おまけ


「ふい〜っ……」
「まだ化粧落としてねぇよ」

昨晩同様、タクシーで自宅マンションまで帰った二人であったが、土方だけは昨日と同じく
ベッドへ直行というわけにはいかない。最低限、メイクを落としてウィッグは外したい。
なのに銀時は土方の腰をがっちり抱いたままベッドルームへ向かっていく。

「おい、銀時!」
「だいじょーぶだいじょーぶ。飲みすぎてエッチなことできないからトシ子ちゃんのままで……」
「そういうことじゃねーよ……」

男専門の銀時を気遣かってというのもあるが、一番は自分がすっきりしないからだ。
アップにまとめた人工毛がごわごわとして寝にくい。けれど銀時が後ろから腕ごとホールド
しているから、碌に身動きがとれない。

「銀時……」
「トシ子ちゃんラ〜ブ……」
「あのなァ……」

呆れたように息を吐いてみても銀時の腕は離れない。落ちる寸前の酔っ払いのくせに馬鹿力め……
幾つ目かの誕生日プレゼントに寝心地の悪さを我慢してやることにして土方が目を閉じた頃、
銀時の手が不穏な動きを見せた。

「ト〜シ子ちゃ〜ん」

某怪盗三世よろしく若干声を高めに震わせて、銀時の手は土方の控え目に盛られた胸へ。
いい加減にしろ、離しやがれ、ふざけんな……何を言っても銀時は聞き入れず、むしろムニムニと
揉み始める。親指以外の四本を揃えて膨らみの上をぷにぷに……

「何のつもりだテメー……」
「ちょっと、エッチな気分になりまして」
「だから何のつもりかって聞いてんだよ」

銀時がその気になったのは別に構わない。いたすことは土方とてやぶさかではないのだ。
だがそれならどうして作り物の乳など触っているのかが分からない。銀時の性感を煽るのは、
むしろその下にある平らな胸板なのだから。

「ねえ……トシ子ちゃんのおっぱいは何でこんなに柔らかいの?」
「そういうことか」

脂肪の塊が乗っているわけでもないのに弾力ある感触が不思議だったのか……また余計な
気を回させたのではなくて良かった。
そんなことを思いながら土方は色々なパッドがあるのだと教えてやる。

「ほえ〜、すげーな……まるで本物じゃん」
「……本物、触ったことあんのか?」
「あ、なかった」
「やっぱりな」
「ねえねえトシ子ちゃん……」
「今度は何だ?」
「抱いて」
「……は?」

聞き間違いだと思った。銀時はいつも以上に酔っているから滑舌が悪くて……

「トシ子ちゃーん……聞いてる?」
「悪ィ……よく聞こえなかった」
「も〜、ちゃんと聞いててよ〜」
「悪かったよ。今度こそ聞いてるから……」

胸の疑問が解けたからか銀時の手はやや下に降り、土方の身体をぐっと引き寄せてくる。
その気になったというのは本当らしい。左腕は土方の身体を抱き寄せたまま、大きく開いた
スリットから右手が差し込まれ股間を撫でた。

「んっ……」

反射的に前屈みになれば、銀時の身体もぴたりとそれについて来る。

「エッチしよ」
「ああ」

振り向いて軽くキスをして、身体を起こそうとする土方を銀時が止めた。

「何処行く気?」
「何処も行かねーよ。服脱ぐだけだ」
「だーめ」
「あ?」
「スカートなんだから、パンツだけ脱げばできるでしょ」
「お前また……」

性懲りもなく女装姿の自分と交わろうというのか。何度も断念したというのに……

「初めて会った時に着てたお洋服、脱いじまうのは勿体ねーよ」
「……覚えてたのか?」
「そりゃあね」

黒の長袖ロングドレス――土方がこれを選んだのは偶然であった。
一夜限りのお忍び入店に相応しく、白のリムジンに映える黒を選んだだけ。
そもそも「金時」に見せるつもりはなかったのだから。
けれどもいくら思い出の服だといっても銀時にとって魅力のある格好ではないはず。
だから脱ごうとしているのに、

「パンツぅ〜……」
「分かった分かった!」

酔っ払いは聞き入れず、ドレスの裾をパタパタ捲るものだから、とりあえず言う通りに
してやることにした。どうせ途中で音を上げる。その時は何てフォローしてやろうか……
そんな風に考えつつ、土方はストッキングと下着を脱ぐ。その間に銀時は自身のシャツの
ボタンをはずし、ベルトをはずし、ボトムのジッパーを下げ……そこで力尽きた。
後はよろしく、そう言って四肢を投げ出し、土方へ身を委ねる。

「ったく……」

仕方ないなと土方は銀時の履いているものを靴下を除いて剥ぎ取り、シャツの前を開いて
胸を露わにした。


「んっ……」


指の腹で乳首を撫でれば、そこは瞬く間に甘い空間となる。
土方は右側の乳首にちゅうと吸い付いた。


「あ……んんっ……」


土方の頭を抱えるように銀時の腕が伸びる。


「ハッ、あ……」


もう一方には指が掛かった。右側を吸われながら左側を捏ねられると、銀時の腰が浮かんでくる。
暫くそうして胸への愛撫を続けていれば、焦れた銀時の腰が上下に揺れ始めた。
それを合図に土方は空いていた手を股間へ。


「ああ……あっ、う、ん……」


一際感じ入った声を上げる銀時であったが、身体の反応は鈍い。
酒のせいかと常より丹念に一物を刺激していたところ、銀時より「後ろ」に誘われた。


「はやく……」
「ああ」


土方は上体を起こし、指を二本挿入する。
すっかりと受け入れ慣れたそこは難無く指を飲み込んでいった。


「ハァ、ハァ、ハァ……」


刺激を受けても勃起できない程に酔っているのだ。あまり強い快感を与えては気分が悪くなる
かもしれない……土方はなるべくソフトに指を出し入れするよう心掛けた。
けれどそれが銀時には「焦らしプレイ」になってしまう。


「もういいから……いれて……」
「分かった」


返事をしてから土方ははたと思い止まる。本当に入れていいものか、と。
遂に銀時から待ったがかからずここまで来てしまった。服も髪もメイクも、銀時の言葉を
借りれば「トシ子ちゃん」のまま。スカートを押し上げているモノだけが素の土方で、それも
間もなく銀時の内部に入って見えなくなる。


「おい、焦らすなよ……」
「お、おう」


酔いのために焦点が定まらず、土方の格好がよく見えていないのかもしれない。
ならば敢えて、気分が冷めるようなことを気付かせてやる必要はないだろう。
スカートの裾をたくし上げ、土方は銀時の中に自身を捻じ込んだ。


「っ……ん……」


僅かばかり括約筋の抵抗にはあったものの、土方のモノは銀時の最奥へと到達した。


「ぜんぶ、はいった……?」
「ああ」


快感と酩酊と疲労とで銀時の目はほとんど開いていない。瞬きにもやたらと時間がかかっている。
そろそろ体力の限界らしいが、盛大な誕生日イベントを終えたばかりなのだから無理もない。
今夜はこの辺で……


「としこちゃん……」
「えっ……」


モノを抜こうとしたところ名前を呼ばれた。九分九厘寝ているような状態の銀時に、
しかも女装中だと分かっている呼び方で……意表をつかれて土方は動けなかった。


「ね、ちゅーして……」
「あの……」
「くちべに、ついてもいーから……」
「銀時……」
「ト、シ……」


もしかしたら睡魔に負けたのかもしれないけれど、この後に言葉は発しなかったけれど、
愛しげに名前を呼んでゆっくりと閉じられた目に誘われて、土方は銀時の唇に自身のそれを
そっと重ね合わせた。



*  *  *  *  *



十月十一日朝、銀時が目覚めると仄かにコーヒーの匂いが漂っていた。
己の纏うシャツの鮮やかな赤が二日酔いの目に痛い。他に身につけているのは靴下のみ。
この状態のまま出て行ったら土方はどう反応するだろうか……。
まあ、今更どうということもなく下着くらい履けと冷静に言われるだけだな。

いつの間にか外れてしまっていたヘアクリップを布団の中から探し出して前髪に留め、
シャツを脱ぎ、クローゼットから新しい下着とパジャマを取り出して銀時は部屋のドアを開けた。

「おはよ〜」
「……着てから来いよ」

辛うじて下着だけを身につけて出て来た銀時に、ソファでコーヒーを飲んでいた土方は
挨拶も返さず苦言を呈する。
はいはいと適当に相槌を打ってパジャマを羽織りつつ、銀時もその横に座った。

「メシ、食うか?」
「ん〜……まだいい」
「そうか」
「……昨日はごめんね」
「何のことだ?」
「途中で寝ちゃった。……折角トシ子ちゃんと結ばれたのに」
「覚えてたのか?」

よく分かっていないからこそあそこまでできたのだと思っていただけに意外であった。
そうであるならば昨夜のムスコの反応は酔いのせいではなく女装のせいだったのであろうか。

「あの……」
「あ〜、残念!ヤる気はめちゃめちゃあったんだけどな〜……やっぱ歳かね」
「そ、そうだな」
「おいっ!そこは否定するトコだろ!『キミはいつでもピチピチさハニー』とか言ってくれよ〜。
だいたい俺、昨日はかーなーり飲んだからな。寝ちまうのも仕方ないくらいだから」
「そうか。すまん……」

予定と違うタイミングで謝ることとなり、土方は何が何だかさっぱり分からなかった。

「なあ銀時……」
「ん?」
「お前はその……女の格好でもいいのか?」
「昨日からな」
「……何でだ?」
「んー……なんかキュンときた」
「……何に?」
「昨日のお前にだよ」

白い天井を見上げて昨晩のことを思い出しながら銀時は言う。

「俺の誕生日に店に来てくれて、しかも実家巻き込んでまでこっそり祝おうとしてくれた。
その奥ゆかしさにキュンって」
「そ、そうか……」
「VIPルームでお前の顔見た時マジでヤバかったから!周りに誰もいなかったら『好きにして』
って飛び付いてたね。あ〜、ホント残念!!」
「…………」

銀時の表情は心から悔しそうで、気を遣っているようには見えなかった。

「なあ、今日はトシ子ちゃんにならねェの?」
「……けど、これから仕事だから……」
「なれてもヤれねェよな。……トシ子ちゃんに抱いてもらうのは次の休みまでオアズケか」
「……俺が、抱く側なのか?」
「トシ子ちゃんの時だけね」

「トシ子」の行動にときめいてくれたのは分かったが、何故抱かれる側限定なのだろうか。
それを聞くとまた「キュンときたから」と返された。

「普通、逆じゃねェのか?」
「俺、女の子抱く趣味ねェもん」
「抱かれる趣味はあんのか?」
「昨日から、トシ子ちゃん限定でね」
「……いい趣味してんなァおい」
「それはお互い様でしょ」
「ハハッ……」

銀時はきゅっと土方に抱き着いた。

「俺、生まれてきて良かった」
「それもお互い様だな」
「そっか……」


この時代で二人が結ばれて初めての銀時の誕生日は、こうして過ぎていった。

(12.10.14)


土誕に比べて銀さん祝われ過ぎ?いやいや女装姿でもエッチできるようになって土方さんも嬉しいんじゃないかと思います*^^*

あ、でも、リバでゲイ&女装子に加えて女装攻めでは特殊設定過ぎますかね?ついていけないと思ったら遠慮なく逃げ出してくださいね。

ここまでお読みいただきありがとうございました。 

 

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