二月――それは、アホな男達が最もアホになる季節。
妙にソワソワして無駄にカッコ付けて、たかがチョコのために己のプライドを賭ける。
本当にアホな男達ネ。
「アネゴもそう思わないアルか?」
「そうねぇ……」
今日はアネゴとショッピング。でも、町はどこもかしこもバレンタインデー一色。
「銀ちゃんなんて、ちょっと前に給料くれたヨ。いつもはくれても酢こんぶなのに現金で。
お年玉だってくれなかった銀ちゃんが……」
「あら、そうなの?じゃあ、今年もチョコレート買う?」
「いいよー。去年だってちゃんと渡せなかったもん」
去年のバレンタインデー、一応チョコレートは用意したけど渡し方が分からなくて、アネゴと
ツッキーとさっちゃんの分、代わりに渡して終わりだった。
……知らないヤツは三十四巻を読むネ。
「去年だって、神楽ちゃんの気持ちはちゃんと伝わったと思うわ。今年もあげましょうよ」
「えー……」
「それに、来月のお返しも楽しみじゃない?」
「うーん……」
そういえば、去年のホワイトデーがどうなったのか分からない。ていうか、今まで何度も
バレンタインネタはあったけど、ホワイトデーってやってないんじゃないの?
作者が男だからって、男に甘いアルな。
「でも神楽ちゃん、ここではちゃんとバレンタインとホワイトデーがセットになっているわ」
「……何でナレーションが聞こえてるネ?ていうか、ここはバレンタインでもホワイトデーでも
可愛いヒロインなんてお呼びじゃないアル」
「詳しいのね、神楽ちゃん。私、ここの作品にはあまり登場しないから知らなかったわ」
「まあな。……噂をすれば、銀ちゃんアル」
「あら、本当……」
とあるお菓子屋さんの前、銀ちゃんは店に入ろうとしているようでいて入っていかない。
「銀ちゃん、何やってるか?」
「かかっ神楽!?べっ別にィ〜。ちょっと通りかかっただけだしぃ〜。お前こそ何してんだ?」
「アネゴとショッピング」
「おっおお、そうか……。この店なんか、美味そうなチョコが売っててオススメだぞ。じゃあな!」
銀ちゃんはダッシュで居なくなった。
「このお店、入ってみましょうか?」
「いいアル」
「そんなこと言わずに見るだけでも……。銀さん、よっぽどチョコレートがほしいのよ」
「銀ちゃんは多分、自分で買おうとしてたアル」
「それは可哀想に……。やっぱりチョコレート買ってあげましょうよ」
「違うよアネゴ。銀ちゃん、恋人ができたネ」
「え!」
「それって私のこと?銀さんったら、私のことをそんな風に紹介しているの?」
「ちょいと茶でも飲んで行かんか?いや、特に聞きたいことがあるというわけではないのだが……」
「…………」
どこからともなくさっちゃんとツッキーが出てきて、私はアネゴと四人で喫茶店に入った。
* * * * *
「何で来てるのツッキー?人気投票ランクダウンのアナタに用はないのよ!」
「茶に誘ったのはわっちじゃ。だいたい、何で今更人気投票なんじゃ……」
「パンデモニウムさん以下の猿飛さんは黙ってて下さい。……それで神楽ちゃん、本当なの?
銀さんに恋人ができたって」
「本当ヨ」
やっと出番が来た。今回は私が主役のはずアル。主役の台詞が一番最後ってどういうこと?
「銀ちゃんは「知らなかったのお妙さん。銀さんと私はと〜っくの昔に……」
あれ?また、さっちゃんのターン?
「そ、それで、いつからなんじゃ?」
ナイスツッキー。そうそう、話の中心は私じゃないと。
「アナタが登場するず〜っと前からよ。残念だったわねツッキー!」
さっちゃん……ツッキーは私に聞いてるのに……
「ぬしのそれは単に知り合った日のことを言っておるのじゃろ?」
「それなら私が一番早いわよ。何てったってヒロインですもの」
「銀さんの恋人である私がヒロインに決まってるでしょ!」
「いやだからぬしは銀時の恋人では……」
「…………」
何だか三人だけで楽しそう……ていうか、ヒロインは私アル。
言っても無駄みたいだから言わないけど。
おしゃべりに夢中な三人は放っておいて、私はお腹いっぱいご飯を食べて家に帰った。
2012年バレンタインデー記念作品:神楽のバレンタインデー見聞録
「ただいまヨ〜」
「おっお帰り、神楽ちゃん……ショッピングは楽しかったか?何買ったんだ?」
やたらニコニコして出迎える銀ちゃん……魂胆が見え見えで恥ずかしいネ。
「別に……何も買わなかったアル」
「新八には内緒にしとくからちらっと見せてくれよ。……銀さんオススメの店で買ったのか?」
「……チョコなんて買ってないアル。銀ちゃんは今年、マヨとバレンタインするんでしょ?」
「う……」
銀ちゃんが固まったので、私はやっと部屋の中に入ることができた。
コタツに入ってミカンを食べる……これが正しい日本の冬の過ごし方アル。
バレンタインなんて邪道ヨ。……私、日本人じゃないけどな。
アネゴ達には話しそびれちゃったけど、銀ちゃんはつい最近恋人ができた。
相手はもちろんあのニコ中マヨラー。どうやって付き合い始めたかなんて知らない。
強いて言えば、ここはそういう決まりがあるサイトだってことネ。
とにかく、二人はちょっと前にお付き合いを始めたできたてホカホカなのよ。
「な、なあ神楽ちゃん……ちょっとお遣い頼まれてくんない?」
銀ちゃんがまたあの胡散臭い笑顔でコタツに入ってきた。
「嫌アル。外は寒いネ」
「明日でもいいから……な?」
「……銀ちゃん、バレンタインチョコは自分で買わなきゃダメヨ」
「バッバレンタインなんて関係ねーよ!」
「じゃあ、お遣いってチョコじゃないアルか?」
「……チョコだけど」
顔を赤くして目を逸らせて口を尖らせて……いい年したオッサンがもじもじしててもキモイだけ。
銀ちゃんってば世話が焼けるんだから。
「明日、付いてってあげるから一緒に買いに行こ?」
「つーかさァ……やっぱ、チョコあげなきゃダメかな?」
「できたてカップルがバレンタインしないでどうするネ」
「まあ、そうなんだけど……俺達、男同士だしさァ……。バレンタインデーって、女が男にチョコ
渡す日だろ?」
「最近は逆チョコもあるネ。だから銀ちゃんがチョコ買っても恥ずかしくないヨ」
一所懸命励ましてみたのに、銀ちゃんの悩みはそこじゃなかったみたい。
「そうじゃなくて……俺が、あげる側なのかなァって……」
「どっちでもいいんじゃない?」
「そうだろ?俺としては、糖分王の銀さんがもらう側かと思うんだけど……でももし、土方が
期待してたら悪いなと……」
「じゃあ直接マヨに聞けばいいアル」
「そんなことして、土方がバレンタイン自体に興味なかったらどうすんだよ。『こんな軟弱な
イベントやってられるか!』ってなったら一気に別れの危機だぜ?」
「それくらいで危なくなるような関係なら、とっとと解消した方がいいアル」
私は立ち上がり定春を呼んだ。
「おっおい、何処行くんだよ?」
「銀ちゃんはそこでウジウジしてればいいネ」
「相談に乗ってくれてもいいだろ……」
ウジウジ銀ちゃんじゃいつまで経っても悩みは解決しない。ここは、頼れるヒロイン神楽ちゃんが
一肌脱いであげましょう!
私は定春に乗って税金ドロボー共の巣へ向かった。
* * * * *
「何の用だ……?」
玄関先の立ち話で済ませようとするマヨ……レディーの扱いがなってない。こういう時は美味しい
お茶とお菓子で持て成すのが基本でしょ。銀ちゃんはこんなヤツのどこが好きなんだろう?
家に上げろと言ったら、部外者がどーのとか機密がどーのとか難しい話をされた。
よく分からないけど、ここで話せってことアルな。仕方ない……
「お前、バレンタインはどうするつもりネ?」
「バレンタイン?……万事屋はどうするつもりなんだ?」
何も言ってないのに銀ちゃんのことだってすぐに分かった。意外と鋭いヤツなんだな……
「銀ちゃんが迷ってるから聞き来たネ。お前はもらうのとあげるの、どっちがいいアルか?」
「そうだな……アイツは甘いもん好きだから、俺が渡す方がいいんじゃねェか?」
「分かったアル。銀ちゃんに伝えとくネ」
「頼んだぜ」
私はまた定春に乗って家に帰った。
* * * * *
「土方に聞きに行った〜!?」
「そうアル」
帰って銀ちゃんに説明したらとっても驚かれた。
何でも、今マヨは物凄く忙しくて機嫌が悪いらしい。実は昨日、それとなく探りを入れようとして
銀ちゃんが行ったんだけど、門前払いだったんだって。
立ち話なんて無礼なヤツだと思ったけど、さっきは出て来ただけマシだったみたい。
機嫌も悪くなかったし……恋人の家族が態々来てくれたから頑張ったのかな?
「そっそれで、土方は何て?」
「銀ちゃんが甘いもの好きだから、バレンタインはチョコくれるって」
「そうかァ……。あっでも、それだと土方が受けみたいじゃねェ?こういう時は受けがあげると
聞いたことがあるような……」
「……銀ちゃんが受けだったアルか?」
オッサン同士のことなんて全然興味ないけど、銀ちゃんが話題にしたから仕方なく聞いてあげた。
そしたら、付き合って間もないから分からないと言われた。
「まだヤってないアルか?銀ちゃん、意外と奥手アルな……」
「いや……付き合い出したの二週間前だぜ?そんなのまだ早いだろ……」
「ちなみに銀ちゃんはどっちがやりたいネ?」
「別にどっちでも……土方がやりたい方に合わせるつもりだし」
「それなら尚更、どっちがチョコあげてもいいじゃない」
「そうなんだけどさ……土方はそこまで分かってんのかなァ……。アイツ、そういうことに
疎そうじゃねェ?」
「分かんないアル……」
マヨだって大人なんだから、銀ちゃんが知ってることは知ってるんじゃないの?
そう思ったのに銀ちゃんはまだうんうん悩んでる。本当に世話の焼ける銀ちゃんネ……
私はまた定春と一緒にマヨの所へ向かった。
* * * * *
「は?受け?あの野郎……ガキと何て話してやがる……」
「いいから答えるネ。お前は受けだと思われてもいいアルか?むしろ受け希望アルか?」
「そういうのはアイツと直接話すからよ……兎に角チョコは俺からやるって伝えてくれ」
「分かったアル」
* * * * *
「――って、マヨが言ってたアル」
「土方は気を遣ってくれてるだけかもしれないし、部下にからかわれたら嫌な思いするだろ?
そんで俺との付き合いが面倒になったら……やっぱり、俺があげた方がよくね?」
「別にどっちでもいいアル」
「どっちでもいいから、ここはやっぱり俺が……あー……でも、土方が折角あげる気に
なってんのに、今更やめろなんて言うのもなァ……」
「仕方ないアルな……」
* * * * *
「――って銀ちゃんが言ってたから、チョコは用意しなくていいネ」
「ンなこと気にしなくていいのによ……。甘いもん好きのアイツが自分で食えねェ菓子買うなんざ
いい気分じゃねェだろ?」
「なら来月三倍返しすればいいアル」
「俺は菓子にゃ詳しくねェからよ、アイツからもらったもんの価値が分からないかもしれねェ。
つーことで、先に俺がやると伝えてくれるか?」
「分かったアル」
* * * * *
「――ってマヨが言ってたから、銀ちゃんは黙ってバレンタインまで待ってるアル」
「そーだよ!バレンタインってもらったらお返ししなきゃなんねーじゃん!忘れてた!
土方からとんでもねェ高級チョコもらっちまったらどーしよう……」
「銀ちゃんが貧乏なことはマヨだって知ってるネ。三倍返しなんて望んでないアル」
「三倍は無理でも、せめて同等の物を返さないとマズイだろ?やっぱ俺が先に……」
「いい加減にするアル!」
「おっおい、神楽〜!」
* * * * *
「おいニコマヨ、お前今夜ウチに来るネ!」
「は?」
「お前ら、私と定春を何度往復させたら気が済むアル!もう直接会って話すネ!!」
「わ、悪ぃ……。今夜、十時には行けると伝えてくれ。……これが最後だ」
「分かったアル」
それから帰って銀ちゃんにマヨが来ること伝えて、私と定春はアネゴの家に向かった。
折角だからどっちが受けかも決めたらいいネって言ったら、銀ちゃん慌てて布団干してた。
もうすぐ日が沈むのに……
* * * * *
次の日。気遣いのできる私は昼頃に定春と新八と万事屋へ帰った。
マヨと話して銀ちゃんの悩みは解決したはずだから、いつもの万事屋に戻ると思っていたのに
銀ちゃんは、事務所のソファで膝を抱えて暗い顔をしていた。
「銀ちゃん、どうしたネ?マヨと喧嘩したアルか?」
銀ちゃんは首を振って、それから「決まらなかった」と小さな声で言った。
「どっちがチョコあげるか、決まらなかったアルか?何で?」
「どっちが受けかをまず決める感じになったんだけど……」
その順序がおかしいと思ったけど、しょんぼりしてる銀ちゃん見てたら可哀想で言えなかった。
銀ちゃんは膝を抱えて下を向いたたまま、ボソボソと昨夜のことを説明する。
「土方もどっちでもいいって言うから、互いにどっちが向いてるか両方ヤってみて決めようと……」
「あっあの、銀さん……?神楽ちゃんになんて話してるんですか?」
「新八は黙ってるネ。私には聞く権利があるアル」
「いやでもこういうことは……」
「いいから!……それで?両方ヤってみたアルか?」
「ああ。でも、どっちもすっげぇヨくてさぁ……結局、交代でヤることになって……」
「それで受けが決まらなかったアルな」
「しかも、途中からヤるのに夢中になってバレンタインのこと忘れちまって……土方が帰った後で
そのことに気付いたから……」
これだから銀ちゃんは世話が焼けるのよ。ここはひとつ、私が昨日の夜に一晩中かけて
ぐっすり寝て、起きてから朝ごはんいっぱい食べて、来る時に歩きながら考えた名案を
披露してあげましょう。
「二人ともあげればいいアル」
「え?」
「プレゼント交換ネ。二人ともチョコ買って交換すれば平等だし、一ヶ月後にお返しする手間も
省けて一件落着アル。バレンタインができればどっちでもいいんでしょ?だったら両方やるネ」
「そ、そうだな。あっちも両方ヤるんだし、こっちも両方やればいいよな!」
あっちのことは誰も聞いてないけど、銀ちゃんが元気になったみたいだから許してあげる。
「じゃあ私、マヨに言ってくるヨ」
「いや、後で電話するから……」
銀ちゃんも大分成長したみたい。それもこれも、昨日のデートをセッティングした私のおかげネ。
それから銀ちゃんと二人でチョコ買いに行こうとしたら、新八もお通ちゃんに逆チョコあげるって
言うから三人で銀ちゃんオススメのお菓子屋さんに行った。
銀ちゃんも新八もすごく真剣にチョコ選んでて、店員のおねーさんがちょっと引いてた。
アホな男達がお菓子屋の陰謀に踊らされるイベント――バレンタインデー。
でも、アホは踊らないと損をするってことわざがこの国にはあるから、これでいいアル。
ちなみにこの後、銀ちゃんはちゃんとチョコ交換できて、とっても嬉しそうだった。
(12.02.09)
誰が何と言おうとこれは銀土銀(土銀土)です!バレンタイン小説です!この後「おまけ」で、神楽ちゃんが志村家へ行った後の万事屋の様子を書きます。
おまけは18禁です。リバです。バレンタインデー当日までに間に合うかは微妙なところですが、暫くお待ち下さいませ。
今回、初めて神楽視点で書いたのですが口調が難しかったです。地の文であんまりアルアル言うと煩いかと思ったのですが全く言わないと神楽らしくならず……。
他の方が書いたアルアル言わない神楽視点の話も読んで研究してみたのですが、私にはこれが精一杯でした。
追記:おまけのリバエロです。18歳以上の方のみどうぞ→★