※パラレル倉庫「その他」で書いたホスト金魂(金時&トシーニョ)設定です。
※金魂といっても特殊な設定なので「 生まれ変わっても…」および「生まれ変わったら……」を
お読みになってから進まれた方がいいかもしれません。
その他2012年誕生日話や2013年バレンタイン話も同様の設定です。
※前作まで読む時間はないけれど読みたい!という方や、昔の話の内容まで覚えてない!
 という方のために簡単なあらすじを載せておきます↓

 ・二人は別々の店に勤めるナンバーワンホストです。
 ・金時(本名:坂田銀時、日本人)は元業界最大手(現・業界二位)の店のホスト。
 ・トシーニョ(本名:土方トシ、米と仏のハーフ、日本に帰化)は業界最大手の店のホスト兼
  アパレルブランドの次期社長候補です。
 ・金時はゲイです。
 ・トシーニョは女装好きです。休日は基本女装ですが、女性になりたいわけではありません。
 ・二人が付き合っていることは客も店側も知っています。
 ・二人は原作設定から何度か生まれ変わり、その都度恋に落ちている設定です。
 ・カップリングはリバです。

このように、おかしなホスト×ホスト話ですが、大丈夫だと思われた方は本文へお進みください↓




2017年ハロウィン記念作品:夢の国でプリンセスと


紅葉前線南下中の十月下旬の朝遅く。ナンバーワンホスト同士のカップルは、日本最大級のテーマパークに隣接するホテルの一室にいた。
昨夜、仕事を終えてタクシーでここに直行。着いた時には日付がとうに変わっていて、今日に備えてすぐ就寝。それでも九時過ぎに目覚めるのがやっとであった。
「よし、完璧!」
バスルームから出てきた金時は、アイデンティティーとも言える金髪天然パーマを整髪料で七三分けに固めている。どうだと自慢気に披露されてトシーニョは、
「いいじゃねーか」
いつもの方が好きだなどと言えるわけもなく、誉めてやった。薄青色のドレス姿で鏡に向かいながら。
彼らが今日、ここに来ると決めたのは数ヶ月も前のこと――

*  *  *  *  *

「なあ土方、十月にネズミーランド行かねぇ?」
「いいぜ」
何の気なしに始まったデートの話。時期的に誕生日の希望だろうかと、この時のトシーニョは思っていた。
だが次の台詞でそれは打ち消されてしまう。
「じゃあ近いうちに採寸行こうね」
「……採寸?」
「そっ。ピッタリサイズの衣装作ってもらうから」
「ハロウィンか……」
イベントに乗じて仮装、というよりは女装させることが目的かと頭を抱えた。
女性の服を着るのが好きで、今もそうしているけれど、ゲイの恋人から勧められるのは申し訳ない。そう常々思っているのに、何だかんだと理屈を付けて、金時は女装させる機会を作っていた。
「俺はプリンスやるから、トシ子ちゃんはプリンセスね」
「耳、着けるだけでいいだろ」
動物型キャラクターの耳カチューシャは、人気アイテムの一つ。その中の女キャラクターものを装着する程度で充分であるのに、それには強い反発がなされた。
「そんなんハロウィン関係なくできるだろ!」
「じゃあカボチャ付きの耳で」
ハロウィン期間限定のカチューシャで譲歩の姿勢を見せるものの、引き下がらないことは分かっている。こちらの趣味に付き合う大義名分をあちらがどう用意するのか、ある種の儀式のようなものであった。
「こんなデートができるの、俺達だけだよ?」
「は?」
捻り出された大義に怪訝な顔をするトシーニョ。その手を取って金時はにっこり勝ち誇る。
「前世の俺達はしたことないだろ?」
「あ……」
幾度も転生を繰り返しながら長い長い時を共に過ごしている彼ら。けれども確かにコスプレデートをした「記憶」はない。罰ゲームなどでなく女装して出掛けられるなんて、今後も自分達以外にはないかもしれない。
そう考えると乗らない手はなく、気付けば快諾していた。

*  *  *  *  *

――それから衣装を縫ってもらい、休みを合わせて今に至る。

ベースメイクを終えたトシーニョは、背後で着替える「王子様」を鏡越しに見つつ、アップに結ってあるブロンドのウィッグを被った。そしてその上からドレスと同系色のカチューシャを合わせる。
「トシデレラできた?」
「まだだ」
自分とプリンセスの名前を混ぜて呼ぶ恋人は上から下までプリンスになっていた。
白い軍服のような上着は金糸の肩章や、ズボンと同じ、えんじ色のサッシュで彩られている。光沢のある黒い靴は、日頃から仕事で履いているものだった。
ヨーロッパ風の内装と相俟って、想像以上の完成度に惚れ直しながら、トシーニョはハイネックの衿と首の境目に紺色のチョーカーを巻く。
「そうすると素肌に見えるね」
「流石に谷間はできねぇからな」
胸元の開いたドレスを着こなすにはそれなりのボリュームが必要。寄せて上げる肉もない彼は、パッドを詰めたブラジャーの上から肌の色に近い薄手のインナーを着ることにしたのだった。


「お手をどうぞ、プリンセス」
「はいはい」
メイクも全て終わり、ロンググローブを嵌めた左手をプリンスに支えられながら立ち上がるプリンセス。最低限の荷物を入れた、シルバースパンコールのハンドバッグ片手に部屋を出る。
王子の携帯電話や財布はポケットに収まっていた。
「堂々とくっついて歩けるのもいいね」
「そうだな」
普段から、特に金時は、好奇の目など気にもせず手を繋いだり腕を組んだりしている。しかし今は寧ろそうしないと不自然な格好。心まで飾れる仮装の魅力を存分に味わっていた。

暑くもなく寒くもなく天気はまずまず。ホテルからパーク入口までは徒歩一分。その短い距離をドレスの裾を引き摺らないよう、雰囲気を楽しみながらのんびり歩いていく。
そうしていると二人の腰程の背の、同じ色のドレスを纏う女の子がトシーニョを指差した。
「しんれれら!」
すぐ後ろには、両親とおぼしき男女。
金時は持ち前の人懐っこい笑顔を浮かべてしゃがんだ。
「お揃いだねリトルプリンセス」
「うんっ!」
「あのー……」
力強く頷く女児に続き、女性が遠慮がちにカメラを取り出す。もちろん二人は撮影を快諾。間に小さなお姫様を挟み、はいチーズ。
「SNSもオッケーですよー」
世界中に「トシデレラ」を見せびらかしたい願望と、旺盛なサービス精神で対応する金時。
子どもを驚かせないよう、トシーニョは黙ってニコニコしていた。

入園してからは、金時が下調べしていたフォトスポットでツーショット写真を次々に撮っていく。ポーズは全て金時の指定。腕を組んで並んだり、ダンスの要領で抱き合ったり。時々、他の来場者から声を掛けられて一緒に写ることもあった。
「あーメリーゴーランド空いてる! 乗って! 俺、撮るから!」
「はいはい」
いつもなら小さい子どもが多く利用するであろうアトラクションも、同じことを考えた王子と姫がちらほら。この中でも俺のプリンセスが一番だと、金時は「馬車」の姫に向けてシャッターを切り続けた。


「あっ、テレビが来てる!」
一通り写真を撮り終えて、のんびりとパーク内を散策していたところ。やや開けた場所で人だかりができているのを見付けた。どうやらテレビ局が撮影に来ているらしい。こちらを伺う視線に、行ってみるかとプリンセスは笑った。
撮影クルーに近付いていけば、絵になると思ってもらえたのか、大きなカメラとともにテンション高くマイクを持った女性がやって来る。
「こちらはプリンセスとプリンスですね? 素敵ですー!」
「ありがとうございます! あ、花野アナ? いつ見てもキュートですね」
「いやいやそんな」
ホストモードも王子の格好にぴったりで、毎年来ているのか、衣装は誰が作ったのかとインタビューは和やかに進んだ。
その様子をにこやかに見守っていたトシーニョにマイクが向けられる。
「プリンセスは大人しい方なんですね?」
「そうなんで……」
「声はプリンセスじゃないもので」
「!?」
外見とはかけ離れた低音に周囲はもとより連れも凍り付いた。こうも堂々と口を開くなんて……。当の本人はイタズラが成功したかのごとく、くつくつと楽しそう。
プロ根性で持ち直した花野アナがインタビュー続行。
「男の方だったんですね」
「はい」
「今日はどうしてプリンセスを?」
「元々女装が趣味なんです」
「そっそうなんですかー」
「似合ってるでしょ?」
ありのままでいてよいのならと、いつもの調子で恋人自慢を始める金時。
「ええ、お綺麗なんでビックリしました」
「そうでしょう」
「ありがとうございます」
あの人、男だって。マジでか――近くにいた一般客のカメラも次々に「トシデレラ」を捉える。
穏やかな秋の日差しに満ちるそこは暫し、撮影会場と化していた。

(17.10.30)



5か月以上ぶりの更新はトシ金トシです。続きは18禁になりますので注意書きに飛びます