ジメジメムシムシの梅雨が明け、お江戸は今、夏真っ盛り。
じりじり照りつける太陽と相変わらずの湿気。じっとしていても汗が滴り落ちるような、
そんな炎天下のかぶき町を、着流し姿で土方は歩いていた。

向かう先は恋人の自宅兼職場である万事屋銀ちゃん。



暑い冷たい熱い暑い



「邪魔する、ぜ?」

いつものように呼び鈴も押さず万事屋の玄関を開けた土方は、目の前の光景に絶句した。
そこにいたのは恋人の銀時だが、イチゴ柄のトランクス一枚で廊下にうつ伏せていたのだ。

「ぎ、銀時!?」

草履を脱ぎ捨て、土方は銀時に駆け寄る。

「何があった!?しっかりしろ!目を開けてくれ!銀時!銀時ィィィ!!」
「ひじ、かた…?」
「銀時!大丈夫か!?」
「うるさい。」
「……は?」

銀時はうつ伏せた体勢のまま顔だけ土方の方を向ける。

「昼寝の邪魔……」
「は!?何てとこで寝てやがる!ていうか、俺が来る日に昼寝ってどーゆーことだコラァァァ!!」
「眠くなっちゃったんだから仕方ねーだろ……おやすみぃ。」
「おい!待てコラ!起きろ!!」

もともと半分も開いていなかった銀時の目が再び完全に閉じられる。
土方は銀時を抱き起こして身体を揺すった。

「っざけんな!起きろ銀時!起きやがれ!!」
「おめーテンション高過ぎ……暑苦しい。」
「誰のせいだコラァァァ!!俺だって暑いんだよ!そんな中わざわざアイス持って来てやったのに…」
「アイス!?」

いざという時の煌めきを持って銀時の目が開かれた。

「いや〜、待ってたよ土方くん。愛してるっ!」
「・・・・」

銀時は土方の頬にチュッと口付けて腕から抜け出し、傍らに置かれたままになっていたコンビニの袋を
喜々として開ける。甘い物好きの恋人が喜ぶだろうと持って来たアイスであったが、こうも明からさまに
態度を変えられると土方とて傷付く。
傷付きはするものの、無邪気な笑顔でアイスを物色する銀時を見ているとやはり「来て良かった」とも
思ってしまう。そんな自分に対して「まだまだ甘いな…」と反省している間に、銀時は袋からイチゴ味の
カップかき氷(練乳入り)を選んで残りを冷凍庫へしまおうと立ち上がり、ふと足を止めた。

「…土方も食う?」
「ああ。」
「……はい。」
「おう。」

銀時は袋の中からシャリシャリ君(ソーダ味の棒付き氷菓)を取り出して土方に手渡した。
甘味に対し並々ならぬ執着を見せる銀時。そんな男から甘い物をもらえる特別扱いに誇らしさすら覚え、
土方はシャリシャリ君を手に上機嫌で居間へ向かった。

お気付きの方もいるとは思うが、シャリシャリ君は袋に入っていたアイス類の中で最も安価な品である。
しかもそれを含め、袋の中身は全て土方が購入したものであるから、厳密に言えば銀時からアイスを
もらったわけではない。
けれどこの勘違いを正す必要はない。土方はこれで幸せを感じているのだから。



スプーンを持って向かいの長イスに座った銀時に、土方は今更ながら疑問を投げかける。

「お前…何でンな格好であんな所に寝てたんだ?」
「暑いんだもん。」
「それいしたってよー……」
「あの辺は日が当たらねぇから他より床が冷えてて、ウチで一番マシな所なんだよ。」
「…メガネとチャイナは?」
「新八はお通ちゃんのコンサート。神楽はお妙とプール。」
「そうか……」

土方は食べ終わったシャリシャリ君の棒を袋に戻し、銀時の隣に移動する。
そして、何も身に付けていない銀時の肩を抱いた。

「銀時……」
「ヤらねーぞ。」
「……は?」

低めの声に甘さを乗せて恋人の名を呼べば、いたって真顔で拒絶され、更には距離を置かれる。

「ぎ、ぎんと…」
「触んの禁止な。暑いから。」
「おまっ…それはねーだろ!!アイス食って少しは涼しくなっただろ!?」
「お前が近寄ると折角のアイスパワーが台無しになんだろ…。だいたい何?その黒い格好…。
見た目からして暑いじゃねーか。…それから煙草。お前ね、それ何千度あると思ってんの?」
「何千度もねーよ。」
夏の土銀
「気分的な問題だって。この暑い日に扇風機壊れていつもよりクソ暑い家に、テンション高い黒ずくめの
男が火ィ咥えて居たら、そりゃ、暑さ倍増どころの騒ぎじゃねーと思わねぇ?」
「それが暑い中、アイス持参で会いに来た恋人に対する態度か!?」
「……アイス如きでこの俺が釣れると思ってんの?俺、そんなに安い男じゃねーぜ。」
「さっきはそれで『愛してる』つったくせに。」

ボソリと呟くように言って土方は立ち上がった。

「土方ァ…麦茶飲みたい。」
「……分かったよ。」

土方を見上げる銀時の瞳が酷く寂しげに思え、土方は今までの無礼を全て許そうという気になる。
本人は無自覚のようだが、銀時は土方の堪忍袋の緒が切れる寸前、絶妙なタイミングでこうした庇護欲を
かき立てられるような表情を見せるのだ。愛しい恋人のそんな顔を見せられて尚も突き放せるほど、
土方は冷酷な男ではなかった。


土方は台所へ行き、コップ二つに氷と麦茶を入れて居間に戻る。

「サンキュー。」
「おう。」

再び銀時の隣―けれど肌には触れない位置―に土方も腰を下ろし、麦茶を一気に飲み干した。

四角い氷だけが残る空のコップを何とはなしに眺めながら、土方は長イスの背もたれに寄り掛かる。
隣には下着一枚の銀時。全身が汗で濡れていて、暑さのために薄桃色に色付く肌は普段よりいっそう
艶を増しているように見えた。

(あー…触りてェ。でもどうせまた「暑苦しい」とか言われるのがオチだしなァ……。マジで今日、
これで終わりなのか?水風呂にでも浸かりながらなら何とか……いや、面倒臭がりのコイツが風呂場まで
行ってくれるとは思えねェ。この場で涼しくなるような何かを…………そうだ!)

土方はコップの中の氷を一つ摘まみ出し、銀時の首筋にそっと当てた。

「うおっ!」

急な出来事に驚いた銀時はイスから飛び上がり、首筋を押さえる。

「な、何して……」
「氷。」
「は、はあ?何でンなことすんだよ!」
「これなら暑くないかと思って。」
「そりゃ暑くないけどよー……あー、ビックリした。」
「暑くないんだな?」
「ああ…」
「じゃあ、いいよな?」
「何が?」
「銀時……」
「ちょっ…んんっ!」

持っていた氷を自分の口内に放り込み、土方はそのまま銀時と唇を合わせた。

「ん、う……」

氷で冷やされた土方の舌が銀時の口内に滑り込む。

「んっ…ハッ……待、てよ。暑いからヤダって言っただろ。」

土方の胸を押して口付けを解き、銀時は抵抗を示す。

「氷があるから平気だ。」
「いや、平気じゃねーよ。氷なんてすぐ溶けちまうし……」
「氷と一緒にとろける程ヨくしてやるからな。」
「全然上手くねーよ。…あっ、こらバカ!勝手に触ん、なっ……」

小さな姿ながら存在を主張している胸の突起を撫でられた瞬間、銀時の力が抜ける。
その隙を付いて土方は銀時をソファの上へ押し倒した。

「そこっ、ずりィ……反則。」
「あ?ンなエロい格好してるテメーのが反則だろ。」
「うぅっ、暑いのに。昼寝したいのに……」
「ったく……」

土方はコップを手に取り、氷をもう一つ取り出した。

「これでいいか?」
「ひっ!」

氷が銀時の胸に触れる。

「いいわけねーだろ!アホか!」
「いやでも乳首、勃ってるし。」
「こんな冷やされたら誰だって勃つわァァァ!!あっ…マジでやめて。」

お構いなしに土方は氷で銀時の胸の上に円を描いていく。

「ちょっ…それ、ヤバイって……」
「気持ちいいんだろ?こっちも勃ってきたぞ。」

銀時の唯一身に付けている衣の中では、一物が嵩を増し始めていた。
土方はそれを布の上からそっと撫でる。

「んんんっ…!」
「こっちも氷がいいか?」
「やめろ。」
「ならどうしたい?」
「………」

銀時は悔しげな目で土方を睨み付けるが、土方は至極愉しそうに冷やされて赤くなった胸の飾りを摘む。

「………」
「なァ銀時……イヤか?」
「っ!!」

圧倒的に優位な状況になりながら、最後は必ず銀時の判断を待つ。そんな土方に銀時はいつも絆され、
結局、受け入れてしまうのだった。

「……いいからヤれよ。」
「銀時っ!!」
「その代わり、氷とかはナシだからな!普通にヤれよ!?」
「分かった!」
「終わったら破亜限堕津クリスピーいちご牛乳味だからな!」
「分かった分かった。」


土方は汗で張り付いた銀時の前髪をかき上げ、額に口付けを落とす。
米神、頬と下りて最後に唇へ。その頃には銀時の腕が土方の背に回っていた。


「ん……もっ、早くシタ触れって。」
「ああ。」


下着の中に手を潜り込ませ、土方は銀時のモノを握る。


「ハァッ……ん、あっ…」


銀時は離れていた唇を自ら引き寄せて合わせ、薄く口を開けて土方の舌を誘い出す。


「んっ、ぅ……んむっ!」


唇と唇を合わせたまま土方は手を更に奥へと侵入させ、後孔へ到達した。


「ふっ…んぅっ!んんっ!」


入口を指の腹で擦れば、銀時の眉が切なげに歪む。
土方は少しだけ目を開けてそれを確認してから指先に力を入れ、銀時の内部へと進んでいく。


「んっ、んむっ!んんっ…んーっ!!」


身体の中から生じる快感に耐えようと、銀時は土方の着物を力いっぱい握った。


「んんっ、んんっ!……ハッ!あぁっ!」


体内の指が二本になる頃には、キスの合間に取り込むだけの酸素では足りなくて、銀時は唇を離した。


「あっ、ああ!」


銀時のナカが快楽で収縮し、土方の指を締め付ける。
土方は指を引き抜き、銀時の下着を剥ぎ取り、自身の着物も脱ぎ捨てた。


「ひじかた……」


銀時は膝を曲げて脚を開き土方を招き入れる姿勢を取る。
土方は銀時の膝裏に腕を入れ、脚を抱え上げて自身の先端を銀時の入口に押し当てた。


「あ……ハ、ァ……」


ズブズブと挿入される熱い塊に銀時の吐息にも熱が混じる。
土方のモノが全て収まると、二人はもう一度唇を合わせた。


「んっ、ふ……しょっぱい。」
「汗かいてるからな。」
「あーあ、汗が甘かったらいいのに。」
「お前の汗は甘い気がするぞ。」
「……真顔で言うなよ。怖ェって。」
「俺はいつでも本気だ。」
「はいはい……もう動けば?」


銀時は妖艶な笑みを浮かべつつ下から腰を揺すった。


「いくぞ。」
「んっ。…あっ、ああっ……」


律動が始められると、銀時の口から洩れるのは嬌声のみ。
土方はそれを頼りに感じる箇所を突いていった。


「あっ、あっ、あっ、あっ……」


二人の汗と銀時のモノから漏れ出た先走りが銀時の身体の上で混じり合う。


「あっ、あぁっ!あぁっ!」


銀時の声が一段高くなり、土方はそれに合わせて腰の動きを速めていく。


「ああっ!あっ、あっ……じかたっ、もうっ!」
「分かった。」


限界を訴える銀時をイカせるため、また同時に自身もイクため、土方はラストスパートをかける。


「あっ!あっ!あっ!……ああぁっ!!」
「くぅっ!!」


自分の身体に精液を撒き散らして銀時は達し、土方も銀時の体内に己の欲の証を放った。



*  *  *  *  *



「ほらよ。破亜限堕津クリスピーいちご牛乳味!」
「おう。」

シャワーを浴び終えた銀時に土方は新たなコンビニの袋を手渡した。
真新しい下着に履き替えた銀時は首からタオルを掛け、長イスに浅く腰かけてアイスを頬張りながらも
先程までの行為の不満を漏らし始める。

「お前、本っ当に信じらんねェよ。今日はさァ、結野アナが『猛暑だから激しい運動は控えて』って
言ってたんだぞ?それなのにあんな……」
「信じらんねーのは俺の方だァァァ!!」

汗だくの土方は涼しい顔でアイスを食べる銀時の向かいに立ち猛抗議する。

「また暑苦しいなオイ。せっかく風呂入ってサッパリしたんだから少しは空気読めよ、土方くーん。」
「一人だけサッパリしやがって!!ヤり終わった瞬間『アイス』ってどーゆーことだコラァァァ!!」
「だってさァ……」

二人がほぼ同時に達した後…



*  *  *  *  *



「銀時……」
「暑ィよ。…早く抜け。」
「分かった分かった。」

後戯の口付けを拒んだのを照れ隠しと受け取った土方は、満足気な表情で繋がりを解いた。
だがしかし、その表情はすぐに凍り付くことになる。

「破亜限堕津。」
「ちゃんと覚えてるから安心しろ。…風呂場、連れてってやろうか?」
「自分で行ける。」
「じゃあ行こうぜ。」
「オメーは破亜限堕津な。」
「……は?」
「買いに行って来い。今すぐ。」
「シャワーを……」
「俺が浴びてるうちに買って来いよ。」
「かなり汗だくなんだが……」
「だから?」
「………」
「………」
「…分かったよ!!買いに行きゃいーんだろ!!」

土方は床に散らばった着物をひったくるように拾い、ドスドスと大袈裟に足音を響かせて玄関へ向かった。



*  *  *  *  *



「終わったら、すっげぇアイスの気分だったんだもん。」
「だもん、じゃねーよ。テメーのせいで俺ァ、汗臭くてイカ臭ェ状態でコンビニまで行く羽目に
なったんだぞ!?」
「……そもそも俺がアイス食いたくなったのはどーしてでしたっけ?」
「うっ……」
「俺の安眠を妨害した上に、めちゃくちゃ疲れさせた色情魔のせいですよね?」
「………」

きちんと約束を交わして恋人に会いに来たにも関わらず色情魔扱いされたのでは堪らないが、嫌だと
言った銀時を無理矢理その気にさせて行為に及んだ自覚はあり、土方は言い返すことができなかった。

「……とりあえずさァ、風呂入れば?」
「………」

ぶすっとした表情で浴室へ向かった土方であったが、風呂上がりによく冷えた缶ビールを銀時から手渡され
機嫌を直すのだった。
その缶ビールは破亜限堕津と一緒に土方が買って来たものだということは言うまでもない。



ある夏の日のとてもとても幸せな恋人達の物語。


(11.08.02)


 宮乃純様の運営するQ-P★ラヴリィの「夏の!土銀!エロ祭り!」に恐れ多くも投稿させていただいた作品です。私の書く土銀は、あまり土銀らしくないことが多いのですが、

今回は土銀サイト様へ捧げる作品ということで、土銀らしくなるよう頑張りました。そして、この小説を宮乃様へ送ったところ、素敵なイラストが返ってきたのですよ!!

きゃっほ〜!!髪の毛止めてる銀さんが可愛い〜!!全体的にほわほわしてて二人のラブラブっぷりが伝わってきます!宮乃様、ありがとうございます!!

こういったことに参加するのは初めてでオドオドしていたのですが、夏のエロ話を考えるのはとても楽しかったです^^

ここまでお読みくださり、ありがとうございました。

 

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