「トシ、頼む!今日、一緒にスナックすまいるに行ってくれ!」

 

朝の打ち合わせのため土方が局長室を訪れると、大事な話があると前置きして近藤が先のセリフを述べた。

 

「はぁ?何でまた…」

「お前たちを連れて行くって、お店の子たちと約束しちゃったんだ」

「また勝手なことを…ん?お前たちって…俺以外にも誰かいんのか?」

「ああ…あと、万事屋も一緒に連れて来てほしいって言ってたぞ」

「銀時ィ!?」

「お前と万事屋は、その…そういう関係なんだろ?だから一人でキャバクラには行くのは無理かもしれんが

二人一緒ならいいだろ?」

「いや、そもそも、近藤さんと俺と銀時っつー組み合わせがおかしいだろ」

「おかしくても何でも二人を連れて行くって約束しちゃったんだから、頼むよトシぃー。これで連れて行かないとなったら

お妙さんが口聞いてくれなくなっちゃう!」

「…仕方ねーな」

 

もとよりお妙は近藤の話などまともに取り合っていなかったと思うが、近藤の頼みを断れるはずもなく、土方は渋々了承した。

 

「ありがとう、トシ。じゃあ、俺は万事屋に電話しとくな!」

「ああ…」

 

 

土銀@スナックすまいる

 

 

午後八時。スナックすまいる前には銀時と近藤の姿があった。 

 

「何なんですかコノヤロー。朝っぱらから電話かけてきたと思ったら、今夜スナックすまいるに行こう?

おいおい、俺たちはいつから飲み友達になったんですかねー」

「いやあ、すまんすまん。お店の子たちが是非にと言うのでな…」

「それは電話で聞いたけどよ…本当に奢ってくれんだろーな?俺、財布持ってきてないから」

「もちろんだ。武士に二言はない!」

「ああそう。で、アイツは?」

 

近藤は三人で飲みに行くと言っていた。銀時はここにいない恋人のことを訊ねた。

 

「ん?アイツって誰だ?」

「…アイツはアイツだろーが」

「だからアイツって誰なんだ?」

「この状況でアイツっつったら一人しかいないだろ!?俺とお前、二人で飲みに来たのか?違うだろ?」

「ああ、なんだ…トシのことか。トシなら急な仕事が入ってな…」

「えっ?じゃあマジで二人なわけ?いくら奢ってくれるっつってもそれはなー…」

「ちちち違う!少し遅れるだけでトシは必ず来るぞ。いくらお妙さんのためとはいえ

トシの大事な恋人と二人きりで飲みに行くなんてそんな…」

「大事な恋人って、あのなー…二人で飲みに行くぐらい別に構わねーんだよ。

お前だって土方と二人で飲みに行くことぐらいあんだろ?俺はただ、お前と行くのが嫌だっつってるだけだ」

「そ、そうなのか?とにかくトシが来ればいいんだろ?それなら大丈夫だ!」

「ああそうですか…」

「おう。じゃあ行こう!」

「へいへい…」

 

近藤と銀時は二人でスナックすまいるの店内に入っていった。

 

 

「いらっしゃいませぇ〜。あらっ、近藤さん、本当に銀さんを連れてきてくれたのね」

 

おりょうが二人を出迎え、席まで案内する。その間なぜだかキャバ嬢たちの視線は銀時に集中していた。

 

「約束ですから!…お妙さんはいますか?」

「いますよ。お妙ー!」

「はーい…あら、ゴリラさん。本当に銀さんを連れてきたんですね」

「当然です、お妙さん!あなたとの約束ですから!そしてもちろん将来あなたを幸せにするという約束も

必ずお守りいたします!」

「そんな約束してねーよ、ゴリラ!それより…銀さんだけなんですか?使えねーゴリラだな」

「だだだ大丈夫です!トシは仕事でちょっと遅れてるだけで、必ず来ますから!」

「本当だろうな、オイ」

「本当です!近藤勲、お妙さんに嘘は吐きません!」

「えっ!本当に土方さんもいらっしゃるんですか?」

「はい、もちろんです」

「「きゃあ〜!!」」

 

土方も後から来ると近藤がおりょうに宣言した途端、店内から黄色い歓声が上がった。そして、近藤たちのテーブルに

キャバ嬢が次々と集まってきた。

 

「土方さんは何時頃いらっしゃるんですか?」

「多分、あと三十分くらいで…」

「私、ヘルプに入ってもいいですか?」

「ちょっと、いつもヘルプに入ってるのは私よ!」

「ズルいわよ、おりょう。いつも入ってるなら今日は譲りなさいよ」

「冗談じゃないわよ!今日だけは譲れないわ!」

「ちょっと待って、お客様は三人だからもう一人ヘルプに入ってもいいわよね?」

「そんならウチが…」

「何言ってるのよ花子ちゃん!」

「お妙ちゃんとおりょうちゃんで手が足りひん時は、いつもウチがヘルプやもん」

「じゃあ今日くらいは私が代わってあげるわよ」

「いや、私が…」

「いやいやウチが…」

 

客の目の前で言い争いを始めるキャバ嬢に、店のスタッフもどうしたものかと困り果てていた。

ついにスタッフが店長を呼びに行った。

 

「どうしたの?」

「あっ、店長。それが…皆、このテーブルにつきたいと言って聞かないんです」

「指名された子はちゃんとお客さんのテーブルについて…」

「今日だけはイヤです!」

「はぁー、じゃあ…ここのヘルプは交代制にしよう。…十五分経ったら交代する。それ以外はちゃんと

自分のお客さんにつく、これでいいね」

「「分かりましたー」」

 

言い争いを何とか収めて店長はスタッフルームに戻っていった。

 

「じゃあ最初はおりょうと花子ちゃんね。十五分経ったら交代よ」

「ちょっと待ってよ。まだ土方さんが来てないじゃない!」

「そうや!土方はん来る前にヘルプつけても意味ないわ!」

「わ、分かったわよ。じゃあ最初だけ…土方さんが来てから十五分にしましょう」

「それならいいわ」「そやね」

 

近藤ご指名のお妙とヘルプの二名を残し、他のキャバ嬢は散り散りになった。

 

「何だか…トシは随分と人気があるんですね」

「ああそうね…俺なんか居ても意味ないみたいね…」

「あっ、銀さん。そういうつもりやないんです。…何か飲みます?」

「テキトーに頼んじゃって。…支払いはゴリラだから」

「銀さん甘い物好きでしたよね?そんならこの期間限定スイーツはどうです?」

「ああ、いいねーそれ」

 

花子が銀時を宥めつつオーダーすると、店の扉の開く音がした。

 

「「きゃあ〜!!」」

 

割れんばかりの歓声の中現れたのは土方十四郎であった。異常なまでの歓迎ぶりに顔を顰めながら、

近藤たちのテーブルへと通された。弧状のソファには、向かって左からお妙、近藤、おりょう、銀時、花子の順に

座っている。土方は一番右端、花子の隣に座った。

 

すると、おりょうが花子に目配せをし、花子は慌てて立ち上がり「奥へどうぞ」と言って土方と席を変わった。

その時…

 

「「ぎゃあ〜!!」」

 

再び悲鳴にも似た歓声が沸き起こる。

 

「おいっ!一体なんなんだよ、この状況は!」

「知らねーよ!オメーが来る前はこんなに酷くなかったんだよ!」

「あぁ?俺のせいだって言いてーのか?」

「当たり前だって…ちょっ、パシャパシャうるせェ!何だよ…」

「ああ?」

「「………」」

 

二人が見たのは携帯電話を構えるキャバ嬢の群れ。どうやら二人を撮影しているらしい。わけの分からない二人が

その場に固まっていると、一人のキャバ嬢が「お二人とも、さっきみたいに近付いて!」と言った。

先程はまともに話ができないくらいに店内が騒然としていたので、土方と銀時は互いの顔を近付けて

大声で話していたのだった。

 

「あの…これは一体…」

「ちょっとアンタたち、十五分交代って言ったでしょ!戻りなさいよ!」

 

銀時の質問は、集まってきた同僚を散らせるおりょうの言葉にかき消された。この時点で店側の判断により、席を

VIPルームに移された。VIPルームは店の一番奥に設置されていてカーテンで仕切られており、他のテーブルからは

見えないようになっている。

 

「いや〜、長年通っているがVIPルームなんて初めて来ましたよ。これもお前らのおかげだな!」

「それより近藤さん…あの騒ぎは一体…」

「トシが…いや、トシと万事屋がいい男だから写真を撮りたかったんだろ?まるで芸能人みたいだな…」

「いや…そんなレベルじゃねーだろ」

 

訝しがりながら土方は煙草に火を付けると、おりょうが急に慌てだした。

 

「ちょっと花子ちゃん。写真やら席移動やらでもう交代の時間よ」

「ええっ!?まだ何も聞いてないやん」

「だから早く聞かないと…」

「えーっと、えーっと…あっ!お二人はいつから付きおうてるんですか?」

「「ぶーーっ!」」

 

花子の質問に土方と銀時は同時に吹き出した。

 

「なななナニ言っていんだよ。おおお俺たちはただの知り合いで…なあ、土方?」

「そそそそのとーりだ!つつつ付き合うとか…ワケ分かんねーよ」

「ごまかさないで下さい。神楽ちゃんから聞いたんですから」

 

おりょうも花子の質問に乗っかる。

 

「神楽ァ!?ななな何でアイツと接点があんだよ!」

「私の家に泊まりに来た時、ちょうど仕事仲間も何人か来てたんです」

「はぁっ!?」

 

これまで沈黙を守っていたお妙が急に会話に加わった。

 

「確かあの日も、土方さんが銀さんの所にお泊りになるとかで、ウチで神楽ちゃんを預かったんでしたよね」

「ちょっ…おいっ!」

「あの日もってことは、結構頻繁に泊まってるんですか?」

「い、いや…その…」

「そもそも、どこで知り合ったんですか?」

「あ、あの…ちょっと…」

 

 

その後も代わる代わるヘルプに来たキャバ嬢から「お互いのどこが好きですか?」だの「二人の時は何て呼んでるんですか?」

だの「どちらから告白したんですか?」だの、終いには「どっちが攻めでどっちが受けですか?」なんて質問まで飛び出した。

しどろもどろになってロクに答えられない二人に代わり、お妙と近藤が想像を交えて答えていた。

 

 

 

 

二度とスナックすまいるには近寄らない…固く決意した二人であったが、銀時はかぶき町の住人であり、

土方は仕事柄、繁華街の巡回を避けられない。そんな二人はキャバ嬢に会うたびに「お付き合いは順調ですか?」と

聞かれることになった。

 

(09.10.14)


これ土銀に見えますかね?いや攻受不明でも良かったんですが、スナックすまいるに入る前、名前を出せずに「アイツだよアイツ」って言ってる銀さんは受けっぽいかなーと…。

あと、女性の集団って男性にとっては恐怖なんだろうなーと。でも目の前に土銀がいたらキャバ嬢と同じ反応しそうです(^^; ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

 

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