※「純情な二人の交際宣言(?)」の続編となります。

 

純情な二人の初デート

 

「あ、うん…そう、そこの居酒屋。時間は…八時くらい?ん?ああ、分かってるよ。

仕事で遅れるかもしれないんだろ?構わねェよ。ああ、うん…じゃあ、また夜に」

 

受話器を置いた銀時はふうっと一息吐いた。

電話の相手は彼の恋人・土方十四郎。十日前に想いを通わせあった二人は順調に交際を続けていた。

といっても、片や泣く子も黙る武装警察のNo.2である。

超多忙な彼と頻繁にデートなどできるわけもなく、今夜漸く初デートの日を迎えたのだ。

 

初デートに居酒屋というのは些か味気ない気がしないでもないが、お洒落なレストランや高級料亭などでは

必要以上に緊張してしまうので、居酒屋くらいがちょうどいいと二人とも思っていた。

それに今夜の居酒屋は付き合い始める前から互いに利用しており、何度か遭遇することもあった謂わば思い出の場所でもある。

 

「銀ちゃん、今日はマヨラーとデートアルか?」

「あ…う、うん」

「良かったですね。じゃあ今日は神楽ちゃんウチに連れて行きますね。ちょうど姉上も休みですし…」

「アネゴもいるアルか?きゃっほ〜う!新八ィ、早く行くアル!」

「あっ待ってよ神楽ちゃん…。じゃあ銀さん、お先に失礼します」

「あ、ああ…」

 

新八はいつもより早い時間に神楽を連れて帰っていった。

 

*  *  *  *  *

 

「上手くいったね。神楽ちゃん」

「これで銀ちゃんは私が新八の家に行ったと思い込んだネ」

 

万事屋の裏手。新八と神楽は通りから見えない所に身を隠し、ヒソヒソと話していた。

 

「でも尾行なんて上手くいくのかなぁ…。初デートで上の空の銀さんはともかく、

相手は鬼の副長と言われる土方さんだし…」

「マヨラーにバレても事情を話せば分かってくれるアル」

「事情って…どう言うの?」

「そのまま言うネ。銀ちゃんがいい歳してキモイくらいに恥ずかしがってるから、

マヨラーに嫌われないか心配で後をつけてるって…」

「ははは…まあ、土方さんの前ではさすがにそこまで酷くないんじゃない?

あの二人、もともと変な意地張ってばかりだったし…」

「それならそれでいいネ。…あっ、銀ちゃん下りて来たアル」

「えっ、だって待ち合わせは確か八時って…」

 

現在は六時少し前である。

 

「もしかして、かなり遠くのお店に行くのかな?」

「とりあえずついていくアル」

「そ、そうだね」

 

こうして新八、神楽による銀時の尾行が開始された。

 

それから十五分ほど歩いて、銀時は一軒の居酒屋に入った。

 

「まさか…ここが待ち合わせ場所アルか?」

「えっ、でもまだ六時ちょっと過ぎだよ?待ち合わせの時間まで二時間近くも…」

「じゃあ一杯ひっかけてからデートに向かうつもりアルか?」

「あー…こういうこととなると銀さんやたら緊張するみたいだから、そうかもしれないね」

「酒飲んでデートに向かうなんてダメな大人アルな」

「…そうだね」

 

二人は店の外で銀時が出てくるのを待った。

 

 

一時間後。

 

「あっ、土方さんだ!やっぱりこの店で待ち合わせだったんだ」

「銀ちゃんが二時間も前から待ってるって有り得ないアルな」

「それだけ土方さんが大事ってことでしょ?それにしても…土方さんも来るの早いな。まだ七時だよ?」

「銀ちゃんのキモイ行動お見通しアルか?」

「うーん、そうなのかなぁ…」

「オメーらこんな所で何してるんでィ」

 

あーでもない、こーでもないと話している二人の背後から沖田が声をかけた。

 

「お、沖田さん!?」

「オメーこそ何してるアル…」

「俺ァ土方さんを…って、もしかしてオメーらは旦那を?」

「銀ちゃんの初デートが心配で見に来たネ」

「ガキに心配されるたァ、旦那も大変だねィ」

「何だとー!お前こそ二人の邪魔するつもりなら許さないアル!」

「ちょっと神楽ちゃん、落ち着いて!」

「いや…今回はただ様子を見に来ただけでィ」

「本当アルか?」

「まあ、あのキモイ土方さん見たら旦那の熱も冷めるかもしれねェけどな」

「マヨラーもキモイアルか?」

「キモイねィ。今夜のデートが決まった時からソワソワソワソワ…全く仕事になりやしねェ」

 

沖田の話を聞いて新八と神楽は顔を見合わせた。

 

「銀ちゃんも一緒アル」

「えっ!?」

「沖田さん…今日のデートの待ち合わせ時間、知ってますか?」

「さあ?土方さんがココ着いたのはだいたい七時くらいだったから、七時じゃねェのか?」

「いえ…八時です」

「はあ!?じゃあ土方さんは約束の時間の一時間も前に来たってのか?」

「銀ちゃんはさらにもう一時間前に来てるアル」

「はあ!?あのグータラの旦那が一体どういう風の吹き回しでィ」

「だから銀ちゃんもキモくなってるって言ってるネ」

「きっと土方さんはそんな銀さんに合わせてくれて…」

「いや…土方さんの様子じゃ、自分でいっぱいいっぱいでとてもじゃねェが旦那のことを気遣う余裕なんざ…。

俺ァてっきり旦那がリードしてくれてるモンだとばかり…」

「『付き合う』って単語もまともに話せないような銀ちゃんにリードなんて無理アル」

「マジでか!?あの旦那がねェ…」

「土方さんもそんな調子なら、あの二人、どうやってお付き合いしてるんだろう…」

「…覗いてみるかィ?」

「ええっ!?」

「ここでグダグダやってても埒が明かねェ。実際に見るのが一番手っ取り早いだろィ」

「それもそうネ!」

「神楽ちゃんまで…ちょっと待ってよー」

 

沖田、神楽、新八の三人は、銀時、土方の二人がいる居酒屋へと入っていった。

 

 

*  *  *  *  *

 

 

居酒屋で二人はカウンターに並んで腰掛けていた。

三人は二人の背中が見える位置のテーブル席に座り、二人を観察した。

 

「…二人のイス、何であんなに離れてるアルか?」

「近付くのが恥ずかしいからじゃないかな?」

「おかげで逆隣りの全く知らねェ人との距離が近すぎだろィ」

 

二人はほぼ同時に中央の銚子に手を伸ばし、慌てて手を引っ込めた。

 

「…何で酒を取らなかったアルか?」

「さあ?お互い譲り合ってるのかな?」

「多分…手が触れたからじゃねェかィ?」

「「「………」」」

 

 

*  *  *  *  *

 

 

十分後。三人は店の外に出ていた。

 

「何アルか、あれ。オッサン二人がもじもじもじもじ…」

「気色悪ィったらねェや…」

「僕…ちょっと見てただけなのに全身が痒く…」

「一晩一緒にいて何もねェわけだぜィ」

「今までだって掴み合いのケンカしてたのに何で手も握れなく…」

「きっと『恋人』って関係になって全てが恥ずかしくなったアル」

「それにしたってあの恥ずかしがり方は異常じゃない?」

 

ここで沖田はある可能性に思い至った。

 

「なあ、お前ら…旦那の昔の恋人って知ってるかィ?」

「急にどうしたアルか?」

「いいから答えろィ。旦那が前に付き合ってたヤツを知ってるかどうか…」

「…少なくとも僕らが万事屋に来てからは土方さんが初めてです。

それ以前のことはよく分かりませんが、特定の恋人がいたって話は聞いたことがありません」

「そうかィ。…土方さんも同じ感じだぜィ」

「えっ、土方さんモテそうなのに…」

「確かに野郎はモテるんで取り巻きみてェな女共がいたことはあったが、

恋人って呼べるような関係ではなかったねィ。まあ…俺と会う前の土方さんは知らねェけどな」

「じゃあ二人とも初めてのお付き合いアルか?」

「初めてかどうかは分からないけど…」

「久しくまともな付き合いをしてなかったのは確かだろうな」

「それであんなにキモくなってるアルか?」

「た、多分…」

「私、あんな銀ちゃん見てらんないヨ。何とかならないアルか?」

「なんとかって言っても、相手の土方さんが同じ調子じゃ…」

「互いに慣れるまで待つしかねェだろうな」

「…あっ、二人が出てきたアル!」

 

三人は慌てて路地裏に隠れた。

 

「今日もお泊まりアルか?」

「さあねィ。ただ、泊まったとしても…」

「本当に泊まるだけなんでしょうね」

「そうアルな…」

 

 

 

ハァーと三人はほぼ同時に溜息を吐いてそれぞれ帰路についたのだった。

 

(09.11.25)


純情シリーズ初デート編。子ども達に心配される大人達でした(笑)。ちなみに、新八と神楽はミツバさんの存在を知りません。

なので沖田も敢えてそのことには触れませんでした。まあ、ミツバさんともお付き合いはしていないんですけどね。後編は居酒屋を出た二人の話です