※単独でも読めますが「土方十四郎ファンサイト」の続きです。トッシー成仏前という設定です。



今夜はアイツと会う約束をしていたが遅れると連絡が入った。アイツが遅れることなんかいつものことだった。
だから一時間ほど遅れると電話が来た時も「また仕事か」くらいに思っていた。
約束っつってもアイツが俺ん家来る予定だったから、一時間遅れても俺は家でダラダラ過ごしていればいいだけだ。
だが、一時間遅れでやってきたアイツはアイツであってアイツじゃなかった。


心まで飾らなくてもいいものはいい


「…またお前かよ」
「坂田氏ィ、今日は十四郎とお家デートでござるか?」

満面の笑みで万事屋に現れたのはトッシーだった。

「お家デートだか何だか知らねェけど、とっととチェンジしろよ」
「慌てなくても大丈夫でござるよ。もう拙者の用事は終わったのでそろそろ交代しようと思っていたナリ」
「…できれば交代してから来てくんない?」
「拙者、坂田氏に聞きたいことがあるナリよ」
「あぁ?」

トッシーは勝手に上がり込み、ソファに腰を下ろして携帯電話を操作し始める。

「俺ん家に勝手に上がんなよ…まあ、アイツも勝手に入ってくるけどよ」

銀時は諦めたように息を吐き、トッシーの隣に座った。


「で、俺に聞きたいことって…」
「見て見て坂田氏ィ〜」
「あ?」

トッシーは銀時の言葉を遮って携帯電話の画面を見せる。そこには女性が数人写っていた。
別人格とはいえ恋人に女性の写真を見せられて銀時はムッとなる。

「…誰、これ?」
「今日知り合ったレイヤーさん達ナリ」
「れいやー?」
「コスプレイヤーのことでござるよ」
「ああ、そういうことね」

随分変わった格好をした女だと銀時は思っていたが、よく見ればトッシーが後生大事にしているフィギュアと
同じような衣装を着ているように見える。

「トモエ5000は女子にも人気で、トモエちゃんや仲間達のレイヤーさんも多いナリよ」
「…そもそも女向けのアニメじゃねェのか?」
「まあそうなんでござるが…」
「で、オメーは彼女自慢でもしにきたってのか?あん?」
「かっ彼女なんかじゃないナリ!同じ作品のファン同士、交流を深めているだけで…」
「交流、ね」

トッシーにその気はなくとも、向こうはどうだか分からないと銀時は思っていた。
言動はオタクそのものだが外見は「真選組一モテる」という土方十四郎そのものなのだ。
そこまで考えて銀時は、トッシーが持っていた紙袋の存在に気付く。

「おい、ソレ何だ?」
「これは拙者の衣装でござる」
「衣装って…テメーもトモエ何とかの格好したのか?」
「あっ、見たいでござるか?じゃあちょっと隣の部屋をお借りするナリ〜」
「お、おい…」

トッシーは紙袋を持って和室に入った。

(ったく…誰もアイツの女装なんざ見たくねェっつーの。止めさせ…いや、待てよ。
アイツの恥ずかしい姿を写真にでも撮っておくか?そんでそれをネタに何かさせるとか…よし、そうしよう!)

銀時が悪巧みを決めた時、スパンと襖が開いた。

「お待たせナリ〜」
「っ!!」

和室から出てきたトッシーの姿は銀時の想像と全く異なるものだった。
黒の燕尾服にシルクハットという、今まで見たことのない土方の礼服姿につい魅入ってしまった。

「坂田氏、顔が赤いナリ。さては拙者の燕尾服仮面コスに見惚れてるでござるか?」
「ばっ!誰がテメーなんかに…ん?燕尾服仮面?」
「そうでござる。トモエちゃんがピンチになると何処からともなく現れる燕尾服仮面でござる。
…あっ、正しくはこの仮面を着けて…」
「いや、オタクの正装なんかどーでもいいから」

大きなメガネのような形の白い仮面を取り出したトッシーに、銀時は冷たく言い放った。

「お前、その格好でオタク仲間と会ってたのか?」
「会うというか、今日はイベントだったでござる。そこでさっきのトモエちゃん達と知り合ったナリ」
「あっそ…」
「今日のイベントはどうしても行きたかったから、十四郎に朝から休みを取ってもらったナリ。
もちろん坂田氏と十四郎が約束してたのは知ってたから、夕方には必ず交代すると約束したナリ」
「ふ〜ん…」

気のない返事をしているようで、銀時は内心焦っていた。

(何でこんなにドキドキすんだ?トッシーにときめくなんざ有り得ねェだろ…あの服のせいか?
制服は三割増しってどっかの誰かが言ってたが…礼服は五割増しか?)

銀時が心の中でそんなことを思っているとはつゆ知らず、トッシーは話を続ける。

「本当はもっと早く…最初に十四郎が坂田氏と約束した時間には戻る予定だったでござるが
思いの外、燕尾服仮面が人気で写真を撮らせてほしいという人がたくさんいたナリ」
「へ〜…って、おい。写真はマズいんじゃねェか?真選組副長がコスプレしてるなんて知れたら…」
「仮面を着けているから大丈夫でござるよ。拙者もその辺は心得てるナリ」
「ああそうですか…じゃあ話は済んだろ?早く戻れよ」
「まあ待つでござる。十四郎に早く会いたいのは分かるけど…」
「そんなんじゃねェよ!」
「相変わらずツンデレでござるな…。交代する前に、一つだけ坂田氏に確認したいことがあるナリよ」
「…そういやァ、最初にそんなこと言ってたな」
「拙者、今日いっぱい写真を撮ったから携帯のメモリーがいっぱいになってしまったでござる」
「…じゃあいらねェモンを消せばいいじゃねェか」
「そう思ったんでござるが、坂田氏の写真ばかりだったので一応本人に消していいか確認をと思ったナリ」
「はっ?俺の写真?」

トッシーの携帯電話はもちろん銀時の恋人の携帯電話でもある。
恋人の携帯電話に自分の写真が入っていると聞いて、銀時は少し嬉しい気持ちになった。

「なにアイツ、俺の写真なんか入れてんの?」
「いっぱい入ってるナリ」
「そんなに?アホじゃねェの…俺のこと好きすぎだろ〜」
「…坂田氏、嬉しそうでござるな」
「別に〜。…で、どんな写真なんだ?」
「えっと…こんなのとか」
「………」

携帯電話の画面を見た銀時は絶句した。
そこには眠っている銀時の姿。肩から上しか写っていないが、何も身に付けておらず
首筋等に小さな赤い鬱血があり、明らかに情事の後と分かる写真だった。

「どうしたでござる?坂田氏、この写真消していいでござるか?」
「………
「えっ?」
「消せって言ってんだよ!今すぐ消せ!俺が写ってるの全部!!」
「さすがにそれは十四郎に怒られる…」
「いいから全部消せ!消さねェならオメーをこの世から消し去ってやる!」

銀時はトッシーの胸倉を掴んで締め上げる。

「さっ坂田氏、苦しいナリ…消すから、離してほしいナリ!」
「よし、早く消せ!」
「ケホッ、ケホッ…分かったナリ」

トッシーはソファに座り直すと携帯電話のボタンを押そうとした。
しかし、そのままの姿勢で固まってしまい一向に銀時の求める操作をしようとしなかった。

業を煮やした銀時がトッシーの肩に手を置いて体を揺らした。

「おい、オメーいつまでそうやって…」
「俺の銀時メモリアルは消させん!!」

カッと目を開いた彼はそう宣言して立ち上がった。

「トッシー?」
「誰がトッシーじゃ、ボケぇ!」
「…あっ、やっぱ土方?いらっしゃ〜い…じゃねェよ!写真!オメー何つーモンを…」
「ああそうだったな…何だこの女?全部消去だな……よしっ、これでまだまだ銀時メモリアルを増やせるぜ」

漸く体を取り戻した土方は、トッシーが今日のイベントで撮影したらしいコスプレ写真を全て消去した。

「さあっ、今日も新たな銀時メモリアルを…」
「っざけんな!テメー勝手にあんな写真撮ってタダで済むと…」
「安心しろ。パスワードを設定してあるから俺しか見れねェ」
「トッシーが見てたじゃねーか!」
「アイツは仕方ねェだろ?携帯共有なんだからよ…」
「じゃあトッシー用の携帯を買え!」
「断わる。これ以上アイツのために金を使う気はねェ」
「とりあえず俺の写真は全部消せ!」
「冗談じゃねェ!!コレは俺がヌkぐはっ!」

銀時の渾身の右ストレートが土方の顔面を直撃した。

「それ以上言うんじゃねェェェ!!テメー、そういうことを本人の前で言うか!?」
「んだよ…テメーのこんな写真、使い道っつったら一つしかねェだろーが」
「何となく分かってた…分かってたけど、だからといってハッキリ口に出すんじゃねェよ、アホ方!」
「ったく、今更これくらいで照れやがって…可愛いヤツだな」
「照れてんじゃねェよ!俺は怒ってんだからな!」
「何で怒ってんだ?…約束に遅れたからか?悪かったな、銀時…」
「うっ…」

礼服姿の土方に真っ直ぐな瞳で見つめられ、銀時の胸は再び高鳴る。

「なあ銀時…待たせちまった分、ちゃんとヨくしてやっから布団に行こうぜ」
「う、うん(どうしよう…土方に逆らえる気がしねェ。カッコよすぎだろコイツ…)」

銀時はまるで魔法でもかけられたかのように、ふらふらと土方の後を付いていった。


(10.03.19)


 燕尾服仮面の元ネタはもちろんタキシード仮面です。漸く土方さんが復活したので続きは18禁になります