2009年ハロウィン記念小説(銀土版)
「「「トリック・オア・トリート!」」」
「旦那ァ、どうしたんですかィ?おかしな格好して…」
吸血鬼の格好をした銀時、犬の着ぐるみを着た新八、幽霊の格好をした神楽――万事屋一行は
いつぞやの肝試しに使った衣装を着て真選組屯所を訪れた。
万事屋を代表して銀時が、出迎えた沖田に訪問の理由を説明する。
「ハロウィンだよハロウィン。どっかの星の風習でよー…こうしてお化けの仮装をして『トリック・オア・トリート』
つまり『お菓子をくれなきゃイタズラするぞ』って言って家々を回るんだよ」
「とどのつまり、貧乏のあまり物乞いを始めたってことですかィ?」
「おいィィィっ!どう聞いたらそうなんだよ!ハロウィンっつーのはなァ…」
「ハロウィンくらい知ってまさァ」
「知ってるならそう言えよ!」
「じゃあ知ってるから言いますけどねィ…ハロウィンで菓子がもらえるのは子どもだけですぜ?」
「大丈夫!銀さん心はいつまでも少年だから!少年ジャンプ読んでるからね?」
「そうでしたねィ。旦那は頭の中、中二の夏でしたねィ」
「沖田くんよー…いくら銀さんでもそこまでアホじゃないからね」
「旦那の精神年齢なんてどうでもいいでさァ。…旦那のお目当てなら部屋で仕事してますんで、ご自由にどうぞ」
「あっそう?悪いねー」
「俺はこれから昼寝するんで、あまりうるさくしないでくだせェよ」
「…仕事しろよ」
沖田の許可を得て、万事屋三人は屯所の中に入った。そして目的の部屋へ真っ直ぐに向かった。
* * * * *
「「「トリック・オア・トリート!」」」
「…ほらよ」
「わぁ!ありがとうございます」
「ありがとうネ!」
バタンと銀時が副長室の襖を開けると、三人同時にお決まりのセリフを言う。
すると、文机に向かっていた土方は机の引出しを開け、新八と神楽に袋を一つずつ渡した。
片手に納まる程のそれは、カラフルな水玉模様が描かれており、中には飴やチョコレートやクッキーなどの菓子が詰まっていた。
今日ここに来ることなど土方に知らせていない。にもかかわらず明らかに用意されていた菓子を渡され
新八は喜びとともに疑問が沸いてきた。
「土方さんコレ、どうしたんですか?」
「近所の菓子屋で買った」
「じゃあ、やっぱり今日の…ハロウィンのため?」
「ああ…オメーらが来るとは思わなかったが、多めに買っておいて良かったぜ」
「こんな所に来る子どもが他にもいるアルか?」
「いや…部下にやるんだ」
「へぇー、真選組でもこういう行事をするんですね」
「何年か前に総悟のやつが始めやがったんだ…俺にいやがらせをするために、な。
菓子なんか持ってねェのを分かってて『トリック・オア・トリート』っつって、バズーカぶっ放すんだ」
「ははは…大変そうですね」
「そんで次の年からその日だけ菓子を用意するようになったら、総悟のやつ部下を引き連れて来やがって
『全員分の菓子がねェならイタズラですねィ』とか言ってよ…アイツのはイタズラってレベルじゃねーっての」
「それで、たくさんお菓子を準備するようになったんですか?」
「まあな」
「…これ、酢こんぶが入ってないアル」
「ちょっと神楽ちゃん!せっかくもらったのに…」
「お前が来ると分かってたら買っといたんだけどな…悪かったな」
土方の近くで腰を下ろし、もらった菓子に難癖付ける神楽とそれを宥める新八。
二人の頭を軽く撫でると、土方は穏やかな笑みを浮かべた。
「ちょっと待てェェェ!!」
子どもたちと土方のやり取りを入口で黙って見ていた銀時が遂に声を上げた。
「…んだよ、うるせェな」
「銀さんは無視ですか?なにガキどもにばっか優しくしてんの?」
「無視って…勝手にテメーが黙ってたんだろーが」
「そうじゃねェよ!銀さんのお菓子は?…あっ、もしかしてコレは銀さんにイタズラされたいってお誘い?
そうか、そうか…とりあえず昼間は菓子だけでイタズラは夜に…と思ってたんだけど、お前から誘われちゃ断れねェよな。
…新八、神楽、お前らもう帰っていいぞ」
「っざけんな!!誰が誘った!?つーか夜ってなんだよ!昼が菓子で夜がイタズラって、お前『オア』の意味分かってんのか?」
「まー、その辺は江戸風にアレンジっつーことで…」
「随分都合のいいアレンジだな、オイ」
「つーわけで…トリック・オア・トリート」
「…それが通用すんのはガキだけだ。よってテメーにやる菓子はねェ!」
土方の隣に座ると、銀時はにっこり笑ってあのセリフを言った。
だが土方は銀時に取り合う気はないようで、机の上の書類に目を通し始めた。
それでも銀時はめげずに話し掛ける。
「じゃあイタズラ…」
「…だからそれもガキ限定だ」
「沖田くんは…?」
「アイツはガキだろーが」
「他の部下たちは…?」
「総悟が連れて来てんだから同じだろ?」
「お、俺だって新八と神楽と…」
「オメーは二人の保護者だ」
「…前に俺のことガキだって言ったじゃないか」
「言ってねェ」
「言いましたー。第七十五訓のサウナの中で言いましたー」
「そん時はお前だって俺のことガキだって…」
「相手が言ったこといちいち覚えてるとかキモイアル。このバカップルが!」
「じゃ、じゃあ僕らはこの辺で失礼します」
「「あっ…」」
いつの間にか銀時は土方を後ろから抱き締めていたのだ。
自分たちを無視していちゃつき始めた大人二人を置いて、新八と神楽は副長室を出ていった。
その後も、神楽はすれ違う隊士達に「トリック・オア・トリート」と言いながら半ば強制的に菓子をもらい
万事屋の子どもたちは屯所を後にした。
* * * * *
新八と神楽が去った後も、副長室では相変わらず銀時が土方を後ろから抱き締めている。
銀時は目を閉じて土方の肩口に顔を埋め、前に回した手で土方の腹や胸を服の上から撫でていた。
その手の動きは緩やかで、銀時が微睡んでいるのを土方は背中越しに感じた。
「おい、銀時…」
「んー?なぁに?」
土方の声かけに、半分眠ったような声で銀時が答える。
「いい加減、離れろ。仕事ができねェ」
「えー、ダメ。お菓子くれるまで離れないー」
「…菓子はテメーんとこのガキにやったので最後だ」
「じゃあ離れませんー」
「……おい」
「なぁに?」
「トリック・オア・トリート」
「…へっ?」
「だから、トリック・オア・トリートっつったんだよ」
「それは聞こえたけど…えっ?」
「菓子持ってねーのか?」
「あ、うん…」
「じゃあイタズラだな」
「えっ、あの…」
「仕事終わったらテメーん家に行くから、首洗って待っていやがれ」
振り向いてニッと笑う土方の目は妖艶な光を湛えていて、銀時は漸く会話の意味を悟った。
「あ、あの…土方?」
「分かったか?」
「あ、はい」
「じゃあ離れろ。俺は仕事をする」
「…じゃあ、また」
「おう」
神楽を新八に預けなきゃな――銀時は足早に帰っていった。
だがこれまでの経験上、こうなることは容易に予測できたため、子どもたちは既に志村家へ行っているのだった。
(09.10.31)
photo by にゃんだふるきゃっつ
ハッピーハロウィーン!!ハロウィン版web拍手お礼文があまりにも酷いので、小説は真面目に(?)書きました。銀さんを無視して子ども二人と仲良くする土方さんとか、何となく小悪魔っぽい土方さんとか書いてて楽しかったです。
ハロウィン→お化け→悪魔→小悪魔という頭の悪い連想ゲームによって誕生した土方さんです(笑)。後編はもちろん18禁になります。よろしければどうぞ→★