※「純情な二人もカブトムシを通して(以下略)」の続きです。
※また、純情シリーズ最初の「土方さんの片想い?」の話題が出てきます。
そちらをお読みになってからお進み下さい↓


純情な二匹と初めての危機


朝起きたら猫になっていた。
鏡を見て確認したワケじゃねェが、体や手足を見る限りまたあのブサイクな毛玉になっちまったようだ。
この際、ブサイクな所は目を瞑ろう。だけど何でこんな時に…。
俺は隣の布団を眺めた。隣には土方が眠っている。
今日は非番だと言うので、昨夜ウチで飲み、そのまま泊まっていったんだ。

隣の布団がもぞもぞと動く。土方が起きたんだ!どーしよう…何とか俺だって分かってもらう手はねェかな。
…といっても言葉は通じねェし、どーしたらいいんだ!

そんな俺の心配は稀有に終わった。土方に俺の言葉が通じると判明したからだ。
何故かって?…土方の布団から出てきたのは、一匹の黒猫だったからだ。

俺と違ってサラサラの毛は朝日を浴びてキラキラ光ってる。
すげェよアイツ。猫になってもサラツヤストレートだよ。

「おはよう土方」
「…っ!お前は…」

俺が声をかけたら土方は目を丸くした。
まあ無理もねェか。俺と違って土方は猫になるの初めてだもんな。

「あー、あのさァ土方…」
「ギン!お前、ギンだろ?」
「へっ?」

確かに俺は銀さんだけど…何で急に名前呼び?寝惚けてんのか?ちょっと、ドキドキすんじゃねェか。

「ギン、お前しゃべれたのか?普通の猫じゃなかったんだな…天人の猫か?」
「あ、いや…」
「急にいなくなったから心配したんだぞ。今は万事屋で飼われてんのか?」

あれっ?もしかして土方、自分も猫になってるコト気付いてない?
つーか忘れてたァァァ!!俺、前に猫化した時、土方に一晩世話になったんだった!
そーか、ギンってその時土方が付けてくれた名前だよ。
…ていうかヤバくね?俺があん時の猫だってバレたら、土方に関するアレコレを見たってバレるってことだろ!?
ヤバイヤバイヤバイヤバイ…!!

「おいギン、どうしたんだ?急に黙って……えっ?」

俺に手を差し伸べようとした土方は、自分の手が肉球になっていると気付いた。
両手を見つめた後で、顔と体をペタペタ触ったり、布団に隠れていた足を見たりして漸く事態を把握したらしい。

「これは一体…」
「やっと分かったか?俺達、猫になっちまったんだよ」
「俺達って…ギン、お前も人間だったのか?」
「あの…昨晩までは人間、でした」
「昨晩?…ま、まさかお前、坂…田?」
「うん」

土方は先程よりも一層目を丸くした。

「……前に、今の坂田そっくりな猫と会ったんだ。俺はソイツをギンと名付けたんだが
その猫は一晩でどこかに行っちまった。お前は…あの時のギンなのか?」
「…ごめんなさい」
「ギンなんだな?」

俺が首を縦に振ると、土方は「そうか」とだけ言って和室の襖を開けた。
ちなみに二足歩行をしている。

「ちょっ…どこ行くんだよ」
「…帰る」
「帰るって、そんな体で…」
「坂田…今までありがとう。楽しかった」
「えっ?」

土方はそこまで言うと玄関へ向かった。
…何か今の別れの言葉っぽくなかったか?
俺は急いで土方を追った。

「待ってくれ土方!」
「…っ!」

何とか玄関を出る前に追いついた俺は、土方の前に立ち塞がった。

「…そこをどけ」
「嫌だ!今までありがとうって何だよ!そんな別れ話みてェな…」
「もういいんだ…。俺はもう充分幸せな気分に浸れた。この思い出だけで生きていける」
「だから何で急に…」
「お前は…俺の気持ちを知って、それで付き合ってくれてたんだろ?
俺達が今の関係になったのはギンが現れた直後だったもんな…」
「そんなつもりじゃ…」
「お前が俺なんかに惚れるなんざ信じられなかった。でも、ギンがお前だったんなら納得できる。
俺に夢を見させてくれたんだろ?ありがとな」
「違う!そんなんじゃねェ」
「…じゃあ、前から俺に惚れてたとでも言うのかよ」
「そ、それは…そう、とは言えねェ、けど…」
「だろ?だったらもう…」
「で、でも、お前が言うようなつもりじゃねェ!あん時の猫化がキッカケなのは確かだ。
そん時までお前をそういう目で見てなかったのは認める」
「………」
「だけどお前の気持ち知って、諦めようとしてんのも知って、諦めるのは早いって思ったんだ。
実を言うと俺、告白するまで自分の気持ちに気付かなかった。でもそれは気付いてなかっただけで
告白する少し前…ギンになってお前に面倒見てもらったくらいから…す、すきになってなんだと思う」
「ンな都合のいい話が…」
「本当なんだって!」

土方はまだ信じてくれない。
無理もないか…俺は土方の秘密を盗み見たようなもんだ。
その直後に告白されたなんて知ったら誰だって信用できないよな。だけど俺は土方と別れたくねェんだ。
…ここはもう、照れてる場合じゃねェ。ちゃんと俺の気持ちを伝えるんだ!
俺は一旦目を瞑り、深呼吸してから言った。
ガラッ―

「愛してる!土方とずっと一緒にいたい!」

多分、今俺の顔は真っ赤になっているだろう。土方の顔も赤く…って、黒猫だから分かんねェか。
そういえば、なんかガラって音しなかったか?
俺が後ろを振り返ると、そこにはメガネを掛けた猫と、オレンジ色の猫。もしかしてコイツら…

「新八と…神楽?」
「そのもじゃもじゃは銀ちゃんアルか?」
「ダメだよ神楽ちゃん、邪魔しちゃ。珍しく銀さんがハッキリ言えたんだから」
「でもあんな大声で朝っぱらから『愛してる』なんて言ったら近所迷惑ネ」
「そうだけど…でも今は猫になってるから、普通の人には鳴き声にしか聞こえないよ」
「まあ、私達は同じ猫だから聞こえたけどナ」
「というワケで僕達行くんで、お二人ともごゆっくり続きをどうぞ…」
「猫のチ○コにはトゲが生えてるから、今日のところはヤらなくても許してやるヨ」

新八と神楽(猫の姿)は、また扉を閉めて行っちまった。
…土方はさっきから一言も話していない。

「あ、あの、土方…?」
「お前、大声でなんつーコトを…」
「だって、言わなきゃ信じてもらえねェと…。俺のこと、信じてくれる?」
「あそこまで言われたら、信じるしかねェだろ」
「良かった。あの…この前は、本当にゴメンな」
「もういい。俺の方こそ、疑って悪かった」
「じゃあ、これからもよろしく」
「こちらこそ」


何で猫化したのかは分からねェけど、俺と土方はそのおかげで前よりも仲良くなれたんじゃないかと思った。


(10.02.07)

photo by にゃんだふるきゃっつ


銀猫話第六弾は純情シリーズです!順調にお付き合いをしていた二人の初めてのケンカ(?)でした。こういうすれ違いを乗り越えてこそ、二人の関係も深まるのではないかと…。

ついでに、以前言えなかった「愛してる」を銀さんに言ってもらいました。作中にも書きましたが、そもそもこのシリーズのキッカケが猫話だったのに、再び猫化させちゃいました^^ だって猫銀さんが可愛すぎるんだもの!

そして一瞬しか出てこなかったメガネ猫とチャイナ猫の行方が気になります(笑)  ここまでお読みくださり、ありがとうございました。

追記:続きを書きました。

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