おまけ後編
「あっ、ん……んぅ……」
風呂前とは逆の体勢でベッドに折り重なる俺と土方。
せめてウイッグだけでも付けてシようという俺の提案は、早く繋がりたいからとあっさり却下され、
そして今、濡れた髪もそのままに確りと身体を繋げてキスを繰り返している。
「土方……」
「んっ……」
名前を呼んで頬に。それから首筋を下りて肩に強めのキスをすれば、そこは紅く痕が残る。
「痕、付いたよ」
「ん……もっと……」
「りょーかい」
今度は反対の肩に一つ。少し中央寄りにまた一つ……その合間に土方も俺の腕に一つ……
互いの身体に己の印を一つ一つ丁寧に刻んでいった。
「あっ、んんっ……」
「くっ……」
なんか、いつもより気持ちいいし気持ち良さそう。
生粋の日本人のそれとは異なる、白というより薄ピンク色の肌に俺の付けた紅い痕―店にも
公認の仲ではあるけれど、流石に情事の痕跡を纏って仕事をさせるのは躊躇われて、今まで
付けたことがなかった痕―そんなものがなくたって俺達は愛し合っていて、不満なんてなかった。
きっと土方だってそう。
急に今日、痕を残したくなったのかもしれないけれど、それまではきっと俺と同じ気持ち。
相手に気を遣って遠慮して、なんて間柄じゃない似た者同士の俺達だからその推察はきっと
正しくて、だからきっと、この状態に土方自身も驚いている。
「ひぁっ!あ、あ、あぁっ!」
「ハァッ……」
いつもと同じにしていても、いつもより感じる身体。
いつイッてもおかしくない状況で、それでもまだ相手を感じていたくて耐えている。
「あっ!んんっ……んあっ!」
「んっ……くぅっ!」
また一つまた一つと付けたくなる己の証。接合部から全身を巡る快感に支配されつつも
痕を残すことは忘れない。
「あんんっ……ハッ、んーっ!!」
「んむ……くっ、ん、ん……」
愛しい人の身体に刻まれた己の痕に、己の身体に刻まれた愛しい人の痕に、昴ぶってまた一つ
痕を増やす。
「あ、んんっ!んっ、んっ……」
「んぅっ!んっ、んっ……」
この想いも全て溶けて混ざって、愛しい人と一つになれたらいいのに……
* * * * *
翌朝。
「あーあ、やっちゃったな〜……やっちゃったよ〜……」
キスマークだらけの互いの身体を交互に見て俺は溜め息を吐く。
ついでに言うと、髪の爆発具合も溜め息もんだ。風呂上がりにそのまま、だったもんな……
「ハァ〜……」
あれから上になって下になって……体力の限界までヤりまくって、その間、相手の肌に痕を
付けまくった。
「全身真っ赤にしてやろうとか思ってたもんな〜」
「そうだな……」
最後の方はもう、肌色が見えるのが許せなくて競うように吸い付いた。
その結果、隙間なくとはいかないまでも、身体中が不気味なくらい斑模様になってしまった。
どう考えても服で全部隠すのは不可能。それなのに……
「お前、何でそんなに落ち着いてんの?」
同じように斑模様の土方は裸のまま目覚めの一服中。ちなみに髪はいつも通り……くそっ。
「焦ったって消えるもんじゃねーだろ……」
「だけどさぁ……仕事、どうすんの?」
「スカーフとファーで……まあ、バレても何とかなるだろ」
「そりゃ、俺達の関係は皆知ってるけどね……」
だけど、こんなになるまで盛ってると思われるのは恥ずかしい。
いや、実際ヤっちゃったんだけどさ……
「お前、実は痕付けるの好きなのか?」
妙に落ち着き払った態度にそう聞いてみれば「いや」と軽く否定の言葉の後で、
「頑張ってるお前見てたら付けたくなった」
ニッと男前に笑ってそんなことを言われた。土方は続ける。
「女とデートなんかしたくないくせに、女の格好で来させたりそのままヤろうとしたり……」
「でも、結局エッチできなかったし……」
「俺のために頑張ってくれたってのがいいんじゃねーか」
「へーへー、努力賞だけでこんなにしてもらって恐縮です」
「生まれたままの姿で、ってのは叶えてくれただろ?」
「あー、そーね……」
トシーニョであることも金時であることも忘れて抱き合って、これはこれで確かにいい思い出に
なったのかなと思って、だけど、一番大事なことを言ってなかったことに気付く。
昨日のうちに言わなきゃなんなかったのに……くそっ、これもこれで思い出だ!
半ばヤケになって俺は土方の手を取り言った。
「生まれてきてくれてありがとう……トシ」
一番大切な人が生まれた一番大切な日。
ありのままの土方と一つになれた俺は心の底からそう思った。
* * * * *
その日の夕方。
「おはよーっす」
「おはようございま……って、金さんどうしたんですか!?」
どうせ全部は隠せないのだからと開き直った俺は、いつも通りスーツに胸元の開いたシャツという
服装で出勤した。一目で異常に気付いた新八が駆け寄ってくる。
「何ですかそれ!怪我?病気?」
あー、やっぱキスマークには見えないか……
「何つーか、その……アレルギー的な?」
「アレルギー?病院行かなくて平気なんですか?ていうか、うつるものじゃないでしょうね……」
「大丈ー夫。痛くも痒くもねーし」
「金さんが大丈夫かどうかじゃなくて、お客様にうつるかどうかが問題なんです」
「ひでーな、ぱっつぁん」
そりゃまあ、ホストクラブで変な病気もらったなんて噂が立てば廃業になりかねないけどよ……
「マジで大丈夫だから。伝染病とかじゃないから」
「……いくら大丈夫でもその見た目はマズイですね。着替えましょう」
「はいはい」
その日は鼻から下に包帯を巻き、黒い着物に長髪のウイッグという、どこぞのアニメキャラの
修行後の形態らしいコスプレをさせられた。何でアニメ?ていうかこれだと飲み食いできない。
まあ、今までとは違った客層に受けが良かったからいいか……
因み土方はどうしたかというと、スカーフとファーで大部分を隠し、はみ出たところは
ファンデーションとコンシーラーとやらで見えなくしたんだと。ずるくねぇ?そういうのが
できるなら教えてよ!
次の日からは土方のマンション寄って、首元をお化粧してから出勤するようになった。
というわけで、ナンバーワンホストの誕生日祝い、楽しんでいただけましたでしょうか?
またのご来店を心よりお待ちしております。
(12.05.05)
本編よりおまけが長いのは気にしないで下さい^^; 最後の金さんの格好は、二年後編の最後に出てきたアレです。
「またのご来店」と言っていますが、「また」があるかどうかは皆さま次第です(笑)。私は個人的に気に入ってる二人なのですが(じゃなけりゃ書いてない)特殊な設定なので、
私の脳内だけに留めておいた方がいいのかなとも思ってます。そうはいっても前作(パラレル倉庫「その他」)を気に入って下さったというコメントをいただけて今日に
至っていますので、書いてもいいのかなとも……。もしも次にこの二人を書く機会があれば、生まれ変わり設定を活かした物にしたいです。
それでは、ここまでお読みいただきありがとうございました。
ブラウザを閉じてお戻りください