※この話は、第二百七十五訓を元にした話です。 

 

 

土方さんの片想い?

 

 

あーあ、これからどうすればいいんだよ。

ウチに帰ろうにも町中で玉狩りしてやがるし…何とかヤツらを巻いたはいいが、行く宛てもねェよ。

ていうか、ココどこだよ。猫目線になると人の足しか見えやしねェ。

んー?あっ…あれは!

 

 

「ん?何で猫がここに…」

「にゃー(土方)」

「なんだコイツ…野良か?」

 

 

ココ、真選組の屯所だったのかよ…。あー、なんてトコに来ちまったんだ俺は。

こんなムサっ苦しい場所じゃなくてよー、金持ちで可愛い愛猫家のお嬢様の所とかに行きたかったぜ!

…ん?うおっ!土方が俺を抱え上げた。

 

 

「変わった猫だな…やたらとモコモコしてやがる」

「うにゃー(モコモコで悪かったな。天パなめんなよ)!」

「それに、何で目が半開きなんだ?」

「みにゃぁ(どーせ目が死んでますよーだ)!」

「んな、暴れんなって。大丈夫だ、怖くねェから…」

「うにゃにゃ(誰がテメーごときにビビるかよ)!」

「威勢のいいヤツだな…」

「に、にゃっ(お、おいどこ連れてくんだよ)!」

 

 

土方は俺を抱いたまま屯所の中に入っちまった。何だ?コイツ、チンピラ警察のくせに猫好きか?

ま、それなら思う存分寛がせてもらうとすっか。俺に奉仕する土方っつーのも楽しそうだな。

コイツ普段はスカしてやがるが、実際のところ私生活はどうなんだ?

こういうヤツに限って恥ずかしい秘密とか持ってんだよ、絶対。この機会に弱みを握ってやるぜ。

 

 

「おい山崎、何かコイツの食えそうなモンねェか?」

「どうしたんですか、この猫?」

「門の前にいたから連れて来た」

「連れて来たって…随分ボロボロの猫ですね」

「に゛ゃっ(ジミーてめェ)!」

 

顔だけ山崎に向けて睨んでやった。

 

「…かなり反抗的な猫ですね」

「そうか?猫なんかこんなモンだろ…だが確かに汚れてんな。所々小せェ傷もあるし…虐待でもされたのか?」

「にゃーご(銀さんの銀さんがピンチなんだよ)」

「もしかしたら、かぶき町の猫かもしれませんよ」

「かぶき町?」

「はい。何でも野良猫が増えすぎたとかで、片っ端からつかまえて去勢してるんですって」

「そうか…そりゃあ災難だったな。お前、ココに住むか?」

「みにゃ(いいの)?」

「副長そんな勝手に…」

「何匹もいんだから、あと一匹くれェ増えたって構わねェだろ」

「それもそうですね」

 

 

えっ?ココって猫飼ってたの?言われてみれば庭に何匹も猫がいんな…あれっ?ちょっ…ココに下ろそうとしてない?

他の猫と一緒にすんじゃねェよ!これじゃあ、コイツの弱みを握る計画が台無しじゃねェか!

 

 

「おらっ、離せ。仲間んトコに行けって」

「ふーにゃー(はーなーさーなーい)!」

「…ったく、しょーがねェな。仕事の邪魔すんじゃねェぞ?」

「にゅっ(了解)!」

 

 

よし、これで土方にくっついていられんな。…おー、ここが土方の部屋か。片付いてんな…。全く面白味がねェよ。

おっ、なんだ?机の引き出しから何か出して…って、仕事の書類かよー。

んだよ、わざわざ俺を拾ったってのに、部屋に入れたらお構いなしか?釣った魚にエサやらねェタイプか?そんなんじゃモテねェぞー。

ま、いいや。コイツが仕事するっつーなら、勝手に部屋を物色させてもらうわ。

…しっかし、余計なモン一つねェって感じの部屋だな。独身男の一人部屋なんだからよー、エロ本とかエロDVDとかねェの?

コイツ彼女とかはいねェようだし…自己処理くれェすんだろ?もしかしてアレか?プロのお姉さまか?くそーっ、金持ってるヤツはいいよなー。

 

 

*  *  *  *  *

 

 

結局、あの後土方はずっと机に向かっていて俺の相手をしなかった。

夕飯食いに食堂へ行った時に(ちなみに俺は白米に削り節乗っけたやつね)「ほら、食え」って言っただけだ。何だよチクショー。

もっと構ってくれたっていいだろー。ん?どこ行くんだ?押入れ?ああ…布団敷くのか。

しっかし、寝る直前まで仕事って凄ェな…結構がんばってんだな。

おっ、着替えんのか?へー、結構いい体してんのな。…べ、別にヘンな意味じゃないからね。

あんなにマヨネーズ食ってんのに、締まってんだなって思っただけだからっ!あ、あれっ?どっか行くのか?

もしかして遂に秘密の行動か?そうはさせねェぞ!

 

 

「にゃなぁ(俺も連れてけ)!」

「何だ…お前も来んのか?」

「うにっ(付いてってやるぜ)!」

 

 

あ…なんだ、風呂だったのか。キレイなお姉さんのトコにでも行くんじゃなかったのかよー。

…まあ、いいや。ついでに俺も風呂に入ろ。あ、沖田くんだ。

 

 

「あ、土方さん」

「総悟か。珍しいじゃねェか、オメーがこの時間に入るなんざ」

「俺だってたまには仕事をしまさァ」

「…いつもしろよ」

「へいへい…そのチビも一緒に入るんで?」

「ああ、大分汚れてっからな…湯船に入れねェで隅の方で洗えば大丈夫だろ?」

「そうですねィ」

 

 

土方は沖田くんとしゃべりながら着物を脱いでいく。そういやぁ、土方のモノってどんななんだ?

もしかしたらコンプレックスの塊みたいなモノだったりして…。へへっ、腰にタオルを巻いても猫目線だと関係ねェよ。

どれどれ……ちっ、何だよ。ふつーじゃねェか。いや、俺より若干……お、同じくれェだな!うん!

俺だって今はこんな姿だが元に戻ったらコイツくらいは…ある、と、思う…。

 

「行くぞ」そう言って土方は俺を抱えて風呂場へ入った。

後ろから沖田くんも付いてくる…なんだ?また何か嫌がらせでもしよーって魂胆か?

やってもいいケド、俺にまで被害が及ばねェようにしてくれよな。…へェー、他にも結構人がいるんだな。

名前も知らねェ連中が、副長副長言いながら土方の周りに集まってきた。

「可愛いっスね」…って、俺のことか?あん?ゴツイ手で撫でんじゃねェよ。

 

 

「ふぅーっ(気安く触んじゃねェ)!」

「この猫、土方さんにだけ懐いてるんですねィ」

「たまたま俺が最初に拾ったからだろ」

「にゃにゃっ(いや、懐いてるワケじゃねーから。弱み握ろうとしてるダケだから)」

「…で、名前はなんて言うんですかィ?」

「名前?そういやァ付けてなかったな」

「白いからシロでいいと思いやせんか」

「シロか…」

 

言いながら俺にぬるま湯をバシャっとかけて泡立てた石鹸で全身を洗っていく。

あっ、そんなトコ触んなよ。土方のエッチ!…あれっ、またバシャって…もう終わり?…いや、終わっていいじゃん!

何、もうちょっと触ってもらいたかったとか思ってんの、俺!汚れが落ちたんだからそれでいいんだよ!

それにしても…コイツ、あんまり日焼けしてねェんだな。肌なんか、その辺の女よりキレイなんじゃねェの?

……うわぁー、泡が肌を伝って落ちてくのがエロ……ってどうした、俺ェ!しっかりしろよ!コイツは男だぞ!エロいって何だよ!

 

「お前、シロにすっか?」

「にゃーんっ(俺は銀時だって)!」

 

俺は首を振った。ついでにさっきまでの危ない思考も振り払いたくて、ブンブン振った。

 

「…んだよ、そんなに嫌なのか。ん?お前の毛色…白っつーより銀色だな」

「へー珍しい色ですねィ」

「じゃあ…ギンにすっか?」

「にー(ま、いっか)」

 

 

こうして俺の名前はギンに決まった。

 

 

 

*  *  *  *  *

 

 

 

風呂から出た俺たちは再び土方の部屋に戻ってきた。土方は縁側に腰かけて茶を飲んでいる。

その隣には水が入った小さい皿が置いてある。

俺が土方の隣に座って皿から水を飲んでいると、土方が俺の頭に手を置く。…んだよ、飲んでんだから邪魔すんなよ。

 

 

「お前…銀色でモコモコで目が半開きで…アイツみてェだな」

「にゃが(アイツって誰だ)?」

「ま、アイツだったら俺に懐くワケねェけどな…」

「みゅにゃ(何だ?何のことだ)?」

 

 

土方は穏やかな笑みを浮かべながら俺の頭を撫でている。今の俺に似てるっつー誰かさんのことを考えてるんだろうな。

誰なんだろう。懐くワケねェって言ってたけど、コイツは懐いてほしいって思ってるってことだろ?つーことは、アレか?

コイツの片想い?マジでか?鬼の副長が片想い…でもよー、コイツに惚れられて嫌がる女なんかいるのか?

ちょっと口は悪ィが、顔はいいし、部下たちからも慕われてて面倒見もいいんだろ?…野良猫にだって優しいしな。

 

 

「俺も…もう少し素直になれたらいいんだけどな…」

「にゃうぅー(好きな子にイジワルしちゃうってアレか?小学生じゃねェんだからよ…)」

「いや、素直になったところで、望みなんざ最初っからねェか…男同士だもんな」

「はにゃ(男同士?土方ってホモだったの)?」

「…さっさと忘れちまえばいいのにな」

「にゃにゅぅー(コクる前から諦めんなよ)!」

 

 

マジでソイツのことが好きなんだな。でも、何もしてねェのに諦めることなくね?

いくら男同士っつってもよー、もしかしたらっつーこともあんじゃん。

俺だって、男にゃ興味ねェけど…今日のコイツ見て、ちょっとエロいとか思っちゃったし?

俺は土方の膝をポンポンと叩いてやった。

 

 

「なんだ、ギン…慰めてくれてんのか?」

「みにゃーぅ(諦めたらそこで試合終了だぞ)!」

「ギン…か。…せめて名前でも呼んだら、ちっとは違う関係になれんのかな…」

「にゃふ(名前も呼んでねェの)?」

「でもよー、いきなり俺が銀時なんて呼んだら、アイツ変に思わねェかな…」

「なにゃ(今…銀時って言わなかったか)?」

 

 

もう寝るか…アイツはそう呟くと障子を閉めて布団に入った。

もちろん俺も部屋の中に入れてくれた。だが、俺はあまりのことに動けねェでいた。土方が俺のことを…?

コイツとは会えばケンカしかしねェし、斬り合いになることだってしょっちゅう…そ、そりゃあ本気で嫌われてるとは思ってなかったケドよ…。

 

 

「ギン、どうした?こっちで寝るか?」

「う、うにゅ(お、おう)」

 

 

土方は布団を捲って俺を呼び、俺は戸惑いながらも布団に入ることにした。

 

 

土方と同じ布団に入る。

 

土方が俺を抱いて眠る。

 

土方の体温が俺に伝わる。

 

土方の寝息が耳元で聞こえる。

 

 

 

この状況で俺の鼓動が煩くなってる理由は分からねェけど、土方が諦めんのはまだ早ェんじゃないかと思った。

 

 

(09.09.09)

 

photo by にゃんだふるきゃっつ

銀土小説「俺だってやれば出来るんだ」のリベンジとして書いた、土方さんと猫銀さんの心温まる(?)物語です。「俺だって…」は気付いたらエロになってたので、今回はエロにならないよう片想い設定にしました。

でも、風呂上がりちょっと危なかった(笑)。土方さんが銀さんを想ってG…とか書きそうになった(^^; ここまでお読み下さり、ありがとうございます。

追記:続きを書きました

 

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