」
「えっ………あ、うん」
土方は玄関から直接浴室に向かう。
それを見届けてから、銀時は敷きっぱなしの布団を整えようと和室へ向かった。
(うー…どうしよう。来ていきなり風呂って…早速なの!?こういうのはもっとムードとかさァ…
いや、元に戻るためにするんだから、そういうのはいらないか。…そうだよ!
これは薬の効果を消すための手段であって、愛の営み的なもんではなく…人工呼吸的な?そんなんだよ。
そう。だから俺は速やかに行わなくてはならないワケで、躊躇ってる暇はなく……)
自分に言い聞かせるように色々と考えてはいるものの、それでもなかなか女性の土方を抱く決心が付かない。
銀時とて女性を抱いた経験はあるが、これまで男同士として肌を重ねてきた土方相手となれば話は別である。
(土方は嫌じゃねェのかな…。俺に、その…女の色んな部分を見られたり触られたりすんのって…。
まあ、元に戻るにはそれしかないから諦めてんのかな?)
そうこうしているうちに土方は浴室から出て和室へやって来た。
土方は視線を落とし、着物のすそをギュッと握って声を絞り出す。
「その…よっ、よろしく、頼む」
「土方…」
ぎこちない足取りで布団の上に正座した土方を見て、銀時は土方も決心が付いていないのだと悟る。
土方の両手を銀時が包み込むように握ると、土方の肩がビクッと震えた。
「あのさ…他の方法、探してみない?」
「お前、何言って…」
「土方だって、本当は嫌なんでしょ?その姿で俺に抱かれんの…」
「…お前も嫌なのか?」
「あ、いや、その…俺は嫌じゃないけど、でも、いつもの土方じゃないし、だから…」
「そうだよな…。俺ァ、自分のことしか考えてなかったが、オメーだってこんな女抱いても
楽しくもなんともねェよな…。悪ィ…」
「だから違うって!嫌じゃないけど、別の方法を試してみてもいいんじゃないかって…」
「戻る方法は一つ。これは確かなことだ」
土方はピシャリと言い放つ。
「本当にそれしかねェの?」
「ああ。…俺だってこの一ヶ月、黙って女やってたわけじゃねェ。色々と手を尽くして調べたんだ。
だが、どの文献を見ても『体内に精液を取り込む』としか…」
「そうなんだ…。あの、ごめんね。俺、女とヤるなんてすげェ久しぶりだから緊張してるだけで
今の土方が嫌なわけでは…」
「ありがとな。俺の方こそ往生際が悪くてすまん。頭では分かってるつもりなんだが…」
「土方、今からすんのはセックスじゃねェ。治療だ!」
「ち、りょう?」
「そう!土方は『毒』に侵されてその姿になった。だから解毒のために俺が『薬』を体内に……ん?体内?」
銀時は急に「体内、体内…」と呟き始めた。
「おい、一体どうしたって…」
「なァ土方…精液を取り込むのって、体内なの?胎内なの?」
「…はあ?」
活字を見ている皆様には、銀時の言わんとしていることが何となくお分かりいただけたと思うが、
音で聞いているだけの土方にはさっぱり理解できなかった。
「だからァ…『にんべんに本』の体内?それとも『月に台』の胎内?」
「あっ…そういうことか…」
「な?どっち?」
「…そういやあ、どの文献にもカラダの方の『体内』って表記だったな…」
「だったら!」
「まあ、無駄になるかもしれねェが…試してみる価値はある、か?」
「あると思う!」
「そうだな。ヤられるにしても、その前にできる限りのことはしておきてェ」
「じゃあ、えっと…」
「とりあえず、口で…か?」
「そう、だね」
銀時は前をくつろげて一物を取り出し、軽く握った。
「ちょっと待っててね」
「テメー、何するつもりだ?」
「何って…出さなきゃいけないから、その…」
「…俺がここにいんのに、テメーで扱いて勃たせる気か?ふざけんなよ」
「えっ、だってさァ…」
「俺が口でやるっつってんだ。おら、早く手ェどけろ」
「で、でも…」
「口でなら何度もしたことあんだろ?だから大丈夫だ」
「………」
そうは言っても今の土方は常より小柄で線も細い。
その土方に自分のモノを咥えさせるのは無体を強いているようで気が引けるのだ。
けれど、そんな弱者扱いが気に入らない土方は、強引に銀時の手を外して一物を咥え込んだ。
「ひじ…」
「ん…」
土方はまだ反応していない銀時のモノを根元まで咥え、裏筋に舌を這わせながらゆっくりと先端へ…
括れの部分に軽く歯を当て、またゆっくりと下へ…
「…っ!」
銀時に迷いがなくなったわけではないが、恋人に慣れた手付き(口付き?)で的確に刺激されれば
否応なしに反応してしまうのは、仕方のないことだろう。
「ハァッ…」
銀時から息が漏れるのを確認すると、土方は安心して口淫を施していく。
「ふっ、ん…」
銀時のモノを満遍なく唾液で濡らし、わざと音を立てて先走りと共に啜っていく。
「くっ、ハァ…」
完全に勃ち上がると全てを口に含むのが難しいため、土方は根元を手で、上部を口で刺激する。
「んっ、く…」
「今日は我慢しねェで出せよ」
「分かって、るっ…」
土方は根元を扱きながら、頭を上下に動かして銀時に射精を促す。
「ハァ、ハァ、ハァ…」
銀時の息が上がり、先走りが溢れ出す。
限界が近いと思った土方は、先端に舌先を捻じ込みながら一物をキツめに吸った。
「くっ、ん……あぁっ!!」
口内に発射された精液を、土方は余すことなく飲み込む。その様子を銀時もじっと見つめていた。
「………」
「………」
二人は黙って布団の上に座っている。
向かい合ってはいるが何となく目を合わせにくく、視線は斜め下を見ている。
銀時が意を決して口を開いた。
「あのっ…カラダ、どう?」
「…今のところ、何ともねェ」
「そっか…。でも、もう暫く待ってみる?」
「そう、だ……な…」
「土方!?」
土方は急に倒れ込み、銀時は慌てて受け止めた。
「土方、土方!」
銀時が揺すっても叩いても土方は目覚めない。
しかし、腕の中の土方が徐々に重みを増している気がして銀時はそっと布団の上に寝かせた。
(もしかして…戻ってる?)
少しの変化も見逃すまいと、銀時は土方を穴が開くほど見つめる。
(やっぱり、戻って来てる!)
体付きはそれほど変わらないように見えるが、髪は明らかに短くなっていた。
胸のあたりまで伸びていた髪が、今は肩のあたりまで短くなっている。
(良かった。…このまま全部、戻りますように)
銀時は祈りを込めて土方を見つめ続ける。
土方の髪は更に短くなり、身長は伸びているように思えた。
(そうだ。服…このままじゃ、苦しいよな)
銀時は今朝、自分が戻った時のことを思い出し、土方の帯を緩めた。
* * * * *
二時間後。ついに土方が目を開けた。
「んっ……あ?」
「土方!」
銀時に名を呼ばれ、土方はゆっくりと体を起こす。
「これ、は…」
「お前、戻ったんだよ!」
見慣れた姿になった土方の肩を銀時はバシバシと叩く。
「そうか…戻ったのか…」
「良かったな!」
「ああ。…世話ンなったな」
「気にすんなって。…あっ、お前さァ、着替えとか持ってる?」
「あっ…」
現在土方が着ている物は男性物の着物ではあるが、今の土方の丈には合っていない。
「とりあえず俺の服でいい?」
「ああ」
銀時はタンスを開けて白地に流線模様の着流しを取り出す。
「…ついでに、これも着る?」
銀時はいつも自分が着物の下に着ている黒の上下も出して土方に渡す。
「いや…着流しだけでいい」
「何だよー…ノリ悪いぞ。どうせならお揃いにしようぜ」
「お揃いってお前…」
「ちょっと着てみるくらいいいだろ?せっかく同じ体格なんだし…」
「いや、俺の方が若干細い」
「そんなことありませんー。動乱編の時お前の制服着たけどちゃんと入りましたー」
「…『入った』って言ってる時点で、ギリギリだとバラしてるようなもんだぞ」
「違うって言ってんだろ。いいからほら、俺の服着てみろ!それともオメー…マヨ腹で着られねェの?」
「誰がマヨ腹だ!見てろよ…」
土方は着ていた小さい着物を脱ぎ、銀時の黒の上下を着用した。
「見ろ。余裕じゃねーか」
銀時の黒い洋服を着た土方は、腰に手を当て得意げに立つ。
「はいはい…じゃあこれを着てー」
「おう」
土方が白の着流しを着ると、銀時は帯を渡し、次にベルトを渡す。
「帯とベルト、両方する必要あんのか?」
「いいの。…ベルトは少し緩めに巻くのがポイントだぞ」
「分かった分かった。……これでいいか?」
「うん。それで、こっちの袖を…」
銀時は土方の着流しの右腕だけを抜く。
それから少し離れて土方の全身を見、満足そうに頷いた。
「よしっ完璧」
「…片袖抜く意味あんのか?」
「いーの!…うんうん、なかなか似合ってるよ。俺には及ばねェけどね」
「そうかよ…」
「ついでに洞爺湖も持ってみるか?ほれ…」
銀時は愛刀を土方の手に握らせる。
土方はそれを振り上げて自分の肩をトントンと叩いた。
「…これで満足か?」
「うん。結構楽しいな、これ」
「そうか?」
「…こーゆーコトできんのって、土方が今の土方だからだよな?」
「どういうことだ?」
「ここ来た時みてェに女の子だったらさ、俺と同じガタイってわけにはいかねェじゃん」
「そうだな…。こんなゴツイ女は勘弁してほしいな」
「ハハッ、俺も。…でもさ、土方は嫌じゃないよ。ゴツくても男だから」
「…俺もだ」
「そっか…」
「ああ…」
その後、二人はお揃いの格好のまま万事屋でのんびりと過ごし、夕刻になってから土方は屯所に戻った。
もちろん、銀時の服を借りたままで。
男同士に後ろめたさを感じていた二人は、今回の件で漸く「男同士でよかったのかも」と思えるようになった。
(10.07.28)
本編に引き続き、女体化を全くもって活かせなくてすみません。実はこの「体内」と「胎内」の設定は土銀用に考えたものだったのですが…銀土でも女体化エロは無理でした^^;
というわけで攻受なしの「おまけ」となりました。今回の企画のように色んな設定で話を考えると、自分の向き不向きが分かりますね。…そういうのを分かった上で
きちんと書けるものをアップすればよいのでしょうが「今までないものに挑戦」がテーマなので、お許しください^^; きっと、この話の二人以上に管理人が「男同士で良かった」と思っています(笑)
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
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