後編
二日目の夜は肝試し。外灯のない宿周辺、所々に脅かし役の教員も待機しており、二人一組に
なって巡る。男女別にくじを引き、同じ番号でペアを作っていくのだが、男子児童のほうが多い
五年生。銀時は自発的に「女子」側へ回り、すっかりお馴染みの友人らの協力を得て十四郎と
ペアを組むことに成功した。
うっそうとした木々の生い茂る道を小さな懐中電灯一つで歩いていく。暗闇や幽霊が苦手な二人。
明かりを持つ銀時の腕に自分の腕を絡ませて、十四郎は半歩遅れて進んでいた。
銀時も勿論、怖さを感じているけれど、「暗がりで二人きり」という状況がそれを最小限に留めて
いる。
「ひっ!」
葉のざわめきに恐怖した十四郎が反射的に銀時へ抱き付いた。その瞬間、銀時の中で何かが弾ける。
十四郎の肩を抱き、順路を示すロープを潜り抜け、ルートから外れていった。
「おい、そっちじゃねーよ」
「十四郎っ」
通り道から死角になる太い木の幹の裏側まで連れてきて、銀時は十四郎をきつく抱き締める。
こうされたのは初めてではないものの、何故このタイミングなのかが理解できない。
懐中電灯は足元へ転がり落ち葉を照らしていた。
「銀時……?」
「ごめん。キスしていい?」
「えっ」
「一回だけ。お願い」
至近距離でも表情が見えない暗さ。けれど銀時の常とは異なる荒い息遣いに気圧されて、頷くしか
なかった。
「んう!?」
ぶつかるように、性急に唇が塞がれて、十四郎は頭を木に打ち付けてしまう。そのことに不満を
表わす前、口内に舌が滑り込んできた。ビックリして見開かれる十四郎の眼。
実を言うと銀時は昨夜からずっとキスをしたくて堪らなかった。切欠は晋助の発言。あれ以来、
ディープキスはどんな感じなのだろう、十四郎はどんな反応をするのだろうと妄想が止まらない。
だが、舌を入れてどうすればよいのかなんて知らない。とりあえず十四郎の舌を舐め回してみた。
「んっ!」
舌の周りをくるくる辿っていた舌が上顎に触れた途端、十四郎の身体がびくりと跳ねた。
もしかして「感じる」というヤツではないか――銀時は舌を伸ばし、奥から手前へそこを撫でる。
「んんっ!」
ビクビクと震える十四郎。銀時のシャツをきゅっと掴み、初めての感覚に耐えていた。
それがまるで求められているかのように思えて、銀時は益々舌を動かしていく。
「んーっ!」
「坂田くーん、土方くーん」
「っ――!」
いつまで経ってもゴールしない二人を探す吉田先生の声。秘密の行為はここまで。
急にごめんね――懐中電灯を拾い上げ、銀時は十四郎の手を取りつつ明かりを順路に向けて振った。
「先生ぇー」
呼びかければ、大き目の明かりがこちらを向く。そちらへ向かって小走りに二人で駆けていった。
「どこに行ってたのですか」
「すいまっせーん」
道に迷ったのだと銀時が詫びて、十四郎も頭を下げる。十四郎の瞳が潤んでいたこともあり、
引率の先生方で組織した捜索隊も信用してくれたのだった。
ちょっとした迷子騒動はあったけれど肝試しは無事に終わり、児童らは各々の部屋へ戻っていく。
前夜の夜更かしと一日中遊んだ疲れもあって、今夜は雑談もせずに寝入る児童が続出。一日目とは
比較にならない静かな夜となった。
そのような中、銀時は布団の下で腕を伸ばし、隣で眠る十四郎の布団へ侵入を果たす。とことこと
指で歩いていくように手を進めれば、十四郎のパジャマの袖に当たった。
するとすぐに握られた銀時の手。まだ起きていたようだ。
バサッ
自分の布団を剥ぎ、銀時は素早く十四郎の布団に潜り込む。その勢いで二人の頭まですっぽりと
掛け布団で覆いをした。
「どうしたんだよ」
暗くて見えないが自身へ覆い被さる銀時へ、小声で意図を尋ねる十四郎。けれども答えは返って
来ず、黙って唇を塞がれてしまった。ぬるりと押し入ってきた銀時の舌は一直線に上顎を目指す。
「んんぅっ!」
突然のことに抵抗する十四郎の身体を四肢で押さえ付け、口内で舌を暴れさせた。
布団の中、口を塞がれ上に乗られ、息苦しさを感じるものの、この状況を誰かに知られるわけにも
いかない――消極的にではあるが、十四郎は口付けを受けることに決めた。
「ハッ!」
「ハァ、ハァ……」
身体の力を抜いた頃、銀時は漸く唇を解放してくれる。体勢はそのままにぎゅっと抱き締めて、
ごめんごめんと囁いた。
銀時の背に両手を置いて、どうしたのだと先程答えがもらえなかった問いをもう一度。
「ごめん。すっげぇキスがしたくなった」
「明日、家で……」
「待てない。ごめん」
頬に両手が添えられて、またキスされるのだと悟る。しかも現在「キス」といえばディープキスの
こと。唇同士を触れ合わせていた今までのキスと異なり、呼吸が乱れ、心臓はドキドキして酷く
不安定な状況に陥る大人のキス。自分にはまだ早いのだと肝試しの時に思い知らされたけれど、
切迫した様子の銀時に、十四郎は拒むことができず目を閉じた。
真っ暗な中で見えたわけではない。だが千を超える経験則から受け入れてもらえたのだと感じ取る。
出来る限り柔らかく唇を合わせ、隙間から舌を入れていった。
「んっ……」
目的地はさっきと同じ場所。敏感な所を舐められて十四郎は銀時のパジャマに縋った。
心拍数はドキドキ急上昇。なのに背筋はゾクゾクする。暑いのか寒いのかすら分からない。銀時は
確かに己の上に乗っていて、二人でキスをしているはず。けれども、声が漏れるのを必死で耐え、
身体を震わせているのは自分だけ。「まだ早い」のは自分だけなのだろうか。銀時はもう大人に
なっていて、自分は置いていかれてしまったのだろうか――
十四郎より五ヶ月遅く生まれた銀時。
幼い頃は発育の差が顕著であり、十四郎にとって銀時は弟のような存在であった。自分より小さな
身体で自分を護ろうとする銀時はとても愛らしく、銀時に心配をかけないよう確りしなくてはと
思ったものだ。
だがそんな差も、年齢が上がるにつれてなくなっていった。愛らしさを失う変わりに頼もしさを
身に付けた銀時。いよいよ本当に十四郎を護れるくらいに成長している。それはとても嬉しいこと
なのだけれど、追い付いたら次は追い越されるのではないかと不安になることもあった。
恐れていた時が、遂にやって来たのかもしれない。
手を繋いで歩き、時々触れるだけのキスをして満足していた自分はもう、交際を続けていくことが
できないのだろうか――十四郎の目尻から、つっと涙が伝う。
己の手が濡れたことでそれに気付いた銀時は慌てて顔を上げ、抱き締め直した。
「うっ!」
全体重をかけては十四郎が潰れてしまうと浮いていた銀時の腰。抱き直しのタイミングでぴったり
くっついて互いの変化に直面する。
腹の下、足の間に不自然な硬い物質。触れ合ったそばからドクドクと生まれる熱。この現象の名は
知っている。少し前、保健体育で習った――
「十四郎、勃起してる?」
「……お前も?」
「多分」
「うぅ……」
銀時が下半身を押し付ければ、ディープキスの比ではないドキドキゾクゾクが全身を這う。
やめてくれと寝間着を引っ張っても、銀時は止まるどころか深い口付けを再開させた。
「んぅっ!」
十四郎の身体が、銀時を持ち上げる程に跳ねる。周囲に気取られるわけにはいかないのに制御が
効かない。銀時のせいでこうなっているのだけれど、頼れるのも銀時だけ。
ぎゅうぎゅうと縋り付き、次々に生じる初めての感覚を何とかやり過ごそうとした。
「んんっ!ぐ……んっ!」
「んー……」
狭い空間に閉じ込められて頭の中に靄がかかる。早く終わってほしいと思う反面、時が止まって
しまえばいいとも思う。銀時はきっと、後者。だからきっとこのまま身を委ねていけば、自分も
銀時と同じ位置へ立てるのかもしれない。
未だにこれが快なのか不快なのか判別不能。でも恋人と一緒なので何とか正気を保っていられる。
「う、んっ!……んんっ!!」
「ハッ、んっ!」
布団一枚隔てた向こう側では、クラスメイトがすやすやと寝ている。そんな場所で卑猥なことを
しているという事実が、二人を更に燃え上がらせた。
けれども、
「んんっ!?」
「ぐっ!」
十四郎は急激にせり上がるものを感じ、反射的に銀時を力いっぱい押し退けた。
唾液に塗れた口を右手で、張り詰めた股間を左手で覆い、出口に向かって走り出す。足音で友人が
目を覚ますのも気遣う余裕などなかった。
「十四郎!」
銀時もまた部屋中に響く声で十四郎を呼び、後を追う。
「どうしました、土方くん?」
「あのっ、トイレに……」
廊下を見回っていた吉田先生に出くわしてしまい、冷や汗をかきながらも十四郎はトイレへ駆け
込んだ。その直後、銀時も同じ場所へ。
一つだけ扉の閉まっている個室の隣に自分も入る。ふぅと息を吐き、下着と共にズボンを下ろせば
そこはべっとり濡れていた。愛しい人も同じ状況だと、それを作りだしたのが己なのだと考えると
再び頭を擡げそうになる感覚。早く部屋へ戻らなければ先生が来てしまうかもしれない――内側を
トイレットペーパーで拭い、冷たい下着を履いて水を流す。
それから少しして、銀時が手を洗っている時に、隣の個室からも流水音が聞こえ、頬を染めた
十四郎が顔を覗かせた。その姿にまた抱き付きたくなるのをぐっと堪え、二人手を取り廊下へ出る。
この日、幼い恋人達は大人の階段を一歩も二歩も上った。
(14.11.07)
な、何とか挿入なしで銀土らしく書けたかな?まあ、注意書きにも銀土って書いたから大丈夫……ですよね?
なお、今回はリクエストのため銀土でしたが、幼児パロの二人が成長して銀土になると決めたわけではありません。一例として読んでいただけたらと思います。
リクエスト下さった明夜様、いつもありがとうございます。もっと大人な「その後」を期待していましたらすみません。
他の作品との違いを出したいと考えてこうなりました。楽しんでいただけましたら幸いです。こんな話でよろしければ明夜様のみお持ち帰り可ですのでどうぞ。
それでは、ここまでお読み下さった全ての皆様ありがとうございました!