銀さんの悩みと土方さんの応え


土方とのデートの日。銀時は約束の時間になっても万事屋で鏡を睨みつけていた。
その手には口紅。

(うーん…どうしても化粧するとケバくなるな。ケバいっつーかカマっぽいっつーか…
せっかく女になったのに何でカマっぽく見えるんだ?)

銀時は腕組みをして鏡の中の自分を見つめる。その両腕にはふくよかな胸が挟まれていた。
現在、銀時は女性の姿になっている。坂本辰馬から「面白いものを手に入れた」と言って性別が変わる薬を
もらったのだ。そしてその薬で土方を驚かせようと、銀時はデートの日に合わせて飲んだ。
肩まで届く髪を左右の耳の上で結い、女性物の着物を着たまではよかったが、化粧が上手くいかずに悩んでいた。

(まてよ…本物の女になったんだから、化粧しなくてもいいんじゃね?そのままでも女に見えるんだし…
でもなァ…俺、二十●歳だぞ。この歳の女なら大抵化粧してるだろ…。あー…どうすりゃいいんだ!)

ああでもない、こうでもないと銀時が呻っていると万事屋の呼び鈴がなった。

「この忙しい時に……留守でーす!」

銀時が玄関に向かって怒鳴ると、扉の開く音がした。銀時は面倒臭そうに玄関へ出る。

「何だよ…留守だっつっただろ…」
「ンな居留守の使い方があるかよ…」
「あっ…」

万事屋を訪れたのは土方十四郎であった。

「何で来たんだよ。今日は公園で待ち合わせって言っただろ?」
「その待ち合わせの時間を一時間過ぎても来ねェから、迎えに来てやったんじゃねーか」
「うっ…悪かったよ」
「それよりお前、何か縮んでねーか?」
「縮んだんじゃなくて女になったんだけど…ほれっ」

銀時は胸の下に手を当て、膨らみを強調する。

「…何でだ?」
「えっと…もらいもんのジュースっぽいのを飲んだような?」
「ハァー…お前な、もうちょい気を付けろよ。毒だったらどうすんだよ…」
「あー、そうね。ハハハ…」

本当はどうなるか分かった上で飲んだのだが、そうなると当然飲んだ理由を聞かれる。
それには答えたくなかったため、「知らずに飲んだ」ということにした。
実は、単に土方を驚かせたいというだけでなく、普通の男女カップルとしてデートしてみたいというのも
銀時が女性になった理由なのだ。

「放っておけば元に戻るらしいよ」
「そうか。じゃあ今日は一日ここで過ごすか…」
「えっ、ナニ言ってんの?デートするんじゃねーの?」
「…お前はいいのか?」
「いいに決まってんじゃん。そのためにオシャレしたんだし…」
「その格好で出て行きたくなくて、待ち合わせ場所に来なかったんじゃねーのか?」
「違うって。仕度に手間取っちまっただけだから。じゃあ行こうぜ」
「ああ」

銀時がいいならと、土方は二人で万事屋を出た。

*  *  *  *  *

「おい…なんでそんなにくっつくんだよ」
「ダメか?」
「別に…」

表へ出ると、銀時は土方の腕に自分の腕を絡ませた。寄り添うようにくっつくので歩きにくいと思いながらも
何だか楽しそうな銀時を見て、好きにさせておくことにした。

(周りのヤツら…みーんな、俺達のことカップルだと気付いてる。さっきだって刀鍛冶のオヤジに
「土方さん、デートかい?」って声掛けられてたし、露天商の兄ちゃんにも「デートの記念に…」って
アクセサリーを勧められた。…買わなかったけど。今までは俺達の関係を知ってるヤツ以外からは
単なるダチに見られたし、こんなにくっついて歩いたら絶対ェ白い目で見られるよな…)

「お前、なんかいいことでもあったのか?」
「べっつに〜」

銀時は鼻歌混じりに土方の腕を引いて甘味処へ入っていく。


「こういうキラキラした店に入れんのも女になったからだよなァ…」
「そうか?テメーはいつだって甘いモン食ってるじゃねーか」
「全っ然、違う!いつもオメーと行くのは、団子屋とか…もっと渋い感じの店だろ?」
「ケーキだって食ってるだろ…」
「それはファミレスとかのデザート置いてる店だろ。そうじゃなきゃ持ち帰りだし…」
「そうだったか?」

甘いものに興味のない土方にはイマイチ違いが分からなかった。

(新八と神楽と一緒ならともかく、大の男二人でこういう店はキツイもんなァ…。
でも今なら全く不自然じゃない!……でも、今だけなんだよな…)

普段と違う姿で普段出来ないことをするのを楽しいと思う反面、それが限定的なものだと思うと複雑だった。

「どうした?気分でも悪くなったか?」
「あ、いや、別に…」
「無理すんな…。いつもと勝手が違うんだから、何かあったらすぐ言えよ」
「うん。ありがと…(なんか…今日の土方は優しい気がする。これって俺が女だからか?)」

胸の中にもやもやを抱えたまま、銀時はケーキを幾つか食べて店を出た。


店を出た銀時は、ますます口数が少なくなっていった。

(女になって分かったのは、こいつがカッコイイってことだ。まあ、男の時からそうじゃないかなーとは
思ってたけど…改めて女目線で見ると違うな。やっぱ…土方が俺と付き合ってんのって不自然だよな。
何で、俺なんかと付き合ってんだろ…。単なる気まぐれ?女より面倒がないから?)

「そろそろ帰るか?」
「えっ…何で?」

土方に「帰る」と言われて、銀時は無意識に土方の腕に回している手に力をこめた。

「お前さっきから全然しゃべらねーし…やっぱり具合が悪いんだろ?」
「そういうわけじゃ…」
「とにかく、今日はもう帰ろうぜ。慣れない格好して疲れただろ?」
「朝まで、いてくれるんじゃ…」
「だからお前ん家に泊まるんだよ。安心しろ…ンな顔しなくても朝までお前といるつもりだから」

土方は銀時の頭をくしゃりと撫でた。

「…じゃあ、ホテル行こうぜ」
「はぁ?お前ナニ言って…」
「今ならどこのラブホだって入れるじゃん」

普段のデートで利用する宿は何軒かに決めていた。男同士での利用を断るところも少なくないため
経営者と顔見知りなど「入っても大丈夫」と分かっている宿しか利用していないのだ。

「…どこか入ってみたいところでもあんのか?」
「そういうわけじゃ、ないけど…」
「だったらいいじゃねーか。俺はお前ん家の方が寛げるから好きだぜ」
「土方が、そう言うんなら…」
「よし、決まりだな」

二人は万事屋に向かって歩き出した。

その途中、スーパーの前で土方が足を止めた。当然、一緒に歩いている銀時も立ち止まる。

「どうしたんだ?」
「今日はケーキしか食ってねぇからよ…何か買っていこうと思って」
「そっか」

二人は並んでスーパーの自動扉を通った。

「銀時…お前、本当に具合悪くないんだな?」
「だから大丈夫だって言ってんだろ!」
「だったら飲まねぇか?」
「…お前の奢りなら」
「当たり前だろ。じゃあビールも買っておくな。ツマミは…何か作ってくれるか?」
「うん」

土方は買い物カゴに缶ビールを入れていく。そして、明らかに二人分でない食材と大量のマヨネーズも
買い込み、帰路についた。

*  *  *  *  *

万事屋に着き、買い物袋を調理台に広げると銀時が軽く溜息を吐く。

「なあ…こんなに大量に買ってどうすんの?俺らだけじゃ食いきれないじゃん」
「明日、ガキ共が帰ってきたら食わせてやれ」
「そういうことか…。じゃっ、遠慮なく…」

銀時は適当にツマミを作ると、残りの食材を冷蔵庫にしまった。



銀時の手料理(のマヨネーズがけ)を肴に土方はビールを飲む。
しかし、隣に座る銀時はビールにも料理にも手を付けようとしていない。
土方はそれに気付いていたが、敢えてそのことには触れず様子を伺っていた。

「銀時…お前、いつ元に戻れるんだ?」
「えっ?ああ…確か、効果は十二時間だったと思う」
「そうか。今日は昼頃から会ってるから…夜中には戻るってことか?」
「そだね…(もしかしてコイツ、戻んない方がいいとか思ってるんじゃ…)」
「良かった…」
「えっ!何で?」

思っていたことと真逆の言葉が土方から飛び出し、銀時は目を丸くする。

「何でって…いつものテメーに戻れんだから、いいに決まってるだろ?」
「でもさ、俺が女の方が色々いいことあんだろ?」
「そうか?あのケーキ屋にまた行きたいってんなら、いつでも行ってやるぞ」
「そうじゃなくて…周りからも、ちゃんと恋人同士に見られるし…」
「知らねぇヤツにどう見られても関係ねーだろ」
「そうでもねーだろ…」
「つーか、俺と恋人だって分かると攘夷浪士に狙われるかもしれないから、知り合い以外のヤツには
公表しない方がいいぞ」
「…でも、今日は腕組んで歩いたじゃん」
「いつもと違う姿だったからな…。元に戻っちまえばあの『女』の居場所は掴めなくなる」
「そっか…」

自分が思っている程に、土方は性別に拘っていないのかもしれないと感じ始めた。

「でも…」
「まだ何かあんのか?」
「なんか今日の土方、優しかった…。本当は女の方がいいんだろ?」
「あのなァ…オメーが元気ない時くらい優しくするっつーの」
「…本当にそれだけ?」
「ったりめーだ」
「でも…」
「何だよ!俺がテメーの心配しちゃいけねェのかよ!惚れた相手に優しくしちゃ悪ィのかよ!」
「……悪く、ない」
「よしっ。だったら下らねぇこと言わずに飲め」
「うん」

土方は缶ビールを一本銀時に手渡した。銀時はビールを一口流し込む。
すると、アルコールと一緒に胸に痞えていたものも流れていくような気がした。
そして後からじわじわと土方の言葉が身に沁みて、徐々に銀時の気持ちが上向いてくる。

「お前さ…恥ずかしいヤツだな」
「あぁ?」
「だって、銀さんのこと好きすぎだろ」
「好きだから付き合ってんだろーが」
「そうなんだけどさ…」
「テメーは違うのかよ…」
「…どうだろうね」
「ったく…酒飲んだ途端、元気になりやがって…」
「まあ、そういうことにしといて…」

元気を取り戻した理由が「土方の愛を感じたからだ」などとは口が裂けても言いたくないと銀時は思っていた。
銀時はちらりと時計を見る。

「俺さ…薬飲んだの十一時くらいだったんだよね…」
「そうか。じゃあ、あと三十分くらいで戻るのか」
「うん。だからさ…今のうちにヤらねぇ?」
「はぁ!?」
「俺の乳、結構デカくね?触るなら今しかないよ」

胸の下に手を置き、銀時はぷるぷると揺する。

「別に触りたかねェよ…」
「じゃあチ○コ挟んでやろうか?」
「もっといらねェ…」
「何だよ。俺がサービスしてやろうって言ってんのに…照れんなって」
「それなら三十分後にしてくれ…」
「三十分後じゃ、乳なくなっちまうぞ」
「だから、それはいらねェって言ってんだろ…。平らになったら触らせろ」
「マジで?土方って貧乳派?」
「いつものテメーがいいだけだ…」
「本当、お前…俺のこと好きすぎ」
「だからー…」
「うん。ありがと…」
「…おう」

銀時は目を閉じ、いつもより僅かに高く感じる土方の肩に頭を乗せた。

薬の効果が切れるまで、あと少し。


(10.08.16)


一周年記念リクより「土×にょた銀でデート」でした。「大手を振って土方クンとデートできると喜んではみたものの、だんだん男の自分に劣等感持っちゃってしょげる銀さんを

土方クンが男らしくフォローしてくれたらステキ」とのことでしたが…あまり男らしいフォローができなくてすみません^^; 銀さんが沈んでる理由をちゃんと分かった上で

土方さんが色々言ってるんだとしたら、少しはカッコよく見えるかな?…でも、もしかしたら何も分かってなくて言ってるかも(笑)。銀さんに元気ないから飲みに誘っただけとか…。

タイトルは「応え」となっていますが、悩みに対する明確な「答え」ではなく、銀さんの悩みに対する土方さんの反応程度の意味です。こんな感じになりましたが

リクエスト下さった典雅様のみお持ち帰り可ですのでよろしければどうぞ。この度はリクエストありがとうございました。そして、ここまでお読み下さった方々、ありがとうございました!

 

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