自分の気持ちに気付かないままじゃれあう2人

 

※この2人はまだ付き合っていないどころか、自分の想いも自覚していません

 

 

 

「おい、そこの税金ドロボー、酢こんぶ買ってくるネ」

 

土方がかぶき町を巡回していると、定春に乗った神楽に呼び止められた。

 

 

「警察相手にかつあげたァいい度胸してんな…保護者はどこいった?」

 

開口一番に物を強請る神楽の態度に呆れた土方は、いつも一緒にいる銀髪を捜す。

すると、定春と神楽の少し後ろをのんびりと歩いてくる男がいた。

黒の上下に、なぜか片袖を抜いて白い着物を羽織った特徴的な恰好は、万事屋銀ちゃんこと坂田銀時である。

 

 

「呼んだー?」

「ったく…テメー、ガキにどういう教育してんだ?」

「コイツを育てたのは俺じゃありませんー。文句ならあのウスラハゲに言ってくださいー」

「ハゲのことはどうでもいいネ。早く酢こんぶ買うヨロシ」

「どうでもいいって…父親だろが」

「朝から何も食べてないネ。だから酢こんぶ…」

「おいおい…人聞き悪ィこと言うなよ。神楽、オメーが今日の朝メシの分まで昨日のうちに食っちまったのがいけねーんじゃねェか。

俺だって腹減ってんだよ」

「育ち盛りのガキに我慢させてんじゃねーよ。…これから昼メシ行くとこだったんだが、一緒に来るか?酢こんぶだけじゃ栄養が偏るぞ」

「きゃっほーい!お前、税金ドロボーにしてはいいやつネ!」

「じゃあ行くぞ」

「その前に酢こんぶヨ!」

「分かった、分かった。…コレで買って来い」

 

土方は神楽に一番大きなコインを一つ手渡す。

 

 

「うおおお!コレで酢こんぶ5個買えるヨ!5個買っていいアルか?いいんだろーな!?」

「ああ…買えるだけ買って来い」

 

ひゃっほー!と叫びながら、神楽は定春と共に近くの駄菓子屋へ飛び込んだ。後には土方と銀時が残される。

 

 

「ね、ねえ土方くん?」

「ああ?」

「お、俺も…今朝から何も…」

「テメーは自分で働いて稼げ!」

「ちょっ…だからさー、働こうにも腹が減って…」

「自業自得だ。水でも飲んで誤魔化しとけ」

「水って…」

「なんだ?まさか水道も止められてんのか?」

「バカにすんじゃねェ!だいたい…水道は命に直結すっから、例え支払いが滞っても、暫くは大丈夫なんだよ!」

「…つーことは、支払いが滞ってんじゃねーか」

「ちゃんと払ってるよ!…三ヶ月前に」

「おーい、何か聞こえたぞー」

「うるせェな!毎月決まった日に給料貰えるテメーと違って大変なんだよ。自営業なめんなよ!」

「知ってるか?自営業ってのは『自ら営む』って書くんだぞ?」

「そんくれー知ってるよ」

「つまり、何もせずにグダグダしてるテメーに、自営業を名乗る資格はねェ。 よって、テメーはただのニートだ!」

「はあ?っざけんな!依頼があれば真面目に働くっつーの!」

「ほう…じゃあ、今から俺が依頼してやろーか?」

「えっ、マジで?じゃあメシでも食いながら話を…」

「んなまどろっこしいコトする必要はねェ。ほらよ」

 

土方は財布の中から一番大きいコインをもう一枚取り出し、銀時に放り投げた。

 

 

「へっ?何コレ?」

「何だ、あまりに貧乏でカネの形も忘れたか?」

「そうじゃねーよ!コレをどーすんのかって聞いてんだよ!」

「向こうに自販機が見えるだろ?」

「あ、ああ…」

「そこで缶コーヒーを買って来い。…もちろんブラックな」

「それで?」

「だからそれが依頼だ。釣りはやる」

「へっ?」

「依頼があったら真面目に働くんだろ?さっさと買って来い」

「えっ、俺…パシリ?」

「パシリにカネはやらねーよ」

「いや、そうだけど…コレ、さっきの神楽の小遣いと同レベルじゃねーか。…あっ、コーヒー買わなきゃならない分

自分の取り分は神楽より少ねェぞ。どういうことだコラ!」

「ガキと同じように楽できると思うなよ?テメーはちゃんと働いて稼ぐんだよ」

「オメー、もしかしてロリコン?うわー、最近のお巡りさんは危ないねー」

「…嫌なら行かなくていいんだぞ?その代わりカネは返してもらうけどな」

「うっ…わ、分かったよ!買いに行けばいいんだろ!そこで待っとけよボケ!」

「依頼人にその態度はなんだ…コーヒーじゃなくてタバコにするぞ?」

「ちょっ…タバコの方が高いじゃん!ダメダメダメ!依頼の変更は受け付けません!!」

「はんっ。じゃあとっとと行け」

「くそっ!」

 

銀時は土方のコインを握り締め、自動販売機に向かって走っていく。

その様子を、神楽は酢こんぶを齧りながら眺め、そのまま元来た道を帰って行った。

 

 

 

 

*  *  *  *  *

 

 

 

 

「ただいまヨー」

「おかえり。…あれっ?神楽ちゃん、その酢こんぶどうしたの?」

 

万事屋に帰った神楽を新八が迎える。

 

「銀ちゃんの彼氏の税金ドロボーに貢がせたアル」

「ああ、土方さんに買ってもらったんだ。良かったね。…でも、まだ彼氏じゃないからね」

「アイツら付き合ってるも同然ネ。今日だって私の存在忘れて、二人で楽しそうにケンカしてたヨ」

「ケンカなのに楽しそうって…まあ、想像はつくけどね」

「やっぱり酢こんぶ5個じゃ足りないアル。もう一回行ってくるネ」

「よしなよ神楽ちゃん。二人きりにさせてあげようよ」

「いやヨ。ご飯おごってくれるって約束したアル!」

「ご飯なら姉上がご馳走してくれるって」

「本当アルか!?」

「うん。昨日、近藤さんがお店に来て迷惑料を置いてったって…言ってたけど、多分姉上が出せって言ったんだろうな」

「ゴリもなかなか使えるアルな!」

「ははは…じゃあ、姉上が待ってるから行こうか?」

「おうよ!」

 

 

(09.08.24) 

photo by 素材屋angelo


万事屋の生活は真選組のトップ2人によって成り立っています(笑)。周りはみんな気付いているのに、本人たちだけが恋愛感情を抱いているということに気付いていません。

そんな2人も大好きです。とにかく2人が会話してるだけで楽しいです。ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

ブラウザを閉じてお戻りください