※「甲斐甲斐しい銀さん」の続きとなります。



「おはようござ……」
「ふっふ〜ん♪」

ある日の朝、新八が万事屋に出勤すると、エプロン三角巾姿の銀時が部屋の掃除をしていた。

「お、おはようござい「ああああっ!」
「!!」

気を取り直して新八が玄関を上がろうとすると、銀時が大きな声を出す。
新八は驚いてその場に立ち尽くした。

「なっなんですか、銀さん」
「オメーが汚い足で上がろうとするからだろ!」
「汚いってそんな…」
「新八ィ…今の銀ちゃんに何言っても無駄ネ」
「あっ…もしかして、土方さん?」

眠そうな目で奥から出てきた神楽に新八が問う。

「そうネ。今日はマヨが来るからって、銀ちゃん夜明け前から掃除してるアル」
「そんな時間から…」

室内を見回すと、新築にも負けない輝きを放っていた。

「土方さんが来るんじゃ、今日は仕事にならなそうだね」
「そうネ。全く…来るたびに大掃除じゃ、いい迷惑ヨ。二人だけで暮らせばいいのに…」
「!!」

神楽の言葉に銀時がピクリと反応した。

「十四郎と一緒に?…でもさァ、アイツ屯所に住んでるし…」
「だったら朝早くから掃除するのをやめてほしいアル」
「だって…十四郎が来るのに汚い家だとよー…」
「外で待ち合わせたらどうですか?この家は神楽ちゃんも定春もいるんだし、
全部銀さんの思い通ってワケにはいきませんよ」
「そうか…。そうだよなァ…」



バカップルの休日



「そんでな、今度から外で会えっつーんだよ。酷くね?あそこは俺ん家だっつーの!」

土方の到着と同時に万事屋を追い出された二人は、定食屋のカウンターで早めの昼食をとっている。
そこで銀時が今朝のやり取りを説明した。
子ども達の態度にむくれる銀時を土方は宥めようと言った。

「まあまあ…ガキ共だってあの家で暮らしてんだからよ…」
「何だよ…十四郎はアイツらの味方なのか?」
「んなワケねェだろ。俺はいつだってオメーの味方だぜ」
「だったら何でアイツらの肩持つようなこと…」
「ガキ相手にヤキモチか?そんなところも可愛いな…」
「そんなんじゃねェよ。…十四郎のバカ」
「すまん、すまん。…でも、怒った顔も可愛いな」
「もうっ、俺は真剣なんだぞ!」
「ハハハハ…」

周囲から白い目で見られていようとお構いなしに、土方と銀時はケンカのようなじゃれ合いを続ける。
そんな二人に店主は、次に来たらなるべく人目につかない端の席に座ってもらおうと心に決めた。

「だが、ガキ共に迷惑掛かるんじゃ、お前ん家には行けねェな」
「迷惑じゃねェよ。俺が思うに…アイツらは羨ましいんだと思う」
「羨ましい?」
「そっ。俺にだけカッコイイ恋人ができて、僻んでんだよ」
「そうか?俺ァてっきり、可愛いお前を取られて悔しがっているのかと…」
「ンなわけねーじゃん」

無条件に相手を褒め合う二人は、微笑ましいを通り越して異様である。

「どちらにせよガキ共が嫌がるんじゃ、外で会うしかねェな」
「気にしなくていいよ。今度から、十四郎が来る時はアイツら外に出すから」
「そういうわけにもいかねェだろ。俺ァな、銀時…オメーの家族にも認めてもらいてェんだ」
「十四郎…。お前がそこまで考えてくれてたなんて、すげェ嬉しい」
「当たり前だろ?オメーとは生涯を共に…ん?そうだ!俺達の部屋を借りねェか?」
「えっ!神楽にもそんなこと言われたけど…でも十四郎は屯所に住んでるんだろ?」
「確かに毎日は無理だが…今日みてェに会える日の待ち合わせ場所としてなら…」
「…本当にいいの?俺、十四郎の仕事の邪魔はしたくないよ」
「お前が邪魔なわけねーだろ。そもそも他の隊士だって、所帯を持ってるヤツは別に家があるんだ」
「そうなんだ…。でも俺、金ねェし…」
「心配すんな。お前は万事屋の家賃があるからな…俺達の部屋代は俺が払ってやる」
「本当?ありがとう!…じゃあ俺は、十四郎がいつ帰ってきてもいいように掃除頑張る!」
「無理すんなよ。俺はお前がいてくれればそれでいいんだからな」
「うん!俺も、十四郎といられるだけで幸せ♪」

土方が銀時の肩を抱き寄せると、銀時は土方に抱き付いて応える。
店内にいる全員が、早く帰ってくれと願っていた。


その願いが通じたのか定かではないが、二人は間もなく定食屋を出て不動産屋へ向かった。


*  *  *  *  *


万事屋と真選組屯所のちょうど中間辺りに位置する物件に決め、家具やらダブルベッドやらペアの食器やらを購入し
夜にはすっかり二人の愛の巣が出来上がった。

「ここが、十四郎と俺の家…」
「そうだ。…毎日は来てやれねェが…」
「気にしないで。俺も、十四郎が仕事の時は万事屋で頑張るから」
「そうか…ありがとよ」
「俺の方こそ…。十四郎と暮らせるなんて夢みたいだ」
「もっと早くこうすれば良かったな。銀時…」
「十四郎…」

二人は暫く見つめ合い、そしてゆっくりと唇を重ねた。



*  *  *  *  *



「お、おかえりなさい」
「…おかえりアル」

新八と神楽が身構えているのにも気付かず、銀時は「十四郎がね…」と昨日の報告をする。
毎回毎回のろけ話を聞かされる二人は、もううんざりしていた。
だが、今日の報告は二人にとっても朗報だった。

「えっ!土方さんと住む部屋を借りたんですか?」
「おう。…住むっていっても十四郎は基本、屯所に詰めてるから、休みの前日とかに帰ってくるだけだけどな」
「でもこれからは、そっちの家で会うアルな?」
「まあな」

新八と神楽は顔を見合せて喜んだ。
これで早朝からの掃除で起こされることもないし、汚れるから中に入るなと言われる心配もない。
そして、目の前でいちゃつかれることもなくなるのだ。

「良かったですね、銀さん」
「マヨラーと仲良く暮らせヨ」
「おっ、何だ?今まで十四郎のことになるとブツブツ文句言ってたのに…」
「二人だけでいるなら大歓迎ヨ」
「そうですよ。どうぞ、二人だけで楽しく過ごして下さい」
「おう。…あっ、仕事の時はこっち来るからな。十四郎も頑張ってんだから、俺も頑張らねェと」
「そうですね。土方さんくらい一所懸命に働いて下さいね」
「もちろんだぜ!」


今後も銀時による「十四郎自慢」は続くのだろうが、二人きりで会う場所ができたので
こちらへの「被害」は格段に少なくなる。しかも今まで以上に仕事に精を出すつもりらしい。
そのことがとても嬉しくて、新八と神楽は二人が恋人同士になって初めて心の底から「おめでとう」と言うのであった。


(10.05.14)


久々のバカップル土銀でした。人目も憚らずいちゃつく迷惑なバカップルを家に押し込めることができて、新八と神楽は一安心です(笑)

そして土銀の二人も、一緒に暮らせて幸せそうなのでめでたしめでたしです。…まあ、この二人の場合はどんな状況でも幸せそうですが^^;

職場兼自宅のある二人なので、この家は二人専用のラブホですね(笑)。でもこの家に帰るため、特に土方さんは、今まで以上に頑張って仕事を終わらせそうです。

ここまでお読み下さり、ありがとうございました。

追記:続きを書きました。

 

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