※「純情な二人のファーストキス」の続きです。そちらをお読みになってからお進み下さい
『い、今から行く』
「お、おう…」
用件だけ言って切れた電話。掛けてきたのは土方十四郎。
つっかえていた上に若干声がうわずって聞こえたのは気のせいではないだろう。
緊張して電話を掛けてきたのが、あの短いやり取りでも伝わってきた。
そして、電話を受けた銀時もまた一言返すだけで精一杯であった。
純情な二人の初めてのお泊り
真選組副長・土方十四郎と万事屋銀ちゃんこと坂田銀時は、本日晴れて恋人同士となった。
先程の電話は仕事を終えた土方が、これから万事屋へ行く旨を伝えたものである。
本日万事屋には銀時しかおらず、明日の朝まで二人きりで過ごすことになる。
もともと敵同士でしかも男同士。
結ばれることなどないと初めから諦めていた関係なだけに、土方は現在の状況が未だに信じられないでいた。
一方銀時は、今日土方への想いを自覚したばかりである。それなのに自分から告白し、しかも泊りに誘ってしまった。
最初から飛ばし過ぎて引かれてやしないかと気が気ではなかった。
* * * * *
「い、いらっしゃい」
「お、おう…」
冒頭の電話から間もなくして、土方が万事屋の呼び鈴を押した。
実は、土方が万事屋前に着いてから玄関へ続く階段を上るのに五分、
更に玄関前に着いてから呼び鈴を押すまでにも五分かかっている。
そして今、銀時が扉を開けてもなかなか入れないでいた。
「まあ、入れよ…」
「あ、ああ…」
「…靴、脱いで上がれば?」
「あ、ああ…」
一つ一つの動作を銀時に促されながら何とか事務所にしている部屋まで入ることができた。
「もう少しでメシ出来るから、コタツで待ってろよ」
「えっ…メシ?」
「あっ、もしかして…もう食っちまったか?」
「い、いや…まだだ」
「そっか…良かった」
にっこりと笑って台所へ引き上げていく銀時の顔が赤いことに、土方は気付く余裕などなかった。
台所へ戻った銀時であったが、料理に全く集中できずにいた。電話を受けた時からソワソワと落ち着かず
呼び鈴が鳴った時には心臓が止まるかと思ったほどだ。今も、用もないのに冷蔵庫を開け閉めしたり、シンクを磨いたりしている。
今日シンクを磨いたのはこれで八回目である。
「で、できたぞ…」
「あ、ああ…」
銀時が食事を運んでくると、土方は和室の入り口で立ち尽くしていた。
「…ずっと立ってたのか?」
「あ…いや、何となく…」
「まあ、何だ…気持ちは分かるよ。でも、立ってちゃメシ食えねェから座れよ」
「あ、ああ…」
土方は漸く腰を下ろし、銀時もコタツに入った。
銀時が向かいに座らなかったので、土方は少し緊張がほぐれた気がした。
自分と垂直の位置に銀時がいることで、向かいにいるよりも二人の距離は近いものの
正面を向いていれば目を合わせなくて済むこの位置は、土方にとってありがたかった。
そして、実は銀時も同じことを思ってここに座ったのだった。
* * * * *
「ふ、風呂…準備できたから、先に入れよ」
「あ、ああ…悪ィな」
食事をしながらとりとめのない会話をポツリポツリと交わし、些か緊張が解けた二人に再び緊張の時間がやってきた。
銀時は…
(おおお落ち着け俺…一日の終わりに風呂入んのは当然だ。焦ってたら何か、変な期待してるみてェに思われんじゃねーか!)
と思っていたし、土方は土方で…
(おおお落ち着け俺…一日の終わりに風呂入んのは当然だ。一応俺が客だから一番風呂を勧めてくれた、ただそれだけだ!)
と自分に言い聞かせながら浴室へ向かった。
そして土方を浴室へと見送った後の和室では、隙間なく並べた二枚の敷布団を前に銀時が唸っていた。
(いや…これはさすがにねェよ。こんなにくっついて布団敷いたら「ヤろうぜ」って言ってるよーなもんだろ…これはナイ。
そりゃあ…土方がシたいっつーなら別にいいけどよ…でも俺から誘ってるよーに思われんのはちょっとな…。
とりあえず少し離しとこう…)
銀時は布団を部屋の両端まで引っ張っていった。
(いや…これもねェよ。こんなに離れてたら感じ悪ィだろ…。
「近寄んな」って言ってるよーなもんだろ…俺たち、こっ恋人同士だからね?…これはナイ)
その後も布団を近付けては「近すぎ」、離しては「離れすぎ」と二枚の布団を近付けたり離したりを繰り返し
最終的に四十センチほど間を空けた状態で落ち着いた。それでも銀時は完全には納得がいかないようで…
(ま、まだ近ェかな…。い、いや、むしろ離れすぎか?でもこれ以上近いと…)
「風呂、ありがとな」
「ぅおあっ!」
グダグダ考えているうちに土方が風呂から出てしまった。
「ど、どうしたんだよ。いきなりデカい声出して…」
「わ、悪ィ…。まだ布団、敷けてなくてよ…」
「そんくれェ俺がやるからよ…お前ェも風呂入ってきたらどうだ?」
「あっそう?悪ィな…一応お客様なのによ」
「気にすんな…。お、お前と俺の仲じゃねェか…」
「あ、ありがと…」
お前と俺の仲―言われた銀時も言った土方も真っ赤になって俯き、居たたまれなくなった銀時は逃げるように浴室へ向かった。
和室に残された土方は、改めて二枚の布団を眺め、鼓動が速くなっていった。
(ふ、布団…近くねェか?いや…こんなもんか?つーか、コレはどっちなんだ?「ヤろうぜ」ってことなのか?
それとも「今夜はまだ…」ってことなのか?つーか、俺たちはどっちが「上」なんだ?…ヤベェ!
昼間考えとくっつっといて考えてねェ!アイツは考えたのか?そういえば体はもう平気なのか?そ、そうだ!
とりあえず今夜はアイツの体調を理由にヤらないで…でも、もしアイツがそのつもりで泊まりって言ったんなら
下手に断ると傷付けちまうよなァ。べべ別にヤりたくねェわけじゃ…ただ、心の準備ってヤツが…。と、とにかく布団を敷くか!)
土方は部屋の隅に置いてあった掛布団を取ると、二つ折りにして敷布団の上へ乗せた。
そして、同じ場所に置いてあった枕をそれぞれの頭の位置に置いたところで手が止まった。
(枕が中央に寄ってるよーな…これじゃ誘ってると思われんだろ!いかん、いかん…もう少し離して…)
一旦置いた枕を少し外側にずらす。
(…外側すぎか?これだと「近寄んな」って言ってるようなもんじゃねェか…。ちゃんと真ん中に置かねェと…)
こうして枕の位置を微調整している間に銀時も風呂から出てきた。
「あっ、布団サンキュー」
「ぅひょわっ!」
「な、なんだよ。いきなりデカい声出して…」
「な、何でもねェ…。ふ、布団、これで良かったか?」
「あ、ああ…サンキューな」
「お、おう…」
「………」
「………」
「じ、じゃあ…寝るか?」
「ねねね寝るって…」
「い、いや別に変な意味じゃなくて…夜も更けたし、お前、仕事で疲れてるだろーし、それそろ眠りたいんじゃないかなーと…」
「そっそうだな!今日も一日仕事して疲れたし、お前も病み上がりだろ?もう寝るか?」
「そ、そうだよ!俺もまだ本調子じゃない気がするし…寝ようぜ!」
「おおおやすみ」
「おやすみ〜」
二人ともどこかホッとしたような表情で床に就いた。
* * * * *
五分後。
(ね、眠れねェェェ!全然全くまんじりとも眠れねェよ!土方はもう寝ちまったのかな?
つーか、やっぱり布団近すぎたか?何か…アイツに近い方の半身が熱いんですけどォ!
アイツの体温が伝わってる気がするんですけどォォォ!
つーか、布団入ってから微動だにしてねーからそろそろ寝返り打ちたいだけど…
アイツの方、向いたら誘ってるっぽくねェか?かといって逆向いたら感じ悪いよな?
あああ…どーすればいいんだよー!)
(ね、眠れねェェェ!全然全くまんじりとも眠れねェよ!アイツはもう寝ちまったのかな?
つーか、やっぱり布団近すぎじゃねェ?何か…アイツに近い方の半身が熱いんだけどォ!
アイツの体温が伝わってる気がするんだけどォォォ!
つーか、布団入ってから微動だにしてねーからそろそろ寝返り打ちてェけど…
アイツの方、向いたら誘ってるっぽくねェか?かといって逆向いたら感じ悪いよな?
あああ…どーすればいいんだよー!)
同じようなことをぐるぐる考えている二人が、考えることに疲れ果てて眠るのは、これから数時間後のことであった。
翌朝。
なかなか寝付けずに寝坊した土方は、同じく寝不足の銀時に見送られながら、慌てて屯所に戻るのであった。
(09.11.17)
キモイ二人…じゃなかった純情な二人シリーズの続編です。この二人、気持ち悪いんだけど書いてて楽しいです(笑)。まあ、銀&土だったら何だって楽しいんですけどね。
こんなんで初エッチまで辿り着けるのでしょうか;…とりあえず、当面の目標は二度目のチュウですかね?その前に初デートですかね? ここまで読んでいただきありがとうございました。
追記:続き書きました→★
ブラウザを閉じてお戻りください