※この話は「将来のこと本気で考えてみた」の続きとなります。
そちらをお読みになってからお進み下さい↓



銀さんも本気になっちゃった


土方が万事屋に泊まった翌早朝、銀時は土方の動く気配で目覚めた。
布団から顔だけ出して土方を見つめていると、土方もこちらに気付く。

「悪ィ…起こしちまったか?」
「いや、別にいいけど…まだ薄暗いじゃねェか。もう、仕事?」
「ああ…今日は少し遠出するんでな」
「遠出って…お前一人で?」
「いや、近藤さんや総悟も一緒だが…アイツらは昨日の晩から向こうに行ってる」
「何でお前も行かなかったの?」
「お前に、会いたかったから…」
「何だよそれ」

台詞とは裏腹に銀時は嬉しそうに頬を染めた。
そしてそのまま布団から出て土方とともに玄関へ向かう。

「…まだ寝てていいぞ」
「いいよ。もう目が覚めちまったから玄関まで送る」
「ありがとな」
「…あのさ、昨日言ってた結婚とかの話だけど…」
「ああ、焦らずゆっくり計画しような」
「俺、思ったんだけど…そのうち、本当に結婚できるようになるんじゃねェか?」
「…どういうことだ?」
「この世界にはよー、性別なんか関係なしに結婚できる星もあんだって」
「そういえば前に警護したどっかの星の皇女とかいうやつは、婚約者も女だっつってたな」
「だろ?だからさ…」
「そうだな。時代は移り変わるんだし…せっかくだから式はそん時までとっておくか?」
「うん。じゃあ…いってらっしゃい」
「ああ…」

チュッと軽い口付けを交わして土方は仕事に向かい、銀時は暫くの間土方の閉めた扉を眺めていた。



*  *  *  *  *



その日、新八が神楽と定春とともに万事屋へ出勤すると、今までに見たこともない光景が広がっていた。

「新八くん、神楽ちゃん、おはよう♪気持ちのいい朝だね」
「ぎ、銀…さん?」
「…何か変なものでも食べたアルか?」

二人が事務所に入ると、桃色のフリル付きエプロンを着けた銀時が台所から出てきた。
どうやら朝食の支度をしていたようだ。…このこと自体は珍しいことではない。ただ…

「あの…今日の食事当番、僕でしたよね?」
「あ?いいの、いいの♪今日はたまたま早く起きただけだから」
「それに…何でうちがこんなにピカピカアルか?」
「だから、早く起きたから掃除しただけだよ♪」

自分の当番だってテキトーにこなす銀時が、率先して当番を代わり、その上普段は新八任せの掃除まで行う。
しかもただ掃除しただけでなく、家中ピカピカに磨き上げている。

「銀さん…一体、何時に起きたんですか?」
「何時だっけなぁ…。日は昇り始めてたと…」
「そんなに早く!?」
「何かあったアルか?」
「何かって…ただ、恋人の土方を見送るためにだな…」
「「えっ!!」」

銀時の口から「恋人の土方」という単語が出て、二人は面食らう。
爛れた関係の銀時と土方を真の恋人同士にしたくて、二人が「恋人の土方」と言うことはあっても
銀時から「恋人」と言ったことはなかったのだ。
驚いている二人に気付かず、銀時は嬉しそうに今朝のことを説明しはじめた。

「それがよー…アイツってば今日は地方で仕事なんだって。場所が遠いから、他のメンバーは昨日の夜から
現地の宿に泊まってるみたいなんだけど…恋人の土方だけは朝早く起きて向かったんだよ。なあ、何でだと思う?」
「もしかして…ここに来るためアルか?」
「ピンポーン!大正解♪いや〜、アイツ本当にアホだよなぁ…他のヤツらと一緒に昨日の晩から
行っといた方が楽なのによー。うん、アホだな♪俺の土方はアホ過ぎる」

鼻歌交じりにアイツはアホだと言う銀時を、新八と神楽は少し距離を置いて見ていた。
いつの間にか呼び名も、「恋人の土方」から「俺の土方」に変わっている。

銀時の異様な浮かれようを見れば明らかではあるが、一応確認のため新八が聞いた。

「あの、銀さん…もしかして、土方さんと本当の恋人同士になれたんですか?」
「新八くん、何を言っているのかな?俺と土方は最初から恋人同士だろ?現に君たちだって…
『恋人の土方さんから電話です』とか『恋人のマヨラーとデートアルか?』とか言ってたじゃないか」
「それは…銀ちゃん達を本物の恋人同士にしようとした作戦ネ。本当は二人が爛れた大人の関係だって知ってるアル」
「ふっ…バレていたのか。でもそれはもう過去のこと…俺と土方は新しい未来に向かって歩き出したんだ!」
「み、未来…ですか?」
「そう…俺と土方で作るバラ色の未来♪」

両手を組んで空を見つめる銀時は「バラ色の未来」とやらを思い描いているようだった。

「とっ、とにかく…土方さんと恋人同士になれて良かったですね」
「そうアルな。…銀ちゃんおめでとう」

引きつりながら無理矢理笑顔を作った新八が祝福し、神楽も仕方なく後に続いた。
二人ともこれでこの話題を終えたかったのだが、銀時は尚もバラ色の世界から帰ってきてはくれなかった。

「今思ったんだけどよー…その土方っての変じゃねェ?俺たち恋人同士なんだから、もっとこう…。
それにさ…俺もそのうち土方になるだろうし?」
「えぇっ!銀さんも土方って…男同士は結婚できませんよ?」
「今はな」
「今はって…」
「時代は移り変わるんだよ♪そのうち男同士だって結婚できるようになるって」
「結婚できるようになったら、銀ちゃんが婿入りするアルか?」
「おう♪だってアイツは『土方』って感じだろ?でも俺は『銀さん』だもん。
土方姓になったって銀さんは銀さんだからさぁ、俺が土方になる方がいいと思わねェ?」
「ああ、そうアルな…」

心底どうでもいいと思いながら神楽は返事をした。だが銀時はそのことに全く気付いていない。

「というわけで…アイツのこと何て呼べばいいかな?なあ、なあ♪」
「好きに呼べばいいじゃないですか…」
「下の名前だから、やっぱ『トシ』かなぁ?でも、ゴリラと一緒ってのもなぁ…。
恋人なんだし、俺だけの呼び方みたいなのが…」
「俺だけのって…土方さんは銀さんのこと何て呼んでるんですか?」
「そりゃ、普通に『銀時』だけどよー…あっ、『十四郎』はどうかな?
下の名前そのままだけど、アイツのことそう呼んでるヤツいなくね?」
「ああそうですね…それでいいんじゃないですか」
「十四郎…。十四郎かぁ…」

何とかここまで銀時に付き合ってきた新八も、これ以上は付き合えないと感じていた。

その後は銀時が土方のことを話すのを二人で適当にかわしながら朝食を済ませた。



今日は襖の張替えを依頼されていた。朝からバラ色モードの銀時で大丈夫かと二人は心配したが
いつもより綺麗に、しかも早く仕上げたため依頼料を上乗せしてもらえるほどだった。
今朝の家事といい、どうやら今の銀時は常以上の実力を発揮しているようだ。
少し…いや、かなり気持ち悪いが、仕事が順調に進むのなら我慢しようと新八と神楽は決めた。


*  *  *  *  *


その日の夕刻。洗面台の鏡に向かっている銀時が神楽に訊ねた。

「なあなあ…俺の髪、変じゃねぇか?」
「…銀ちゃんの髪はいつも通りもじゃもじゃで変アルよ」
「そういうことじゃなくてさァ……あっ、じゃあよーどの服がいいと思う?」
「どの服って…皆、今着てるのと同じアル」

洗面台から和室に移動した銀時は、箪笥からいつもの着流しの換えを出して再び神楽に問うた。
だが、神楽には同じ服にしか見えなかった。

「ったく…オメーは食うことだけじゃなく、ファッションにも関心を持った方がいいぞ。
そうだ、新八…お前なら違いが分かるよな?なあ、どれがいいかなぁ?」
「違いと言われても…ていうか銀さん、今から着替えてどこか行くんですか?」
「よくぞ聞いてくれました!実はこれから土方を…」
「あっ…」

聞かなきゃよかったと新八は後悔したがもう遅い。銀時は満面の笑みで新八に歩み寄る。
苦笑する新八に「分かってたから敢えて聞かなかったのに…」と神楽が冷やかに言い放った。

「おっと違った…十四郎を迎えに行くんだ♪」
「む、迎えに…ですか?」
「そう♪朝言っただろ、遠出してるって。そんで、帰りは七時くらいって言ってたからよー…」
「そ、そうですか」
「あっ、そろそろ出ねェと…なあ、どの服がいいかなぁ?」
「い、今着てるのが、一番似合ってますよ…」
「そうか?じゃあ、これで行こうっと♪…じゃあ行ってくるな!今日は多分、帰らねェから」
「は、はい…」
「…もう帰ってこなくてもいいネ」

足取り軽く銀時は出かけていった。



「神楽ちゃん…僕ら、大変なことをしちゃったんじゃない?」
「まさか、恋人ってなっただけで銀ちゃんがこうも変になるとは思わなかったアル」
「仕事はちゃんとできるみたいだからいいけど…」
「それ以外がキモすぎるネ」
「そうだよね。日帰りの出張くらいで迎えに行くなんて…」
「…あんな銀ちゃん、マヨラーも気持ち悪いと思わないアルか?」
「そうだね…そしたら銀さんも元に戻るかもしれないね」

二人は僅かな望みを土方に託した。


*  *  *  *  *


大江戸駅改札口。

「土方さん…あれ、旦那じゃねーですかィ?」
「あっ…」
「なんだトシ、恋人の出迎えか?羨まし…」
「銀時!」
「ト、トシ…?」

近藤が言い終わらないうちに、土方は銀時目掛けて走っていった。
その様子に、近藤と沖田を始め今日の仕事に同行したメンバー全員が唖然とする。

「あっ、十四郎…おかえり!」
「迎えに来てくれたのか…ありがとな」

人目も憚らず駅前で抱き合う二人を、通行人が避けるように通り過ぎていく。
真選組の面々も何が起こったのか分からず、呆然と立ち尽くすのみだった。

「あのな…今日ちょっと多めに依頼料が入ったんだ♪」
「そうか!…頑張ったんだな」
「うん♪…それでさ、もしこの後時間あるなら飲みに行かねぇか?たまには奢らせて」
「じゃあ、ご馳走になるとするか。…近藤さん!俺、このまま上がるから。それと…今夜は帰らねェ」
「ちょっ、こんなところで…十四郎のエッチ♪」
「んだよ…オメーだってそのつもりで来たんだろ?」
「違いますぅー。俺は飲みに行こうって誘いに来ただけですぅ」
「分かった、分かった…。じゃあ、行こうぜ」

二人は手を取り合って繁華街へ向かっていった。



「そっ総悟、あれは一体…」
「こっちが聞きてェや…。一体全体どうやったら急にあんなバカップルができあがるんでィ」
「昨夜、トシだけ別行動だった間に何かあったのかな…」
「そうとしか思えませんけどねィ…」
「ま、まあ…仲が良いのはいいことだなっ!」

そう言う近藤の声は上ずり、笑顔は引きつっていた。


とにもかくにも二人は、幸せな恋人生活を送ることになったのだった。


(09.12.18)


セフレが終わったらバカップルができあがりました(笑)。二人を恋人にしよう大作戦を実施していた三人(沖田、新八、神楽)はこの後反省会でもするんでしょうね。

二人が恋人になれたから作戦は成功したようなものですが、箍が外れた二人がこんなバカップルになるとは思っていなかった三人…これからも二人のことで苦労しそうです。

セフレじゃなくなったので、このシリーズ初めてエロなしです。まあ、この後の二人は甘々エッチをしたことでしょう。  ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

追記:続き、書きました。

 

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