自分が変われば相手も変わる〜土方視点〜


最初にアイツを見た時から気にはなっていた。
イケダヤで爆弾処理をしたアイツ、屋根の上の決闘で俺を負かしたアイツ―いつの間にか惚れていた。

いつも飄々としていて何を考えてるのか分からねェ、でも確かな芯を持っている。
本人の言う通りいざという時に煌めく瞳は、全てを見透かしているようにすら感じることがある。
平和な田舎でケンカ売って生きてきた俺とは違う、なにか大変な経験をしたのだということは分かる。
そんなアイツに、せめてこれからは笑って過ごしてほしいと思うのは俺のエゴでしかないのかもしれない。
それでも俺は、アイツの住んでるこの江戸を、俺に出来るやり方で護りたいと思った。


それなのに…ここぞという時、俺はアイツに護られてばかりいた。
俺だって江戸の平和を護るため―特にアイツの住むかぶき町で攘夷浪士の不穏な活動があれば即対処した。
だがアイツは、そんなことぐらいじゃ釣り合いがとれねェ程のことをいとも簡単にやってのける。
俺の魂が妖刀に食われかけた時、目の前にアイツがいて心の底から安堵した。
たとえ俺の魂が消えても、アイツなら真選組を護ってくれる―なぜか確信があった。

そしてアイツは、真選組だけでなく俺まで護ってくれた。

「くたばるなら大事なもんの傍らで剣振り回してくたばりやがれ!!それが土方十四郎 てめー だろーが!!」

心に響くとはこういうことを言うのだろう。
アイツの言葉は、意識の底に追いやられ消えようとしていた「俺」を浮上させた。

「万事屋ァァァァァァァ!!…てめーに一言言っておく!ありがとよォォォォォ!!」


俺は復活し、事態は収束した。アイツには何度礼を言っても足りない。
こうなると、江戸の平和を護るなんつー間接的な方法だけじゃ不充分だ。
俺が直接アイツを幸せにするしかないんじゃねェかと思うようになった。
ただ一つ問題があるとすれば、アイツが俺といて幸せだと感じるかどうかだ。

嫌われてはいないと思う。妖刀の時の報酬と称して、万事屋三人と食事に行くことがある。
ガキ共は俺といてもつまらないのか途中でいなくなるが、アイツは俺と二人になってもそこにいる。
巡回中に会っても、ガキ共は話しやすい総悟や山崎の所へ行くのに、アイツは俺といてくれる。
あまり気の利いた話はできねェが、今までのようなケンカ腰にだけはならないよう気を付けた。



*  *  *  *  *



「土方さん、明日は非番でしょう?今日くらい残業しねェで飲みにでも行ったらどうですかィ?」

唐突に総悟がそんなことを言い出した。

「俺が何しようと俺の勝手だろ…」
「上司のアンタがいつまでも仕事してると、部下の俺達は気になって休めないんでさァ」
「…オメーはいつだってサボってんだろ」
「俺は部下達が休みやすいように敢えてサボってるんでさァ。…というわけで土方さんも休んでくだせェ」
「お、おい待て…」

総悟は勝手に俺の机を片付ける。
ハァ…こうなった総悟は止められねェ。まあ別に急ぎの仕事はねェし、飲みに行くか。

着替えて玄関を出る際、再び総悟に呼び止められた。

「土方さん、今夜は帰ってこなくていいんで」
「はぁ?」
「帰って来たらまた仕事するしかねェでしょう?だったら朝まで飲んで来てくだせェ」
「ったく…何だって俺をそんなに追い出してェんだよ」
「働きすぎの上司へ休みのプレゼントでさァ。そうだ、三丁目の居酒屋なんてどうです?
あそこなら上が宿になってるから存分に飲めますぜ?」
「分かった分かった。行けばいいんだろ…」
「では、いってらっしゃーい」

あの様子じゃ、俺がただ飲んで帰ってきたら門を閉めてでも中へ入れないだろうな。
仕方ねェ、総悟の言うように三丁目の居酒屋へ行くか…。


*  *  *  *  *


「よっ、一人?」

居酒屋で飲んでいたらアイツがやって来て俺の隣に座った。
まさか総悟のヤツ、これを知ってて俺を屯所から追い出したのか?
総悟は俺が万事屋のことを好きだと知っている―というか気付かれた。
それならこれを利用しない手はねェ。
酔い潰れたフリをして万事屋を二階の宿へ誘おう。そんで適当な理由をつけて朝まで一緒に過ごそう。
作戦が決まり、俺は飲むペースを上げた。

作戦は完璧だった。…完璧だったのだが、メシも食わず急ピッチで飲んだ俺は本当に潰れてしまった。
目が覚めたら万事屋に引き摺られて店を出ていた。
しかも屯所まで送ってくれるという。…マズイ。このままコイツと戻ったら総悟に何言われるか分からねェ。
そうだ!コイツん家に泊めてもらおう!…あっ、でもガキもいるから迷惑だよな。

だがガキ共はいなかった。これならコイツん家に泊めてもらえるかもしれない。
屯所に帰らないつもりだったってことを言って、手土産さえ買っちまえばダメだとは言わねェはずだ。
ちょっと強引かもしれねェが、酔った末の行動ってことにすれば不自然さはないだろう。
…実際まだ酔いは覚めず足元がふらつく。コンビニに入ったはいいが、何を買ったかよく分からなかった。

それから万事屋とどんな話をしたのか全く覚えてない。気付いたら布団で寝ていた。
起き上がって厠へ行くと、次第に頭がスッキリしてきた。
このまま朝まで過ごすのも悪くはねェが、どうせなら一歩前に進んでみたい。
俺は寝惚けたフリをして万事屋の布団に潜り込んでみた

「ひひひ土方…ねっ寝惚けてんのか?おおおおめーの布団はアッチ…」

随分と動揺しているようだが、嫌がってはいないみたいだ。
アイツが布団から出ていこうとするので抱きついてみたら「ひぃっ!」と短い悲鳴を上げて固まっちまった。
何で固まる?心なしか顔が赤いような…横顔だからよく見えねェな。
万事屋と俺が呼ぶと面白いくらいに慌てた返事が返ってきた。思わずキスをするとまた固まった。

コイツの力なら俺を引き剥がすくらい簡単なことだ。それなのにキスまでされて黙ってる。
いける―俺は確信した。
もしダメだったとしても、今日のことは酔った勢いで忘れたことにしてまた口説き直せばいい。
俺は好きだと言ってもう一度万事屋にキスをした。


*  *  *  *  *


「お帰りなせェ、土方さん」
「総悟テメー、万事屋があの店に来ること知ってたんだな?」
「万事屋の旦那と会ったんで?それは良かったですねィ」
「ったく余計なことを…」

総悟のおかげで万事屋の家に泊まれたようなものだが、そこまで教えてやる義理はねェ。
俺は自室に戻り仕事の書類を取り出した。
正直言って昨日のことはあまり覚えていない。総悟の言う通り飲みに行ったらアイツと会って
家に泊めてもらったまでは覚えている。だがそれ以外に何かあったのか?朝になったら同じ布団で寝ていた。
隣に空の布団があったから、一応別々に寝ようとしたみたいだが…。

そういえば…俺がアイツの布団に入っていった気がする。
…アイツに抱きついてみた気もする。
キスも、した気がする。…二回くらい。
ていうか俺、アイツに告白しなかったか?したよな?したって!
じゃあ返事は?アイツ、何て返事したんだ?
聞いてないような…忘れてるだけじゃねェよな?こんだけ覚えてんだから忘れてるはずはねェ。
よしっ!次に会ったら聞こう。ここまでしたんだからイエス以外にねェだろ?


そんなことを考えているうちにアイツがここへ来て、また総悟が色々言ったのでアイツを誘い出す口実にさせてもらった。
もちろん返事はイエスだった。アイツはこういうことに慣れてないのか、真っ赤になってわたわたしてる。
こんな可愛い一面もあったんだな…知らなかったぜ。

こうして俺は万事屋と…いや、銀時と恋人同士になった。



*  *  *  *  *



銀時と恋人同士になって一つの問題が生じた。アイツに悪い所があるワケじゃねェ。
だがまさかアイツが、キスしたくらいで真っ赤になる可愛いアイツが…俺を抱くつもりだったとは!
確かにアイツだって男なんだから、抱きたい気持ちがあっても変ではない。
変ではないが…やはり銀時の口から「突っ込みたい」などと聞くと信じられない気分だ。

そのことが分かって以来、俺は銀時と繋がることを諦めた。
銀時に無理をさせてまで突っ込む気はないし、だからといって俺が下になる気もないからだ。
突っ込むことが目的で恋人になったわけではないし、突っ込まずとも銀時と触れ合うことはできる。
けれど銀時はそれで満足できなかったらしく、色々あったが結局交代でヤることに決まった。


そして俺が銀時を抱いてから二週間が経過した。実はあれから銀時と会っていない。
ケンカしたわけではない。たまに銀時から電話が来るし、俺から掛けることもある。
たまたま俺が銀時を抱いた翌日にテロが起き、仕事が忙しくなっただけだ。

…本当のことを言うと、二週間働き続けなければならないほど忙しくはなかった。
全く休めなかったのは最初の一日か二日で、それ以降は皆交代で休みを取れている。
近藤さんだってスナックすまいるに行けるようになった。
その代わりに俺が休みなく働いている…というワケではない。俺だって休もうと思えば休める。
ただ、休みとなれば銀時に会わなきゃならねェ。それが、ちょっとな……

銀時と会うのが嫌なわけじゃねェ。むしろ早くアイツと会いたいと思っている。
惚れた相手に会いたいと思うのは当然だろ?
だが…今度アイツに会う時は俺が抱かれる時なんだ。俺が、銀時に抱かれる……未だに決心がつかねェ。

自分のことながら往生際が悪いと思う。二週間前に俺に抱かれた銀時を心の底から尊敬する。
交代でヤるという約束を反故にするつもりは毛頭ない。
すまない銀時…必ず約束は守るから、もう少し…もう少しだけ時間をくれ。

*  *  *  *  *

「副長、お客です」
「客?」

俺が心の中で銀時に懺悔していると、山崎が客だと言う。
現在夜の十時過ぎ…こんな時間に一体誰だ?

「あのさァ、忙しいようなら出直してくるから…」
「ぎ、銀時!?」

なぜ銀時がここに…固まってしまった俺の代わりに山崎が銀時に話す。

「大丈夫ですよ。副長が休みなく仕事してくれたおかげで普段より早く処理が終わったんですから。
それで長官に褒められたんですよね、副長」
「あ、ああ…」
「副長ってば俺らがやる仕事まで引き受けて休ませてくれたんですよ。それも今日で終わりましたから。
局長もいい加減休んでほしいって言ってたし、旦那が来てくれて良かったです」
「あっそう?」
「それじゃあ副長、局長には俺から言っとくんで、明日まで旦那とゆっくり過ごして下さい」
「えっ、あ…」

笑顔で一礼して、山崎は部屋を出ていく。
そうなるともちろん部屋には銀時と俺の二人だけ……マズイ。
山崎は「明日まで」と言った。言ったからには銀時をこのまま一人で帰すことは出来ない。
そもそも明日が休みだと知った時点で、銀時も一人で帰るつもりはないはずだ。
どうすればいい?何か手立てはないか……

「なあ土方…」
「へぁ?」

考えがまとまらないうちに銀時が話しかけてきた。

「お前、メシ食ったか?」
「あ、ああ…」
「そっか。じゃあ、行こうぜ?」
「あ、ああ…」

どこに行くのか分からないが、断るわけにもいかず俺は銀時と屯所を出た。
メシの確認をしたから食事に行くわけじゃないよな…ってことは飲みにでも行くのか?
それなら有り難い。酔った勢いでならできるかもしれないし、無理そうなら酔い潰れて寝ちまおう。
…卑怯なのは分かってる。だがさっきも言ったように、俺にはもう少し時間が必要なんだ。


俺の計画はすぐに崩れた。俺達の目の前には一軒のラブホテル―二週間前、俺が銀時を抱いた場所だ。
コイツ、いきなりかァァァ!?ココは最終目的地だろ!?まずは飲みに行くとかするのが普通だろ!?
…そういやぁ二週間前もコイツは開口一番「ホテル行こうぜ?」って言ったな。
結果的にあん時は俺が抱く側だったが、コイツの予定では俺に指を突っ込むつもりだったらしい…。
そうだった…。コイツはやると決めたらセオリーなんか平気で無視するヤツだった…。
ホテルの前でつっ立ってるワケにもいかず、俺は銀時に手を引かれて中に入った。

マジで桂でも高杉でも誰でもいいから事件起こしてくんねェかな…。
それか、ガセでもいいからターミナル爆破予告とかねェかな…。
懐から携帯を取り出して眺めてみたが、緊急招集はなかった。
メールが一通届いていたので「もしや」と思って見てみたら、「足腰立たなくなるまでヤりまくって
俺に副長の座を譲りやがれ土方コノヤロー」という総悟からのメールだった。アイツ、帰ったらぶん殴る。

「土方どうした?携帯見つめちゃって…」
「あっ、悪ィ。総悟からのくだらねェメールだ」
「そっか。じゃあ風呂入ってこいよ。先に使っていいからさ」
「あ、ああ…」

銀時に背中を押されるようにして、俺は風呂場へ向かっていった。
もう後戻りはできねェ…いや、ココに入った時点で後戻りなんかできねェんだけどよ。
でも逃げてェ!士道不覚悟で切腹でもなんでもするから逃げてェ!
二週間前の俺のバカ!なんで交代でヤるなんて言ったんだ!なんで銀時抱いちまったんだ!
抱いちまったらもう、抱かれるしかねェじゃねーか!!


風呂から上がり、ホテルの浴衣に着替えて再び携帯を開いたが緊急招集はなかった。
銀時は俺と入れ違いに風呂場へ行った。
俺はベッドに近付く気になれず、部屋の隅で携帯を握りしめている。
往生際が悪すぎるぞ俺ェェェ!!
…自分にカツを入れてみたが無理なモンは無理だ。正直に言う…ヤられんのが怖ェ。

銀時、めちゃめちゃ痛がってたもんな…。平気だって言ってたが、明らかに平気そうじゃなかった。
でも次は自分が突っ込む番だと思えたから耐えられたんだろうな…。
そうだ!俺だって次は突っ込む番じゃねェか!大丈夫だ!そう考えれば耐えられる、はず…。

微妙に決心がついたところで銀時が風呂から出てきた。…腰にタオルだけ巻いて。
何で浴衣着てこねェんだよ!俺はこないだ着てただろーが!ダメだ…もう決心が鈍りそうだ。
そんな俺の胸中を知らない銀時はニコニコ笑って俺の手を取り、ベッドへ向かう。
…まるで、死刑台に上がる死刑囚の気分だ。


ベッドに辿り着いた途端、俺は銀時に押し倒された。



(10.02.08)


リバ連載の土方さん視点です。こういう時は土方さんの方がぐるぐる悩む気がします。 続きはもちろん18禁です