銀土アンソロ寄稿作品:おやつの時間
〈壱〉
午後三時。この時のために生きていると言っても過言ではない、一日の中で最も重要な時間。
そう、おやつの時間。
甘い物はいつ食べても美味いが「おやつ」という言葉には人をワクワクさせる不思議な魅力がある。
そんなワクワク感を提供してくれる今日のおやつは、手作りのイチゴショートケーキだ。
「手作り」ってとこに、更なるワクワク感があるだろ?
ケーキ屋の親父から端が欠けて商品にならないスポンジを譲ってもらったから、これに生クリームやイチゴを
デコレーションすれば完璧。この糖分王・銀さんの手にかかればできそこないのスポンジだって、
見事なデコレーションケーキにできるってもんだ。
なのに、アイツらときたら……
「銀ちゃんばっか、ずるいアル!」
「僕らにもやらせて下さい。」
「まさか銀ちゃん、一人で作って一人で食べるつもりアルか?」
「そうなんですか?」
「ちっげーよ!」
「じゃあ私にもやらせてヨ!」
「僕も。」
「ったく、しゃーねーな……」
パティシエ気分で台所に立っていた俺に新八と神楽が纏わり付いてきて、一向に作業ができなかった。
仕方なく俺はスポンジを三等分し、其々を平皿に乗せて二人に差し出す。
「ほらよ……これで自分の分を作れ。」
自分の分は自分で、これがウチの基本だ。
「丸いケーキが作りたいアル。」
「俺だってそうだよ!でもオメーらがやりたいっつーから、三分割してやったんじゃねーか!」
「まあまあ、これで自分の好きに作れるんだからいいじゃない。ねっ、神楽ちゃん?」
「仕方ないアルな……」
「ここは銀さん専用の工房だから、お前らは居間で作れよ。」
「その代わり、このキラキラしたやつはもらっていくアル!」
神楽は小さな銀色のアラザンが入った器を手にした。まあ、それくらいはくれてやるか……。
俺ほどの腕があれば、イチゴと生クリームだけでも充分にいいものができるはずだ。
ていうかむしろ、それ以外には何もいらないくらいだな。シンプル・イズ・ベストだ!
「新八、神楽……あれっ?」
アラザン以外のやつも全部やろうと思ったのに、せっかちなアイツらは既に居間へ行き、作業を始めていた。
まあ、いいさ……。これで俺も自分の作業に専念できる。ホールケーキのデコレーションができなかったのは
残念だが、少なくとも俺の取り分はきちんと確保できた。
新八はともかく、神楽にやらせたらケーキっつーより「スポンジの生クリームがけ」になることは目に見えてるしな。
ケーキは見た目も重要だ。
新八と神楽の居なくなった台所に立ち、俺は扇形のスポンジに生クリームを絞っていった。
横半分にスライスしたスポンジの切り口へ満遍なく生クリームを塗り、その上に、ヘタを取り半分に切った
イチゴを並べ、もう一度生クリームを重ねる。
にゅるにゅると星型の口金から白くて甘い生クリームを絞り出していると、ふと、アイツと似てるな、とか思ったりする。
まあ、アイツの場合、絞り出すのは黄色くて酸っぱいマヨネーズなんだけどね。
でも本当、何でいつもウ○コみてェにだすんだろうな……。せめてケーキのデコレーションみたいにキレイに絞れば……
いや、ケーキっぽいのに酸っぱいってのは更にキツイ気もするな。見た目も実際もマズイってことでバランス取れてんのか、一応。
こんなこと、直接アイツに言ったらすっげぇ剣幕で怒るんだろうな……。けど、最近ずっと会ってねェから、怒鳴り声でも聞きてェよ。
そんな風に思って、この前アイツに電話してみたのに……
『あっ、もしもし土方?今、忙しい?』
『忙しい。』
これだけで切られた。俺達、付き合ってんだよ?それなのにその態度はどうよ?忙しいのは分かってるよ。
分かってるから会いに行かず、せめて声だけでもって思った男の純情、一体どうしてくれよう……
お仕置きか?お仕置きしかねェよな?むしろアイツ、お仕置きされたくて冷たくしてんじゃね?
俺がドSなのは百も承知のはずだ。その俺にあんな態度をとるってことは、次に会った時のお仕置きを期待してんだよ。
アイツ、ああ見えてそういうの好きだからね。ていうか、大好きだからね。「鬼の副長」なんて呼ばれて突っ張ってるけど、
銀さんの逞しい身体に組敷かれてあんあん言っちゃうからね。
仕方ねェな……。求めに応えるっつーのはドSの流儀に反するんだけど、恋人には喜んでもらいてェし?
銀さん、サービス精神旺盛でこう見えて尽くすタイプだからさァ……濃厚なお仕置きプレイに講じてやるとしますか。
何すっかなァ……。お仕置きだから縛ってお尻ペンペンっつーのは芸がねェし……折角だからこう、今までに
やったことのない感じのプレイを……
『やめろ、万事屋っ!』
そんなこと言いながらチンコはビンビン、先走りでケツの穴までヌルヌルになってるアイツを想像しただけで、
俺のムスコは熱くなる。
さあ、どうやって苛めてやろうか……
俺の手には生クリームの絞り袋。
そうだ!アイツをケーキにしてやろう!銀さんに冷たくした罰として、銀さん専用ケーキになって
美味しくいただかれるって寸法だ。やっべ、涎が……
口元を手の甲で拭い、ケーキのデコレーションを再開させた。気分はもう、アイツをデコレーションする予行演習。
乳首に生クリームは鉄板だろ……。そう考えてイチゴの上に生クリームを絞るとあら不思議。イチゴがとっても卑猥なものに見えてくる。
俺は、まだケーキに乗せていなかったイチゴを一つ摘まみ、先ちょに生クリームをプチュッと出してそのクリームを舐めてみた。
「ハァ……」
予想以上にクる……。イチゴの粒々感が、外でヤった時の寒さに粟立つ肌の感触に意外と似ていて、
俺のムスコはドクリと脈打った。いいな、生クリームプレイ……。今度のプレイはこれに決まりだな。
乳首の上に生クリーム絞って、「失敗した」とか何とか理由を付けてそのクリームを舐めとる。
ツンと尖った乳首に俺の舌先が触れて、アイツは息を飲むんだ。
『なに?気持ち良かった?』
『ンなわけ……ね、だろ……』
気持ちいいくせに、素直じゃないんだから……。
萎えてる状態のアイツの股間に生クリームを盛って、徐々にチンコが勃ってクリームから出てくるのを観察するのも楽しそうだ。
あ、でも、超敏感なアイツのことだから、裸に剥かれた時点でちょっと勃ってるかもなァ……。
そんで、クリーム垂らした刺激ですぐ完勃ちしちまうかも?
白い生クリームの中から勃ち上がる土方のチンコ……あー、しゃぶりてェ……しゃぶり倒してェェェ!!
「くっ、ハァ……」
俺のムスコはいつの間にやら完勃ち状態だった。
息が上がる。喉が渇く。俺はごくりと喉を鳴らして作りかけのケーキに向き直る。
目の前のスポンジはもう、裸のアイツにしか見えなかった。
仰向けに寝かせた全裸のアイツの両乳首とヘソへ生クリームを盛り、その上に小粒のイチゴをトッピング。
『イチゴ、倒しちゃダメだよ。』
『あ?』
『倒したらお仕置きだからね。』
『っざけんな!』
そうは言っても、アイツは悪態を吐くだけで動けない。こういうところは素直なんだよね。
そんな可愛いアイツの三つのイチゴの間―胸から腹にかけて―には、生クリームで書いた
「ぎんときLOVE」の文字。チンコの上に盛った生クリームは、完勃ちして先走りが溢れたせいでダラダラと下へ垂れていく。
恥ずかしさで閉じるアイツの脚を開かせれば、垂れたクリームはケツの方へ流れていった。
アイツの位置からじゃその様子は見えないはずだが、感触で分かったのか顔を真っ赤に染めてぎゅっと目を閉じる。
そういう顔されっと、イジワルしたくなっちゃうだろ……
『あっれぇ〜、ここはまだ、クリーム塗ってなかったはずだけどなァ……。なぁんでこんなにヌルヌルなのかなァ?』
『あっ、んっ……』
俺の言葉責めにも感じて、人差し指で軽く押しただけなのに、アイツのケツの穴は物欲しげに開閉する。
『なあ……何でここ、クリーム塗れなの?』
『お願い……早く、入れてっ。』
違うな。
アイツはこんな簡単に堕ちるヤツじゃない。ビンビンでヌルヌルでヒクヒクしてても「いらない」って言うようなヤツだ。
もっとドロドロでぐちょぐちょにして、プライドや羞恥心まで溶けるくらいの快楽を与えてやらねーと、おねだりなんかしねェ。
やり直し!
『なあ……何でここ、クリーム塗れなの?』
『―っ、るせェ……』
入口の皺をくるくるなぞっていると、アイツのケツの穴がキュウキュウと収縮しだす。
欲しくて堪らねェんだろ?身体の奥が刺激を求めて疼いてるんだろ?分かってるって。
でも、あげない。
『いただきまーす。』
『んうっ……』
とりあえずケツは放置プレイにして、乳首に乗せたイチゴをぱくり。
唇も歯も肌に触れないようにイチゴを食ったのに、敏感なアイツはイチゴの動く感触で身体を震わせ、
もう片方の乳首に乗せてあったイチゴが倒れた。
『あーあ、倒れちゃった……。倒したらお仕置きって言ったよね?そんなにお仕置きされたいの?』
『てめーが……』
『なに?俺はいつまでもイチゴ乗せてちゃ可哀想だと思ったから食べてあげただけなのに……』
『くっ……』
悔しそうに目を赤くして睨み付けるアイツ。そんなことしても逆効果だって分かんないのかね?
嗜虐心を煽るだけだっつーの。
こんな感じでアイツはいつも、俺のドS心を刺激してくれる。だから俺もついついイジワルしちゃうんだよなァ。
だってさァ、アイツの顔に「イジメて」って書いてあんだもん。
『おヘソのイチゴ、ピンコ勃ち土方ジュニアが邪魔で食べらんねーなぁ……』
『〜〜〜っ!』
こんなにイジワルされてもビンビンのままのアイツのチンコをからかってやれば、顔全体を真っ赤にして、
下唇を噛み締めて、目尻に薄っすら涙なんか滲ませちゃって、それでも身体の疼きは止まらなくて、
一刻も早く刺激が欲しいのに恥ずかしくて言えなくて……
これだからアイツは何度抱いても飽きない。毎度毎度、ホテルに行くと言っただけで頬を赤らめ、
帯に手を掛ければ恥ずかしさに目を閉じる。
どこのオトメだコノヤロー。
それなのに身体はとっても敏感で、ちょっとの刺激で感じちゃうからますます恥ずかしがって……
恥ずかしいくせに、感じまくってるくせに、「やめろ」「触んな」「クソ天パ」……アイツの口からは基本的に
こんな可愛くない台詞しか出て来ない。そんなアイツを焦らして焦らして焦らして快楽に溺れさせた時の豹変ぶりがまたいいんだ。
『いいから早く突っ込みやがれ!』
唇は開いたまま、肩で息をして、潤んだ瞳で俺を見詰めながら、腰をくねらせる。
ぶっきらぼうな物言いが逆に可愛いと思えるほどの痴態に、理性を保っていられる野郎がいたら
お目に掛りたいもんだ。……まあ、アイツのこんな姿を見ていいのは俺だけなんだけどね。
その後もまあ色々あって、最終的にはトロットロに惚けたアイツのケツの穴(生クリーム仕立て)に
俺のバズーカを一気に奥まで挿入するわけだ。
『ああぁっ!!』
アイツは挿入と同時にイッちゃって、折角キレイにデコレーションした生クリームの上に、アイツの精液が飛び散ってしまう。
『あーあ、汚しちゃダメだろ。……お仕置きっ。』
『んぐっ!』
俺は右手でアイツの身体の上の生クリームと精液を混ぜて指で掬い取り、イッて惚けているアイツの口内にその指を捻じ込む。
『キレイに舐めるんだよ。』
『ぐっ……ん……』
『上手にできたら、ご褒美に銀さんの精液、ナカに出してあげる。』
『ん、んぐっ、んむっ……』
ご褒美と聞いたアイツは、嘔吐きながらも懸命に生クリームと自分の精液の混合物を舐めて……
「銀ちゃん!まだアルか!?」
「うひょわっ!!」
すっかり忘れていたが、今はおやつ作りの最中だった。
なかなか台所から出て来ない俺に痺れを切らした神楽が乗り込んで来たようだ。後ろに新八もいる。
「銀さん、まだデコレーションしてるんですか?」
「お、おうよ。糖分とはいつだって真剣勝負だからな!」
やっべ……チンコ勃ってんのバレねぇよな?着流しの裾で隠せてるよな?大丈夫、大丈夫。
大丈夫だと思うけど、一応、背中を向けておこう……
「銀ちゃん、遅いアル!私、もうできちゃったヨ!」
「お、おう、よくできてんな……」
神楽の皿の上には、想像通りの「スポンジの生クリームがけ」が乗っていた。
「あと何分で終わるネ?私、早く食べたいアル!」
「あ、ああ……お前ら、先に食ってていいぞ。」
「マジでか?きゃっほ〜!!いただきますヨ〜!」
「あ、待ってよ神楽ちゃん!」
新八と神楽が居間に戻る。
フ〜……何とか誤魔化せたみたいだな。よしっ、妄想の続きは本人とヤる時にとっておくとして、
ケーキ作りの続きをするか!早くしねェと、自分の分を食い終えた神楽に「もっと食べたいアル」とか
言われかねないからな。
おっと、その前に厠でヌかねェと……
「…………」
厠へ向かおうとした俺は、ぬるりとした感触に立ち止まる。
「…………」
詳しいことは言えねェが、ヌく必要はなくなっちまった。
俺は、近くに掛けてあったエプロンで汚れを隠してケーキ作りに戻った。
あーあ、早く会いたいなァ……。「忙しい」って怒る声聞くだけでもいいから、また電話してみようかな。
〈弐〉
屯所の自室で机に向かっていると、誰かが襖をノックした。
「山崎です。」
「おう、入れ。」
山崎ってことは、この間の潜入捜査の報告書を持って来たのだろう。
そう思った俺は机に向かったまま入室を促した。けれど山崎は書類ではなく、盆を置いて俺の横に座った。
「報告書じゃねェのかよ。」
「それも持って来てますって……。でもその前に、ちょっと休憩したらどうです?」
「あ?」
真っ先に仕事の話をした俺に山崎は苦笑しながら、盆に乗っていた湯呑と羊羹の皿を俺の机に置いた。
……ったく、勤務中に仕事の話をして何が悪い!
「茶だけでいい。」
「そんなこと言わないで……副長、最近かなり忙しくて疲れてるでしょ?疲れた時には甘い物がいいんですよ。」
まったくコイツは、頼んでもないのに余計なことに気を回しやがる……。
「あっ、これ、報告書です。食器は後で下げに来ますね。」
羊羹では俺のイラつきが治まらないと感じ取ったのだろう。山崎はそれ以上何も言わず、
報告書と茶と羊羹を残して部屋から出て行った。
確かにここのところ書類仕事が嵩み、部屋に籠って紙に筆を走らせ続けていたから、
とりあえず何処でもいいから討ち入りたいと思うくらいには疲れていた。だからといって、
何で甘いもんが出てくるんだ?恩着せがましく持って来やがって……単にもらい物で羊羹があっただけだろーが。
だいたい、疲れた時にはマヨネーズだ。ていうか、どんな時でもマヨネーズさえありゃ何とかなるんだよ。
何が「疲れた時には甘い物」だ。アイツじゃあるまいし……
「チッ……」
銀髪天然パーマのマヌケ面が脳裏に浮かび、俺は舌打つ。
そういえばアイツとも暫く会っていないな……。
だ、だからどうってわけでもねェけどな!
腐れ天パ野郎と俺は、所謂「そういう仲」ではあるが、だからといって少し会えないくらいで、
アイツのことを思って寂しいとか、早く会いたいとか、そんな風に思うことはない。断じてない。天地神明に誓ってない。
ないったらない!
まっ、そんなことより羊羹を食うか。
糖分なんざこれっぽっちも欲してはいねェが、そろそろ休憩しようと思っていたところだったし、
部下の気遣いを無碍にするのも悪いしな……。
俺はマヨネーズを取り出し(いつも手の届くところに置いている。当然だろ。)羊羹の上に適量を絞り出す。
……なに?適量がどのくらいか分からない?おいおい……そんなもん、羊羹が見えなくなるくらいに決まってるだろ。
というわけで、程良くマヨネーズがかかった羊羹の一つに黒文字を刺し、皿から持ち上げる。
この羊羹、有名な店の品だと言っていたな。今の仕事が一段落したら、アイツに買ってってやろうか……。
ていうかアイツ、ちゃんとメシ食えてんのか?この前、アイツん家に言った時も、家賃の取り立てが来たもんな。
差し入れでも持ってなるべく早く会いに行ってやるか……。
いや、アイツはどうでもいいんだけど、ガキにまで苦労かけさせちゃ可哀想だからな。うん。アイツはどーでもいい。本当に。
羊羹にかけたマヨネーズが皿に向かってとろりと落ちる。いかんいかん……。いくら休憩中とはいえ、ボーっとし過ぎだ。
俺は黒文字を刺したままだった羊羹を口に運んだ。
有名店だけあって、確かに美味い。上品な甘さとマヨネーズの酸味が見事に調和し……
何故か、身体が熱くなった気がした。
風邪でもひいたか?……いや、違う。
口内の羊羹を咀嚼するたび、身体が熱くなっていく。
『十四郎……』
「―っ!?」
俺一人しかいないはずのこの部屋で、アイツの声が聞こえた。しかも、吐息交じりの囁くような声で、
滅多に呼ばない下の名前を……。アイツがこんな風に俺を呼ぶのはあの時しかねェ。その……ふっ布団に、いる時、とかだ。
念のため周囲を見回してみたがやはりアイツの姿はなかった。
何で今、あの時のアイツなんか思い出すんだよ……
口の中で中途半端に噛み砕かれたままの羊羹が不快だ。けれどこれを噛めば更に身体が火照るように思えてならない。
これ以上はマズイ……今はまだ燻ぶる程度のこの熱が、引き返すことだって不可能ではないこの熱が、
これ以上になれば確実にマズイ。
それだけははっきりしているから、下手に動くこともできない。羊羹を吐き出しちまえばいいのかもしれねェが、
マヨネーズも一緒に吐き出すことになっちまうからなぁ……
ん?マヨネーズ?そうか!マヨネーズだ!羊羹だと思うからおかしなことになるんだ。
甘いもんだと思うから、糖分王なんぞとのたまうアイツの声が聞こえちまうんだ。
これはマヨネーズ……少し甘いだけのマヨネーズ。そう思えば大丈夫なはずだ!
マヨネーズ、マヨネーズ……これはマヨネーズだ。繰り返し頭の中で唱えながら羊羹……じゃなかった、
マヨネーズと一緒になっているものを噛み砕いていく。
マヨネーズ、マヨネーズ……若干、甘いがこれはマヨネーズだ。
小豆が入ったマヨネーズ……メシに小豆を乗せたのが宇治銀時丼なら、これは宇治銀時マヨか?
『好きだよ。』
「―っ!!」
またしてもアイツの声が聞こえた。「宇治銀時」とか考えてたからだな。くそっ……
ていうか「好きだよ」って何だよ!小豆か?小豆のことだよな!?一瞬、瞳を煌めかせたアイツの顔が浮かんだが、
これは甘いもんを前にしたアイツの顔であって、決してその……そういう時のアイツではなくて……だいたい、アイツが
俺にンなこと言うなんて全然……って程ではねェけど、でもまあ、ほとんどねェよ。
アイツ、余計なことにはペラペラ口が回るくせして、こういう肝心なことは言わねェんだ。
たまに……俺が先に寝ちまった時とか、こっそり言ってんのは知ってるけどな。ダルいから目を開けねェだけで、
終わった直後は辛うじて意識があるから聞こえてるんだ。
それを知ったらアイツ、どんな顔するかな……。今度、途中で目を開けてみようか……焦りながら「何も言ってない」とか
必死で誤魔化すアイツの顔が目に浮かぶようだぜ。くくっ……
あっ、でもアイツのことだから、照れ隠しにキレて、結局もう一回ってことにもなりかねないな。
「まだまだ元気そうだね」とか何とか言ってヤりそうだ。
あのクソ天パ……いつ緊急招集がかかるか分かんねェから加減しろつってんのに、毎度毎度、意識が飛ぶまで
ヤりやがって!しかも、やめろっつーと余計に燃えるしよー……何なんだよ、あのドS野郎!!
「…………」
何であの野郎のこと考えてんだァァァ!しかも相変わらず宇治銀時マヨは口の中だし……しっかりしろ俺ェェェェ!!
ていうか、宇治銀時マヨじゃねーよ。えっと……そう、羊羹土方スペシャルだ。マヨネーズメイン!
あー、どっちにしろ俺とアイツの好物が合わさってんのか……。そうか……俺とアイツが合体……じゃねーよ!何、考えてんだ俺ェェェェ!
ていうか……えっ?
下半身に信じ難い違和感を覚え、恐る恐る視線を股間に向けた俺は、自分の状況が俄かに理解できなかった。
いや、理解したくはなかったんだ。
こんなことってあるか?確かにそっち方面のことを考えてはいたが、あれくらいで勃つなんて……。
そりゃあ、最近忙しくてアイツとも会ってねェから、そっちだってご無沙汰で……でも、ちょっと考えたくらいで
こんなになるまで溜まってたわけでは……
そういえば、羊羹食った時から身体が熱かったな……。
いやいやいや……それはねェよ。羊羹に欲情なんざ有り得ねェ。
そもそも俺は甘い物が特別好きってわけじゃねェんだ。それなのに羊羹を口に入れただけで興奮するわけねーだろ。
むしろ、そういう変態的なことはアイツの十八番であって、俺は至ってノーマルだ。
自分で見出したとんでもない可能性は即座に打ち消させてもらおう。そんなことは有り得ない。絶対に。
ナニがアレなのは、きっと疲れているからだ。疲れた時に勃っちまうってアレだ。そうだ。そうに違いない。
俺が思っている以上に疲れていたのだろう。それならば生物としての本能だ。仕方がない。
羊羹にマヨネーズをかけたことでアイツと俺が絡み合う姿を連想して……なんてことはない!
そもそもこれでは位置が逆だ。俺は羊羹の上にマヨネーズをかけたが、ヤる時はアイツが上だ。
まあ、たまに俺が上になることもあるけどよ……。「上になる」つっても、俺が突っ込むって意味じゃねーぞ?騎乗位とかのことで……
って、何言ってんだ俺はァァァァ!!いかんいかんいかん!気を確り持て十四郎!もうそっち方面のことを考えるな!
これ以上はマズイんだ。……さっきも同じことを言ったが、今はそれ以上にマズイ。ヤバイ。危険だ。
何といっても今は真っ昼間で、仕事中で、いつ襖が開いて誰かが入って来てもおかしくない状況で……
おかしいのは俺だ。
羊羹土方スペシャル―とは名ばかりの流動食みてェになってる代物―をいつまでも口に含み、よからぬ妄想を繰り広げ、
股間を腫らしている。
最悪だ……
こうして反省している間にも、頭の片隅では俺を抱く時のアイツの声や表情や温もりなんかを思い出し、呼吸が荒くなっている。
ナニはもう、出さねェと治まらないところまできている。
それどころか、少し漏れている気さえする。
最悪だ……
だが、いつまでもこの状態じゃ仕事にならねェ。事態を打開するにはヌくしかねェ。
口の中のモンも、ドロドロになって気持ち悪ィ。いい加減、飲み込んでしまえと思う反面、これを飲んだら何か大変なことが起こるような……
ていうか、このドロドロで飲み込みにくい感じはアレに似ているよな。アレだよアレ……精液。
アイツ、飲むのも飲ませんのも好きだからなァ……
『なに?チンコ舐めて感じちゃった?』
アイツの足元に蹲り、ナニを咥えている途中で動きが鈍くなってしまった俺へドSな笑みを湛えて言う。
『ダメだよ、一人で気持ち良くなっちゃ……』
俺の後頭部を両手で押さえ付け、強制的に口淫を続けさせるアイツ。俺はアイツのモノを咥えたままギロリと
睨み上げてみるが、アイツは全く意に介さず、早く舌を動かせだの、もっと強く吸えだのと注文を付ける。
アイツのそんな態度に些か腹が立った俺は、左手で袋を揉み、舌先で鈴口を刺激しつつ吸い上げ、
唾液塗れにした竿をわざと音が出るように右手で擦ってやった。
『―っ……!』
アイツはこうされると弱いんだ。
イイ所を集中的に責められて、アイツが息を飲んで快感に耐えるのが判る。
『銀、さんの……そ、んなに、おいしい?』
今にもイキそうなくせして、どこまでもアイツはドSだ。
そ応えずナニを吸い続けていれば、アイツは勝手に「肯定」と解釈してノッてくる。
『おいしいんだ……』
アイツは時折腰を揺すり、俺の喉の奥へと自分のモノを出し入れする。苦しいはずなんだが、この感触は嫌いじゃねェ。
『ハァッ……』
押さえ付けていたはずが縋り付くように俺の頭を抱える両手と、切羽詰まったアイツの呼吸。
俺の唾液とアイツの先走りの混合物を俺の身体の中へ吸い込めば、何とも言えぬ心地よさを齎してくれる。
『くっ!!』
アイツは腰を震わせて熱い精液を俺の喉、奥深くへと注いでいく。全てを出し切るとアイツは俺の頭を
ナニから外させる。粘着液の糸が俺の口とアイツのナニを繋いで、そのうち切れた。
アイツと目を合わせて喉仏を上下させてやれば、アイツは至極満足そうな顔で俺の手を引いて立ちあがらせ、
布団に押し倒して今度は俺のナニを…………
ってだから!!そーじゃねーよ!バカか俺は!余計に飲み込み辛くなったじゃねーかァァァ!!
いいや飲んでやる!飲んで、ヌく!仕事に戻る道はそれしかねェ!飲んで、ヌいて、仕事だ!!
「…………」
ダメだ……決心がつかねェ!もう吐き出すか?食いもんを粗末にするのは気が引けるが、一刻も早く仕事に戻るためだ。
警察がダラダラ食事をしていて仕事が遅れたのでは、この国の安心・安全が損なわれかねん!その辺の事情は、
マヨネーズ及び羊羹関係団体の皆様も理解を示してくれるはずだ。吐き出した後に「真似しないで下さい」の
テロップも出しておけば完璧だな。よしっ、吐き出そう!
何処に?
屯所は洗面台も厠も共用だ。そんなところで吐き出したら、他の隊士達に見られる可能性があり、
具合でも悪いのかといらぬ世話を焼かれるかもしれない。第一、こんな下半身で部屋の外へ出るのは無理だ。
やはり飲みこむしかないのか……
ピリリリリリ……
「―っ!?」
側に置いていた携帯電話が鳴り、いつもの習性でさっと手に取って通話ボタンを押した。
因みに、口の中のもんは着信音に驚いて飲み込んでしまった。
『あっ、もしもし土方?ごめんね、忙し……』
プチッ
アイツだと判ってすぐに電話を切り、俺は押し入れに走った。
中から掛け布団を引っ張り出し、部屋の隅に座って肩まですっぽりと包まった。
『もしもし土方?』
「ハァ、ハァ……」
アイツの声が……さっきまでの幻聴なんかじゃねェ、本物のアイツの声が、俺の耳元で……
携帯電話を付けた方の耳が熱い。いや、全身が熱い。
「ハァ、ハァッ……」
布団の中でベルトを外し、チャックを下ろす。布団に隠れて見えねェが、下着に染みができてるってのが感触で判った。
「くっ、ハァ……」
俺は、下着をずらしてナニを取り出した。
『土方……』
「んんっ!」
ナニを握った自分の手が脳内でアイツの手にすり替わり、思わず漏れそうになった声を下唇噛んで押し殺す。
「んっ!んんっ……(万事屋……)」
手の中のナニがどくりと脈打ってあっという間に限界が近付く。俺は、先走りに濡れたその手を更に奥へと進めた。
「んくっ!」
声が出ないよう、そっと後ろの窄まりに触れた。アイツを受け入れ慣れたそこは、すっかり柔らかくなっている。
「ハッ、ぁ……」
中指をゆっくりと根元まで挿し込み、第一関節くらいまで引き抜いてもう一度奥へ。
「ハァッ、ハァッ……」
座っているのもきつくて、俺はその場所で横になった。頭まで布団を被り、ナカに入れる指をもう一本増やす。
「んんっ!ぁ、ハァ……」
二本の指を根元まで埋めて、抜いて、また埋める。
(万事屋っ……!)
いつもアイツがするように、ナカの指を曲げて前立腺を押す。
「んあっ!」
声が漏れてしまい、慌ててもう一方の手で口を塞いだ。その状態で前立腺を刺激し続けると、
酸欠と快感で意識が朦朧としてくる。
「んうっ!んんっ!んーっ!」
イキたい……。もう無理だ……。早く、早くここから解放されたい……。万事屋っ!!
「……ろ、ずやっ……」
『イッていいよ。』
「ぁ……くっ!んんーっ!!」
想像上の万事屋に促され、俺は達した。
それから汚れた手をティッシュで拭い、着替えて仕事に戻った。もちろん、布団も押し入れに戻した。
何やってんだ俺ァ……
最中に隊士が入って来なかったのがせめてもの救いか……。
皿に残った羊羹土方スペシャルを見て溜め息を吐く。その息がまだ熱を孕んでいる気がして、また溜め息を吐いた。
羊羹土方スペシャルはとりあえず机の下に置いて、やりかけだった書類のチェックを再開させた。
とにかく、今ある仕事を早く終わらせなければ!そして……
アイツに、会いに行こう。
〈参〉
数日後。
「ふざけんなテメー!何が生クリームプレイだ!!」
「ちょっと塗らせてくれたっていーだろ!?この日のためにいっぱい買ったんだから!!」
「ンなもんの前に家賃払えやァァァ!!」
「ぐほっ!!……殴ることねーだろ!」
「久々に会ってンなこと言われりゃ、殴りたくもなるわ!」
「ううっ……銀さんの大好きな土方くんと、生クリームの夢のコラボが……」
「…………」
「久々だから、特別な感じにしたかったのに……」
「…………」
「特別な日って言ったら、ケーキかなって……だから生クリームかなって思ったのに……」
「…………」
「この前電話したら、すぐ切られちゃったし……」
「……ちょっとだけだぞ。」
「わ〜い。土方くん愛してる!」
「そうかよ……」
終
(12.12.31)
これ↓はアンソロのコメント欄に載せたものです。アンソロが出てから、もう一年経ったんですね……月日が経つのは早いですが銀土(銀)熱は冷めません!
2012年、色々お世話になりました。2013年もよろしくお願いいたします!
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