八月のある日。人々で賑わう祭り会場が、一瞬にして悲鳴で溢れかえった。
祭りに参加していた将軍を狙った騒動があったからである。騒動自体は将軍を警備していた真選組の活躍等によって
一人も死者を出すことなく収束させすることができた。
そして、土方が事件の後処理も終わって屯所へ戻ろうとした時、とある人物を見付けた。
土方はその人物にそっと近付き、素早く喉元に真剣を突き付けた。
「高杉晋助だな?」
「ククッ…たった一人で俺を捕らえようなんざ…さすがは鬼の副長」
「へぇ…俺のことを知ってんのか。なら話が早ェ…一緒に来てもらおうか」
「…真選組の屯所へか?」
「ああ」
「そうか。今日は記念すべき日になりそうだ…」
そう言うと高杉は薄っすらと笑みを浮かべた。
土方は右手で刀を構えたまま左手で手錠をかける。それからパトカーで屯所へ向かった。
その間、高杉は何の抵抗もせずにただ黙って土方を見ていた。
* * * * *
屯所に着くと、土方は高杉を連れて取調室へ向かう。
「トシ、よくやった!」
「近藤さん」
高杉は近付いてきた近藤を睨みつける。
「おい…まさか、そこのゴリラも一緒に部屋に入るのか?」
「そうだ。テメーにゃそんくらいやらないとな…。それと、近藤さんはゴリラじゃねェ」
「ダメだ。この部屋には、お前と俺以外入ることは許さねェ」
「あ?テメー、そんなこと言える立場だとでも思ってんのか?」
「俺はお前と二人っきりで話がしたくて来たんだ。それができねェなら帰らせてもらう」
「だからテメーがそんなことを…」
「まあ、待てトシ。高杉…トシになら話すんだな?」
「ああ」
「…分かった」
「近藤さん!」
「ただし取調室の周りは厳重に警備させてもらう」
「いいぜ。…さあ、行こうか」
高杉は手錠に繋がれた両腕の間に土方の腕を通し、腕を組むようにして取調室へ入った。
「ん?」
「おい、どうした?早く来いよ」
奥のイスに高杉を座らせ、土方は扉を閉めようとしたのだが扉が閉まらない。どうやら向こう側から
ノブを引いている者がいるようだ。土方がノブから手を離すと、扉が勢いよく開いて鈍い音がした。
恐らく向こう側にいた者が扉にぶつかったのだろう。土方は外を確認する。そこにいたのは・・・
「よ、万事屋!?」
「てて…どーも」
「テメー、ここで何してやがる!」
「それはこっちのセリフだ!オメー、高杉と二人きりなんて…そんな危険なこと、銀さん許しません!」
「あ!?何でいちいちテメーの許可がいるんだよ!仕事の邪魔すんじゃねェ!」
「だからコイツはダメなんだって!こいつと二人きりになんかなったら、瞬く間に妊娠させられるぞ!!」
「アホかっ!!何で男の俺が妊娠すんだよ!」
「高杉のエロさはそんくらいハンパないんだって!そりゃあお前もエロいよ?でもお前のエロさとは質が違うっつーか…」
「誰がエロいっつーんだァァァ!!」
土方は銀時の顔面に拳をめり込ませた。
「まあ、お前がいかにエロいかは仕事が終わった後に布団の中で説明するとして…」
「お前…本当にどうしたんだ?エロいとか布団とか…いつも以上に変だぞ?」
「愛しい恋人が貞操の危機に晒されてるんだ。これが落ち着いてられるか!」
「恋人ォ?テメーにそんなヤツいたのか?」
「なに言ってんの?職場だからって照れなくていいんだよ」
肩を抱いてくる銀時を土方は鬱陶しそうに引き剥がすが、銀時は特に気にする様子もない。
「相変わらずのツンデレだな。まあ、そこがお前のいいところなんだけどね」
「お前…本当に変だぞ?暑さで脳ミソ蒸発したのか?」
「はいはい…。仕事の邪魔はしないからここにいさせてよ。恋人の貞操が護れれば俺はそれで…」
「だから…どこにテメーの恋人がいるってんだよ!」
「こ・こ♪」
銀時は土方の鼻の頭をつんと押した。土方の米神にピキリと青筋が浮かぶ。
「誰がテメーの恋人だァァァ!!」
「ぐへっ!」
再び土方の拳が銀時の顔面にめり込んだ。
「えっ……ウソ?恋人じゃ、ない?」
「当たり前だろーが!寝言は寝てから言え!」
「えっ、マジで?お前絡みで俺VS高杉って、高杉に襲われそうなお前を、恋人の銀さんが颯爽と助けに入るとか
そんな話じゃねぇの!?…まさかのデキてない設定ィィィ!?」
「何が『まさか』だよ。テメーと俺がデキてないなんざ、当然のことだろ…。分かったら帰れ!」
「ま、待って!それでも高杉と二人きりにはさせられない!」
「るせェな…。これ以上仕事の邪魔するってんなら公務執行妨害で逮捕すんぞ!」
逮捕という言葉に銀時の瞳が煌いた。
「よしっ、逮捕してくれ。そんで俺も取調べを…」
「チッ…おい、山崎!」
「ストーップ!なんでジミー?俺はお前がいいの!」
「俺ァ、高杉の取調べがあんだよ。だいたい、逮捕されるヤツに選ぶ権利があるとでも…」
「嫌だ!俺は絶対ェにお前と高杉を二人きりにはさせねー!」
「諦めろ銀時。テメーみてぇな小物を真選組の副長が相手にするわけねーだろ」
これまで黙って様子を見ていた高杉が口を開く。銀時は高杉を睨みつけた。
「てめー、ラスボス的存在だからって調子に乗ってんじゃねーぞ。こうなったら、どっちが先に土方を落とすか勝負だ!」
「ククッ…受けて立つぜ」
「…お前ら、なに言ってんの?」
坂田銀時VS高杉晋助
「ハァー…」
取調室で土方は大きな溜息を吐く。
小さな机を挟んで、土方の向かって右に高杉、左に銀時が座っている。二人はそれぞれ土方の手を握っていた。
もちろん、高杉の手首には手錠がかかっている。
「どうした?何か悩みでもあるのか?」
「悩みなら銀さんが聞いてあげるよ。さあ、話してごらん」
まさに悩みの種そのものである二人が、土方の相談に乗ろうとする。土方は二人の手を振り解いた。
「テメーらいい加減にしやがれ!なんで取調べする側の俺が話さなきゃなんねーんだよ!」
「そうか…お前は俺に興味があるんだな。いいぜ。何でも聞いてくれ」
「俺も俺も!」
「万事屋…テメーは少し黙ってろ。高杉…じゃあ聞くが、テメーらのアジトはどこだ?」
「何だ?俺の家が知りたいのか?悪いが俺は決まった家はない。その代わりに携帯の番号を教えてやろう」
「いや、アジトはどこだって聞いてんだよ。そもそもお前は捕まったんだから携帯なんか使えねーだろ」
「090の××××××××」
土方のツッコミを聞いていないのか、高杉は勝手に携帯電話の番号を口にする。土方は溜息を吐きつつも
その番号をメモした。これが本当に高杉の携帯電話の番号ならば、今後の捜査の役に立つと思ったからだ。
すると銀時が横槍を入れる。
「あっ、ずるい!俺の番号も聞いて。俺ん家は03の××××××××」
「なんだ銀時…テメー携帯持ってねェのかよ。相変わらず貧乏だな…」
「うるせェ!家のないテメーよりマシだ!あっ、住所はかぶき町…」
「知ってるからいい」
「そうだよねー。俺ん家に遊びに来たことあるもんねー」
「なあ、お前の番号も教えてくれよ」
「教えて、教えて」
銀時は懐からメモ帳を取り出し、高杉は再び土方の手を握る。土方はその手を振り払って言った。
「俺が聞く側だって言ってんだろ!テメーらは大人しく俺の聞くことに答えてりゃいいんだよ!」
「お前が俺のことを知りたい気持ちはよく分かる。だが、それと同じくらい俺だってお前のことが知りたいんだ」
「テロリストなんかに土方が番号教えるわけねぇだろ。…でも俺には教えてくれるよね〜」
「るせェよ!俺に用があんなら110番しやがれ!」
「そういうことじゃなくてさァ…」
「そうか…お前はメール派なのか。俺のアドレスはtakaxhiji-love@×××.××.××だ」
高杉のアドレスを聞き、銀時が掴みかかる。
「何だよそのアドレス!付き合ってもねェのに図々しい…ginxhiji-loveに変えろ!」
「テメーだって付き合ってねぇだろ。…悔しかったら携帯を買え。さあ土方、お前のアドレスは何だ?
もしかして俺と同じか?」
「違うよな?ginxhiji-loveだよな?」
「タカヒジとかギンヒジとかわけ分かんねェよ。そんなんじゃなくて、俺は仲間のいる場所を教えろって言ってんだよ!」
「家族に挨拶したいのか?」
「あっ、俺の家族は恒道館道場と…」
「知ってるからいい」
「そうだよね〜。…聞いたか高杉。俺達はもう家族ぐるみのお付き合いなんだぜ」
銀時は勝ち誇ったように言った。しかし高杉は動じない。
「ハッ…俺は土方と二人の関係を深めたいんだ」
「強がり言っちゃって〜」
「そんなんじゃねぇよ。俺ァな…今日という日をお前と過ごせて嬉しいんだ。祭りに行って、ドライブして…」
「いや、祭り会場で俺が逮捕して、パトカーで連行しただけだから」
「そして今、こうしてお前と愛を語り合っている。…今日は最高の誕生日だぜ」
「取調べだ!…んっ?誕生日?」
「ああ。今日は俺の誕生日だ」
「そうか…誕生日に捕まるたァ、お前も災難だったな」
「何を言う。俺にとってはお前と過ごせることが一番のプレゼントだ。ありがとな」
「高杉…」
「ちょちょちょちょっと待ったァァァ!!」
思わぬ形でいい雰囲気になった二人を銀時が急いで遮る。
「誕生日とかずるくね?そんで、土方はナニちょっとポーっとなってんの!?この浮気者っ!」
「何でテメーに浮気とか言われなきゃなんねぇんだよ!だいたい、ポーっとなんかなってねぇ!!」
「なってたじゃねーか!何だ?誕生日に弱いのか?俺だって二ヶ月後に誕生日だよ!一緒に過ごそう!」
「るせぇな…今はそんな話をしてる時じゃねーってんのが分かんねェのか?」
「高杉とはそんな話をしてたじゃん!」
「あれは勝手にコイツが話し始めたんだろーが!」
「じゃあ俺も勝手に話す!ねぇ、土方の誕生日はいつ?」
「…五月五日」
「おぉ!俺のちょうど半分!なんか運命的じゃね?」
「俺の中のヤツと一緒だ。…これは運命だな」
「オメーらいい加減にっ!?」
「土方!?…くっ!」
急に土方がその場に蹲り、銀時が慌てて駆け寄った。しかし、銀時も体が動かなくなってしまう。
どうやら毒ガスのようなものが充満しているようだった。
高杉がゆらりと立ち上がる。その時、取調室の扉が開いた。
「晋助様、零時過ぎたっス」
「残念だが…もう『誕生日』は終わったようだ。楽しかったぜ、土方」
「たか、すぎ…てめっ…」
「安心しろ。体の痺れは一時的なもので後遺症もない」
「晋助様、早くマスクを…」
「ま、てっ…」
「じゃあな…」
去り際に土方の髪をさらりと撫で、高杉は迎えに来た鬼兵隊のメンバーと共に真選組屯所を後にした。
* * * * *
「近藤さん、すまなかった」
「お前のせいじゃない。俺達も全く動けなかった…」
毒ガスの効果が切れ、体が動くようになった土方は近藤に詫びる。近藤は土方を慰め、部屋に戻って休むように言った。
「お、まえ…」
「よっ」
土方の部屋には銀時がいた。何故か布団が二組並べて敷かれており、銀時はその一つに横になっている。
「まだいたのか…さっさと帰れ」
「いやね…遅くなったから泊まっていけってゴリラが…」
「……この部屋にか?」
「あー…それは俺が、お前と一緒がいいって言ったから…」
「何でンなこと…」
「ずっと言ってるじゃん。俺、本気だよ。本気でお前のこと…」
「…そうかよ」
それだけ言うと、土方は制服から部屋着の着流しに着替えていく。
「…あのさァ、自分のこと好きだって言ってる男の前で堂々と服を脱ぐのはいかがなものかと…」
「アホかっ…男同士でこそこそ着替える方が不自然だろーが」
「いやでも、どうすんの?服着る前に俺が襲ってきたら…」
「そういうこと言ってる時点で、襲う気なんかねぇってことだろ」
「そうだけどさァ」
ちょっとくらい意識してくれても―そんなことを思う銀時の傍で土方は着替えを終え、文机に向かった。
「あれっ…まだ仕事?」
「いや、ちょっと…」
土方はメモ用紙に何かを書き、それを二つ折りにして銀時に渡した。そして銀時が中を見る前に布団へ潜り込む。
「これって…」
そこには090で始まる数字の羅列。
銀時がメモを開いたと分かると、土方は頭まで掛け布団を被った。銀時は嬉しそうに布団の膨らみを揺する。
「ねえ、これってアレだよね?ねえ、ねえ…」
「…仕事中は、出ないからな」
「うん。…でも何で教えてくれる気になったの?」
「…テロリストがいるところで教えられるワケねーだろ」
「もしかして…俺には教えてくれるつもりだった?」
「…もう寝ろっ」
「そっちの布団で寝ていい?」
「…テメーの布団で寝ろ」
「じゃあ一緒に寝るのはまた今度ね〜」
「もう黙れっ」
「はいはい」
銀時の「また今度」を土方は否定しなかった。銀時は嬉しそうに土方の隣で眠りに就いた。
(10.08.13)
一周年記念リクより「高杉を交えての銀土」でした。「銀さんと高杉で思う存分土方さんの取り合いをお願いします」とお願いされた結果がこれです^^;
取り合い、なのかな?自己PR合戦といった感じでしょうか?作中で銀さんが言っているように「高杉に襲われる土方さんを銀さんが助ける」なんて話が
リクエストに合っているのだとは重々承知しているのですが…そんなカッコイイ話は書けませんでした。この話の土方さんは銀さんのことがずっと好きで
「取調べ」中もずっとドキドキしてたんだと思います^^ こんな感じになりましたが、リクエスト下さったいっち様のみお持ち帰り可ですのでよろしければどうぞ。
この度はリクエストありがとうございました。そして、ここまでお読み下さった方々、ありがとうございました!
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