おまけ
最近、読書と剣道の稽古以外にもう一つ俺が時間を割くものができた。それはパソコンだ。
今までもネットで土方十四郎関連の調べ物をすることはあったけど、自分専用のパソコンができてから
その回数が多くなった。
俺専用のパソコンは、親が夏のボーナスで買ってくれた。入学祝いに買ってやろうと思っていたそうだ。
俺ん家、ごく一般的な中流家庭だからね?こんな高額なもん、買ってもらったのなんて初めてだった。
余程、俺があの大学に入ったのが嬉しかったらしい。
まあ、そんなわけで便利なものを手に入れた俺は、本と並行してネットでも土方十四郎のことを調べている。
ネットだから信憑性に欠けるような情報も多いけど、地元の書店じゃ売っていないような本が手に入ったり
全国の真選組ファン達の熱い語り合いが見られたりとためになることも多いんだ。
図書館の本の予約もネットでできるしな。
そんなある日、変なサイトを見付けたんだ。
きっかけは「土方十四郎ファンサイトサーチ」という検索サイトだった。
そこは、色んなやつが作った土方十四郎関連のサイトが検索できるサイトで、土方十四郎のことなら何でも知りたい俺は
とりあえず、そこに登録してあるサイトを上から順に見ていった。
真選組の制服や土方十四郎のフィギュアを作ってるやつとか、攘夷浪士を捕まえるゲームを作ってるやつとか
真選組関連の史跡を巡って写真とレポート載せてるやつとか、ドラマと史実の違いを指摘してるやつとか
果ては、育成ペットに「十四郎」なんて名付けて飼ってるやつなんかもいた。
そんな感じで色んな土方十四郎ファンの活動を見ていくうちに、おかしなサイトに出会った。
そのサイトは、最初のページに「女性向け土方十四郎ファンサイトです」と書いてあった。
それ以外にも色々注意書きがあって、最後に「意味の分からない方は入室をご遠慮ください」とまで。
…女性向けってなんだ?土方十四郎ファンに女も男も関係ないだろ?
だいたい、ネットなんだから本当に女かどうかなんか分かんねェじゃねーか。
俺はそのサイトに入ってみた。
どうやらこのサイトは自作の小説を発表しているサイトらしい。ただよく分かんねェのは、小説のタイトルの横に
書いてある「近藤×土方」とか「土方×沖田」とかって文字だ。「近藤」も「沖田」も真選組のメンバーだから
小説に近藤や沖田が出てくるのだろうってことまでは分かる。だけど、その間のバツは何だ?
「近藤×土方」と「土方×近藤」って何か違うのか?対戦成績?先に名前がある方が勝ち、とか?…いや、違うな。
考えていてもサッパリ分からなかったので、俺は小説を読んでみることにした。
「……なに、これ?」
小説を読んだ俺は思わずパソコンの画面に向かって呟いた。
だって、土方十四郎が近藤や沖田と、その……いちゃいちゃしてる!!いちゃいちゃっつーか、エロエロっつーか
とにかく、そんな感じの話ばかりだった。なんだこれ…。えっ?真選組ってそういう感じの集まりだっけ?
ていうか土方十四郎って……いや、そんなはずはねェ。土方十四郎は女にモテモテで…でも、独身だったんだよな?
いや、それはきっと死と隣り合わせの仕事をしてるから、敢えて家族を作らなかったとかそんな理由で…
えっ?違うよね?ソッチ系だったから独身だったとかそんなんじゃないよね?
このサイトの小説が「創作」だってことは分かってる。でも、このサイト以外にもこんな感じの話を書いてるサイトが
結構たくさんあったんだ。もちろん、そうじゃないサイトもたくさんあった。同じ小説サイトでも
土方十四郎の日常生活とか、攘夷浪士との戦いとか、そんなのを題材にしたサイトだってあった。
どうやら「女性向け」ってのが、ソッチ系のことを指すらしい。世の中には男同士をくっ付けて楽しむやつらが
存在するのだということも分かった。真選組に限らず、漫画やゲームの登場人物とか芸能人とかを勝手に
カップルにして遊んでいるようだ。女性向け……怖ェな、おい。
その日はそれでパソコンをやめて、俺はベッドに寝転がって本を読むことにした。
今読んでるのは小説だ。…さっきみたいなヤツじゃねェよ。
一応史実に基づいてはいるけど、真選組活躍を影で支援していた人物がいるって設定のフィクションだ。
その人物は江戸で「何でも屋」を営んでいて、顔が広く色々な情報を持っているので真選組に協力するって話だ
。
しかもその男は腕っぷしも強くて、時に真選組と一緒に戦うんだ。
この話の何が気に入ったって、真選組と一般市民が一緒にいるってところだ。
前にも話したように、俺は例えあの時代に生きていたとしても真選組でやっていくのは無理だと思う。
でも土方十四郎とはお近付きになりたい…そんな夢をこの小説は叶えてくれるんだ。
この小説に出てくる「何でも屋」みたいなことなら俺にもできそうだ。
それで、重要な情報を持っている人物として土方十四郎と出会い、恋に堕ち………
違う違う違う!恋ってなんだよ!あー、くそっ。女性向けのせいで頭がおかしくなっちまった。
あんなモン読まなきゃよかった。確かに俺は土方十四郎が好きだけど、そういう「好き」じゃなくて
目標っつーか、理想っつーか、そんな感じであって、別にいちゃいちゃしたいとかは全然……
…思ってねェよ。うん、思ってない。裸が見たいとか触りたいとか触られたいとか、そんなことは全く思ってない!
思ってないはずなのに…なんでチ○コが勃ってんだよ!こっこれはアレだ!最近、ヌいてなかったから…
そう!ただ溜まってただけで、別に女性向けで興奮したワケじゃ…うん、違うから。
俺は栞を挟んで本を閉じ、大好きなお天気お姉さんの写真集を広げた。
* * * * *
…おかしい。全っ然、興奮しないんですけど…。
壁に背中を付けてベッドに座り、その前に写真集を広げていつものように扱いているが全く興奮しない。
勃ってるのは間違いないのに、それ以降が進まない。何でだよ…
「ハァー……っ!?」
写真集に落としていた視線を上げてみたら、下半身がズンと重くなった。視線の先には…土方十四郎のポスター。
…ちっ違うからね!たまたまタイミングが合っただけで、別にあのポスターに興奮したワケじゃ…うん。
だいたい、興奮するようなポスターじゃねェし。ただ座ってるだけだし…そもそも土方十四郎はそういう対象じゃねー
し…
俺は視線を写真集に戻して一人エッチを再開させた。
「ハァ、ハァ、ハァ…くそっ!」
やっぱり全然気持よくならねー。
俺は写真集で抜くことを諦めて布団に潜り込んだ。…こうでもしねェと、部屋に飾ってある土方十四郎グッズに
目が行って…いっいや、見るのはいいけど、集中できないからね!
「ハァ、ハァ…くっ!」
ヤバイ…視界をシャットアウトしたら良からぬ妄想が次々と…そりゃあ、ヌいてるんだからそういうコト考えるのは
普通だと思うよ?でもさァ………なんで、なんで俺と土方十四郎が全裸で抱き合ってんだよォォォ!!
「あっ、くっ…」
そんで、なんで俺はそんな妄想で興奮してんの!?違うって言ってんだろ!土方十四郎は違うんだって!
俺が必死で振り払おうとしても、妄想によって生み出された全裸の土方十四郎と俺は勝手にいちゃいちゃし始め
それに合わせて俺の手も動いてムスコを扱いていく。
「くっ…ハァ…」
脳内の二人がベロちゅーしてる。俺の舌も口の中でもごもご動いてキスしてる気分になってる…。
もう、どうにでもなれ…
「んっ、んっ、んっ…」
自分の妄想と戦うのも飽きたし、とりあえず早くヌいてスッキリしたいので、俺は考えるのを一時的に止めた。
「はぁ…んっ!はぁっ…」
片手で全体を扱きながら、もう片方の手で先っちょの窪みを刺激すると先走り液が漏れてくる。
なんか、脳内では土方十四郎が触ってくれてる気がするけど、気持ちいいからなんでもいいや…
「ふ、ぅん…あっ!」
先っちょを弄っていた手を扱いている手に重ねると、土方十四郎と一緒に扱いている錯覚に陥る。
「ぁ…はぁ、はぁ…んっ!」
もう、すこし…
「はぁ、はぁ、はぁ…」
土方…十四郎。土方…ひじ、かた…
『銀時…』
「―っ!!」
脳内の土方十四郎に名前を呼ばれて、俺はイッた。
イッたことで熱が治まると、自分がとんでもないことをしでかしたんだと一気に血の気が引いた。
俺…土方十四郎でヌいちまった。土方十四郎を汚すようなマネをしたというのもショックだけど、それ以上に…
男でヌけたことがショックだ。
俺ってソッチもいけたのか?というか、お天気お姉さんでヌけなかったってことは、完全にソッチ系!?
色んなことがショックで、それからは日課だった筋トレも読書もしなくなった。
* * * * *
約二ヶ月の長い夏休みを終えて、大学の後期が始まった。
全くやる気が出ねェ…。土方十四郎のことが知りたくて進学したってのに、今の俺にゃ歴史書がエロ本だ…。
だからといって、大学辞めて働く気もない。あー…どうすっかなァ…
欠伸をしながら構内に入ると、掲示板の前で俺は信じられない人物を目撃した。
土方十四郎…?
Gパンにパーカーという服装で、メガネをかけてはいるが、その人物は紛れもなく土方十四郎に見えた。
遂に俺の目がおかしくなったのかと何度か目を擦って見てみたが、やはり土方十四郎そっくりだ。
意を決して俺はその人物に話しかけてみた。
「あのっ…どちら様ですか?」
「は?」
「あ、すいません。知ってる人に、すごくよく似ているので…」
「はあ…」
「あっ、俺は史学科一年の坂田銀時です」
誰が聞いても不審人物全開な声のかけ方だったと思ったが、学生証を出して怪しい者じゃないことをアピールしてみた。
すると目の前の人物はちょっと笑って、自分の鞄から学生証を出した。
「法律学科二年の土方トシ」
「土方…もっ、もしかして、真選組の土方十四郎の子孫ですか!?」
「さあ?ジィさんはそう言ってるけど、戦争中に家が全部焼かれたみたいで何の記録も残ってないし
そもそも、土方十四郎は独身だったっていうし…」
「確かに…」
でも似てる。土方なんて珍しい名字だから、きっとどこかで土方十四郎とも繋がりがある人なんだと思う。
この人と、もっと仲良くなりたいな…。
「あのっ…今お時間ありますか?」
「は?」
土方さんは目を丸くした。俺、なんか変なこと聞いた?
「この時間に来てるってことは、一限あるんじゃねェのか?」
「あっ…」
そうだよ!今は朝イチの時間だよ!どうしよう…これでお別れ?
「昼、空いてるか?俺はいつも三号館の学食でメシ食ってるから…」
「じゃあ俺もそこに行きます!」
「ああ。…またな」
「はいっ」
その日から、日課の筋トレと読書が復活した。土方十四郎のことを考えてもムラムラしなくなったからだ。
その代わりに………っと、これはまだ秘密。
とにかく、これからの大学生活も楽しくなりそうだ。
(10.08.05)
一人エッチだけで終わらせようとも思ったのですが、少し切ない感じになってしまったので最後に土方さんを登場させました^^ これからの銀さんは現実の土方さんと
お近付きになるために、理想の男・土方十四郎を目指すことでしょう。「土方十四郎みたいにカッコイイ男になって、土方さんに告白するぞ!」とか思っています。
本の世界中心の生活だった銀さんも、漸く現実を生きる楽しさに気付けました。入学した頃と目的は違ってしまいましたが、銀さんは大学生活を満喫するみたいです。
ここまでお読み下さり、ありがとうございました。
追記:パラレル倉庫「その他」に、この話の続きを書きました。よろしければどうぞ。→★
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