「なあ、土方…今夜ウチに来られねェ?」

「ウチって…ガキ共はどうすんだよ」

「なんかよー、今日はお妙が仕事休みだとかで志村家で鍋やるんだと。で、新八は神楽連れて早めに帰るって…」

「…お前は行かなくていいのか?」

「一応誘われたけど、こんな機会でもなきゃお前と会えねェし…」

「分かった。じゃあ仕事終わったら酒でも持って行くから…」

「おう、待ってるよー」

 

 

ガチャリ…受話器を置くと銀時はふぅーっと一息吐いた。その顔はほんのり赤く染まっているように見える。

万事屋の主・坂田銀時と電話の相手―真選組副長・土方十四郎―は秘密の恋人同士である。

会えばケンカしかしなかった二人が恋人同士になるまでには色々あったのだが、ここでは割愛させていただく。

 

とにかく順調にお付き合いを始めた二人であったが、元々いがみ合っていたことや男同士であることなどから、

二人の関係をひた隠しにしている。

銀時としては、多感な年頃の子どもに同性の恋人がいるということを言いにくかったし、

土方としても敵として捕らえようとしていたことがある男と交際するようになったなど言えなかった。

こうして、互いの意見は「秘密の関係」ということで一致していた。

 

だが「秘密」となると二人での逢瀬もままならなくなってしまう。

思考回路が似ている二人であるので、交際する前から約束などしなくても行く先々で出会うことはあった。

それが「秘密の関係」になったことで、敢えて二人きりで会うのを避けるようになったのだ。

二人で飲みに行くこともできず、銀時が屯所を訪れるなんて以ての外―結局、銀時しかいない時にこっそり万事屋を訪れるか

互いの居住地から少し離れた連れ込み宿にこっそり入るかしかないのだ。

もちろん朝帰りなどできないので、日付が変わる頃には別れることになっている。

 

 

そんな関係を互いに少し寂しいと思いながらも、頻繁に会えないからこそ、今夜のように会える日の喜びは大きなものになる

―これはこれでいいかもしれないと二人は思っていた。

 

 

 

銀さんとマガジン

 

 

 

「おはようございます」

「銀ちゃん、おはようアル」

「なんだ…早ェな、オイ」

 

翌朝、いつもより少し早く新八は神楽と定春とともに出勤してきた。

玄関を抜けて事務所に入ると、ソファで寝ていた銀時がゆっくり起き上がった。

テーブルには飲みかけの酒や食べかけのツマミがそのまま放置されている。

 

 

「銀さん飲んでたんですか?だったらウチに来れば良かったのに…」

「うるせェな…。男には一人で飲みたい時もあんだよ…」

「一人って…コップ二つありますけど、誰か来たんじゃないんですか?」

「あん?違ェよ…二種類の酒をこう、飲み比べみたいな?」

「ああ、そうですか…」

「なんか煙草臭いアル」

「これはあれだ…蚊取り線香だよ。やっぱ古いやつはダメだな。変な臭いだったからな…」

「蚊取り線香って…もう11月ですよ?」

「11月だろーが何だろーが蚊がいたんだよ!いやー地球温暖化のせいかね?」

「何か銀ちゃん変アルな」

「何言ってんの!?銀さんはいつもの銀さんだよー」

 

 

(やっべェ…土方の痕跡消すの忘れてた!つーか、完全に寝てた!とりあえず服着てて良かったー。

昨日は激しかったからなァ。一瞬意識飛んだもんな。一晩に三回とか…いやー、俺たちも若いね!

アイツ…ちゃんと屯所まで帰れたんかな?)

 

昨夜、久々の逢瀬に盛り上がった二人は、飲むのもそこそこにソファの上で愛し合っていた。

三回交わったところで時間になり、土方はややふらつきながら屯所へ戻り、銀時も何とか服を整えたものの

そのままソファで眠ってしまったのだった。

 

 

「とにかく片付けますよ」

「おう、よろしくー」

「よろしくじゃなくて銀さんも手伝って下さい!ていうか、むしろ銀さんが率先して片付けて下さいよ!」

「あーはいはい、分かりましたよー」

「神楽ちゃんは窓開けて来てくれる?」

「そうアルな。何か煙草だけじゃなくて変な臭いもするネ」

「変ってなんだ!銀さんから加齢臭がするとでも言うのか!」

「一晩中食べ物を出しっぱなしにするからですよ」

 

 

起きてはいるもののソファに座ったまま動かない銀時に代わり、新八がテーブルを片付け、神楽が部屋中の窓を開けに行く。

暫くの間ボーッと二人の様子を眺めていた銀時だったが、ふと、テーブルの下に5センチ四方くらいの四角いビニールが

落ちているのを見付けた。

あれは…

 

 

「あれっ?テーブルの下に何か…」

「しししし新八ィ!!ここは俺が片付けるから、お前は別の所を頼む!」

 

ほぼ同時に新八もテーブルの下の物に気付いたが、銀時が慌てて現場から遠ざける。

 

「何なんですかいきなり!まあ、片付ける気になったんだったらお願いしますね」

「お、おう…」

 

 

(ふー、危なかったぜ。あんな所にコンド○ムの袋が落ちてるとは…。他にも落ちてねェよな…よし、大丈夫そうだ。)

 

きょろきょろと辺りを見回してから銀時はテーブルの下のビニールを拾い上げ、ティッシュに包んで他のゴミと一緒に

ゴミ箱へ捨てた。

 

 

「それにしても銀さん、一晩で散らかし過ぎですよ」

「そうネ。コンビニの袋とか食べカスとか床にいっぱい散らばってるアル」

「いやァ…すまん、すまん」

 

 

(仕方ねェじゃねーか…昨日は飲んでる途中でヤり始めちまったんだからよー。お互い頑張って動いちゃったから

テーブルの上のモンなんか多少落ちてもよ…って、んなことこの二人には言えねェけどさ)

 

 

「ほら…銀さんのジャンプまでゴミに塗れてますよ?」

「それはいかん!新八、早くジャンプを救出してこい!」

「…そんなに大事なら汚すようなことしないで下さいよ」

 

 

文句を言いながらも新八はソファの脇に落ちているジャンプを拾い上げて、ポンポンとゴミを払った。

 

 

「あれっ…これ、ジャンプじゃないですよ?」

「本当ネ。マガジンアル…。銀ちゃん、マガジンも読み始めたアルか?」

「えっ!い、いやァー、酔ってたから間違って買っちまったのかな?あああんま覚えてねーな…はははっ」

 

 

(アイツ、ツマミと一緒にマガジンも買ってたのかよ!ちゃんと持ち帰れよ!)

 

 

「本当に銀ちゃん変アルな」

「そうだね…まだ酔いが覚めてないのかもしれないね」

「そ、そうかもな!ははははっ…ちょっと顔洗ってくるわ」

 

 

 

銀時は逃げるようにして洗面台へ走っていった。その後ろ姿を新八と神楽は不思議そうに見ていた。

 

 

秘密の関係が明るみに出るのはそう遠くないかもしれない。

 

(09.11.08)


単行本31巻(蜂退治の回)で銀さんがマガジンの話をしたことで妄想が膨らみました。ジャンプ派の銀さんがマガジンのことを知っているということは、土方さん経由で知ったに違いない!

銀さんのマガジン発言といい、第二百七十訓の土方さんの「性的嗜好」発言といい、ちょっとしたところでボロを出しちゃうから、皆二人の関係に気付いてしまうのだと思います。

ここまでお読み下さり、ありがとうございました。

 

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