WJ3・4号、第三百八十二訓のその後を妄想した話になります。
大丈夫な方はスクロールしてお進みください



     ↓


































2012年年始記念作品:お年玉とフォローの相性もバツグン


正月。誰が何と言おうと今は正月であり一月であり新年を迎えたばかりである。
例えこれを書いているのが十二月で、読んでいるのも十二月だったとしても今は正月なのだ。
そんな正月の日から、かぶき町を直走る男が一人。万事屋銀ちゃんこと坂田銀時だ。

「旦那……年明け早々忙しそうですねィ。」

彼は新八と神楽に手作りの「お年玉」を渡して飲食店から逃亡していた。そんな時に出くわしたのは、
淡い色の袴を履いた沖田であった。

「ちょうどいいところで……沖田くん、アレ払っといて。」

沖田が銀時の後方へ目をやると、新八と神楽が半被姿の男性を連れて走って来ていた。
沖田に気付いた新八が叫ぶ。

「沖田さん!そこの食い逃げ犯、捕まえて下さい!」
「食い逃げ?」
「違うからね?お年玉やり過ぎて手持ちがなくなっただけだからね?」
「何がお年玉アルか!チラシの裏に書いただけネ!」

警官である沖田に罪は犯していないと言い訳をしている間に神楽が追い付き、少し後に新八と
男性―飲食店店員―も合流した。

「お客さん、困りますよ……」
「だっ大丈夫です。この人が代わりに払うんで!なっ、沖田くん?」
「仕方ないですねィ……」
「「えっ!」」

案外すんなり財布を取り出した沖田に新八と神楽は揃って驚きの声を上げた。

「お前、なに企んでるアルか?」
「人聞き悪ィな……。俺はただ、日頃世話になってる旦那に恩返しをと思っただけでィ。」
「いや〜いい心掛けだよ、沖田くん。」
「幾らですかィ?……じゃあこれで。あっ、釣りはいらねェよ。」

きっと何か裏があるのではないかと素直に喜べない新八と神楽の前で、沖田は店員に一万円札を
何枚か渡し、店員は笑顔で戻っていった。

「沖田さん、あの……後で必ず返しますから。」
「いいってことよ。ちょうど土方さんからお年玉もらったばかりで潤ってたからな。」
「トッシーはお年玉くれるアルか?流石アルな……」
「そうだね。」

新八と神楽は銀時に蔑みの視線を向ける。

「るせェよ。アイツは公務員だからその給料は俺達の納めた税金であって、つまりそのお年玉は
俺からと言っても過言じゃ……あれっ?その財布って、土方のじゃね?」
「だから、土方さんからもらったって言ってるじゃねーですか。」
「もらったっつーか、勝手に持ってきたんだろ?」
「トッシーの金だったアルか……」

沖田の行動の真意が判り、神楽も新八もどこか安堵していた。土方には申し訳ないが、沖田の金で
ないのなら、後々これをネタに揺すられたり面倒事を押し付けられたりする可能性は低くなる。
それに土方ならばこれまでも幾度となく万事屋の家計を救ってくれていた。

「もらったも持ってきたも大した違いはねェでしょ。恋人が罪を免れたんだ。土方さんも本望でさァ。」
「いや、罪じゃねェし。」
「ていうか、今日はデートの日なんでしょ?」
「デートっつーか……会う約束はしてるけど?」
「じゃあ、どうせ土方さんに奢られるんだから調度良かったじゃないですか。」
「そういうわけには……。まっ、今は持ち合わせがねェから後日返しとくわ。」
「俺が払ったんですぜ?」
「土方の金で、だろ?」
「土方さんからのお年玉で、です。」

あくまでも「お年玉」だと言い張る沖田に万事屋三人が呆れ返って息を吐いた頃、沖田の名を呼ぶ
怒鳴り声が聞こえてきた。

「総悟ォォォォォ!!」
「では旦那、お達者で〜。」
「ちょい待ち。」

踵を返した沖田の後ろ衿を銀時は掴んで引き留めた。

「旦那、離して下せェ!」
「沖田くんのことだからさァ、お年玉のお礼、ちゃんと言ってないんでしょ?」
「言いやした。」
「はいはい……」

沖田の言葉は全く信用せず、銀時は沖田を捕まえたまま土方の到着を待った。
そして、

「総悟てめっ……ん?」
「明けましておめでとー。捕まえといたよ。」
「おう、悪ィな。」

銀時は沖田を土方に引き渡した。

「ったく……新年早々いい加減にしろよ総悟。」
「俺ァ怒られるようなこと何一つしてやせんぜ。」
「あ?俺の財布盗ったじゃねーか!」
「これはお年玉でさァ。今年もくれると思ったんでもらっときやした。」
「財布ごとやるヤツがいるか!とにかく返せっ!」
「あっ……」

土方は沖田の手の中の財布を引っ手繰るようにして取り戻し、すぐに中を確認する。

「チッ……こんなに使いやがって。」
「八割方、旦那達の食事代でさァ。」
「は?」
「いや、あのね……」

勝手に財布を持ち出されたイラつきをそのまま向けられ、銀時は冷や汗が滲むのを感じた。

「お前の金だって、知らなかったから……」
「そりゃねーや旦那。すぐに土方さんの財布だと気付いてたじゃねーか。」
「あのな、新八と神楽とメシ食いに行ったんだけど、ちょっとばかし持ち合せが足りなくて……
そしたら偶然沖田くんに会ったからちょっと借りようとね……」
「ていうか、食い逃げ犯として追われてましたよねィ?」
「ちょっと沖田くん黙ってて!……違うんだよ。コイツらが意外と食うから困っちゃって……」
「甲斐性がないのをヒトのせいにしないで下さい。」
「銀ちゃんがお年玉くれないのがいけないネ。」

これまで静観していた新八と神楽であったが、自分達が原因のようなことまで言われては黙って
いられなかった。二人は今日一日の不満を土方へぶちまける。

「銀ちゃんにお年玉ちょうだいって言ったら、口から白玉吐き出したアル!」
「仕方なく僕らが貯めたお金あげたのに、誰にもお年玉あげられないし……」
「やっとお年玉くれたと思ったら肩たたき券だったネ!」
「僕なんかメガネ拭き券ですよ?それも一回限りとかで……」
「銀ちゃんからお年玉もらえたから焼肉食べに行ったヨ。でも、お金じゃなかったから……」
「それで沖田さんに、土方さんのお金を使わせてしまったんです。本当にすみませんでした。」
「ごめんネ、トッシー。焼肉代、必ず銀ちゃんに稼がせるアル。」
「気にするな。」

二人の頭をポンポンと撫でてから、土方は懐に手を入れた。

「メシ代はいい。それと、コイツからのお年玉なら預かってるぜ。」
「「えっ!」」

土方の懐からポチ袋が二つ取り出された。

「ほらよ。」
「これを……銀さんが?」
「そうだ。」

二人は半信半疑でそれを受け取った。

「本当に銀ちゃんからアルか?」
「土方さん優しいから、自分が用意したのを『銀さんから』ってことにしてるんじゃ……」
「きっとそうネ!」
「違ェって。俺の財布はさっきまで総悟が持ってたんだぞ?どうやって用意するんだよ。」
「あ……」
「そうアルな……」
「じゃあ本当に銀さんからなんですね!?」
「トッシー銀行が預かってたアルな!?」
「まあな。……それと、俺も後でちゃんとやるからな。」
「「やったぁ!!」」

ポチ袋片手に大はしゃぎする新八と神楽、そして二人を温かく見守る土方。
沖田が面白くなくてチッと舌打つと、土方は振り返りフッと笑った。

「総悟、お前にもやるぞ。」
「くれたいなら、もらってやりますぜィ。」
「分かった分かった……。明日渡すから、そろそろ屯所に帰れ。お前、夕方から勤務だろ?」
「へいへい。」
「……俺の財布から使った分は引いとくからな。」
「へーい……」
「それじゃあ旦那……」
「あ、うん……」

手を振って去っていく沖田の後ろ姿を、銀時はぼんやりと見ていた。
いや、沖田のことだけではない。先程行われた土方と子ども達とのやりとりの辺りから、
すっかり蚊帳の外であった。
屯所に帰るだなんだという話の時に傍観者であったのは、残る万事屋メンバーの二人も
同様であったから当然と言えよう。
ではなぜ当事者であるはずのお年玉の件も傍観者であったのか……

答えは簡単である。銀時には全く身に覚えのないことだったからだ。
新八と神楽にお年玉を準備した覚えもなければ土方に金を預けた覚えもない。最後の手段にと
ブーツの底に隠していた肩たたき券他のように忘れているのでもない。確実にやっていないのだ。
つまり、土方が銀時からだと言って二人に渡したお年玉は、土方自身からだと考えるが妥当なのである。
おそらく、沖田に財布を持ち出される前から準備していたのだろう。

だから銀時は黙っているしかなかった。
真実を述べて土方の気遣いを無碍にするのも、適当に話を合わせて渡したフリをするのも気が進まず、
ただ黙ってそこにいた。

「銀ちゃん、ありがとネ!」
「…………」
「土方さんも、今日まで預かっていただいてありがとうございます。」
「おう。」
「じゃあ新八、あとは若い二人だけにしてやるネ。」
「そうだね。……僕らの方が年下だけど。」
「細かいことは気にするな。銀ちゃん、トッシー、じゃあね〜。」
「失礼します。」
「気を付けて帰れよ。」
「…………」

新八と神楽もいなくなり、土方は「行くぞ」と声を掛けて銀時と連れ立って歩いていった。



「……何時まで黙っていやがる。」

二人になったというのに相変わらず何も言わない銀時に業を煮やした土方が口を開く。
元々、口数の少ない土方は銀時に黙っていられると間がもたなかった。

「何とか言え。」
「えっと……あけましておめでとう?」
「それはもう聞いた。」
「そうだっけ……」
「ああ。」
「…………」
「おいっ!」

またしても沈黙が訪れ、土方の声にやや怒気が籠る。

「いやだって、何を言えばいいのさ。」
「何でもいい。……いつも何かしら喋ってんだろ。」
「あー……じゃあ、いい天気だな。」
「そうだな。」
「今年って辰年だよな。」
「そうだな。」

たんたんと、しかし穏やかな口調で銀時主導の会話は続く。

「辰年っていやァ、俺のダチに辰馬ってのがいるんだけど……ソイツ、すげぇ馬鹿なんだよ。」
「そうなのか。」
「なのにソイツ社長でさァ……」
「オメーも社長だろ?」
「それは俺が馬鹿だと言いてェのか?」
「別に……」
「いや、そういうことだろ?ったく……どーせ俺は社長のくせに貧乏だよ。」
「誰も貧乏なんて言ってねーよ。」
「言ってないけど、そういうことだし……」
「お前、収入はそれなりにあるのにな……」
「今年はパチンコやめようかなぁ……」
「……目標が大き過ぎると達成させる気が無くなるぞ。」
「じゃあ……貯金しようかな。」
「それならまぁ、どんなに少なくても貯金は貯金だしな……」
「うん。……あんまり気張らず、年越しに少〜し残す感じでいくよ。」
「おう。そのくらい細やかな方がいいな。」
「少しね。本当に少し……。子どもの小遣い程度ね。」
「小遣い……二人分くらいは貯めろよ。」
「……その倍くらいは貯めたいな。土方のフォローもできるように。」
「まずテメーのことを何とかできるようにしろ。」
「うん。」
「おう。」
「あの……ありがとね。」
「おう。」


福袋を抱えた人達で賑わうかぶき町。
決意も新たに銀時は土方の腕をとり、二人で雑踏の中へと消えていった。

(11.12.23)


あけましておめでとうございます(笑)。本誌の銀さんのダメかわいさにノックアウトされて、フライングで年始小説アップです^^

このあと二人は姫初め的な感じになると思われます*^^* そして来年こそは新八と神楽にお年玉渡せるように頑張るんじゃないかな。

でもやっぱり自分で持ってると散財しちゃうんで、土方さん銀行を利用するような気もします。土方さん銀行は利息が付かない代わりに

目的外での引出しには一切応じない、確実に貯金ができる銀行です^^

というわけで、今年(2012年のことです!)もよろしくお願いいたします。

 

ブラウザを閉じてお戻りください