後編

 

居酒屋を出た二人はどちらからともなく万事屋に向かって歩き出した。

 

「あ、あのよー…今日、お妙が休みとかで神楽、新八の家に行ってんだけど…」

「そ、そうなのか?じゃあ…今、家に誰もいねェのか?」

「う、うん…」

「……行ってもいいか?」

「もっ、もちろん!」

 

次に泊まる時は旦那に抱かれる時でィ―先日沖田に言われたことを思い出していた土方は、

銀時の声が裏返っていることに気付かなかった。

 

(どどどどうしよう…。思わず行くって言っちまったけど…まだ万事屋に行くってだけで泊まるとは限らねェけど…

でもこの時間だし、わざわざチャイナがいないって言ったってことは、泊まりってことだよな?

ってことは、やっぱり…するってことだよな?あー…ヤベェ…別に嫌ではねェけど、緊張してきた…。

別に嫌ではねェけど、ちょっと…怖ェ、かも。

で、でもなぁ…さすがに二回目も泊まって何もなしっつーワケにはいかねェよな…俺だって、別に嫌ではねェけど…)

 

そんなことをぐるぐる考えている土方の隣で銀時も同じようなことを考えていた。

 

(あー…やっぱウチ来るってなっちゃったよ…。これって俺が誘ったようなもんか?だってよー…久々に会えたのに

居酒屋で飲んで終わりっつーのもさァ。…かといって公園でお話ってキャラじゃねェもんなァ。

それに、この時季いつまでも外にいたら冷えんだろ?…でもなー、だからってウチに誘うのはマズかったかなァ。

これ、アレだよね?アレをアレする感じに思われてるよね?…俺としてはそういうつもりじゃねェんだけどなー。

…いや、別にアレも嫌ではないけどね?でも、ちょっと…緊張する、かも?いや、別に嫌ではないんだけど…)

 

 

そうこうしてる間に万事屋へ着いた。銀時が先に二階へと続く階段をぎこちなく上がっていく。

右手と右足を同時に出して一段、左手と左足を同時に出してもう一段と上がっていく。

その後ろを同じくぎこちない動作で土方が続いた。

 

 

 

「どどどどうぞ…」

「おおお邪魔します…」

 

銀時が玄関の扉を開け、土方を中に促す。

 

 

「おおお茶、持ってきます」

「おおお構いなく…」

 

事務所兼居間として使っている部屋に入り、土方はソファに腰掛けると銀時は台所へ向かった。

二人とも何故か敬語を使っているのに気付いていないようだ。

まもなく、銀時が二人分の湯呑を持って現れた。

銀時は土方と同じソファの、人一人分離れた位置に座った。

 

「どどどどうぞ…」

「あああありがとう…」

 

(どどどどうしよう…。居酒屋でもちょっと緊張したけどその比じゃねェよ!自分の家だっつーのに全然寛げる感じがしねェ!

つーかココ本当に俺ん家?何か…土方が来てるってだけで、すっげェ特別な場所みたいな気がする…。

空気が変わるような…何だコレ?気?土方の気か?マジですげェな土方の気…スカウターあったら一瞬で爆発すんじゃね?

そんなものすげェ気の持ち主においそれと近付けねェな。…これはアレだよ?別にアレするのが怖くて言ってんじゃねェよ?

これ以上近付くのが恥ずかしいとかじゃないからね?)

 

(コイツから誘ってきたもんだから、てっきり家に上がったら布団に直行かと思っていたが…

茶なんか飲んだら酔いが醒めちまうじゃねェか!まあ、もともと緊張しすぎてほとんど酔ってないが…

それでも酔ったフリして勢いで…とか思ってたのによ!…もう無理だ。今日は絶対ェできねェ…。

コイツと二人きりってだけで心臓バクバクいってんのに、これ以上近付かれたら、俺、死ぬかもしれん…。

心臓が限界速度を突破して死ぬ…)

 

「きょ今日は一段と冷えますね…」

「そそっそうですね」

「ウウウウチ、貧乏だから暖房とかなくて…」

「おおお茶で温まったから大丈夫…」

「そっそれは良かった」

 

二人とも微妙な距離を保ちながら取り留めのない会話をしていく。

 

(ああああ…これからどうすればいいんだ?…そういえば土方、時間は大丈夫なのかな?

ももももしかして泊まりか!?…神楽がいねェって言ったの俺だし、この時間まで一緒ってことは泊まりだよなー。

じゃあ風呂と布団、用意しねェと…その前に泊まるのか聞かねェと。

でででも、どうやって?「泊まってくだろ?今から風呂入れて布団敷いてくるな」とか言うのか?俺が?

いいいやそれじゃあ明らかに「これからヤろうぜ」って言ってるようなもんだろ!

土方から「泊まってくから風呂と布団貸してくれ」とか言ってくれねェかな…)

 

(こっ、これからどうすればいいんだ?もう二人とも湯呑は空だし…もしかして今日は泊まらない方がいいのか?

そういえばコイツ仕事とかどうなってんだ?朝早ェのか?

俺は明日午後からだが…コイツが朝から仕事のようなら長居しない方がいいかもな…)

 

「あっあのよー…」

「えっ、な…何?」

「あああ明日、仕事とかあんのか?」

「へっ?仕事?何で急に…つーか、別にねェけど。…あっ、土方は仕事か?」

「一応…だが、午後からだ」

「そっそうなんだ…。だったら、あの…とっ泊まって、く?」

「おおお前が、いい、なら…」

「い、いいよ…。…じ、じゃあ風呂、準備してくんな?」

「!?…あ、ああ」

 

銀時は浴室へと向かっていった。

 

(ふふふ風呂!?泊まりって決まった途端に風呂って…やっぱりそういうことか?いいいや落ち着け!

まだそうと決まったわけじゃ…。でででも、おお俺たち、ここっ恋人同士、だし…それで泊まり、しかも二回目ってことは

普通に考えたらそうだよな…総悟だって身体の関係があってもおかしくないって言ってたし。

とととりあえず、アイツに任せておけばいいんだよな?ココはアイツの家なんだし…)

 

土方が物思いに耽っていると銀時が浴室から出てきた。

 

「風呂…もうちょっとかかるから待ってて」

「あ、ああ…」

「…じ、じゃあ俺、布団敷いてくるから」

「っ!?あ、ああ…」

 

(やっぱりだ!風呂の次が布団って、これはアレしかねェだろ!?ああああどーしよう…アイツが何か言う度に

心臓が速くなってきてんのに、これ以上は無理だって!アイツに任せて…とか思ったけど、やっぱ無理だ!

アイツの行動待ってるのは心臓に悪すぎる…。じゃあ俺からいけばいいのか?…俺がアイツを、誘う?

…それも無理だ!ああああ、どーすればいいんだァァァァ)

 

土方が居間で葛藤中、銀時も和室で葛藤していた。

 

(こないだ土方が泊まった時って、布団こんぐらいの距離だったっけ?もっと離れてた?…いや、もっと近かったか?

どーしよう…前回より近かったら誘ってると思われるし、逆に離れてると拒絶してるように思われちまう…

ああああ、どうだったっけ?)

 

(アイツ…布団敷くのにやたら時間かかってねェか?ここここれはもしや、布団以外にも何か色々と準備してるのか?

ややややっぱり今日はそういうことなのか?どどどどうしよう…。…んっ?何かザァーって音が…)

 

銀時が漸く布団を敷き終えて居間に戻ると土方の姿はなかった。

 

(あ、あれっ?土方、どこいった?もしかして帰った?どっかでテロがあって緊急招集とか?

…いや、ねェよ。だったら一声かけて行くだろ…。じゃあどこだ?…厠か?)

 

そんなことを思ってキョロキョロと辺りを見回していると土方が戻ってきた。

 

「あっ、ひじか…」

「風呂、溢れてたぞ」

「へっ?風呂?…あっ!すっかり忘れてた!悪ィ!」

「別に、いいけど…」

「…あっ、じゃあ風呂入ってこいよ!タオルはそこな?」

「あ、ああ…」

 

 

*  *  *  *  *

 

 

「………」

「………」

 

順番に入浴を済ませた二人は和室にいた。

微妙な距離で敷かれたそれぞれの布団の上に正座し、向かい合って固まっている。

二人とも、何となく目を合わせられなくて俯いている。

 

(な、何でコイツ一言もしゃべらないんだよ!普段はムダにペラペラしゃべるじゃねェか!

そそそそれになんか…こっち、見てねェか?)

(うおおお…やっぱ土方の気、半端ねェよ!どどどどうしよう…めっちゃドキドキする。

なんか見られてる気がする…あれか?目が合ったら襲ってくる感じか?)

 

「「あっ…」」

 

二人ほぼ同時に顔を上げ、目が合うとすぐにまた俯いてしまった。

 

(あああ…やっぱりコッチ見てた!どどどどうすれば?そして何で何も言ってこない?)

(やべェ!目が合っちまった!襲われ……あ、あれっ?土方、動いてなくねェ?)

 

「ああああのよー、土方…」

「ななななんだ?」

「えーっと、えーっと、その…なんだ」

「ななななんだよ。言いたいことがあるならハッキリ…」

「いいいい言いたいことってほどのモンじゃ…。ただ、その…」

「たっ、ただ…なんだ?」

「その…ずっと、こうしててもなんだし…あの…」

「お、おう…」

「えっと……ひっ土方は、どうしたい?」

「えっ…どう、って?」

 

銀時の思わぬ質問に土方は首を傾げた。そんな土方に、銀時はもう一度同じ質問を繰り返す。

 

「だっだから…これから、どうしたい?」

「そそそういうお前は、どうなんだよ…」

「えっ、俺?俺は…えーっと、えーっと…夜も更けてきたし、そろそろ…眠くなってきたなァ…なんて、

思うよーな思わないよーな…ハハハハ…」

「…どっちだよ?」

「ひひひ土方こそどうなんだよ?」

「おっ俺?おおおお俺も…ちょっと眠い、気がする…感じ、みたいな?」

「じ、じゃあ…寝る?」

「お、おう……っ!?」

 

立ち上がった銀時に、土方の身体がビクリと震えた。

だが銀時はそんな土方に気付かず、電気のスイッチに手を伸ばして部屋の明かりを消した。

障子から微かに月明かりが入るだけとなった部屋では、互いの顔も判別できない。

そこで二人は漸く肩の力を抜き、各々の布団に入った。

 

 

居酒屋デートからこれまでの何時間にも及ぶ緊張の連続―横になった瞬間、二人は糸が切れたように眠りについた。

 

(09.11.25)


居酒屋デートその後、二度目のお泊りでした。今回キスどころか手も握れなくなってます。この二人は相手への想いを自覚すればするほど恥ずかしくなっていくんですよ。でも本人たちはドキドキしながらも

結構楽しんでるんだと思います。付き合ってるという事実だけで幸せ、とかそんなレベルですから(笑)。万事屋に着いた時の階段の上がり方はK様のコメントを参考にさせていただきました。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

追記:続き書きました。ちょこっと人気投票ネタです

 

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