※「二人を恋人に昇格させよう大作戦」の続きとなります。
そちらをお読みになってからお進み下さい↓




「そういえばトシ、恋人の万事屋とは上手くいってるのか?」
「あ、ああ…」

今日の仕事の確認にと朝一で局長室を訪れた土方だったが、仕事の話の途中で近藤が突如話題を換えた。
土方と銀時は確かに付き合っているが、二人は近藤の言うような「恋人同士」ではない。
周りから見れば恋人同士にしか見えない関係なのだが、当人達(主に土方)は「セフレ」だと言い張っているのだ。
純粋な近藤にセフレだなどとは言えず、恋人ということにしているだけの土方は、すぐに話題を戻そうとした。

「そんなことより近藤さん、今は仕事の話を…」
「そんなことなんかじゃないぞ。むしろ仕事より大事な話だ」
「いや…仕事の方が大事だ」
「…やはり、上手くいってないのか?」
「そういうわけじゃ…」
「トシも忙しい合間を縫って万事屋に会いに行ってるみたいだが…それでも、世間一般の恋人同士のように
四六時中一緒というわけにはいくまい。そういうところで何か、不満があるんじゃないか?」
「別に不満なんてねェし、だいたい…普通の恋人同士だって仕事してりゃ、常に一緒ってわけにもいかねェだろ」
「それはそうだが…」

うーん…と近藤は考え込んでしまう。

「だったらどうして、万事屋をここへ連れて来ないんだ?」
「………はっ?」
「お前との付き合いが上手くいってるなら、ここへ連れて来て皆に紹介してくれてもいいじゃないか」
「紹介も何も…皆だって銀時のことは知ってるだろ?」
「そりゃあ万事屋個人のことは皆知ってる。だが、お前の恋人としてここへ来たことはない」
「それは、そうだが…」
「俺は、いつトシが紹介してくれるのかと楽しみに待っていたんだ。それなのに一向に連れて来る気配がない。
もしかしたら上手くいってないんじゃないかと心配してるんだ」
「いや、それは大丈夫だ。上手くいってるから…」
「じゃあ、紹介してくれるんだな?」
「紹介って…結婚するわけでもあるまいし」
「確かに男同士だから結婚はできないな。だからといって、いい加減な気持ちで付き合ってるわけじゃないんだろ?」
「それは、まあ…」

セフレである銀時とは例えできたとしても結婚は考えていない―言いよどむ土方に近藤が畳みかける。

「じゃあ今度連れて来てくれよな。…皆の前が恥ずかしいなら俺のところだけでもいいから」
「わ、分かった…。今度、な」


これ以上この話を続けられないと、土方は逃げるようにして局長室を後にした。

(仕事の件は書面にして、後で山崎にでも持っていかせるか…。それにしても参ったな。銀時を紹介?
んなことできるワケねェだろ…あいつはただのセフレなんだぞ?
あいつだって「紹介」とか言われたらひくに決まってる。かといって近藤さんに本当のこと言うのもな…。
あーどうすればいいんだ!)


土方が態度を決めかねているうちに、数日が経過した。



将来のこと本気で考えてみた



「ったく…おたくも飽きないね。いい加減、諦めたらどうなんだ?」

お妙に殴られ、顔を腫らした近藤を呆れ顔で銀時が見やる。
いつものように志村家に忍び込んだ近藤をお妙が成敗し、その回収のために銀時が呼ばれたのだ。

「俺はお妙さんと結ばれるまでは諦めんよ!」
「ああそうかよ…。じゃあ諦めなくていいから俺にまで迷惑かけんじゃねェよ。ゴリラはゴリラ同士で…」
「おっ、そういえば、お前にも話があったんだ」
「あん?話ィ?」

更に面倒事に巻き込まれては堪らないと銀時は素っ気なく返す。だが近藤は、それを気にする素振りもない。

「そうだ。ここじゃ何だから…お前の家に行くか?」
「勝手に決めんなよ。つーか、ここじゃマズい話なのか?」
「マズくはないが…その、トシのことでな」
「…分かった。ウチに来いよ」

土方の名が出たことで、銀時は近藤を万事屋へ連れて行く決心がついた。

(何だ?土方のことって…。もしかしてアイツともう会うな、とか?…あり得るな。
コイツはセフレとか嫌いそうだもんな。…でもよー、セフレになろうっつったの土方なんだぜ?
その辺まで分かってんのかね?)

*  *  *  *  *

万事屋についた銀時と近藤は、事務所のソファに向かい合って座った。

「…で、話って何だよ?」
「お前と…トシのことなんだ。お前たちの関係は、トシや総悟に聞いて知ってる」
「あっそ…」
「それで、俺からトシに色々言っていたんだが、なんだかお前には話しにくいみたいでな…」
「…何のコト?」

やっぱり別れろってことか―そう思いながらも銀時はあくまで意味が分からないフリをした。

「いや…こういうことはトシから言うのが筋だとは思ってる。だが、俺とお前も知らない仲じゃないし…」
「…だから?」
「万事屋!トシのことを、どうか末永くよろしく頼む!」
「………はぁ?」

身を乗り出し、銀時の手を強く握りながら近藤は頭を下げる。
銀時は近藤の言葉の意味が分からず、「はぁ?」と繰り返すのみであった。

「だから、トシのことをよろしく頼むと言ってるんだ」
「それは分かったけど…何で?」
「何でって…お前たち付き合っているんだろ?」
「ああ、まあ…。いや、でも『よろしく頼む』ってのは…」
「何だ、お前も男同士だってことを拘ってるのか?確かに男同士は結婚できないかもしれん…」
「結婚ん!?」

別れ話を切り出されるとばかり思っていた銀時は、真逆の単語に言葉を失う。

「ああ…こういうのは気持ちの問題だと俺は思う。互いにずっと一緒にいたいという思いが一番重要なんだ! 」
「あっ、えっ…あの…」
「だからトシに、早くお前を皆に紹介してくれと言っていたんだが…恥ずかしがってるんだろうな。
そんなわけで機会があったら俺から直接お前に『トシを頼む』と言おうと思ってたんだ」
「は、はあ…」
「俺の話はそれだけだ。じゃあな、万事屋。トシを頼むぞ!」

もう一度念を押すと近藤は満足そうに去っていった。



*  *  *  *  *



「…つーことがあったんだけどよ、どういうこと?」

その日の夜、万事屋を訪れた土方に銀時は昼間の近藤とのやりとりを説明した。

「まさか直接お前のトコに行くとはな…」
「だから、どういうことだって聞いてんだよ。末永くよろしくとか言われてもよー…」
「わ、悪ィ…。近藤さんには本当のこと言い辛くて、恋人ってことになってんだ…」
「まあ、分からねェこともねーけど…それが何で『トシを頼む』になるワケ?」
「それは…恋人っつーのは将来を約束した仲だと…」
「なるほど…。それで結婚がどうとか言ってたわけね」
「す、すまねェ…」
「別にいいけどよ…これからお前、どうすんの?」
「そのことなんだが、銀時…」

土方は急に真剣な面持ちになった。
銀時の心臓がドクリと鳴る。

(やっぱり…別れよう、とか?そうだよなー、コイツにとって一番大事なのは近藤なんだ。
ソイツに嘘を吐き続けるなんざ、できねェよな…)

銀時はギュッと拳を握り、唇を噛み締めて土方の言葉を待った。

「俺の方から、セフレにって言っといて、こんなコト言うのはおかしいと思うんだけどよ…」
「お、おう…」
「近藤さんに色々言われて、改めてお前との関係を考えてみたんだが…」
「う、うん…」

死刑執行を言い渡されるような気持ちで銀時は土方を見つめた。

「俺と……正式に付き合ってくれないか?」
「えっ!」
「だから、俺と正式に…」
「い、いや、それは分かった。でも、何で急に…」
「…ダメか?」

必死の表情の土方に、銀時がフッと微笑んで言う。

「ダメじゃねェよ。だいたい…最初から俺は、オメーが付き合いたいならいいって言ってんじゃん」
「じゃあ、俺と付き合ってくれるのか?」
「ああ…」
「良かった…」

ホッとしたように全身の力を抜く土方に、銀時は先程言いかけた疑問を投げかける。

「でもよ…あんだけセフレに拘ってたオメーが、何で急にこんなことを…」
「だから、近藤さんに言われて改めて色々考えたんだよ。
オメーとこのまま身体だけの関係を続けていっていいものかどうか…」
「…身体だけ、ねェ」

「身体だけの関係」と言うが、実際にはデートもしてるし恋人と何ら変わらぬ関係ではなかったかと銀時は思った。
だが、敢えてそれは口に出さず土方の言葉を促す。

「それで?」
「それで、お前さえ良けりゃずっと一緒にいてェと思って…」
「そっか。じゃあ…一緒にいてやるよ。それに、恋人になったからって何が変わるってわけでも…」

銀時が言い終わらないうちに、土方は懐から徐に手帳を取り出した。

「それで式の日取りなんだが…」
「式ィ!?式って何だよ…」
「おいおい銀時、何とぼけてんだ?式と言ったら結婚式に決まってんじゃねェか」
「おいおい土方、とぼけてんのはどっちだ?俺ら男同士だぞ?」
「それがどうした。結婚できねェってのは書類上の問題だけで、式挙げるくれェどこでもできんだろ?」
「それはそうかもしれないけど…。えっ、いきなりソコ?」
「いきなりって何だ?正式に付き合ってくれるんだろ?」
「あ、うん…。…えっ?正式にってそういうこと?」
「そういうもこういうもねェだろーが…」

いたって真面目な土方に銀時は焦りだす。

「俺としては、セフレから恋人になるってことかと…」
「その通りだ。分かってんじゃねェか…。で、式の日取りなんだが…」
「えーっと、えーっと、ちょっと待って…(何だよコイツ!これじゃあ恋人じゃなくて婚約者じゃねェか!
えっ?近藤だけじゃなくコイツも、恋人と婚約者の境界線がねェのか?
別にコイツといるのは嫌じゃねェけど…だからって挙式は早すぎだろ!?何とかできねーかな…)」
「どうした?都合でも悪いのか?」
「都合?そ、そうなんだよ!今年は俺、星回りが悪くてよ…結婚するには向いてねェっつーか…」
「星回り?んなこと気にするヤツだったか?」
「結婚なんて一生に一度のことなんだから、色々気にするもんだろ?」
「それもそうか…」

土方が手帳を引っ込めたことに安心するのも束の間…

「まあ、もう12月だし、今年はすぐ終わるからな…」
「ああああ…来年はオメーの星回りが悪かったよーな…」
「そうか?」
「ああ…。残念だけど焦ることはねェよ、なっ!」
「そうだな。…どんな式にするか、じっくり考えんのも悪くねェよな」
「お、おう…」


急展開した関係に付いていくのがやっとの銀時であったが、
とりあえず恋人になれたことは素直に喜んでおこうと思った。


(09.12.12)


このシリーズのテーマはアホ方さんです(笑)。恋人になった途端結婚とか…暴走しまくりです。なにはともあれ、漸くこの二人も名実ともに恋人同士になれました。
ここで終わっても良かったのですが…セフレシリーズなので(?)おまけでエロ付けました。