銀ちゃん萌えの有効活用法
「銀さん、いい加減に仕事見付けて来てくださいよ!」
ある日の昼下がり、銀時がいつものようにソファに寝そべってジャンプを読んでいるところに新八の小言が降ってきた。
銀時は視線をジャンプに向けたまま、面倒臭そうに応える。
「あぁ、仕事ォ?何でもかんでも銀さんに頼るんじゃねーよ。仕事したきゃテメーで見付けてこいや」
「昨日僕が受けた依頼を、アンタが断ったんでしょーが!」
「んな昔のことは覚えてねーよ。俺ァ過去は振り返らない主義だから」
「少しは振り返って反省しろよ!依頼断った理由が『雨だから』ってふざけてるんですか!?」
「雨が降ったらお休みってどっかの大王様も言ってたじゃねーか」
「いつから南の島の住人になったんだよ!だいたいアンタ、晴れの日だってロクに働いてないじゃないですか!
今月も家賃払えないんですよ?家賃どころか食費も底を尽きかけてるんですよ?どーすんですか!」
「どーするもこーするも、おめーが頑張ればいいだろ?頼りにしてるぜ、ぱっつぁん」
「だったら依頼を断るんじゃねェェ!!」
「新八ィ、いいこと思い付いたアル」
これまで二人のやりとりを黙って見ていた神楽が唐突に口を開いた。
「神楽ちゃん…いいことって?」
「金がピーピー、私も困るネ。もう酢こんぶなくなってしまったアル」
「じゃあ、何かいい仕事でも見付けたの?」
「そうネ」
「全くやる気のない銀さんでも大丈夫なの?」
「私と新八だけで充分ヨ」
そう言って神楽は和室へと向かい、箪笥を開けた。
「おいおい…まさか俺の服でも売るつもりか?」
「その通りアル!銀ちゃん、いつも同じ服着てるから他の服はいらないネ」
「確かにもう着ねェのもあるけどよ…」
箪笥の中には依頼の時に使ったまま二度と使われていない服もたくさんあった。
神楽は勝手に箪笥を漁りはじめた。
「銀ちゃん、コレ使うアルか?」
「あ?コレって人気投票の時のレッドロイーンクロスじゃねーか。こんなん売れるわけねーだろ…」
「使うか使わないか聞いてるネ」
「いや、使わねーけどよ…」
「じゃあ持って行くアル」
こうして大きめの紙袋が銀時の衣類でいっぱいになったところで神楽は新八に「準備完了アル」と言った。
「神楽ちゃん、銀さんの言うようにこんなんじゃお金にならないと思うよ」
「いいから黙って私に付いて来るアル。考えがあるネ」
「考えって…」
新八は何が何だか分からないまま、神楽とともに万事屋を出た。
* * * * *
「ねぇ、神楽ちゃん。こんな古着、どうするの?」
「だから売って金に換えるアル」
「売れるような立派なものじゃないし、例え売れたとしても大した金額にならないと思うよ」
「銀ちゃん萌えなら、こんな古着でも大金はたいて買ってくれるネ」
「えっ、その…銀さん萌えってナニ?」
「銀ちゃん萌えは銀ちゃん萌えネ。ヤツなら金持ってるし絶対上手くいくアル!」
「それってもしかして…」
「着いたネ」
「ああっ、やっぱり…」
二人がやって来たのは真選組屯所だった。
* * * * *
「どうしたんでィ、二人して」
「あっ、沖田さん」
屯所の門前で二人を出迎えたのは一番隊隊長の沖田であった。
「お前に用はないネ。銀ちゃん萌えを出すアル」
「銀……ああ!野郎なら部屋に籠って仕事してるぜィ」
「じゃあ上がらせてもらうヨ」
「おう、勝手にやってくれや」
「お、お邪魔しまーす」
無事、屯所内に入れた二人は目的地へ向けて真っ直ぐ進んでいった。
そして目的の部屋へ辿り着くと、神楽がスパンと勢いよく襖を開けた。
「邪魔するネ」
「うぉっ!な、何だ…チャイナとメガネじゃねーか。どうしたんだ?」
「あ、土方さん…お仕事中にすみません」
神楽に代わり新八が、部屋の主―土方十四郎―に非礼を詫びる。
ちなみにこの土方、真選組副長であると同時に銀時の恋人でもあるのだ。
「万事屋グラちゃん出張所アル」
「あ?万事屋…出張所?なんだそりゃ?」
「か、神楽ちゃん…せめて仕事が終わるまで待とうよ!」
「構わねェよ。…で、その出張所ってのは何なんだ?」
「銀ちゃん萌えにオススメの品を持って来たアル」
「ほう…商売でも始めたのか?」
「そうアル。銀ちゃんはジャンプ読んでばっかで働かないから、自力で何とかすることにしたネ」
「ガキに働かせて…しょーがねェやつだな。…よしっ、せっかく来てくれたんだ、買ってやろう。どんな商品があるんだ?」
「新八ィ!」
「あっ、はい」
新八は持っていた紙袋を土方へ差し出す。
「これは…服、か?」
土方は紙袋の中の衣類を一枚一枚取り出して広げた。
「どうアルか?」
「どうって…まさかコレ、銀時のか?」
「そうアル。銀ちゃん萌えなら絶対喜ぶと思って持って来たネ」
「…全部もらおう」
「ひ、土方さん!?」
「毎度ありネ」
唖然とする新八を置いて、土方と神楽の間で商談が成立した。
土方は懐から財布を取り出すと、紙幣を全て抜き取って神楽に渡す。
「ちょっと神楽ちゃん!いくらなんでもそれは多すぎるよ」
「何言ってるカ新八。銀ちゃん萌えがこの値段で買うと言ってるアル。銀ちゃん萌えの好きにさせてやるネ」
「好きにって…土方さんも冷静になってください!こんな古着にこんな大金…」
「確かに服だけでこの値段っつーのもな…」
「ただの服じゃないネ!下着も入ってるアル!」
「下着って…この赤褌か?」
「レッドロイーンクロスアル!」
「そうか…」
そこで土方はあることを思い付いた。
「こういうモンにはよー…生写真が付き物なんじゃねーか?」
「写真?それもそうアルな…。でもカメラなんて持ってないアル」
「今やった金で買えんだろ?」
「そうアルな!じゃあ写真付きだったらこの金全部もらっていいアルか?」
「ああ…。いい写真が撮れたら追加料金払ってやるよ」
「マジでか?私、銀ちゃん萌えが好きそうな写真いっぱい撮ってくるアル!」
「楽しみにしてるぜ?…とりあえずその金は前金として渡しとくからな」
「任せるアル!…新八!そうと決まれば早くカメラ買って家に帰るネ」
「う、うん…。土方さん、お邪魔しました」
「おう。写真、待ってるからな」
神楽は土方からもらった紙幣を握り締めて走るように屯所を後にした。
そして新八もその後を追うようにして屯所を出たのだった。
「本当に良かったのかな?勝手に銀さんの写真撮るなんて約束しちゃって…」
「私たちは三人で万事屋アル。銀ちゃんにも協力してもらうのは当然ヨ」
「…それもそうか。土方さんも嬉しそうだったし、これでいいんだよね?」
「銀ちゃん萌えは銀ちゃんの物を買えて嬉しい、私たちも金が稼げて嬉しい、皆幸せネ」
「そうだね。じゃあ早速カメラを買いに行こうか?使い捨てカメラでもいいけど…これだけあればデジカメだって買えるんじゃないかな?
その方が撮り直しも簡単にできるし…」
「新八…お前もノってきたアルな?じゃあデジカメ買いにいくアル!」
「おうよ!」
二人は非常に軽い足取りで電気店へと向かっていった。
(09.11.12)
本誌の「妹萌え」を受けて、神楽に土方さんのことを「銀ちゃん萌え」と呼ばせたかっただけの話です。神楽に土方さんを何と呼ばせるかはいつも迷うところなのですが、「銀ちゃん萌え」はアリだと思いました(笑)。
こうして二人は生きる術を身に付けていくのでしょう。土銀の土方さんは、万事屋で一番のお得意様だと信じて疑いません。 ここまでお読みくださり、ありがとうございました。
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